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11 辞めれなくなった錬金術師

 ガール補佐官という、どこにもガール要素がない禿げた老人は私を指さして怒鳴り始めた。


「そもそも錬金術師など、怪しい人物が作った物を信用するなど王も王子も御正気ですかな? 魔物よけの香など眉唾に頼る事になったら国としては終わりです」


 もっともだ。

 でも、この世界ではそれが当たり前なのでは? と思う。


「それに、こんな女子供の作る物に頼るほど国は弱いのですかな?」

「弱いと僕は思っている」

「これはこれは王子と思えない発言ですな」

「どう思われようが、いまさら気にしない。

 僕が『見えざる塔』から帰れたのは、錬金術師の力と思っている。

 あの時の騎士団は誰も助けに来てくれなかったからね」



 見えざる塔、あるのかないのかわからない塔で、その最上階は魔界に繋がっているといわれている。

 のちにナナが冒険しにいって最上階にいるという魔物を倒す事が出来る。


「ありましたな。見えない塔に兵を派遣しろと詰め寄った錬金術師が。

 生憎とあの時は騎士団は森にあふれた魔物退治に忙しくてですな、それにあれは公務が嫌になって逃げ出した王子の狂言と言われてましたな。

 ああ、わたくしは信じておりますよ、王子が嘘を言うとは思えませんからな」


 嫌味全開だ。

 ヘルン王子と、ガール補佐官の間に見えない火花が見えそう。


 ジャン!


 突然の音がなり、全員が音のほうを向いた。

 ヒュンケル王が杖を鳴らす。

 私が杖? と呟くと隣のディーオが『王笏おうしゃく』だ。と、教えてくれた。



「ガール補佐官よ、そなたが元騎士団団長で錬金術師を良く思わないのもわかる。

 しかし、錬金術師によって便利な道具が増えるのもまた事実である。

 なに、この香の信用性に疑うのも錬金術師を良く思っていないガール補佐官ならいたしかたがない、そこのマイト・カミュラーヌの領地に、お主は反対していたが騎士団から数名つける。それでよろしいかな?」

「わたくしは国のためと思って発言しております、騎士団をむやみに動かす物ではないと申しただけです、ゆえに王の取り決める事に異存はありません」


 どの口が言うんだ。

 と全員が思ったに間違いない。


 ヒュンケル王が次に私を真っ直ぐにみた。


「わが国は錬金術師も育てておる。

 よりよい知恵や道具を期待しておる。

 王として、学園の長として問う、これからも国を助けてくれるかな?」

「あっはい……じゃない!! は、はい謹んでお受けします」


 思わず返事をした後に、私は頭を下げた。

 王にしていい返事ではないので慌てて訂正した。


 アマンダさんが大声で、一同頭を下げよと命令を出す。

 私も頭を下げた。

 部屋から人の気配が減っていく。


 ほら、行くぞとディーオに耳打ちされて顔をあげると、王と王子は既に退出していた。

 アマンダさんも、欠伸をして私を見ている。

 その様子を見ていた私に小さく手を振ってごまかすと奥の方へ消えていった。


 この状況で田舎に帰って錬金術師やめまーす、そう言える人間が居たら会って見たいものだ。


 ディーオに支えられて小部屋へと招かれた。

 広めの部屋に見たことも無いような料理が並んでいた。


「王からのささやかな礼だろう、気にせず食べるといい」


 そういうディーオは近くにあるワインを手尺で飲み始めた。

 私がジーっと見ていると、空のグラスにワインを入れて手渡してくれた。

 良い所あるじゃないっ!


 透明な白ブドウのアルコールが喉を通っていく、美味しい。


「飲めるんだな」

「これでも、日本じゃ酒豪だったので」

「にほん?」

「ああいや、二本ぐらい余裕で飲めるわよ」

「二本だったら弱いほうだな」


 よし、誤魔化しきれた。

 並んでいる料理を皿に取り分けると、ひたすらワインを飲んでいるディーオの前へと差し出す。

 ディーオは黙ってその皿を受け取ると、私にワインを注いでくれた。


「変わった女だ」

「…………ほめ言葉?」

「ほめ言葉に聞こえたのなら、医者に行ったほうがいいだろう」

「そりゃどうも」


 私は食べれるだけ食べていく。

 二人では食べきれない量だし、バイキングみたいに時間制限ありかもしれない。

 ちまちま食べていたら、全種類食べれない。


「何も聞かないんだな」

「ふぁひが?」


 口に残っているのをワインで流し込むと、もう一度聞く。


「何が?」

「いや、なんでもない。

 たくましい女だよ、噂と違うし、とても十六にはみえないな」


 そりゃ中身はもっと上ですもんとは言えないし、噂っても以前の私の事だろう。


 部屋がノックされた。

 ディーオが開けると、若い兵士が今晩はどうなされますか? と聞いてきた。

 泊まるor帰るを聞いている。


 もちろん私は帰るという事を伝えた。

 ディーオもそうらしく若い兵士が再び扉を閉める。


「ただの政治的茶番に付き合わされただけだったな」

「茶番?」

「錬金術をめぐっての派閥だ。君も錬金術師をやる以上嫌がらせはあるだろうな。

 もっとも君に嫌がらせをする派閥を同情するよ」


 言いたい事だけを言う。

 お? なんだ喧嘩売ってるのかぁと私の反論前にノックの音が響く。

 先ほどと違う金髪の青年が入ってきた。


「お客様、馬車の用意が……でき……ま」

「リュート!?」

「エルン……」

「な、なんでここに」

「騎士科の見習いは城に泊り込みがある、その間は俺も雑用に入るし……エルンこそ、王に呼ばれた客人の部屋に? もしかして……何か……」


 その顔は青ざめている。


「別に悪い事はしてまーせーんー」

「そ、そうならいいんだ、そう一度話しておきたいと思った事があるんだ」

「ああ、わかってるわよ。報告はいらないわよ、ナナと付き合いたいって言いたいんでしょ? 別に報告される事でもないし、応援してるわよっ」

「いや、エルン誤解を解いておき――」


 私はリュートの背中を数回叩く。元カノとして出来る事はこれぐらい。


 リュートが言い分けをする前に、別の兵士も馬車の用意が出来ましたと走ってきた。

 ここで言い争う事でもないので、じゃ、上手くやんなさいよっとだけ言って城を後にした。

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