8:冒険者ギルドはまともです
本日8.5話も後からあげます。
「ビバ! 王都! 遂に来れたぜ!!」
ミラノさんにしたお願いは通ったらしく、次の日俺は王都の街へと繰り出していた。
「ふふ、はしゃぎすぎですよ、ハイミネ様」
勿論お目付け役、もとい監視役のミラノさんもいる。
「それで、ハイミネ様はどこから行きたいですか? やはり、スイーツ店でよろしいのです?」
「いや、先ずは聞きたいんだけど、冒険者ギルドとかってあったりする!?」
「冒険者ギルドですか? はい、ありますけど……それがどうかしたんです?」
怪訝そうなミラノさんを視界に修めながらも頭の中では祝福のクラッカーが鳴りまくっていた。
王道の冒険者ギルド、異世界転移して苦節五回目。やっとお目にかかる事が出来そうだ。
一度目と二度目の世界には冒険者ギルドのような物は存在していたが、色々と理由があって冒険者ギルドに行くことは叶わなかった。しかし、やっと念願だった冒険者ギルドに行けそうだ。
「行きましょう!! 是非に!!」
「あの……ハイミネ様。一応勇者様を労う物を買うための買い物という体で来ているのですけど……」
「お願い! 一瞬顔を出すだけだから!」
「はぁ、仕方ないですね」
溜め息をつきつつも了承してくれたミラノさんはそのまま先頭を歩いていく。
「ただ、ハイミネ様、気をつけてくださいね。冒険者というのは粗野な者もいますので」
冒険者といえば粗野なイメージだったので問題ない。
寧ろ絡んで来ようものなら喜んでしまいそうだ。
「ハイミネ様、着きましたよ。ここが冒険者ギルドです」
「おお~」
ミラノさんに案内された冒険者ギルドの外観は思った以上に大きいというものだった。
三階はあろう木製の建物ながら傷んでる所などもなく綺麗である。大きな看板が真ん中の辺りに掛けられておりでかでかとした文字で冒険者ギルドと書かれている。
因みに俺が書物を読んだり言葉を話せるのは過去の転移の経験があったからであり、クラスメイトの様に自然と言葉が変換されるような言語チートがあるわけではない。
クラスメイト達を羨むとしたら言語チートこそ一番だったりする。言葉が通じないのは本当に地獄だ。
一度目の世界では言葉がまず通じず、色々と苦労したものだ。
「では、次に行きましょうか」
「いやいやいや、少し中入ろうよ」
外観だけ見るのでは勿体無い。
渋々と行った様子のミラノさんと冒険者ギルドの扉をあける。
「……ほぉ」
冒険者ギルドに入ってみると中はきちんと整理されており清潔感のある部屋だった。
受付嬢であろう女の子達は揃いも揃って美形づくしなのは王道的ではあるが、内装の綺麗さが予想外だった。
俺がイメージしてたのは場末の居酒屋みたいな感じであったが、受付の向こうで忙しそうにしている職員を見ると役所のような雰囲気だった。
それでいて、冒険者は鎧をきてたり、薄汚れた格好のまま来ているので場違い感が凄まじい。
見た感じギルドは冒険者の集まり的な様相はなく、依頼の発注と受領に重きをおいた全うな施設のようだった。
ただ、酔っぱらいであろう人達が普通に闊歩しているのは冒険者ギルドぽかった。
「それにしても賑わってるね」
「そうですね。やけに忙しそうです」
受付では受付嬢や役員の者達が忙しなく書類を書いていたり冒険者の対処を行っていたりと騒がしい。
たむろしている冒険者の一団から話が漏れて聞こえてくる。
「なぁ、知ってるかよ。最近ここら辺の強力なモンスターが次々消えていってるらしいぜ」
「ああ、聞いたぜ。昨日なんてオーガジェネラルの亡骸が見つかったらしいぜ。それも手付かず!」
「たはー。Bランクモンスターじゃねーか。それを放置ってどんなアホだそりゃ。くそ、俺もその場にいれば素材を持ってこれたかもしれねーのに」
「こっちはたまったものじゃねーよ。モンスターの死体ばかりで肝心のモンスターの姿が全然見当たらねー。他のやつらもそれでこうしてギルドに文句いいにきたりしてるんだぜ」
………………………………………………………………………………………うん、俺には関係ない話だな。
「ハイミネ様、もうよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ。次行こうか」
忙しそうであるし、ここまでしっかりした施設ならば、冒険者による絡みは期待できそうにない。
申し訳なさと、少しがっかりしながら冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドを後にすると当初の予定通り、スイーツ店によりクラスメイト達にケーキやマカロン等のスイーツを買ってきた。
「理桃くんありがとうね~」
「川島さんこそ訓練おつかれ~」
クラスの女子の一人に手をふって別れる。
「ハイミネ様。どうして一人一人に渡すのですか? 夕食の時に集まるならばその時渡せばよろしいですのに」
「スイーツは出来るだけ早く食べた方がいいでしょ? それに、少数に渡した方が会話の切っ掛けになるからね」
皆がいる場で渡しては感謝こそされるがそれで終わりだ。
現状好感度を稼ぐ意味でも労いを兼ねて少数に渡して行った方がありがたみが違う。
後々渡した者同士が俺から労いのスイーツをもらったと話し合えばプラスで更に好感度を稼ぐ事もできる。
「後は、青山に東雲さんと他数名か」
青山と東雲さんならば恐らくまだ訓練場にいるはずだ。
「あれ、理桃、どうしたの?」
「おつかれ、訓練終わった?」
「うん、遥とやってたんだけど、ちょうどあがるよ~」
タイミングよかったようだ。
青山にタオルを渡す。
「あ……ありがと」
「東雲さんもよかったら」
「ん、ありがとう」
二人共汗をかなりかいてるようなのでタオルを持ってきて正解だった。
ついでに水を渡すと二人は勢いよく飲み干す。
「ぷはー、生き返るぅ~」
「訓練はやっぱりきついか」
「うん、まぁ、楽ではないよね。私もあれから頑張ろうと思って我ながら真面目に頑張ってますよ」
あの部屋に来たとき気休めにと励ましたが本人が頑張る切っ掛けになったようだった。
「あれから?」
俺の部屋に来たことを知るよしもない東雲さんの純粋な疑問に青山は頬を染めて慌てる。
「なんでもない! そ、それより、りとはどうしたの?」
明らかに話を逸らしてるが仕方ない。乗ってあげるとしよう。
「そうそう、二人に渡すものがあってさ」
「渡すものってなに?」
「甘いもの」
「――――ほんと!!」
青山は食い気味に聞いてくる。
クラスの何人かは青山程ではないが強い食い付きを示してきた。どうやら訓練ばかりで甘いものを食べる機会がなかったようだ。そういう意味でもスイーツを選んだのは正解だった。
「本当だよ。ただ、訓練した直後だし少し休んでから食べるんだぞ」
「うん! わかった!」
「東雲さんのもあるから良ければ食べてよ」
「灰峰くん……ありがたく頂戴するね」
甘いものが苦手な人のようにお菓子も買ってきてたがこの様子なら東雲さんは大丈夫なようだ。
「じゃあ、青山に渡すと全部食べちゃうから東雲さんに託します」
「ん、了解しました」
「ちょっと! 私そんなに大食いじゃないから!!!」
否定する青山だが、残念ながら夕食時の食べっぷりから大食いキャラは既に定着してしまっている。
「じゃあ、俺は残りの分渡してくるな」
「うん、りと、本当にありがとね」
「気にしなくていいよ。青山が喜んでくれたなら俺もよかったし」
「……うん、ありがと。じゃあ、また後でね」
「おう、また後でな」
「灰峰くんそれじゃあ」
律儀にお辞儀する東雲さんとも別れを済ませると残りの人物差し入れを渡しにいく。
幸い残りの人物達は訓練場にいた。
赤城に龍王子先輩。そして、緑山と木瀬とたむろって駄弁っている金城だ。
爽やかに礼を言ってきた赤城と意味ありげに俺に君に興味があると笑ってきた先輩に私終えると、残りは金城達だけだ。
「あぁ? なんの用だ」
近づいた俺に気づいた金城が睨んでくる。
「これ、皆に渡すやつの買い物行っててさ。スイーツなんだけど良ければ食べない?」
「ははは、無能君はお使い係ですか。楽でいいですねぇ~」
金城は立ち上がり俺の前までやってくる。
175cmある俺よりも10㎝以上背が高い金城が接近すると自然と見下ろす形になる。
「無能君よぉ、お前少し調子に乗ってねーか」
おっと、やけに俺に対する敵意が強い。これは何か気に触る事があったようだ。
「何かしたっけ?」
「はん、人が苦労している間に無能君は部屋に女を呼ぶらしいじゃねーか。いいねぇ、無能は暇で、俺もあやかりたいもんだぜ」
ほう、この発言はミラノさん……いや、青山か。
成る程成る程、可愛い所もあるじゃないか金城君よ。
若人は青春しないとだからその気持ちは否定しないぞ。
しかし、この言い方。自分で見たというよりも誰かに教えられた感じだな。
「はは、あやかるも何も女なんていないよ。そもそも俺経験ないし。だからそっちの勘違いだよ」
少なくとも地球においてはな。
こっちは素直に青山とは無関係と伝えてるんだ。
だから、お前も一々絡むなと視線で訴える。
「……ちっ、興がそれた、行くぞ」
「え、お、おう」
「え、戻るのか?」
突然帰ると言い出した金城に取り巻きの二人は困惑しつつも追随する。
無闇やたらに手を出してくるような奴じゃなくてよかった。
「あ、スイーツいらないの?」
「んなもんいらねーよ!!」
折角買ったんだけどな。余るのも勿体無いし青山にあげるとしよう。
「ハイミネ様。配り終えましたか」
「うん、終わったよ。あ、これはミラノさん分ね」
「ありがとうございます……それにしても、驚かないんですね」
気配を消してから現れた事を言ってるならずっと気づいてきたから驚きようがない。
「メイドって突然現れるものだしね」
「そうなのですか?」
「そうなのですよ」
東雲さんとの戦闘で俺が無能ではあっても無力ではないことは伝わっている。それならば多少のことは勝手に納得してくれるだろう。
「うーん。今日も一日あっという間ですなぁ」
もう日が暮れ始めている。ご飯を食べて夜になれば日課になりつつあるモンスター狩と充実した一日を送れている。
しかし、気づけば異世界に来てから三日、本当にあっという間だ。
そして、あっという間にそのままダンジョンにいく日を迎える。
ブクマ、感想お待ちしております。
9話からは展開早く進めるよう意識していきたいです。本日この後22時前後に8,5話もあげます。