第七話 目玉焼きうめぇわ
ー次の日・優樹家・自分の部屋ー
窓の外から見える空の景色が、ふと目に入る。その空には鳥がパタパタとさえずりと共に羽をならす。
その音を聞きながら俺は目が覚めた。
「良い空だなぁ」
今日の天気は絶好調らしい。
とても良い朝だ。
「……あ、あー。よし」
無駄に発生練習をした後に、のっしりと横置きベッドから立ち上がり伸びをする。
「うーんっ。本当に良い朝だ」
「ええ、本当に良い朝ね」
あぁ、うん。本当に……
……ん? え?
目をこすりゆっくりと首を横に向けると、椅子の横に掛けてある筈の鞘に収まっている儀礼剣を眺めている青と黒の髪を腰まで伸ばした女性が椅子に腰掛けていた。
……うん。腰掛けていた……
「……なんで居るの?」
「家が隣なのよ。よろしくね」
「へーあーうん」
あぁ家が隣なのかぁ。
なるほど……なるほどねぇー。
腕を組ながら考え込む俺。
「理由になってなくない?」
「……? まぁいいじゃない」
やばいな。
この人やばいわ。
えーと。うん。えーと、考えが纏まらない。
どうしたものかな。
とりあえず全部含めて聞こう。
「あのさ……昨日から思ってたんだけどなんでそんなに俺に構うんだよ?」
「そんなの、気になるからに決まっているでしょう? なに、当たり前のことを聞いてるのかしら……」
「うっ、だからその気になる理由を」
「私の口からは言えないわ。私の口からはね」
なんなんだこの人は……
当たり前じゃねえから聞いたんだよおい。
おっと、口が悪くなってしまった。
「この剣には特に何もないのね……」
「ん? あぁ、そりゃあお金もないから……それに、倹約家だからな。俺」
「そう……それは一年前からそうなの?」
「あぁ、二年はそのままだよ」
俺の言葉を聞くと儀礼剣をカチャリと元の椅子の横へと傾ける。
どうしたんだ急に……
まぁそこはどうでもいいや。
てかなんだよ。そんな簡単に気になるとか言わないでくださいっ。いいの? 好きって事でいいの? いいのか?
あ、いや待て。
そういえばまだ気になる以外の本人からの供述は何もない。
なら……うん。セーフ。セーフだ。
あ、セーフになんの意味もないよ?
ただ平常心を取り戻しているだけだ。
……あれ? 平常心になって思ったけど。
一つ嫌なことに気づいてしまった。
俺は少しの恐怖心を押さえつけて聞く。
「そいえばさ……あのさ……げ、玄関のドアはどうしたの?」
彼女は顎に人差し指を当てて考え込む。
そのまま少しニコッとして
「……さて、朝ごはん食べましょうか。せっかくだし一緒に食べましょう」
「……えっ、け、結局どうなの!?」
そのまま部屋を出て彼女は下へと降りた。
俺はすぐに下へ降りてドアを確認すると、鍵やドアは壊れてはいなかった。
だが、リビングの机には少し曲がった針金が、静かにポツンと置かれていた。
……怖いよ。枚野さん……
ー優樹家・リビングー
俺は枚方さんに根負けして、一緒にご飯を食べる事になった。
男は、無力である。
「で、なに食べたいの? 枚野さん」
「あら? 優樹ご飯作れるの?」
「まぁ、家事全般はな。一人暮らししてるから勝手に身に付くんだよ」
「女子力が高いのね」
「それ男子が言われても嬉しくないぞ」
俺はエプロンをつけながら話す。
嬉しくないと言ったが、その実すっごく嬉しいです。ありがとうございます。
少しニヤつきながら黒曜石製の包丁を手に取り、冷蔵庫の中身を見る。
ちなみに冷蔵庫とは、冷凍系の異能を付与させた縦長の綺麗な木箱である。
「ならトーストと目玉焼きを食べたいわ。私食べたことないのよ」
「へぇー、珍しいな。基本誰でも食べてる料理だと思うんだけど……」
特殊な鉄でできたフライパンをぱっと置く。
「ちょっと事情があるのよ」
「どんな事情だよ」
下の棚から獣油をとり、フライパンにさっと掛けて染みるまで少し待つ。
「そういえば昨日は何処に行っていたのよ?」
「……先生と少し話してた」
「なにを?」
「模擬戦について」
「へぇー」
「興味ないのかよ。なら聞くな」
冷蔵庫から卵をとりカッと良い音を立てて割り、元々弱火で置いておいた火器コンロに置いてあるフライパンにジュッとかける。
「違うわ。優樹はどうせ先生となにを話していたか答えないでしょう?」
「……まぁな」
フライパンの方を少し置いておき、トーストをつくる為の機械が台所の横に置いてあるので、そちらの方にリビングの机に置いていたパンをぱっと入れる。
そして、機械の近くにある棚からお皿をとり台所に置いて目玉焼きがいつできてもいいように準備をする。
よし、後は目玉焼きが完成するのと、トーストが焼けるのを待つだけだ。
そうだなー……よし。
その間に少し気になることを、フライパンの前に立ちながら枚野さんに聞くことにした。
「あのさ、二階にいた女の子。妹?」
俺は入学式前日の景色を思い出しながら、その少し気になることを聞いた。
枚野さんが俺の隣に引っ越している事を気がつけなかった理由と、何処かで見たことがあると思った理由だ。
「……えぇ、そうよ。うん。そんな所」
「なんだよ、歯切れが悪いな」
「いいじゃない。女には秘密の一つや二つあるものでしょう?」
「男も秘密の一つや二つあるしな。おあいこだ。だから別に言わんでいい」
「そう……良かったわ」
「……」
「ねぇ」
「ん?」
彼女は右肘をテーブルに置きながら、俺の方を見て聞いてくる。
俺もその視線に気付き、一度フライパンから目を離して彼女の方を見る。
「私が言うのもなんだけど、すっごい適応力ね。私が部屋にいても大声一つ上げなかったし……」
「本当に枚野さんが言うのはどうかと思うけど、どうもありがとうっ」
俺はすぐにフライパンに目を戻す。
すると、目玉焼きから香ばしい臭いが鼻孔をくすぐる。いい感じに焼けてきた。
黒曜石製の包丁で、目玉焼きを持ち上げてお皿へと置いて彼女の前へと運ぶ。
その間にも、トーストが出来上がったようだ。トーストをお皿へとのせ、もう一度彼女の前へと運ぶ。
「はい。塩はテーブルの黄色く塗った容器のやつだから、好きに掛けて食べてくれ」
「……あら? あなたは?」
「俺は朝は修行後に食べるタイプだ」
「へぇー。じゃあ私が朝ご飯を食べたら、一緒に修行する?」
「……」
一緒にか……
枚野さんも特別試験合格した人の一人だけど……どうしたものか。
昨日の先生の話だと、正式に合格したのが俺だけと言っていた。
なら……聞いてみるのが早いか。
「どうしたの?」
「枚野さんはさ、特別試験って言ってたけど。どんな試験だったの?」
「あぁ、試験ね……」
彼女は右手にトーストを持ち一口頬張る。
少しトーストで汚れた唇を動かして、試験の内容を説明する。
「簡単に言うと、ゴーレム二体だけね。そのゴーレムの硬度はえげつなかったけど」
「……うん。ありがとう」
「なにがありがとうか分からないけど、どういたしまして……で? どうなの修行」
「あ、あぁ」
えげつない硬度のゴーレム二体。
多分俺が闘ったやつと同じゴーレムだ。
……なるほど。どうしたものかな。
まぁ……手を抜いてやればいいか。
「パクっ……。むふむふ」
にしても食べ方かわいいな。枚野さん。
ていうかなんでパンに塩かけるてるんだ。
目玉焼きにかけるんだよ。
以外にドジだな。
まぁいいや。
「よしっ、わかった。俺がいつもやってる所で一緒に修行しようか」
「むふ……。ゴクン。ありがとう、優樹」
「いや、特別試験合格した人との修行なんてこっちがお礼言いたいよ」
「……あぁ、そうね」
だからなんでちょくちょくたまに間が空くのだ。気になるでしょ。
「……目玉焼きとトーストご馳走様」
「あぁ、お粗末様」
彼女は一言お礼を言い、俺もそれに返す。
そして食べたお皿を持って行くと、「行くわよ」という彼女と一緒にいつもの第四区画貧民街へと向かったのだった。
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