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16 酒場熊の手

 お昼前に『酒場熊の手』へと着いた。

 ゲームでは二十四時間営業で何時来ても店主がいると言うブラック丸出しの店であったけど、営業時間が書かれた看板が立っていた。

 午前から深夜というアバウトな時間。


 曇りガラスで店内は見えないが、数人の人影がみえる。

 元の世界でもそうだけど、こう新規の飲食店に入るのは中々に勇気がいる。

 そう思ったのは私だけで、ノエは素早く酒場へと入っていく。


「らっしゃい」


 野太い声で短い挨拶が聞こえてきた、ここは一見さんお断りのラーメン屋かっと突っ込みたくなる。

 私も続いて入っていくと、そこそこの広さの酒場だ。

 昼前というのに何人か飲んでいるのが見える、あまり見ては悪いと思ってノエが走っていったカウンターへと目を向けた。


 ノエが小走りにカウンターへ行くと、おじさんお久しぶりですと頭を下げた。

 熊が、もとい熊みたいな体格と顔のブルックスがノエを見て目を大きく開けている。


「ノエじゃないか……傲慢な貴族に買われたって聞いたが、どうした。

 いや、匿ってほしいんだな。任せろ」

「いえ、あのっ!」

「大丈夫だ、冒険者を引退したといってもあんな嫌味ったらしい貴族なんぞ屁でもねえ。

 だから俺は反対したんだ、生活の事なら俺も援助するってお前の親にな」

「あの、依頼をですね」

「ああ、金の事なら心配するなっと、ん?」


 私に気づいたか、ブルックスの言葉が途中で止まる。

 成るべく笑顔、笑顔を浮かべるのよエルン。そう思い込みカウンター、つまりノエの横に立つ。


「何だ嬢ちゃん?」

「その、傲慢で嫌味ったらしい貴族のエルンといいますわ」

「は?」

「あのっブルックスさん、おじょうさまは見た目は怖いですけど優しい人ですっ!

 あ、いえっおじょうさま。怖いってのは最初会った時であのそのっ」


 私はノエの頭をやさしくなでる。

 いいのよノエ、最初はきつく当たっていたのは記憶にあるから。

 乾いた笑いを浮かべるブルックスは周りへ助けを求めているも、誰も助け舟をださない。


 熊のような顔で笑顔を向ける。


「ようこそエルン様、熊の手へ」

「とりあえず酒を頂戴」



 ◇◇◇


 時刻は夕方だろう、カウンターの隅で私は何杯目かを開けている。


「お酒の追加!」


 ブルックスが私の前に酒の追加を置く。


「本当に来るの?」

「ああ、もう直ぐ来ると思うんだけどなぁ……」

「本当来なかったら明日も来るわよ」

「ノエも連れて来てくれるなら毎日だってかまいやしねえよ」

「まったく」

「はっはっはっと、来たら教えてやるよ、ノエそこのヨボヨボの爺さんの話なんて聞かなくていいから、これを窓の席の奴に持っていってくれ」


 ノエの、ごめんなさいっ! や、うるせーぞ、クマ。など下町の酒場ならではの喧騒が私を包む。

 あの後、護衛を頼みたいと交渉した。

 ここは貴族様が使うような人間は来ないと難色していたブルックスも、私が出した秘密兵器をこっそり見せたら態度が変わった。


 一冊の本『世界のぬいぐるみ図鑑』しかも貸し本ではなく新品だ。

 これは賄賂ではない、純粋なお願い。

 間違えて買った物だから、お願いを聞いてくれたらお礼に置いていくわよと。

 どこで俺の情報を……と言っていたけどこれでブルックスは落ちたのだ。


 齢はちょっと行っているが、中堅と新人の冒険者の二人組がよく来ると。

 近くの護衛や新人冒険者を低資金で請け負うとの事。


 酒場の常連で丁度今日当たりくるだろうと言っていた。

 性格もいいし、その人物を紹介してやるからと、こうして待っている。

 私が酒とツマミを食べて料理を褒めると、顔に似合わずにいい奴だなと褒めてくれ、何杯目かの酒を注文した時には話し方も普通になった。


 ノエも一緒に待っていたんだけど……お手伝いさせてくださいとブルックスの店で臨時のウエイトレスをやっている。

 後で、ブルックスから給金を奪わなくては。


 何人かの客が入れ替わる。

 私は相変わらずちびちびと飲んではゆっくりと瞳をとじる。別に寝ているわけではない、こう酒場の雰囲気が心地よいのだ。

 若い男性の声が耳に入る。


「やぁマスターいつもの」

「おお、待ってたぜ。お二人さん近くの場所に遊びに行きたい奴が居るが護衛頼めるか?」

「僕は明日から忙しいけど、もう一人は暇になったからね、いつでもいいよ」

「そこの端で飲んでるのが依頼人だ、交渉はそっちでやってくれ」

「わかった、カイ僕が交渉しよう、こんばんは、はじめまして僕の名はヘル……ン」


 ヘルン? どこかで聞いた名だ。

 私は閉じていたまぶたを開けて冒険者を見る、赤毛でくりっとした瞳、齢は二十代中盤で腰には高そうな剣を下げている。

 叫びそうになったのを堪えた私を褒めてほしい。


()()()()()()()()錬金術科のエルンと申しますわ」

「「………………」」


 店主のブルックスが私の隣に酒を置くと、ヘルン王子に顔を向ける。


「結構な美人だろ? 貴族らしいが、そんなのは微塵も感じさせねえ。

 どうした? 二人とも黙っているけど」

「い、いや……ありがとうブルックス、彼女がとても美人でね」

「そ、そうね私のほうは、あまりに知った人に似てたのでびっくりして」

「お前がナンパとは珍しいな、じゃ何かあったら呼んでくれ」


 ブルックスが離れたので、私は小声でヘルン王子へと話しかける。


「なんでこんな場所に居るんですか、ヘルン王子っ」

「あーやっぱり覚えているよね。ここではヘルンで呼び捨てでかまわない。

 それを言ったら、なんで君みたいな貴族がこんな酒場に」

「私は町の外にいくのに簡単な護衛探しです」

「僕のほうは息抜きというか、民の調査もかねて……これでも公務に支障がなければと許可は得てる、だから君も普通にしてほしい」

「わかりま……わかったわ。あっちの人は?」


 ヘルン王子よりも若い赤毛の少年を見る。

 こちらも腰には剣をつけていた。


「弟だ。名はカインという。口数は少ないが、身内びいきなしで腕はいいよ

 カインにも気軽に接して欲しい」

「ヘルン王子よりも?」


 少しむっとしながら私を見る。


「口は災いの元だよエルンさん、今のところは僕が上だ。

 カインは君の元恋人のリュートと同じぐらいには強い」

「うっわ、王子のクセにそんな事いう?」

「今は中堅冒険者へルンだからね。で、という事は採取の依頼だね弟と行くといい」


 ヘルン王子、もとい冒険者ヘルンは弟のカイを連れてきた。

 兄は人懐っこい顔をしているのに、カインは表情がちょっと暗い。


「どうも」

「ど、どうも。ええっと簡単な護衛を頼みたいんだけど」


 カインは兄のヘルンを見ると、どうしたらいいのか目で合図している。

 ヘルンは頷くとカインは小さく、

「了解した」

 と喋った。


「小さい声なのね……、じゃ明日屋敷にむかえ……は不味いわよね。

 昼に東門前に待ち合わせって事で」


 それから私達は依頼金額などを話し合い店を後にした。

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