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記憶喪失の剣と知精の王  作者: 商秋人
第一章 マリアス王国の災厄
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第九話 模擬戦・説明っ


ー学院生活初日・優樹の部屋ー



 窓の外から見える空の景色が、ふと目に入る。その空には鳥がパタパタとさえずりと共に羽をならす。

 その音を聞きながら俺は目が覚めた。


 この始まり方どっかで見たぞ。

 

「……よしっ!」

「おはよう。優樹」

「よし……」


 俺はゆっくりともう一度眠りについた。


「眠りについた。じゃないわよ……さっさと起きなさい。今日は私のご飯を下に置いているのよ。寝たら……ね?」

「普通にモノローグ読むの止めてくれない?」


 俺は少しだけめたい事を言いつつ起き上がり、掛け布団を畳む。

 隣の椅子に腰かける彼女を見ると、既に白と紺で彩った制服姿の枚野さんがいた。


「あのさ、なんで毎日くるんだ?」


 昨日も来てたからな。

 どんだけやることないんだよ。おい。


「私の返答は変わらないわよ」


 だよね。昨日も似たような事言ったしね。

 まぁ仕方ないか……断るのも忍びないし。


「……俺も割りきるかぁ」

「明日も朝からよろしく」

「まぁかまわんけど、合鍵だけ渡しとく」

「あら、彼氏彼女みたいね」

「毎回針金で開けると大変だろうからと思って言ってるんだよ。なんだ、いらんのか?」

「いるわよ。いるに決まってるでしょう」


 なら変に茶化さないでください。

 

「ていうか朝ごはん作ってくれたのか?」

「まぁ、この前のお礼ね」


 鼻につけた様子でもなく、そう言ってくる。

 こういう所はとても良いと思います。


「なに作ったんだ?」

「ゆで卵三つ」

「あぁ、ゆで……ん? ゆで卵?」

「そう。ゆで卵よ」


 俺は驚きつつ聞き返した。聞き返しながらドアをギィと開けて部屋を出る。


「へー、料理苦手なの?」

「いえ、得意でないだけよ」

「ん? それを苦手って言うんじゃ?」

「……」

「えと。怒ってます? ねぇねぇ。怒ってますか? ねぇ」

「いつになくウザいわね。殺すわよ」

「ご、御免なさい……」


 リビングにつくと、いつも通り静かに置かれた針金と、ゆで卵が三つ置かれている。

 本当にゆで卵三つなんだ。枚野さん。


「昨日は楽しかったわね」

「俺は少し恥ずかしかった。絶対言うなよ」


 口を尖らせて釘をさし、冷蔵庫から鉄の容器に入ったお茶をコップに入れる。


「それはあなたの態度しだいね」

「分かったよ」


 本当に昨日はいろいろあった。

 なんでちらっと外に出たらあぁなるんだ? あのとき思い出したわ。あのーあれ、一年前でのライザ村を思い出した。


 あの時以来だな。うん。


「今日の模擬戦、あなたはどうするの?」


 枚野さんは、椅子に綺麗な姿勢で腰をおく。

 

「いつも通り。二撃で枚野さんに負けた時と同じように闘うさ。っんぐ」


 言いつつ塩をつけたゆで卵を口に頬張る。

 トロりと食べた断面から、綺麗な美味しそうな黄身が出てきた。


「ん、旨いな。中は綺麗な半熟だ」

「ありがとう。でも嬉しくないわ。たかがゆで卵で旨いも不味いもないでしょう?」

「まぁな、俺は一般ほどしか料理できないからなんとも言えんわ」


 そんな会話をしながら、朝ごはんを食べ終わると彼女は気分よさげに立ち上がった。


「さぁ、さっそく行くわよ。優樹」

「ちょ、ちょい待て、すぐ着替えるから」


 そそくさと用意して、さっさと外を出た。



ー登校ー

 


 王国の建造物を眺める景色が流れる。

 馬車のがらがらっという音を聞きながら、儀礼剣の手入れをする。


「どう? その儀礼剣、扱えるかしら?」

「まぁ慣れだな。大丈夫だと思う」


 俺は昨日壊してしまった儀礼剣の代わりに、彼女から儀礼剣を一つ貸してもらった。

 もちろん何かしらしっかり返すつもりだ。


「悪いわね。王国式しかなくて」

「構わないよ。むしろなんで二本もってたか少し気になる所だな。高いだろ、儀礼剣」

「予備よ。私お金持ちなの」

「羨ましい限りだ」


 儀礼剣は、一般の人の月給半分ほどの値段がする。物によっても値段は変わるけど、西洋式が一番高い。理由は分かりません。


「あら、どうしたのかしら?」


 馬車から見える景色から、慌てている兵士がところどころに見える。

 おそらくその事を彼女は言っているのだ。


「さぁ? 貴族の誘拐事件でもあったんじゃないの?」

「私は昨日の事だと思うけど?」

「ははは、ないない」

「私も誘拐事件はないも思うわ」


 そんな冗談を言い合いながら、簡易的な手入れを終わらせる。


「西洋式の技また後で教えてくれないか?」

「あら? 出来るものだと思ってたけど……出来ないの? 以外ね」

「一応な聞くだけだ。あと枚野さんを少し知ろうと思ってな」

「……そういうのはもう少し仲良くなってたからお願いしてくれるかしら」

「枚野さんにだけは言われたくなかった……」


 あんなグイグイきてた張本人ごよく言えたなぁ。ふふ、さすが王の素質があるだけある。

 

「今心の中でバカにした?」


 目を細めてこちらを睨み付ける。

 

「本当になぜ心の中がわかるんだ……?」

「なんとなくよ」

「なんとなくか」


 なんとなくで分かられたら堪ったもんじゃないですよ。はい。


「第四区に優樹は住んでるけど、商人でもしてるの? 精霊種でもないみたいだし」


 目をキョロキョロとさせながら、珍しく気を遣いげに彼女は口を開く。


「あぁ、三年間商人してたぞ」

「せ、世界とか見て回ったのよね?」

「ん? いや。一定の村々を回ってたけど」

「どんなのだったのかしら!」


 目をキラキラとさせて聞いてくる。

 へぇ、こんな顔もできたんだ。枚野さん。


「基本は王国に複数ある貧民街みたいな風景だけど、幸福度は村の方が高いな」

「それから?」

「ご飯を作るための材料が向こうの方が新鮮だから、ご飯とかは美味しかった」

「へぇーやっぱり盗賊とかよく出るの?」

「いや、盗賊より誰かが逃がした異獣の方がよく現れてたよ」

「異、異獣……」


 枚野さんの声のトーンが少し落ちる。

 だが、すぐに元に戻り続きを促してきた。


「服はどんなだったの?」

「ん? あぁ、場所によって変わって──」


 そんな感じて馬車で話ながら、俺たちは楽しげに登校していったのだった。



ー教室・ホームルーム ー



「今日は先週入学式に言った通り、模擬戦をする。模擬戦の内容はこうだ」


 カッカと前の黒板に文字を記していく。


「まず、十二対十二の団体戦。ルールは単純に相手のリーダーを倒した方の勝ちだ。リーダーはチーム全員で決めろ。武器は各々持ってきている物を使ってくれ」


 先生が説明を止めると、一人の少女が手をあげた。確か自己紹介の時マリー=アリアという名前だったと思う。

 

 首下まで伸びた白髪が特徴の、優しい目をした女の子だ。

 

「どうした? アリア」

「あ、あの。武器を忘れた人はどうするんですか?」

「お、忘れたのかー?」


 意地悪げに言った先生に、真面目にアリアさんは返す。


「いえ、私は忘れてませんが、一応聞いた方が良いかと思いまして」


 真面目だ。

 こういうTHE真面目な性格の人が学級委員になるんだろうな


「そうだな。予備の儀礼剣がいくつか置いてあるので、それを使ってくれ。性能は幾分か落ちるがないよりましだ」

「そうですか、ありがとうございます」

「おう、その調子でどんどん質問してくれー」


 すとん、とアリアさんは座り、再び先生が説明を始める。


「ちなみに、チームは先生が皆の入学時を元に編成しておいた。今から紙を配る、しっかり見ろよー」


 ぱっぱと紙が流れてくる。


 その紙にはAチームとBチームと書かれていて、文字の下につらつらと名前が並んでいる。


「お、一緒のチームだ」

「えぇ、そうね」


 俺と枚野さんは一緒のチームだった。

 ちなみにAチームだ。

 周りからも、俺A、俺はBー、私はAね。と様々な感想がそこかしこから飛んでくる。


「これで勝ったも同然ね」

「じ、自信過剰だなぁ」

「あなたはもう少し自信を持ちなさい」


 おっと、これは一本とられてしまった。


「それ見て、お前ら思わないか?」


 ん? なんの事だろう?

 と、不思議そうな顔をしていると、すぐに生徒の方から言葉がきた。


「Aチーム十二人、Bチーム十一人……一人だけ足りませんね」


 言ったのは、ほぼ間違いなく図書委員になりそうな見た目の女の子だった。

 名前は……あれ、どうだったか。

 ミリアだっけ? メリアだったけ?

 その人は枚野さんをちらっと見ながらもう一つ気になる所をつく。


「あと、枚野さんという特別試験を合格した人も入っているのに、何故足りないんです?」

「お、いいとこつくなぁ。メリア」


 メリアさんでした。はい。


「そう、Bチームは明らかに不利だ」


 ていうか今さらなんだけどこのクラス二十三人だったのね。


「だからBチームには一人だけ助っ人を用意している。気になるか?」


 ハードル上げるなー。

 どんな強い人が来るのだろうか

 やっぱり先輩とかかな? 

 

「助っ人は……私だ」


 ……はい?

 がらがらと扉は開いていない。

 開いているのは俺たちの口だ。

 そして開いていないということは、この空間にいる誰かの声である。

 

 誰かっていうか……目の前にいるわけだが


「私、萩白リリナがBチームに入ろう」


 先程言ったとおり、俺達は口をあんぐりと開けて驚きの表情をとる。

 隣の枚野さんは普通ですけどね。


「よし、んじゃ用意しろー。さっさと行くぞ。私も久しぶりに本気出せるかもだしなっ」

 

 腕をぐるぐる回しながら萩白先生はBクラスから出ていった。


「おい、勝てるか? あれに」

「……多分無理ね」

「だな」


 枚野さんはいつもと変わらない声音で、儀礼剣を腰に傾けて教室を出ていった。



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