19 迷惑料と懐事情
医者の所に担ぎこまれて治療され家へと帰された。
この世界、流石に日本みたく物凄い医療というのはない。
その代わりに魔力や魔法があるので別な分野で凄いというのか……特に外科系は強い。
私の骨折と火傷も、とんでもない高い薬を飲んで十日ほど安静にすれば治るだろうと言われた。
そのとんでもないお薬のお値段、なんと白金貨二十二枚。
日本円にして二百二十万よ。
私が払ったのではなくカインが払ってくれた。
護衛代が半日で銀貨八枚なのに、大赤字もいい所でしょうに、私も出すって言うのにオレの責任だと、一歩も譲らなかった。
もちろん、もっと安い薬もある。その場合後遺症や、完治に時間がかかったり火傷の痕が治らなかったと。
カインは自らを第二王子と身分を明かして一番いい薬を指定したのだ。
あの時の現場はもう大変だった。
暫くは何もする事がない、松葉杖姿で外出もしたくないし。
あ、そういえば魔物の核は学園に取られた。
「……ま……エルンおじょうさまっ」
「あーはいはい、聞いているわよノエ。で、なんだっけ」
「はい、ヘルン・グラン様がお見舞いを申したいと玄関に」
あれでしょ、弟を危険な目に合わせたって文句よね絶対。
しかもグランをつけるって事は、冒険者じゃなくて王子として来たって言ってるし。
賠償金請求とか? でもでも、護衛をするってのはあっちなんだし私は悪くないわよね!? いや、でももしかしたら打ち首って事も。
「よし、追い返そう、帰って貰って」
ノエはわかりましたと頭を下げて、出て行こうとする。
「まった!」
「ノエ」
「はい?」
「王子を返したらまずいわよね」
「だいじょうぶです、ノエおじょうさまに助けられた命です。
どこまでもついて行きます!」
やっぱり不味いか。
「それじゃ、助けた意味がないでしょうに。
会うわ……応接室に」
ノエが部屋から出て行く。
私は髪をまとめ後ろで縛る。
バスローブに近い寝巻きを脱ぐと、派手すぎない黒のドレスを着込み、ストールを首に巻いた。
戦闘服というか、気合を入れるためだ。
応接室の扉を開ける。
部屋には三人の人間が居た。
ヘルン王子、ノエ、そしてなぜかディーオだ。
「なんでディーオが?」
「……先生ぐらいつけろ」
「失礼、なぜディーオ先生が?」
ディーオは、それはあっちに聞いてくれとヘルン王子へと首を向けた。
人懐っこいヘルン王子が、ソファーに座っていた。
その口を開けたままで私を見ている。
視線が合うと直ぐに顔を背けた。
「すまない、その、思っていたよりも似合っているから見てしまった」
「王子から褒めてもらえると、着たかいがありましたわ。ノエ私にもお茶を」
ノエは返事をすると、ソファーに一つ置いてくれた。
こういう交渉は飲まれたら終わりだ。
「賠償金ですよね」
ヘルン王子は静に頷く。
彼が口を開く前に私は宣言した。
「白金貨百枚」
日本円にしたら一千万、第二王子に迷惑をかけた値段としては釣り合うかは微妙だけど。
なんせ、実家にいくらあるか解らないし、領地没収となったら払えない。
錬金術師の前に、別な職業にならないといけない。
「どうでしょうか?」
「…………わかった、金額が金額だ。今日は交渉に来ただけだし、その金額を伝える」
「こっちも貯えがあるわけではないので」
「では、ディーオ。君が証人だ」
「了解した」
ああ、証人か。
それで来たのね。
ヘルン王子が紅茶を飲み干すと、私に笑顔を向けてきた。
「さて、暗い話は置いておこう。
先ずは冒険者カインの兄、冒険者ヘルンとして礼と謝罪をする」
「え」
ヘルン王子が、テーブルに頭をつけて謝りだした。
「あの、上げてください」
「そうだね、まだ正式なやり取りも前にすまない。
本当はカインも来たいと言っていたんだけど、騎士科のほうの遠征でね」
「別に来なくてもいいと伝えてくれれば。
今は杖ですけど、治るらしいですし、それよりあの素材は?」
あの素材というのは虹ぽよぽよの核だ。
素材は狩った人の物になるんだけど、ことが事だけに一応国に預けた。
「それはボクから説明したほうがいいな」
そういうのはディーオだ。
彼は立ったまま喋りだす。
「君たちが見た新種のぽよぽよ。虹ぽよぽよとでも呼ぼう。
発生条件も何もかも不明、その体液は他のぽよぽよよりも強力で未知数だ。
悪いが素材のほうは学園に保管する形になるだろう。
その賠償として今回の治療費は国が持つ」
あ、それは嬉しい。
カインがいくら第二王子としても二百万分を個人で負担するのは忍びない。
「じゃぁ、それで」
「後は西の草原は暫くは立ち入り禁止にしてもらった」
「え?」
「虹ぽよぽよなんて前例が無い、さらには徒歩一時間の場所にそんな魔物が出たと成れば調査しないといけない。
その辺も今は騎士科も併せて調べているよ」
「結構大事になってるのね」
「そりゃまぁ一般人、いや貴族が襲われたとなると動かないといけない」
さらっとではあるが、王子は貴族の部分を強調した。
一般人が襲われていたらここまで大事にならないのかな……。
悪気はないのだろう、王子の顔は特に変わらない。
「さて、それじゃ僕達は帰るよ。
女性の家に長く居るのも悪いからね」
「え。はいお疲れ様です。ディーオも?」
「個人ではなく、国の証人として来たんだ、僕も帰る」
私の顔を見ると、小さく吹き出すヘルン王子は、ディーオを連れて帰っていった。
なぜ笑う……。
「とはいえ疲れた……」
二人が帰った、見送りはノエに任せて、客室で折れた治療中の足をソファーに乗っける。
白金貨百枚かぁー、パパに手紙を……送ったら大変になりそうなのよね。
手持ちの物を売って何とかなるかしら。