第三話 入学式
ー入学式・武技館ー
武術をならったり、技を磨いたり、決闘をするさいに使われる武技館で入学式は行われていた。
周りには、恐らく同学年と思われる生徒たちが目の前の言葉を、緊張しながら待っている。
ゆっくりと学院長が武技館の壇上の演台へと向かう。
そして目の前の学院長が厳かに口を開く。
「……えー……あー……緊張してきたぁ」
……端的に言うと厳かではなかった。
そして学院長は、恐らく二十代の青年だった。白髪と黒髪の混ざったイケメンという印象だ。
あきらかに極度の上がり症。
あれでいいのか学院長。
「え、えーと……。み、みなさん!」
みなさんの所が裏返ってますよ。声。
「お、おほん。みなさん……こ、この学院は剣を習い、剣を学ぶ学院です。さ、様々な意思を持ってこの学院に来た事でしょう──」
そのまま噛み噛みの学院長を眺めながら、学院長の話は終わった。
終わった後の学院長は、人生が終わったかのような表情をしていた。
あれで学院長が務まるのか……
その後も代表的な先生が挨拶していき。
どの人も変だった。
例えば、壇上でダンスを始めたり。歌いながら自己紹介したり。めちゃくちゃ声が小さかったり。逆に声がめちゃくちゃ大きかったり。
とにかく変な人が多かった。
そしてそんな先生の自己紹介が終わり。
生徒会の腕章らしき物をつけた四人が壇上の下に集まり。先生からマイクを渡される。
「次は、生徒会長による学院説明です」
生徒会の書記だろう少女がマイクを手に入学式の進行を再開する。
そして、壇上左手のカーテン裏から一人の女生徒が現れる。
美しい金髪を腰ほどまで伸ばした、ジト目でオッドアイの女生徒がでてきた。
キャラ盛りすきだろ……。
そして生徒会長は今度こそ厳かに言葉を発する。
「……私は、この学院の生徒会長をしているアイル=ミリアです……」
今ここにいる生徒みなが思った事だろう。
普通の人で良かった……と
「端的に言います……この学院は強さが全てです。強くない人はこの学院では生き残れないでしょう……文字通り死と同義です」
周りは息を飲んだように見守っている。
うん。少し厳しい人なのだろう。
生徒会長らしくて本当に良かった。
「あなた達は死なないよう頑張りなさい。それがこの学院の生徒である義務です……」
その言葉を聞き、一人の生徒が手を叩いた。
それに合わせて一人づつ手を叩く音が増えていき、最終的にみなが拍手をした。
その拍手が収まると生徒会長が口を開いた。
「……最後に一言……」
武技館にピンっと張りつめた空気が広がる。
「私! 美少女にしか興味ありませんから!」
その瞬間空気が固まった。
ここにいる生徒の顔みなひきつっている。
もちろん俺もだ。
「では、以上で生徒会長の学院説明を終わります」
今ここにいる生徒みなが思った事だろう。
お前もか……と。
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うちの学校おかしな人しかおらんのか……
そう感じながらすでに知らされている自分のクラスへと向かう。
俺のクラスはBクラスだ。
ランキング形式とかじゃなくて、普通にランダムのクラス分けだ。
「あ、ミサキさんだ」
「ん?」
今日朝一緒に登校しようと言ってくれたミサキさんが、教室の黒板の前にいた。
ミサキさんの見てる先を俺もチラリと見る。
「あぁ、優樹ね」
「おぅ、さっきぶ……てなんで俺の名前を知ってんの?」
「……先生から聞いたのよ」
なんだその間。気になるんだけど
「これ、座席表みたい」
「へー。誰もまだ来てないの?」
そんな事を思いながら俺は教室を見やる。
特になんの変哲のない教室。
よくある階段式の、一斉授業を行いやすい教室。二ヶ所にまっすぐ階段があり、そこから上に登るようになっている。
まだ誰も来ていなさそうだ。
「私達が一番乗りね。それで、あなた席私の隣みたいよ?」
「え?」
もう一度座席表に目をやる。
すると、俺が一番左でその隣に枚野三咲と書いてあった。
……あれ?
「エルフなのに武国の名前なの?」
「少し事情があって……またおいおい話すわ。さっさと座りましょ?」
「あ……お、おう」
そう言われたので、階段を共に上がる。
上がっている途中でがらがら、とスライド式のドアが開かれる。
「あら? 一番乗りだと思ったのだけれど……」
入ってきたのは大人っぽい女性だった。
上級生と言われても違和感のない、黒髪の女性。目元はTHE真面目な雰囲気だ。
眼鏡はかけてない。
「……あなたもBクラスですか?」
俺は意を決して声をかけてみる。
初対面だと敬語になっちゃうなぁー
商売人としての弊害だ。
「ん? 違うけれど?」
「はい?」
じゃあなんで入ってきたのか……
「ここBクラスなの?」
「え、えぇ」
「そう……間違いたわ……私Aクラスだもの」
「え、えー」
「それじゃあ」
ピシャリとスライド式のドアを閉める彼女。
なんだったんだ……
「さっきの人。少し気になるわね」
「まぁあの感じみるとね……」
俺は席に座りながら、おずおずと返事をする。
少しじゃなくて、大分気になるよ。
落ち着きすぎでしょ。俺がクラス間違えたら一言も喋らず扉閉めるわ。
「そういう意味じゃないわよ」
「ん?」
「まぁいいわ。気にしないで」
うーん。
気にするなと言われたら気にしないけど……
まぁいいや。
今は先生をまつ事にしよう。
どんな先生が来るだろうか……やっぱりすっごく剣の扱いが上手いのだろう。
俺の剣には魂が籠ってないから……他の人の剣術を見るのは楽しみだ。
「他の生徒が来たみたいよ」
そう言われて耳を澄ませると、廊下の方からドタドタと足音が聞こえてきた。
「楽しみだわ。これから学院生活……」
彼女は、俺側の窓の先にある青空を眺めながら、深々と呟く。
そんな彼女を見て俺自身も深く思う。
「あぁ、俺もそう思う」
目的も大事だが、この学院を純粋に楽しむのもいいかもな。
そう……俺は深く思った。