101 貴女のために剣を捧げます
最終日。
何時ものように開店の準備をしていると、見た事ある人女性が微笑んで歩いてくる。
明らかにこっちに向かって歩いてくるし、返事をしないと行けないわよね。
「ええっと、まだ開店前ですけど……エレファントさん」
リュートの義母で、元錬金科の先生で、耳の長いエルフ? で、何時までも美人な人。
この人の病気を、私は前世のゲーム記憶を使って治した。
隣にいたナナもエレファントさんを見てどうしたのだろうと首を傾げてる。
そりゃそうよね、だってまだ開店二時間前よ。
「昨日は、ただのただの友達の息子ために告白の大樹まで付き合ってくれたそうで」
「ええまぁ……」
う、まだ婚約破棄した事を根に持っているのかしら。
別に、異性としてキュンっとしない人と一緒になってもなぁ、あとは未来を変えたかったし。
良く考えれば、別に婚約を解消しなくても私の悪役としての行動に気をつければ解消する必要も…………過ぎた事は思い出してもしょうがないわね。
「エルンさん?」
「っと、はい!?」
おっと、また、考え込んでしまった。
「さらに、武術会に応援に来てくれるとか」
「あのー今日の分が売れたらですけど」
残った本数は約三千本だ。
リュートにも、ちゃんと伝えてある。そう売り切れないと応援に行けないのだ。
だから、売切れるまでに負けていたら、行っても意味無いわねって昨日伝えたら、決勝に間に合うように来てくれれば。と、豪語されたものだ。
「わかってますわ。はいどうぞ」
エレファントさんは皮袋を、ドンッと台の上に置いた。
何か嫌な予感はするけど一応聞いてみる。
◇◇◇
「リュート! 負けたら……あっ別にどうしようもないから負けてもいいわよー!
あ、カインも見つけた。がんばりなさいよー」
ピンクと白のチアガールの格好をして声援を送る。
上半身は横からチラミしそうな短い袖、下半身はふとももまで見える短いスカート。
もちろんスパッツ型のアンスコもはいている。
だから多少は足を上げても恥ずかしくない。
で、応援席から声をかけると、私達を見つけたリュートとカインは固まっていた。
隣にいるノエから、もっと応援してはどうでしょうか? と提案貰ったけど、友達を応援するなら、こんなもんよ……たぶん。
まだ試合は始まる前である。
現在私達は、騎士科主催のトーナメント大会の応援席にいる。
ちなみに試合会場が良く見える一番いい席だ。
模擬店はどうしたかと言われると……私の後ろで笑顔でホットドックを食べ続けているエレファントさんが、全て買い取った。
売るものが無いのだから閉店だ。
どうしようもない。
三千本以上あったのを、リュートの応援に向かわせるためだけに買い取ったのだ。
エレファントさん本人は、純粋に食べたいのもありますわと、そんな馬鹿なと思っていたけど……。
エレファントさんの横ではガルドが必死にホットドックを焼いている。
出来上がった側から食べ続けるのはちょっと怖い。
で、さらにチア衣装一式を私とナナの分二着持って来たのだから断りようが無かった。
サイズもなんとぴったりである。
…………なんでサイズぴったり?
大事な事なので二回考えていたら、私の腕を引っ張るナナ。
現実へ戻された。
「エルンさん、カインさんが動きませんけど……あ、顔を上げて走っていきました」
「変ね救護スペースに走るだなんて、あれリュートも追いかけていったわね、にしても結構見に来る人いるのね」
回りの席もちらほら埋まってきた。
腕っ節の強そうな男性から、可愛い女の子の集団、家族連れまで様々だ。
グラン国王が段に登ると、私と目が合った。
メガホン型の 拡声器を使って大きな声を出す。
「ふぉっふぉっふぉ、一部ではグラン王と呼ばれておるが。ヒュンケル・グラン王である。良く覚えて言って欲しいふぉっふぉっふぉ、さて武術会の説明を行う――――」
………………。
……………………そういえば、そんな名前だっけ、ってか態々私を見て言わなくてもってか、私声に出していないんですけどー!
大会ルールは良く聞いてなかったので、ナナから説明を受ける。
四角い線の入った場所で、練習用の剣を使って勝敗を決める。
まいったを言うか、審判が止めるまで何でもアリのルール。
一応魔法は禁止である。
ってか、私は見た事ないけど、やっぱ魔法ってあるのね。
さらに、骨折ぐらいならまだしも、なんだったら腕や足を切り落としてもエリクサーがあるから大丈夫とか、見た目と違って結構グロイ大会だ。
「そんなグロイ大会を皆みたいのかしらね?」
「ええっと、お話を聞くだけじゃ、残忍なんですけど……騎士道精神に乗っ取って、そんな酷く無いらしいですよ。
あと、一般枠もあって一般の人が騎士科の人や騎士の人と手合わせ出来るらしいんです。
昨日まで、その予選もあったみたいです」
「へえー」
上手くできているわね。
騎士は基本貴族しかなれない。そんな騎士より強いとアピール出来れば私兵として雇って貰う事も出来る。
それ以外にも名だって売れるだろうし、騎士のほうは騎士のほうで、一般人に負けたとか名誉が傷つく、そう簡単に負けられないでしょうし。
「あ、リュートさんですよ!」
どれどれ。
四角いコートの中でリュートは剣を構える。相手側も選手が出てきて……あっ審判はディーオなのね。お忙しいことで。
騎士道なのかしらないけど、相手の男性も剣を相手に向ける。
リュートも剣と剣を合わせて後ろに引いた。
はじめ! と旗が振られた。
リュートが瞬間的に一歩引くと、中腰で剣を振るう剣先から火炎が出た。
火炎は相手を襲って、相手の騎士科の生徒は吹っ飛んだ、そしてリュートの旗が振られ一本を取った事を会場に知らせる。
「はい?」
「どうしました、エルンさん」
「今のって魔法……?」
「いいえ? 剣技の一つと思いますよ。熟練した剣士なら出す事が出来るいう大技です」
………………どうやら、私の知っている剣術とちょっと違うようだ。
でも、ゲームでも五マス先のモンスターに攻撃あててたわよね。
この世界じゃ当たり前なのかしら。
「あれは?」
リュートは剣を胸の前にもって行くと私を見ている。
「ええっと、あなたのために剣を振るいます。とかだったような気がします」
周の応援席から、キャーと黄色い声があがる。私に向かってしたのよ! とか、あの人じゃないかなーと、小さく私を指差している子など反応は様々だ。
まったくもう……何ていったらいいのかしら。
「あれ、あの豚……もとい、あいつも出るの?」
私の眼下には生徒会補佐のええっと……。
「ライデイさんですね。あの人も騎士科の人で……その……」
「その?」
「評判はあまり良くないです」
私はライデイの試合を見る事になった。
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