8,5:過去的なやつ
本日二話目です。主人公視点の本編ではないので連続で投稿します。
途中で視点が変わります。
どうしてだ……何故君が無能の部屋から出てくるんだ!
蝋燭の灯りが通路を淡く照らす王城の一室の前で君は頬を染めて走るように無能の部屋をでてくる。
それが意味する事は……ああああああああぐぁぁぁぁぁぁ。
あの無能が無能のくせに! お前なんかが触れていい子じゃないんだよぉぉぉぉぉぉ!!
……許さない。許さないぞ。
「僕達は7日後、実戦も兼ねてダンジョンに行くことになった……」
ダンジョンか……そうだ。これを利用すればもしかしたら。
ふふふふ、無能を消せる!!
私はその日、異世界へと転移した。白異世界で出会った女神様の神々しさに驚いた。その後説明を受けて半ば強制的に私は転移した。
驚きはしたが安堵もあった。異世界には彼もいたからだ。
彼と初めてあったのは三年も前になる。
きっと彼は私と出会った事など覚えてないだろう。
それでも私はしっかりと覚えている。
三年前の夏、避暑地に来ていた私は拐われかけた。
一人で外に出た私を六人のごろつきが囲んできた。
不幸にも男好きする私の肢体は男達のお目にかかってしまったようだ。
一人ならば問題なく対処出来るが六人相手は流石にきつかった。
成すすべもなく私は口を押さえられ車へと連れ込まれそうになった。
そんな時、彼は現れた。
「お兄さん方、なにやってるの」
街灯の僅か明かりの向こうから声が聞こえてくる。
「ああ、んだ、この餓鬼は」
「ちっ、見られちまったな」
男達に体を押さえられながら私も現れた男の子を見た。
何処にでもいる平凡そうな少年だった。
体格がいいわけでも助けを他に呼んだ様子もない。
ただ、平凡な少年がそこにはいた。
逃げろと叫びたいが口は塞がれそれは叶わない。
それに、目撃された以上男達が少年を逃がすとも思えない。
「面倒くせぇ、その餓鬼も早く押さえろ」
男の一人が仲間に指示をだす。
指示された男は少年に近づいていく。
「痛い目にあいたくなかったら大人しくしてろよが――――ぶるぁ!!」
私の目の前で男が吹き飛んだ。そう表現するしかないほど男は宙を舞っていた。
「なっ……」
「固まってるんじゃねーよ」
まさかの事態に硬直した男達に、ただ一人冷静な少年が接近して掌を一人の男に添える。
それだけで男は吐瀉物を吐き出し宙をまう。
「ぜ、全員でかかれ」
突然現れた少年の異常な強さに男達は全員で仕留めにかかる。
私は呆れた。全員行ったら私が解放されるじゃないかと。そんな事にも気づく余裕がない、指示を出していた男の襟を掴んで背負い投げで男を地面に叩きつける。
「ふん、アホか貴様らは……っと、少年の方はって……終わってたか」
少年に迫っていた三人の男は全員が地に倒れ付していた。
私が一人を倒す間に三人を沈めるとはなんという早業だ。
「すまない。危うく拐われる所だった、感謝する」
「別に偶々通りかかっただけだし、気にするな」
「いや、そういうわけにもいかんさ」
近くで見た少年は正に平凡でしかなかった。
見た感じ特筆して凄そうな所はない。近くで見ても少年の体は武術をやっている肉体でもない。
それでいて先程の様な戦闘力があるのは意外であった。
「君は何者――――」
少年の素性を聞こうとして今更ながらに気づく。
何処にでもいる平凡な少年の顔、月明かりに照らされたその瞳の昏さに私は声を失った。
少年の見た目は私と同じ位。それなのにどう生きればこんな目になる。虐待を受けて人生に絶望した暗さではない。
全ての物を見たからこその昏さなのか、形容し難い昏さがある。深淵に吸い込まれるように何故かその瞳から目を逸らせない。
「わ、私はもういく。この恩は忘れないから」
何故だろうか、その時の私は慌てて少年から逃げてしまった。
次の日私は後悔した。恩人に対して何て失礼な事をしたのか、何故名前を聞かなかったのかと悶々としていた。
二度と会えないのではないかと、お礼を伝えられないのかと酷く後悔した。
だからなのだろう。私は避暑地があった場所の近くの高校を受けた。
親には怒られたが唯一の我が儘を押し通した。
ここで少年に出会えるかは分からない。もしかしたら違う高校にいってるのかもしれない。
それでも、もしかしたらと仄かな期待を胸に私は高校へと進学した。
――――そして、そこに少年はいた。
彼は無能と判断された。
私は異議を唱えたかった。彼が無能のはずがない、彼は普通ではないのだから、私はそれを知っている。
それなのに私は異議を唱えられなかった。
彼に関する事を話そうとすると不思議と恥ずかしくなって口に出来なかった。この恥ずかしさのせいで彼とは高校に入ってから一度も話せていない。
私はダメダメだ。
異世界に行った私達は訓練をすることになった。
いずれ出会う魔王の脅威に対抗するのは建前でこの世界で生き抜くには力が必要だ。それを与えてくれるなら利用すべきだと思った私は周りにも訓練を受けることを進めた。
幸い何事もそれなりに出来る私は異世界へ来たことで身体能力を含めた全てが向上した事もあり余裕をもって訓練をこなしていった。
その間自分が得た力も色々と検証した。結果私のスキルは有用だと判別したのはよかった。
異世界に来てから三日……未だ彼とは話せていない。
話したくて話したくて、つい彼を見てしまう。それでも彼を前にすると変に緊張してしまい話かけられない。
それなのにどうしてだろう!!! 何と彼から話しかけてきたではないか!!
労いにとスイーツを彼は用意してくれた。ふへへ、嬉しい。彼は何て優しいのだろう。思わず気持ちの悪い笑みを浮かべてしまう。
彼は幾つかの言葉を投げ掛けて来るが緊張してしまい、曖昧な返事しか出来ない。折角のチャンスを私は何て阿呆なんだ。
ああ、彼は他にスイーツを渡しに行くと立ち去ろうとする。
待って、全然話せていないじゃないか!
嫌だ、嫌だぞ! 何か何か言わないと……。
「ふふ、私は君に興味がある」
何を言ってるんだ私はーーーーーー。
緊張して何か話さないと思ったとはいえ、君に興味があるなんて変態の台詞じゃないか。これじゃあ彼にも引かれてしまう。
恐る恐る彼の様子を伺う。
「そう言ってもられるのはありがたいです。それじゃあ俺はもう行きますね――――龍王子先輩」
「う、うみゅ。それではな」
やっっさしいーーーー。あんな変態チックな台詞をはいた私に何て優しい笑みを向けてくれるんだ。
優しすぎるだろ!!
よし、頑張ろう。彼が無能は納得いかないが本当に無能なのだとしたら私が守ればいいだけだもん!! 私は頑張る!
よし、先ずは彼と話せるようになろう。
いける、今の私ならばいける。なんせ、今日は話せたじゃないか。もっと積極的に話しかけて彼との仲を深めてやる!!
――――そして、一言も話すことなくダンジョンに行く日を迎えた。
私の阿呆!!!
これまでスポットが当たってなかった龍王子先輩の話でした。
彼女は文武両道、美人でスタイルもよく、それでいて財閥の娘という才女です。
そんな彼女が主人公と絡むのは…………そのうちです、そう、そのうちです。
ブクマ、感想等、どしどし募集中!!?