4:無能の方針
本日2話目です
「ぷっ、はははは。無能って無能って逆にレアじゃねーかよ。はははは」
形上無能となった俺にクラスメイトがどう触れていいのか困惑した雰囲気を悪い意味で破ったのが腹を抱えて笑う金城だった。周りの何人かもつられて笑っている。
笑っていないのは同情してくれてる人や……おっと、早速力がない俺を見下してる奴等か。
自覚がないかもしれないが赤城なんかも無意識に俺を下に見てる視線を寄越してくる。
そういう視線は意外と本人にばれてるものなんだぞ。
「は、はいみね様。気を落とさないでください。今は力なくとも異世界から来たはいみね様には成長の余地がまだあります!! それに、スキルだってまだ目覚めてないだけかもしれませんし!!」
呆けた状態から立て直した王女様が鼓舞するように拳を握っている。ぶりっこのようなポーズは可愛いが幾ら頑張っても俺のスキルが覚醒するなんてことはない。女神本人にチートをあげられないと言われたし間違いない。
「いやぁ、灰峰く~ん。君いいねぇ~」
今まで絡んで来たこともない金城が馴れ馴れしく肩を組んでくる。
「面白いしお友達になろうぜぇ~」
「俺も俺も」
「マブダチ~」
腰巾着の緑山と黄瀬までやってくる。金城含めてニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
面倒くさい事になりそうだな。
「しっしっ、あんた達散りなさい散りなさい」
ゴミを払うような仕草で赤城と共に青山がやってくる。
「あまり気落ちしないでよね理桃」
どうやら俺が落ち込んでいるかもと心配しているらしい。
ここに来る前異世界行くのが怖いと震えていた人物と同じとはとても思えない。
「落ち込んでねーよ」
本音だがこういう時はどんな言い方をしても拗ねてるようにしか聞こえない。何度異世界いこうと、俺もまだまだってことか。
スキル判定を終えると俺達はそのまま部屋へと案内される。
夕食まで休んでいろとの事だ。
無能のレッテルを貼られた為馬小屋のような部屋に案内される事も考えていたが危惧にすぎなかったらしく普通の部屋に案内された。
「ふーん。よきかなよきかな。この位が心置きなく休めていい」
余りに豪奢な部屋だと緊張してしまい逆に休めない。貧乏性なのかもしれない。
「ハイミネ様、夕食までの間にご用などございますか?」
ベッドにだいぶした俺に声がかけたのはクラスメイトではない。地球の秋葉産の短いスカートに短い丈の機能性を省いたメイド服ではなく地味目の本格的なメイド服を着たメイドさんだ。
ミラノさんという名前らしく、俺の専属のメイドさんだ。
「そうだなぁ、可能ならこの世界の本を読みたいな」
「わかりました。伝承等からいかがでしょうか?」
「そうだね。大まかな事は皆で教わるだろうし、きっかけとしては物語は入りやすいかもな。よし、それでお願いします」
「承りました」
ミラノさんはお辞儀して退出する。ここまででわかる通り彼女は優秀そうだ。無能の俺に彼女を付かせてくれるとかあの王女様はいい人なのかもしれない。それに、ミラノさんは可愛い。もう一度言うミラノさんは可愛い。
優秀なミラノさんは10分程で数冊の本を持ってきてくれた。
「ミラノさん、ありがとうね」
「いえ、私はメイドですから」
受け取った本をパラパラと捲っていく。
「いやぁ、それにしても俺が無能だって事は知ってるだろ。ここまでやってくれるのは意外だったわ」
「私は職務を全うしてるだけです」
まぁ、それもそうか。彼女は上に俺の世話をしろと言われたから職務を全うしてるだけだ。しかし、ストレートに言ってくるとはこういう所好きだったりする。
「あの、ハイミネさま、もしかしてつまらなかったですか?」
「んー? いやぁ、面白いよ。なんで?」
「随分早く流し見しているみたいでしたので」
確かに端から見たらペラペラ捲ってるだけに見えるかもしれない。しかし、俺はしっかりと内容を読んでいるし、頭に叩き込んでいる。過去の世界でも読書は必要に駈られて行っていたのでいつの間にか速読が出来るようになっていた。
……よし、全部覚えた。
本を閉じてベッドの端に置く。
「ミラノさん。ミラノさんは休みの日とかなにやってるの?」
読書も終わりやることもなくなると現地人から情報を収集することにした。
「私はメイド仲間と王都にあるスイーツ屋さんなんかにいったりします。中々休みがないんですけどね」
「へー。甘い物好きなんだ。俺達の世界ではスポンジに生クリームを乗っけたケーキや、苦い豆をもとにして甘かったりほろ苦いチョコレートとかが人気なんだけど、こっちの世界でもあったりするの?」
「ケーキは分かりますが、チョコレート? なるものは知らないです。どのようなものなのですか?」
おっ、本当にスイーツが好きなのかミラノさんの瞳がキラキラ輝く。スイーツは女の子共通で好きなものなんだな。
折角だから王都の人気の店や地理を少し聞いておく。デートに使えるかもしれない。
ミラノさんと話していると気づいたら夕刻になっており俺達は食堂らしき場所まで案内される。
「灰峰くん」
「どしたん、東雲さん」
通路をミラノさんの案内のもと歩いていた所に声をかけてきたのはポニーテールにした剣道美少女東雲春風だった。
「灰峰くん。雅みなかった?」
「青山? 見てないけど」
「そう、あの馬鹿一緒にいこうって言ったのに……食いしん坊だし先にいったのかしら…………」
青山と仲のよい東雲さんはどうやら待ち合わせをしていたにも関わらず先に行ったであろう青山にお冠のようだ。
「…………」
用事が終わったにも関わらず東雲さんは黙りこくっている。
仕方なしに声をかけてみることにした。
「東雲さん。どうした?」
「…………気にしなくていいと思うよ」
それだけいうとトテトテと東雲さんは一緒にいたメイドをつれて先に行ってしまう。
彼女なりに心配してくれたのだろうか?
東雲さんとは接点がなかったから意外だ。
「ハイミネ様、進んでよろしいでしょうか?」
「ごめんごめん。行こうか、東雲さーん一緒に行こう!」
先に行った東雲さんを追いかけてそのまま食堂へと向かう。
「遅かったね春風」
「遅いって……雅、約束してたのに」
「あ、ごめん。お腹空いたから先に行っちゃった……ごめん」
「やっぱり……そんな事だと思った」
呆れたように溜め息を漏らす東雲さん。
凄い、東雲さんが予想した通りだった。
「ごめんて春風! それより、何で理桃と一緒にいるの?」
「雅を探してたら灰峰くんに会ったから一緒に来たの」
「ふ、ふーん。なら、いいんだけどさ」
青山と東雲さんの会話を意識の外にやっていき連れてこられた部屋を見渡す。
大きな大理石のようなもので作られたテーブルがありクラスメイト達が座っている。
奥には王女様が座っており王女様を囲うように赤城と龍王子先輩が向かい合っている。何事かを囁きあってるのを見るに集まる前から三人で話し合っていたのかもしれない。
一応先輩の横には現代文の授業が始まる直前ということもあり不運にも異世界へと来てしまった中原翠先生がちょこんと座っている。
新卒で教師になったこともあり高い統率力がないことは本人含めて既にわかりきっている。赤城が中心になっている時点でお察しだ。
「黒虎先輩。お願いしてもいいですか」
「ふむ。皆、私達は王女様や赤城と話し合ってこれから先どうするかを考えていた。皆の知っての通りこの世界には魔王とやらが人間界へ侵略せんと虎視眈々と狙っているという。そして、私達がこの世界に来たのはその魔王を滅するため。この段階で私達は魔王とは相対する運命にあるといえる。そして、そんな私達勇者を召喚したファブニール王国も私達と一蓮托生という間柄だ。そこで、彼等は私達の生活の安全を保障するのを条件に私達に訓練を行ってもらいたいと言ってきた。まず始めにいうが、私はこれに賛同している。私達は力を得てしまった。そのコントロールの為にも訓練は必須だしこの世界で生きていく以上学ばなければいけない事柄も増えてくる。ファブニール王国はそのサポートをかってでてくれている。この点は赤城も同意見だ。とはいえ、訓練に恐れをなすものもいるだろう。強制はしない。生きるためにも訓練をしたいというものが受けるべきだ」
先輩の話なっっが。どれだけ台詞あるんだよ。小説だったら読むのがかったるい位ぶっ通しで話続けていた。
長いとはいえ、話している内容はまともだ。
建前上ではファブニール王国が勝手に俺達を呼び出している為、条件をつけてくるのはおかしいが召喚した以上役割を全うしてほしい王国側の意思もまた分かる。条件の内容も訓練と厳しいものではないし、これからの行動方針としてはラノベの定番ながら、定番になりえる程まともといえる。
「まず、始めに確認しよう。訓練をしたくないという者はいるか?」
先輩の発言にクラスメイト達は周りの様子を伺いあう。
まぁ、あんなに話されては空気を読んで手をあげる事など出来ないだろう。
……空気を読まない一部の奴を除いての話ではあるが。
「はい、先輩。俺は訓練はしないでおこうと思います」
異世界にきてチートを貰えないという空気を読まない行動をしてしまった男……つまり俺だ。
異世界にいった主人公がどのように行動するのか、何度考えても答えが分からないです。今回の主人公はこのように自ら無能ルートを進んでいるのですが、違和感等はないですかね?
こうした方がいいなどの意見ありましたらお待ちしております!
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