7:模擬戦……ただし素の状態です
戦闘シーンがあっさりしすぎて申し訳ないです。
主人公がガッツリ戦うのはもう少し後です!!
「皆、7日後、僕達はダンジョンに行くことになった。勿論そこにはモンスターがいる。低レベルのモンスターで僕達なら問題なく対処出来るとの事だが初めての実戦だ。皆には気を引きしめてもらいたい!!」
大臣の話を聞いた翌日。
俺は訓練場ですっかり僕という人称が板についてきた赤城の話を欠伸を堪えながら聞いていた。
ダンジョンの話は既に知っている。赤城の話は退屈でしかなかった。
堪えきれずについ欠伸をしてしまうと横にいたクラスメイトが暢気に欠伸なんぞするなとばかりに鋭い視線を向けてくる。
「今日は参加してくれるんだね。灰峰」
話を終えた赤城がやってくる。
「いやぁ、昨日はごめんな。無能だからと逃げててさ。でも昨日の皆の訓練を実は見ててさ、俺も頑張らないとって」
「はは。ならよかった。ただ無理はするなよ。訓練といえど危険にかわりないからね」
なら、無能という名目の俺が来て喜ぶなよと思うが表には出さない。
さて、何故俺が訓練に来たかというと交流のためだ。
大臣の作戦は一理あるが、残念ながらクラスメイトと俺の交流は薄い。なんせ高校生になってからまだ3ヶ月しかたってない。
交流を深めるべきイベントも夏の終わりがメインということもあり仲がいいのは青山を筆頭に一部であり、後は話したことがあるクラスメイトレベルでしかない。
これでは俺が死んだ事になっても悲しみこそすれ起爆剤としては弱い。そこで交流を深めるべくこうして訓練に参加することにした。悪趣味に思えるかもしれないが、仲良くするのはいいことだよね!
「ふっ……ふっ……」
今日始めに行われたのはランニングだった。シンプルに体力作りのためだ。
「意外ね。りとって体力あるのね」
「それは皮肉か?」
異世界強化のお陰でクラスメイト達は三キロ走り続けてもまだまだ余力を残している。
「違うわよ。単純に体力あるなって。学校ではこんなに走らないし知らなかったわ」
「言ったろ。青山を守るって、その為にはこの程度屁でもないぜ!」
「ば、馬鹿じゃないの」
おーおー、馬鹿と罵倒しつつ随分と頬が赤いですねと内心思いつつ、無表情をキープして走る。
「まぁ、実際のとこ俺だってそれなりに鍛えてたって事だよ」
地球にいたため戦闘モードをはじめ、肉体強化を行う訳にはいかなかったが、もどかしさは募り素の状態で鍛えまくってた。
密かにバキバキに鍛えられた筋肉が自慢だったりする。
地球での筋肉は一種のステータスになり得るからモテるかもと必死だったのは内緒だ。
そうとはいえ、そろそろ五キロ。きつくなってきた。
強化を行いたいがミラノさんが訓練を見に来ている。
『鑑定』とやらが使えるらしいし、手の内は見せたくない。
基礎訓練が終わると始まるのは昨日と同じく魔法や武器での模擬戦だ。俺は模擬戦の列に並ぶことにした。魔法は昨日のモンスター狩りの時、試し撃ちしすぎて体を動かしたい気分だったからだ。
「はいみねくん、よろしく」
「宜しく東雲さん」
俺の模擬戦の相手は剣道少女東雲さんだった。
最悪の気分だ。昨日の訓練では東雲さんは郡を抜いて武器の扱いが上手かった。
技術も迂闊に見せる事が出来ない以上、素の状態で彼女の相手をするのは正直きつい。
とはいえ、素人のふりをするほど俺は達人でもない。
そこそこ手を抜いてやるとするか。
間隔をあけて対峙する。
「じゃあ、いくね」
東雲さんは軽く踏み込むと軽やかな足音と共に一瞬で距離をつめてくる。
「はえぇ」
「余裕あるね―――しっ!」
距離を詰めてきた東雲さんは木刀を振り下ろす。
振り下ろす速度も早すぎて素の状態だと上がった状態から突然目の前に現れたような錯覚に陥る。
「あぶね!!!!」
ギリギリの所で木刀を滑りこませることができた。
何とか防御できたが腕がミシミシと悲鳴をあげる。
少女から放たれたとは思えない程、振り下ろされた木刀の威力は重く、腕に衝撃を与えてくる。
いや、東雲さん。まじ重たいです。
剣聖というスキルを持っていたことを思い出す。
異世界強化にスキルの強化も加わればその攻撃が重たいのも納得だ。いや、寧ろ二つ合わさっているわりには軽い。加減しているのだろう。
というか、補正が飛距離すぎる。地球で武術を行ってなかった者でも一流の動きをしている。
「ふぇー、強すぎでしょ、東雲さん」
「その割には対処されてるんだけど……」
「へへ……本気だしてくれてもいいんだよ?」
にヘラと挑発気味に笑うと東雲さんの木刀を握る手に僅かな力が加わる。
――――ありゃ、こんな上手くいくとは。
力を加えて体の重心が無意識に前傾気味になった瞬間、体の力を抜き、東雲さんの力を斜めに流す。
「――――しまっ!」
体勢を崩された東雲さんはその場で止まり前傾に傾いていた重心を後ろに戻そうと瞬間的に体を動かすが、体勢のずれを認識している俺がその隙を見逃すはずもない。
木刀を振り上げる。
「っ!!!」
通常であれば到達していたであろう刃が空を切る。
本気を出したのか神のごとき反射神経で刃を避けた東雲さんが一気に後ろに下がる。
「ふぅ……驚いた。まさかここまで力を出すことになるなんて」
「いやいや、本気だしすぎでしょ……」
素の状態の俺に対して過剰すぎる魔力と反応速度だった。あれは、魔力で無理矢理身体能力を強化しなければ出来ない動きだ。
それに避けるだけではなく然り気無く置き土産を置いていきやがった。
東雲さんが持つ木刀の先に薄っらと赤い液体がこびりついている。
服が縦に裂かれて肌が覗き。肌には一筋の線が走っていた。
瞬きしていなかったにも関わらず気づいたら切られていた。
素の状態ではとてもかわしきれない剣速であった。
「シャツはもう駄目だな」
唯一の服が破けてしまったのは少しショックだ。
「ごめん……本気だしちゃった……服もごめん……」
謝りながらも東雲さんは何故かそわそわしている。
「そ、それにその……肌、見えちゃうから……その……かくしたほうが」
ゴニョゴニョと聞き取りにくい声量で東雲さんは話す。
どうやら服が裂けたことで自慢の胸筋が衆目に晒されてしまったようだ。我ながらネックレスがワンポイントとなっておりセクシーな肉体をしていると思う。東雲さんが照れてしまうのも納得だ。
「灰峰……君、何かやってたの?」
東雲さんとの模擬戦を見ていたクラスメイトの一人が声をかけてきた。
「まぁ、ちょっとね。教えようか? 地球での技術も役にたつかもだし。俺じゃあ技術があっても無駄だしな!」
「え……」
クラスメイトの耳元に近寄り囁く。
「技術さえあれば、東雲さんよりも強くなるよ」
「え……ほんと」
狙い通り食いついた。
女子が剣技で頂点に立っている。くだらないとは思うが男は意外と変なプライドで女子が頂点に立つことを嫌がったりする。
東雲さんより強くなれると提示しただけで一気に眼を輝かせている。
「え、じゃあ。教えてくれるかな」
「当然だろ、俺達――――友達じゃないか!」
「あーーちかれたぁ」
訓練を終えるとベッドにダイブする。
「はぁ、先程は逞しかったのに終わった途端これですか」
当然の如く後ろに着いてきているミラノさんが溜め息をつく。
「それにしてもハイミネ様は無能とは思えない程強いのですね。東雲様に一太刀届きそうでしたよ」
「向こうで剣を習ってなからね~。それに、結局一太刀も届かなかったよ」
「いえ、ハイミネ様は誇るべきです。東雲様に一太刀届こうかという技術を他の皆様に惜しげもなく教えていました。中々できる事ではないですよ」
一人のクラスメイトを皮切りにあの後六人ものクラスメイトに技術の一端を教える事になった。どういうわけか、その中には東雲さんも混じっていた。
「えー、本当に褒めてくれてる?」
「勿論です。正直ハイミネ様を侮っていたので自らの節穴ぶりを恥じてる所ですよ」
無表情で言ってるためいまいち真実かわからない。
だが、褒めてくれてるのなら精一杯甘えるとしよう。
「じゃあ、ミラノさん。訓練頑張ったし明日は王都を案内してよ!」
「案内……ですか?」
「そう! この間言っていたスイーツ店とか行ってみたいし!」
夜にしか王都に行っていない為、昼間の王都がどうなっているのかは今のうちに把握しておきたい。しかし、ミラノさんの反応は芳しいものではない。
「勇者様の存在は王城にいるものしか知らないので、全員外に出るというのは現状難しいかと」
「何言ってるの? 行くのは俺とミラノさんだけだよ」
はなから全員と行くつもりなどない。行っても気まずい雰囲気になるだけで楽しめるとも思えない。
「うーん。それなら何とか……かけあってみます」
「やった!!」
遂に昼の王都を散策出来るかもしれない。
それに期待がある。
王道的なこの世界ならあるのではないか。
――――冒険者ギルドというやつが。
現状水曜日までの分は書き終わってるのでそれまで毎日投稿します!
ブクマ、感想はモチベ向上に繋がってきますので、ポチッとな~とやってくださる方は宜しくお願いします。
文章力あげたい……