110 天災錬金術師
久しぶりに学園に来ている。
何時ものカフェで、何時ものように優雅にお茶をたしなむ。
「エルン!」
名前を呼ばれて振り返ると、武術会準優勝になったリュートが笑顔でよって来た。
「何?」
「…………いや、不機嫌な理由がわからないけど、いきなり『何』はないんじゃないかな」
「別に不機嫌でもないんだけど…………」
コレは本当だ。
あーリュートが見えるなー。あれ、リュートが真っ直ぐにこっちに来るわね。
じゃぁ、何が用事があるんでしょうね。
用事ってなんだろ。
からの最短で導きだした言葉なのに。
「そうかい? それは悪かった。
相席してもいいかな」
「いいかなって、飲み物片手に既に座っているわよね?」
別に喧嘩してるわけじゃないし、追い出す理由もない。
リュートは勝手に前に座ると珈琲を置いた、近くのウエイトレスに声をかけると、ケーキをいくつか頼んでいた。
「珍しいわね」
「いやいや、俺のじゃないよ。
エルンが好きなケーキだったなと、思ってね」
「好きだけど、食べたかったら自分で頼むわよ……でも、キャンセルも悪いし」
私は財布を取り出すと、リュートが慌て始める。
いやだって、年下……あー同じ歳の男性に奢って貰う理由もないし。
「俺がエルンに食べさせたいと思って頼んだんだ、それにカミュラーヌ家とは比べ物にならないけど、俺も貴族だ。
これぐらいは出させてほしい」
「そう? では奢って貰いましょうかしら。連れも来るんだけど大丈夫?」
「もちろんだ。連れか……彼女かな。よければ、奢らせてほしい」
笑顔にいうリュートに私は、心底溜め息を吐く。
何故っていう顔にエルンちゃーんと声が重なった。
「なになにどうしたの? 怒ってるの? げきおこ? 怒っている時は甘い物がいいって言うよ。
奢ってあげたいけど、親友にお金取られてさー、酷いと思わない?
ちょーっと実験室壊しただけじゃん。
おおっと、もしかしてデート中だった? うわーエルンちゃん、とっかえひっかえって奴よね。体もつの?
彼氏も大変だねー、まさに枯れ死? うん、アタシもうまい事」
「い、い、ま、せ、ん」
隣に来た煩い女性事、天才錬金術師ミーナおでこをデコピンする。
いったいーって押さえているけど、力はいれてない。
「紹介するわね、コレが連れの錬金術師のミーナ。
偶然里帰りしている所を校長に捕まって、錬金術科の第三レンタル工房から第五レンタル工房まで壊した張本人よ」
「やだなーナナちゃんと一緒にチェックをしてくれって言われたから、しただけなのに。
そもそもウルトラボムで半壊する工房のほうが駄目とおもわない?
って、言ったら酷いんだよー。『お前はドラゴンとでも戦うアイテムでも作っているか?』だって、別にドラ――――」
喋り終えないミーナを放置して、リュートに向き直る。
「あ……先日の爆発騒ぎの原因って」
「そう、これ」
ナナによると最初は普通のチェックだったらしい、備品のチェックと破損してないか。
そのうちに、耐久度もチェックしたほうがいいじゃないかって言う話になったらしく……。
ナナに言わせれば私から言ったんです! とミーナを庇っているようにも聞こえるし、本当にナナが言ったのかは解からない。
解からないけど、二人してギガボムやミニボムを使ったのは間違いない。
結果、レンタル工房宿舎が半分ほど消失した。
「ねー二人とも聞いてるー?」
「聞いてるわよー」
「ええっと、聞いています」
リュートはともかく、私は聞いていないけどね。
で、ナナは壊れた備品、ポーションや中和剤、ガラス瓶など作るための錬金術の素材を取りに行った。
残ったミーナは壊れた建物の補修だ。
私は、冒険者ギルドのために学園に来ていただけだったのに、なぜかコイツが逃げ出さないようにと捕まった。
後で食事でも食べさせるといえば、逃げないはずだ。と、言われたので先にカフェにいたのだ。
「ねーねーエルンちゃーんお腹へったんだけどー」
「リュートが奢ってくれるらしいわよ」
「ほんとう!? 君ーやるじゃーん。
あ、でも。何がお礼に渡せる物あったかなぁ……殆ど『修繕費の回収だって』親友に取られたからなー。
あっ今つけてる下着でよかったらいる?」
背中に手を回して胸元から下着を取り出すと、リュートの前に置いた。
リュートは私と下着を交互に見ては助けを求めてる。
「貰ったら?」
「い、いらないから! そのええっと、ミーナさんだったかな。
エルンの友人から何か貰うわけには、見返りを求めているわけじゃないし、これはその自分の手で戻してくれるかな?」
「むーやっぱり、巨乳がすきなのか! このエルンちゃんのような!」
むに。
むにむに。
「ちょ、何所さわって!」
「どこって、無駄に大きい乳だけど」
ミーナが私の胸を横から揉んでくる。
手でさえぎろうとしても、強くもんで、ちょっと本気でなぐわ――。
ゴン。
「いったいいいいいい、なぐられたああ」
「え、まだ殴ってないわよ」
ミーナが頭を押さえてうずくまっている。
通路を見ると、疲れた顔のディーオが立っていた。
「何をしてるんだ何を」
「何って、エルンちゃんの無駄に大きいおっぱいを揉んでいたんだけど」
「はぁ…………ここはカフェだ。
そういうのは別な場所で」
「ちょっと別な場所でも嫌よ!
で、ここに来たってのは用事あったからでしょ?」
ディーオが態々カフェにくる理由がない。
「壊れた釜を修理するのに、その素材が足りない」
「あーあれ魔か……ごもごももごも」
ディーオは、ミーナの頬をムニっと掴む。
ひょっとこ顔になったミーナはもごもご喋り、表情を変えないままディーオは続きを喋りだした。
「場所はわかっている。しかし、その場所はコイツが一緒じゃないと入れなく。
人数制限もある。
生憎ボクは修復で忙しいし、コイツ一人で行かせると帰って来ない可能性が高い。
そこで――――」
「あー……私に行けっていうのね」
「命令じゃないし、お願いだ。もし駄目なら……コイツとナナ君の帰りを待ってからならボクも――――」
「あー別にいいわよ。最近忙しかったし」
息抜きもほしいし。
「そうか、多少危険がある場所だ。三人しか入れない場所でな、念のため残り一人はブルックスや元冒険者のソフィーネに連絡しておこう」
「ディーオ先生。残り一人は俺が行く」
ん?
「おお、好青年のフラグがたった! でもそのフラグって死亡ふら――」
ミーナが余計な事をいうので、おでこをでこぴんする。




