5:モンスターとの対峙
何気に初戦闘ですが序盤ということもありあっさりとしたものになります。
異世界転移してから初めての夜。
食堂での出来事を思いだす。
結論から言ってしまえば俺の主張は通った。
もともと強制はしないと明言していたし、何より俺が無能なのはクラス全員が知っている。はなから期待されてない俺が訓練に出ないといっても特段止められるような事もなかった。
ただ、何人か不快そうな様子を浮かべていた人物達はいた。
弱いんだからこそ訓練しろよと突っ込みたい気持ちは理解はできる。
そうとはいえ、俺も反論したい。目立つのは分かりながらも訓練を辞退した理由を是非聞いてもらいたい。
理由? そんなもの今更訓練なんて必要ないからだ。
これは、語弊があったな。クラスメイト達がやるお遊びの訓練に興じる理由がないからだ。
幸い強制ではないし、俺が無能という大義名分もある。
サボれるならサボらせてもらいますとも。
それに、俺は訓練よりも実戦派だ。
ということで実戦をはじめにいこう。
「『ステルスモード』開始」
肉体に埋め込んだ一つの機械が反応し、光学迷彩を利用して姿を景色に溶け込ませる。
そこに、魔法陣を発動させ、音や臭いが漏れぬよう小規模な結界をはる。
これで完璧だ。
ミラノさんからの話で王都の外にモンスターとやらが現れるという情報を得ている。
さて、魔獣や魔物、霊獣に外来星人とも違う、この世界のモンスターがどれ程のものかお手並み拝見と行こう。
完全なステルスモードにより城を抜け、灯りの消えた王都の町をひたすら走る。
じっくり見て回る時間はないが王都いうだけあって中々に広い。人でごったがえすお昼時はさぞ賑やかだろう。
レンガの洋風の建物の屋根をひた走る。
王都は壁に囲まれている為出るためには壁を越えないといけない。
飛翔魔術を使うまでもない。
魔法陣を展開し結界を利用した足場をつくる。
これなら低燃費で三歩分の足場が確保できる。
足場を階段のように段差をつけていけば三歩で壁なんぞ越えられる。
勢いをつけて一歩二歩とかけあがりそのまま三歩を踏み込んで壁をこえる。
勢いそのままに落下していくが体をしっかりと捻り足をしっかりと下に持っていきそのまま着地する。
衝撃で地面が少し陥没するが、結界によりその音は外に漏れない。
「さーてと、いきますか!!!?」
王都に近いともなれば都市を一撃で壊滅させる化け物や、国を消滅させるようなビームを放つ魔物なんかもいないはずだ。
そのレベルの化け物がいたら逃げるとしよう。
王都をでて暫くすると草原の香りとその奥から濃度の高い緑の臭いがしてくる。森でもあるのだろう。
「『探索モード』」
コマンドを言えば瞳が特別なものへと変化していく。
生物の熱や生体反応だけではなく、生体エネルギーを認識できる俺の眼には生物の存在がハッキリと分かる。その中でもましなエネルギー量の存在の元へと方向転換する。
そこにいたのは鬼だった。
鈍い銀色の肌に聳え立つ一本の角。
筋骨隆々のモンスターは見た目だけでいえば文句なしに伺い強そうだ。
「モンスターの名前までは知らねーな。うーん、ま、オーガって所か」
オーガ(仮)は俺の存在に気づいていない為呑気に狩ったであろう獣のモンスターを担いでいる。
このまま気づかれずに殺す事は簡単だが、それでは意味ないのでステルスモードを解除する。
『ガッ!?』
察知能力が高いのか解除した瞬間オーガ(仮)は驚いたように此方を振り向いてくる。
「やっほー」
俺の存在を認識したオーガ(仮)は肩にかついでいたモンスターを地面に起き戦闘態勢をとる。
突然現れた気配に酷く警戒しているのか漏れて聞こえる息遣いがうるさい。
モンスターから発せられる殺気に心臓の脈が速くなるのを自覚する。
そうだ。この感覚。一年ぶりに味わう命のやり取りを行う感覚。モンスターの殺気に釣られるように俺の意識も戦闘のものへと自然と変わっていく。
『ガア!!』
先に動いたのはオーガ(仮)だった。
巨体の割には俊敏な動きで跳ねるように飛びかかってくる。
「では、こっちも『戦闘モード』」
体を戦闘に相応しきものにする。
小手調べの肉体強化だ。
オーガ(仮)は力に任せて腕をつきだしてくる。
横から絡めとって肘を破壊することも出来るが今回は正面からぶつかる事にする。
腰を回転させてそのエネルギーをそのまま肩から肘、肘から拳へと伝えオーガ(仮)の拳へとぶつける。
オーガ(仮)と俺の拳の激突。
軍配が上がったのは俺の方だった。
オーガ(仮)の腕がはねあがり指の何本かが折れてるのが見える。
対する俺も無傷とはいかなかった。
「かったいな」
皮膚がめくれ血が滲んでいる。指の骨の一本、持ってかれたかもしれない。直ぐ治るとはいえ、普通に痛い。
「でも、通用するな」
四回目の世界で行った改造手術だが、この世界の生物と同等の固さを発揮してくれたのは嬉しい情報だった。
このモンスターがどれ程のレベルか分からないのが懸念といえば懸念だが、ここら辺では取り敢えずオーガ(仮)に対処できれば問題はないだろう。
「じゃあ、次はこれだ――――耐えてくれよな」
魔方陣を展開する。
意味ある言語で描かれた魔方陣に刻まれてるのは風を操る者。
魔方陣により産み出されるのは幾重もの風の刃。
それをオーガ(仮)に差し向ける。
この魔術は相手に小さいながらも傷をつけ、多量の血液で弱らせるという意外とえげつない目的の技だ。
見えない刃で着実に弱らされるのは恐怖と共に屈辱を与える。
オーガ(仮)の全身を風の刃がズタズタに切り裂いていく。
流れ出る血液は青色と人間とは違うのが分かる。
血液の量が徐々に増えていきオーガ(仮)が地面に膝をつく。
「よし、こんなもんだろ。次は必殺技を試すと……ってあり?」
地面に膝をついたオーガ(仮)はそのまま顔面から前のめりに倒れる。はじめはピクピク動いていたがそれもすぐにおさまる。
「嘘だ……ろ。死ぬな、まだ死ぬんじゃない!! 死ぬなオーーガ(仮)」
慟哭をあげてみたがモンスターは当然ながら反応することはない。
「仕方ない。他いくか」
一番強い反応がこのオーガ(仮)だった為期待は出来ないが他に行ってみることにする。
「この世界でどれだけやれるか……しっかりとしないとな」
今までの世界では俺は平凡にすぎなかった。
大きな冒険もしてこず一日一日を過ごしてきた。
でも、今までと違うこの世界でならばもしかしたら何か変わるのかもしれない。その為にも自分の手札がどれだけあるのかを再認識しなければいけない。
その夜はひたすらモンスターを狩るのに奔走した夜だった。
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※念のため、今回発揮した主人公の瞳はチートではございません。
詳しい事はその内書こうと思います。