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記憶喪失の剣と知精の王  作者: 商秋人
第一章 マリアス王国の災厄
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第八話 災厄の始まり



ー第四区画貧民街ー



 俺はゆっくりと左脇下へと儀礼剣を持っていき、左手を曲げて前にもっていく。

 前方へ注意を向けろ。目の前にある空気を全て消し去れ。全てを斬れ。全てを切れ。

 

「はっ!」


 腰を低くして、素早く儀礼剣を振り抜く。

 

「必滅・斬切……」


 空気が吹き荒れ、奥の方にある木が揺れる。

 ザスンと重い音がなり、木に後が出来た。


「武国の技ね。必滅系統が得意なの?」

「……まぁある程度は」


 武国の技は様々な種類がある。

 いわゆる流派と言うやつだ。

 例えばさっき出た"必滅"。

 この流派は斬撃を主としている。個人的に一番使いやすいと思う流派だ。

 

「あなたの使う両刃の刀じゃあ衝撃を受けるのは向かないのに、なんで武国のを?」

「なんとなくだよ。使いやすいんだ」


 そう、俺が使っている儀礼剣は両刃という両方刃がついている王国式の武器だ。

 だが刀と言った通り武国式でもある。

 刀の形で両刃。


 一応言っておくと、儀礼剣には三種類ある。

 王国式と武国式、そしてその間の俺が使っている、他式がある。


 それぞれ長所があるが、他式の長所は刀で王国の技が使える事だ。

 短所は刀と同じで防御が使いにくい。

 あとあまり剣を引くと、自身に当たって血が出てしまう。


「……日課は終わったけど、どうする?」


 俺はここに来ていつもの二十回四セットをひたすらにした後に、技の練習をした。

 彼女はその間王国の技を練習していた。

 名前とは違いそこは王国式なのな。


「とりあえず闘いましょう。あなたの剣、凄く気になるから」

「その言いかた止めよな。うん」


 気になるから、がちょっと艶かしいよ。


 儀礼剣を鞘へと戻し、彼女のいる逆の位置へと移動する。


「で、ルールは?」

「異能あり、顔攻撃なし。剣風が触れた時点で負けでどうかしら?」

「了解。俺に勝ち目は無さそうだけど」


 彼女は王国式の儀礼剣を右手にぶら下げながら、カッと下に線を引く。


「スタートと言ったら開始ね」

「お手柔らかに頼む」


 風が流れて草木が飛ぶ。

 静かな空気にの中に彼女からの視線が混ざり、自分自身から少しの緊張を感じる。


「……スタートっ」


 その瞬間、彼女の気配が消えた。

 そしてその消えたのを戸惑い負ける……のが普通の流れたが、これはただの技術だ。よく観察すると気配以外は感じ取れる。

 姿は見えないが確かに見える。

 

 ここはどうしたものか……

 一瞬で負けるか、一撃受けるか。

 その逡巡ののち彼女からの一撃が、右手側からやってくる。

 これは……

 剣を縦に振るフェイントをした後に、右回転斬りを放つ王国の技。


「リリア」

 

 彼女は言葉と共に剣を縦に振る。

 俺はフェイントを読み、回転斬りのタイミングで剣を受け流しカキンッといい音が鳴る。


「……よく読んだわね」

「まぁ、たまたま知ってたから」


 知ってたら受けれるレベルの技だ。

 これならまだ負けないで良いだろう。


「じゃあ次は受け流せないようにするわ」

「……」


 彼女は目を細めてゆっくり儀礼剣を両手に持ち天へと上げる。

 ん? あれは……


 そしてその後、姿がぶれた。


 剣が上空から俺へと振り下ろされる。

 背後から振り下ろされる。


 受け流せないと言った理由はこれか。

 俺が扱う儀礼剣の他式は、防御が苦手だ。


 後ろからの攻撃は回転して受け流すしかない。けど、今から放たれる技は袈裟斬りだ。


 受け流しきるには剣の耐久度が足りない。

 

 そして何よりこれは予想外だ。

 なぜならその技は……

 

「剛毅・破点っ!!」


 武国の技なのだ。

 

「くっ」


 振り下ろされた剣を眼前にしながら思う。


 正直、普通の人なら終わりだと……そう思う。


 だが実際問題俺なら大丈夫だ。

 ……この一撃はきっと避けれるし、受け流す事も俺なら可能だと感じる。

 

 先程俺の儀礼剣なら無理だと行ったが、儀礼剣など関係ない。

 技量だけでこの程度ならどうにでもなる。


 でもこの場での選択は、本当の意味で賢い選択なら……


「うわっ!」


 ばたりとお尻を着地させるのが正解だ。

  

 剣風が頬を掠めて、頭上に彼女の儀礼剣が佇んでいる。

 太陽から延びた影が俺に被さっていた。


 その影を眺めながら俺は立ち上がる。

 俺の負けだ。


「優樹……あなた強いの?」

「ん? 今の通りだよ……」

「そう……とにかく私の勝ちね」

 

 剣風が当たったら負け……

 曖昧な勝ち負けの基準だが、まぁ闘いの内容からして完全に俺の負けだ。


「結局あなたは異能使わなかったわね」

「枚野さんもでしょ」

「私は使ってたわよ」

「あれ?」


 温度系や物理系ではないのか……

 ならさっきの闘いからして、特殊な異能で効果は認識のズレと言った所か……


「私の異能は言わないわよ」

「あー、まぁ。一応学院で闘う事もあるかもしれないしな。しょうがない」

「そういうこと」


 そういいつつ俺達は儀礼剣を鞘へと戻す。

 

「明後日は模擬戦らしいけど、集団戦か一騎討ち、どっちだろうな」

「……多分集団戦よ」

「あれ? なんでわかるの?」

「先生に聞いたら教えてくれたわ」

「いつ聞いたの?」

「萩白先生に優樹が行った後に」


 つまりそのまま職員室に向かったせいですれ違いになってしまったのか……


 まぁ枚野さんについて行った所で枚野さんについてとか自分の特別試験の事とか聞けないんだけどね。


「集団戦なら、一緒のチームになれるといいな。枚野さんと」

「えぇ私もそう思うわ」

「あ、俺は気になるからとかじゃなくて強い人と一緒なら楽だからと思ったからだぞ」

「あらそう。残念……」


 そんな話をしながら、俺と枚野さんはゆっくりと帰路についた。

 

 彼女との会話は結構楽しかったです。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーマリアス王国・女王の間ー



 そこはとても広く、とても豪華で、とても重い空気をした空間だった。

 規律よく並んだ兵士たちがその空間をさらに重く厳かにしている。

 

 そんな豪華な世界に、一人の、二十代後半とおぼしき女性が美しい姿勢で座っている。


 マリアス王国九代目王女

 アクス=マリアス王女である。


 彼女は深紅の眼を眼下にいる白銀の鎧に包まれたマリアス直系騎士団隊長へとある言葉を告げる。


「──の時代が訪れた」


「……なっ」


 騎士団隊長は、静かに頭を垂れている。

 そんな光景の中、驚きの一言で返事をする。

 その姿勢は相手への敬意と憧憬が見え隠れしている。

 だが声音はそれを上回る驚きと苦渋である。

 そしてその動揺を隠すようにすぐに確認をとる。

 

「それは真実でありますか……」


「私も確認したさ。何度も何度もな。だが壁画の景色は変わらなかったし、言葉も変わらなかった」


 壁画とはなにか

 言葉とはなにか

 白銀の騎士は分かりきっていた。

 それがなにかも、そして王女の言葉が真実であることも。


「……いかがいたしましょう?」


「一度お前らに一任する。私は少し独自で調査してみよう思う」


「かしこまりました」


 そう言いながら、王女の眼下に頭を垂れていた騎士は姿勢よくしっかりと歩いて帰っていった。


「……兵士たちよ。夕時まで任せた。私は少し行くところがある……もし誰か来たら休憩中と申せ。良いか?」


「「「「はっ!!」」」」


 四十人ほどの兵士たちが一斉に声を上げて腰を落とす。

 その光景を眺めながら王女はゆっくりとレッドカーペットが敷かれた階段を下り、その空間を歩く。


「これから先、どのような怪物が現れるか……」


 王女は暗い笑みを浮かべ王女の間から出ていった……


 彼女は着替えた後、情報を集めるためにある区画へと向かったらしい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーマリアス王国から遠く離れた平原ー




「グアァァァァアアア!!!!」


 天空に一匹のドラゴンがいた。

 羽を広げ、青白い鱗を輝かせて、耳をつんざく雄叫びをそのドラゴンは上げていた。


 周りに人影は一つもない。


 いや、"なくなってしまった"。


 ゆっくりと地へ下り立つドラゴンが、足を踏みしめる。

 グシャリ……グシャリ


 嫌な音が響き、人だった物が踏まれ潰されていく。そこにドラゴンの意思はない。


 ドラゴンはただ道を進んでいた。

 

 そこに人がいた。


 それだけで人は炭と化した。


「フシュゥ……グルル……」


 雄叫びはなりをひそめて、呻く。

 

 叫んでいたのは足に不快な感触があった。


 だから少し叫んだ。


 そんな叫びや雄叫びを止めて呻く。


 止めたのも単純だ。


 不快な感触がなくなっただけだ。


 太く分厚い鱗で包まれた足についていた、人々の血肉を地面へ擦り付けたのだ。


 そんな光景を、異能で見ていた男がいた。


『あーあ。人をこんな簡単に』


 彼の透き通った声は何処からともなく流れてくる。ドラゴンの頭の中に。


「グルゥゥゥっ」


 白銀の鱗を纏ったドラゴンは、彼の声の意味は理解できなかった。

 

 だが先程と同じで、不快だった。


「グルルァァァァアアっっ!」


 再度、人々を炭へと変質させた炎を辺り構わず吐き出す。

 

『意味ないよ。僕はここにいないしね……でも心配しないでくれ、僕に君を倒すすべは持っていないし倒すきもない。ただのマリアス王国の監視者だからね』


 その言葉通り彼に力は無かった。


 だが情報という力を集めることに徹したからこその無力だ。


『じゃあね。災厄』

「グリュアァァァァアア!!!」

 

 ひたすらに暴れる災厄から目を離して、彼はすぐ王女の元へと向かった。



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