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黒き騎士は絶望に抗う  作者: 茶柱太郎
2/3

二話

 


「断る。何度も言わせるな。」



  ソフィーナの願いを聞くまでもないとばかりに、目の前で燃える火を見つめながら薪をくべながら男は答えた。



「っ!貴様、姫様が頭を下げているのにっ!?」



  ソフィーナに肩を預けたままのレイは男の返答に苛立ちを覚え、痛みを堪えながら文句のひとつでも言ってやろうとする寸前、銀色のナイフが目前に迫っていたことに気がつかなかった。


  ソフィーナは【音無】に出会う前から、エスニア王国へ速く向かう為、休みをほとんど取らず魔力が残り少ない上、緊張の糸が切れたのもあり風魔法エアシールドを解除していた。しかし、ナイフはレイに当たる寸前、地面に叩き落とされた。



「おい、お前。俺のナイフをどーやって叩き落としたんだ? 常人はもといA級冒険者でもそうそう見切れねーってのによ。」



  先ほどまでのおちゃらけ感じはなく、頭に巻いた赤い布の隙間から見える鋭い眼光を放つ【音無】はナイフを叩き落としたであろう男を睨んでいた。睨まれた男は、頭をぐるりと準備運動のように回し、男を見据え殺気を込めながら答えた。




「別に、お前の攻撃が遅いだけだ。それに食事をする前に血なんか見たくはない。お前ら他所にいってこい。さもなければ――





 ――――――殺す。」





  そう答えた男は、もう相手にはしないという意味なのか革で出来た赤茶色のバッグから干し肉を出し、がぶりと囓りつき食事を始めた。

 


(っ!俺の手が震えている、だと?それに今の殺気は!?ただもんじゃねぇとは思っていたがこれほどとはっ。だが、俺は王国最恐の暗殺者【音無】なんだ!そこらにある石ころを見るような目をしやがって!俺の実力思い知らせやる!)



  【音無】は自分の両手が知らず震えていることに驚愕した。だが、こちらのことなど道端の石ころとしか思っていないように見える男の態度に腹が立ち、恐怖を感じている自分にも腹を立て、ナイフに魔力を通し始めた。






「っ!あんまり、舐めてっとてめえの目ん玉くり抜いてゴブリンの餌さにでもしてや「スパっ」…あ?」






【音無】が言い終える前に、彼の首から血が吹き出し、そのままばたりと首と離れた身体が倒れた。こうして王国最恐の暗殺者は何をするでもなく、本当に何もなくその人生を終えた。



「何が起こったのですか!?」



  ぽかんとしていたソフィーナ達であったが、気づけば一瞬で【音無】がこと切れていたので、少し時間がかかったが意識を取り戻した。レイは未だについ今しがた起きた現実に対して頭で理解出来ていなかった。



「俺に対して殺気を出し始めたから始末しといた。お前らもとっとどっかへ行け。」



  男は干し肉に囓りつきながら、淡々と答えた。すぐにでも問い詰めたかったが暗殺者からの危機を回避した今、レイの回復に努めることが最優先なので、横にならせ回復魔法をかけた。



「分かりました。回復魔法キュアホーリー」



  ソフィーナはレイの太腿に手をかざし、片方の手でナイフを抜く。苦悶の表情を浮かべたがだんだんと表情が穏やかになってきたレイはソフィーナに感謝を述べた。



「ありがとうございます。姫様。おかげでだいぶ良くなりました。」


「傷は回復したけどまだ魔力が回復していないから少し休みましょう。」



  レイの問いに対して微笑んだソフィーナは、すまいをただして干し肉に囓りつく男に向かいあい、頭を深々と下げた。



「先ほどは助けていただき、ありがとうございました。」


「別に助けちゃいねえ。火の粉を払っただけだ。」


「それでも結果、私達の命が助かったのです。本当にありがとうございます。報酬は前払いでとりあえず金貨十枚をお渡しします。それと後程、金貨五十枚をお渡しします。足りなければ言ってください。」


「だから、何もいらないと―――っ。」



  男はどうしてもお礼をしたいというソフィーナに対してうんざりし、初めて顔を見ると息をのんだ。男がびっくりしたような何か見たくはなかったようなそんな顔をしたのでいささか気分が落ち込んだように感じたソフィーナは、



「私、ハーフエルフなんですけど何か気分を害されるようなことをしたのでしょうか?」



  そうソフィーナはハーフエルフである。ハーフエルフはエルフよりも耳が短く、魔法が得意なエルフらしからぬ魔法が不得意な子が多く時折、忌み子として扱われることがある。しかし、ソフィーナは王女としてあることはもちろん、【風の神子】でもあるのでシドアニア王国では陰口を叩かれることは多少あったが、それでも普通のエルフよりは尊敬の眼差しを浴びていた。だから、面と向かって苦い顔されたので苦々しい表情を浮かべ男に問いかけた。


  すると男は、「別にハーフエルフだからじゃない。」と興味を失ったように目線を反らした。「?」ハーフエルフが嫌いではないならなぜ?とソフィーナは思ったが、そのやり取りを見ていたレイにより疑念は消えた。



  身体を起き上がらせたレイは、



「貴様、先ほどは助けていただいたから感謝はするが、姫様をそのように見るとは何事だ!こちらはシドアニア王国第一王女であらせられるソフィーナ様であるぞっ。―――っ!」


「―――シドアニアだと?」



  レイがソフィーナのことを誇らしげに紹介しようとすると、シドアニアの名前を出した途端、目の前に座る男から濃密な、そして、どこか恐ろしくも感じる魔力が溢れ出たのを察知し、息をのんだ。



「っ。はいっ。本当はあとで自ら話すつもりでしたけど、祖国は貴方様にはどうやら良く思われていないようですね。」



  ソフィーナも先ほどの魔力を感じとり、額に汗を滲ませた。結果的にはソフィーナ自ら正体を明かしたが、レイは自分の失態に気づき、「申し訳ありませんでした!」と深く頭を下げた。



「まあ、どうでもいいことだ。気が変わった。エスニアまでなら同行してやろう。」


「えっ?あ、ありがとうございます。あ!つかぬことを聞きますが、お名前をお聞きしても?それとお顔を見してはいただけないでしょうか?命の恩人の顔と名前を知らないでは王家の恥を晒すことですから。」




  男ははぁ、一息ついた後被っていた黒色の外套を脱いだ。






「名はゼロ。只の旅人だ。」






  そういった男の顔は歳は三十ぐらいだろうか、頭は白髪であり見た目よりは老けて見え、顔は幾つか傷が跡になり、鋭い眼光でこちらを見据える彼は、歴戦の戦士に見えた。



「ゼロ様、ですね。では、改めまして私の名はソフィーナ・グラムハートです。」



  グラムハートと名乗った瞬間、彼の目が外套の下に隠れてあるだろう自分の左腕を僅かに睨んでいたことを、ソフィーナは見逃さなかった。



お金の単位

白金貨一枚=十万円

金貨一枚=一万円

銀貨一枚=千円

銅貨一枚=百円

大雑把ですが、こんな感じでお願いします。

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