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12 番外これまでのナナ!

 小さい頃から何をしても失敗が多かった。

 そんな時村に来た錬金術師さんと出会った。

 あの人はわたしに『錬金術師にでもなってみたら?』と簡単に推薦状をくれた。 


 あれから二年。

 親代わりの村長さんも大変喜んでくれて私を見送ってくる。


 王都について入学式も終わり、わたしは錬金術師としての一歩を踏み出した。


 ドン。


 気づけば尻餅をついている。

 昔からドジでよく転ぶ、わたしの前に綺麗な男性がいる。

 同じ金色の髪で、その髪が似合う男性。

 腰には剣を下げているから騎士科の人かな?


「ごめん、怪我はないかな」

「だ、だいじょうぶ痛っ」


 立ち上がろうとしたら足首が痛い。

 捻ったのかもしれない。


「失礼するよ」

「ひゃ」


 男性は私の足首を丁寧にさわる、真剣なまなざしで診察してくれた。


「こう見えても応急処置は得意でね、俺の名は」

「リュート!!」


 甲高い声が聞こえた。

 わたしもリュートと呼ばれた人も声のほうへと顔を向ける。

 長い黒髪をなびかせた女性が声を張り上げていた。


「臭い女が、私のリュートへ近づかないでくださいまし」

「エルン!!」


 リュートさんというのがわかる。

 臭い女ってわたしの事かも、まってお風呂はそのあの、四日前に入りました!


「下賎の女は、貴族を見たら直ぐに股を開くんですね」

「これは彼女の傷を見ていただけだ」

「どうだか? 既成事実を作る口実じゃありませんこと? あーやだやだ」

「彼女は悪くない、前から思っていたけど君は……」

「今その話に関係あります? 貧乏なんでしょう? 恵んであげますわ」


 私の足元に金貨が二枚飛んでくる。

 わー金貨なんて久々に見た。じゃなくて……。


「いきますわよっ!」

「ご、ごめん。挫いたのなら直ぐに医務室へ」

「貴方は私の婚約者なんですから、他の女性を見てはいけません!」

「な、ナナです。錬金科の……」


 リュートさんが引っ張られて連れて行かれた……。

 周りの学生がわたしの様子をちらちらと見ている、泣きそうです。


「おい、そこの学生大丈夫か?」


 振り向くと、ディーオ先生が立っていた。


「ディーオ先生……」

「ほう、入学式でしかまだ顔を見せてないはずだけどな。よく覚えているなナナ君。

 あの女に関わるな、といってもアレも錬金科だ顔を会わせる事はあるかもしれない。

 それよりも痛そうだな……運んでやろう、なに、天才であるボクに借りを作ったと思えばいい」


 ディーオ先生はわたしを医務室へと運んでくれた。


 ◇◇◇


 錬金術師かっこ見習いになってから三日目、今日も学園へミニボムを買い取って貰う為に来た。

 買取受付のマミさんが、私の顔を見て耳打ちしてくれる。


「聞いた? あの傲慢な女。彼氏を振ったらしいわよ」

「傲慢って……?」

「ナナも突き飛ばされたじゃないの、なんでも他の女に色目つかったとかよ」

「え、あのそれってリュートさん……?」

「正解ー、私の友達の友達が傲慢女の門兵してるから、そこからの確かな情報よ。

 で、そのリュートさんはフリーになったんだし、あんたも頑張りなさいよっ! 運命的な出会いだったんでしょっ」

「え? いや、そのリュートさんとはまだ会ったばかりだし」

「しっ!」


 買取カウンターのマミさんが私の口をふさぐ。

 指で合図をすると、傲慢の……ええっとエルンさんがメイドさんを連れて歩いてきた。

 私はマミさんの機転で、見つからないように別の道から家へと帰った。



 ◇◇◇


 二人目の依頼。

 ディーオ先生から、工房を数日使いたい生徒がいるからどうだろうか? といわれた。

 私は直ぐに返事をする。

 同じ錬金術師を目指す人の力になりたい。

 

 学園のレンタル工房は二日までだし、私みたいに自分の工房がない人は大変なのもわかる。

 私はその点ついている。

 学園への紹介状とともに、憧れの人が使っていた工房も譲り受けたからだ。

 もちろん卒業できなかったりしたら追い出されるけど、錬金術師としている間は使い放題。

 ちょっと部屋は汚いけど、釜は綺麗だし大丈夫。

 その掃除する時間なかったし……。


 ◇◇◇


 すごいすごいすごいすごいすごい。

 私は自己嫌悪になる。

 ディーオ先生が、近寄るなって言ったエルンさんを紹介したのはわかるかもしれない。

 彼女は、わたしより先を見ることが出来る、意識高い人だったんだなって。


 最初に会った時と別人のよう。

 ううん。恋人が、他の女性に目をやっていたら当たり前だったのかも。


 工房を掃除してくれたし、大貴族という話だったのに、そんな態度を一切私に見せない。

 それに、エルンさんの作りたい物が何かと思って、気になって呼び止めたけど、魔物よけの香を強くしたものだったなんて。

 錬金術師としても、一歩も二歩も先を考えた女性だった。


 ディーオ先生がわたしを紹介してくれたって事は、わたしもその高みへといけると思ったからなのかも。


 レシピもお手軽だった。

 材料費は高いけど、作れる! と思う。

 四日間火を絶やさないだけ。


 友達になりたい……。

 思わず『友達ですよね』というと、驚いた顔をしていた。

 残念な事に返事を聞く前にエルンさんは帰ってしまった。


 ◇◇◇


 雨が続く。

 受け渡し時に会えるかと思ったけど、香を取りに来たのはエルンさんの家のメイドさんだった。

 ノエさんというらしく、エルンさんからの代金も持って来ていた。

 受け取れませんと断ると、相手も困っていて、何度目かのやり取りで、結局代金を受け取る嵌めになってしまった。


 ◇◇◇


 次の日にディーオ先生が来た。

 手にはわたしが作った『もっとまよけの香』を一本持っている。

 材料を聞きたいといわれたので、エルンさんから教えて貰った材料をそのまま伝えると、感心していた。


 心配になった私は、ディーオ先生へと尋ねてみる。


「あの、エルンさんが何か問題でも起したのですか!?」

「問題か、問題といえば問題だな」

「そんな……」

「ナナ君が心配する事でもない。それよりも、ナナ君は一度ぐらい掃除をしたほうがいいな」

「そ、そうですね。まだ一度も掃除してなくて」

「だろうな、汚さが酷い」


 四日前に掃除したとはいえない。 

 驚かれるけど、そんなに汚くはないよね……?

 ちょっと、衣服とドロの付いた道具が散らばっているだけで……。


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