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記憶喪失の剣と知精の王  作者: 商秋人
第一章 マリアス王国の災厄
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第一話 記憶喪失の剣




 結局こうなるのか……



 それが俺の、ある学院入学後。1ヶ月後の気持ちであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺には記憶がない。

 いわゆる記憶喪失というやつだ。

 いつどこで無くなったかは分からない。


 だが俺は確かにそこにいた。

 両の足で立ち、確かにそこにいたのだ。

 自分が誰か、自分がなにかは知っていた。

 自分は"六道優樹"という人間で、自分はひと振りの剣である。

 それだけは知っていた。


 ただ、そんな記憶はなかった。

 事実として知っていても、どういう経緯で自分を剣だと認識しているのか、どういう感情をもって剣だと認識していたのか……



 どれだけ考えても、あるのはポッカリ空いた記憶の穴だけ。堂々巡りの考察。

 俺が生きていた記録を探したりもしたが、それも無意味だった。


 俺が生きていた記録はどこにもなかったのだ。


 ただただ虚しかった。

 ただただ悲しかった。



 自分はこれから

 何をすればいいのだろう。


 そう思った時。


 一つだけ……感じた事があった。


 自分はなんなのか

 なんのために生まれたのか

 なぜ記憶を無くしたのか


 自分の過去について知りたい……

 自分の記憶を取り戻したい……


 ……俺は……自分を知りたい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーマリアス王国。第四区画ー



 マリアス王国──初代女王マリアスによって建国された、複数種族合併国家である。

 この約300年間で世界最大の国にまでなった、最先端の国家だ。


 そしてここ第四区画。

 商人が住み。商人が物を売る区画。

 そこは常に商人が客引きをし、種族関係なくみな笑い合いながら物を売る区画。

 第一から第五まで区画があるなか、唯一どの種族も住むことができる珍しい区画なのだ。


 そんな商人や、複数種族が住む区画のある路地裏の一軒家に1人の少年が住んでいた。


 俺、六道優樹である。


 三年間商人として生活し、生計を立て生きてきた俺は晩御飯時の現在、物が丁寧に整理された自分の部屋の椅子に腰かけている。

 そんな俺は頭で明日の事をいっぱい考えながら、少し緊張していた。


「えー、なんだ。必要な物は……生徒手帳と筆箱、財布……お金ちゃんと入れてたよな? あ、あの教科書いれてなかったな」


 理由は、明日俺が通う学院の入学式なのだ。

 俺が商人として頑張って貯めたお金でかった未来。その入学式が明日あるのだ。


 そういった訳で、明日の準備に追われそそくさと様々な荷物を両肩にかけるタイプのバックに丁寧に詰め込む。


「あ、そうだ。通学路もちゃんと覚えないとな。覚えてなくて遅刻とか目も当てられない」


 通学路は今日昼に通りしっかり覚えた。

 だが、予習復習は大切だ。この三年間の商人人生で学んだ大切な事の一つだ。


 ……しっかり馬車の出発時刻も確認、と。



「……うん」


 俺は自分自身の手のひらを見ながら今の俺の願いを再確認する。

 これから俺は過去を取り戻して、前を向いていきる。過去を気にして今を生きるのは、もう嫌なんだ。

 それがこのヤタノガミ学院へ通う理由だ。


「儀礼剣もしっかり準備した」


 ベッドの横にかけた儀礼剣を横目にする。 

そう、俺が明日から通う学院には儀礼剣が荷物として必要なのだ。

 剣を習う学校だからね。


 そんな風に、心の準備と明日の準備をしていると不意に玄関からノックの音が聞こえた。


「あっ、い、今行きまーす!」


 俺は二階建ての家の階段をドタドタと降りていき、玄関の扉に手を掛ける。


「はい……なんでしょうか?」


 俺は緊張の中ドアを開けた。


「ちょっといいか?」

「は、はい……」


 扉を開けると、髭もじゃのおじさんがいた。

 おそらく精霊種のドワーフである。

 ドワーフの特徴は器用で太っている。

 あとは地の"異能"が出現しやすい。

 ……見覚えのない人だ。


「どうしたんですか?」


 強張った表情のドワーフに事情を聞く。

 この人顔が怖いです。


「隣に引っ越して来た。よろしく……だ」

「あ、はい」

「……じゃあ、また」

「……はい」


 それだけ言うとドワーフはドアを閉めて帰っていった。


「なんだ……引っ越してきただけか……」


 そういえば隣の一軒家は空き家だったけど、こんな入学式で緊張しているタイミングで引っ越してくるとは……

 まぁ知り合いが増えるのは良いことだ。


 俺はそそくさと上の階に戻り再び荷物の確認……は終わったから……

 道も確認したしな。

 ……ならやることは……


「せっかく明日から剣の学院に行くんだ。しっかり練習しないとな」


 そんな訳で、掛けていた儀礼剣とタオルだけ取り、とりあえず家を出る。


 その時隣の引っ越し先をちらりとみたら、上の階にいる女の子と目があった。同い年位だ。


「ん? エルフ?」


 ドワーフの家に……?

 まぁ複数種族が当たり前の国だ。

 それもおかしくないだろう。


 少し気になったが、すぐにいつもの修行場所へと足を走らせた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーいつもの修行場所ー


 ここは変わらず第四区。

 だが、先程の商人が多く住まう地区とは異なりここは少し貧しい地区だ。

 第四区貧民街とも呼ばれている。


 その貧民街の端の端。

 簡易的に造られた柵の外の草原で、俺は剣の素振りをしていた。


「はっ! はっ!」


 的確に同じ動作を繰り返す。

 この素振りを二十回・四セット。

 合計八十回。


 十九! 二十!


「ふぅー」


 これで合計八十回終了だ。

 正直達成感や疲れというものはない。


「よし、次は技だな」


 そう一言だけ言葉にし、再び修行に戻る。



……

…………

…………………


「……こんなもんかな」


 儀礼剣を右腰に戻して一休みする。

 この修行は、二年間前から始めている。

 自分の認識を持ったとき、自分はひと振りの剣だと認識した。

 その認識は間違いなかった。

 いや、正確には間違ってたんだけど……

 俺は剣ではない。

 だが、剣の扱いに関しては一通り知っていた。

 それに気付いたのは剣を商売品として扱ったときに、剣を持った瞬間……こう、ピカっと頭の中に剣の使い方が頭の中に入ってきた。


 過去に関係しているのだろうか


「よし、じゃあ明日のためにさっさと寝るか」


 とにかく、明日が楽しみだ。



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