番外編 9 セリナさんのつまみ食い
私はセリナ。初めは商業ギルドの紹介でココにきたの。仕事の内容はケンモさんの調理助手。
料理は作るより食べるのが好き。だけど作らないと食べられないから自分でも作っていたのが良かったのかしら? ギルドの募集に調理助手っての見つけて即応募。
だってつまみ食いが出来るかもしれないじゃない。
それに、日替わり弁当が安くて美味しいって噂も聞いていたから余計に興味が湧くわよ。
それに運が良かったのかな? 調理助手に応募したのは私一人だけだったみたいで普通なら担当のギルド職員から面接と適正テストが有るのに面接だけで採用が決まった。よほど急ぎの求人かと思ったのを覚えているわ。
丁度、売店担当の販売員の募集も有ったみたいで、そっちで採用されたリーザとともによろず屋に向かったわ。ここでも店主との面接が行われて本採用になるはずが、ケンモさんには既に決定事項のように説明され否応も無く使ってくださいと言いきった担当職員。プラムさんだけどね。問答無用とばかりに押切った時は「この人はただ者じゃない」と呟いたのよ。
正直、ここまで来て不採用なら私も立ち直れそうになかったから「最高の押しだわ」と心の中でエールを送ったわ。だけどプラムさんがこの国の第二王子だとわかった時に、王宮仕込みの押しなら誰も言い返せない程の圧は当然だわねって思ったわ。
翌日は初めておにぎりって言うのを売り出すって事で、「売る側が味を知らないで売るのはダメ」ってことで私も試食させられたわ。米っていうの? ごはんって言えばいいの? 初めて食べたけど、甘くてモチっとした食感と香りに「おかわりは無いの?」って催促しちゃった。それくらい美味しかったのよ。
だけど、同じものばかりだと飽きられるからと毎日違う物を売り出すらしく毎日試食が出来たのよ。
おにぎりの時は素材が美味しいのねと思っていたけど、ケンモさんの料理スキルが高かったのね。どれもこれも美味しくて、いつの間にか試食から賄い食になったわ。これも私がどうせならってケンモさんに交渉したのが始まりだけど、思ったより押しに弱かったみたいですぐに採用になったわ。
だけど、商業ギルドから指導が入り、日替わり弁当が売れなくなったのよ。なんでも屋台の組合?からクレームが出たからってね。それで夕方から立ち飲み処を始めることになったんだけど、ここでの試食が無くなったのよ。お店が終わってから賄い食が出るけど、売れ残ったのを皆で食べるだけだから、私が食べたいのが残らなければ食べられないの……。 ストレスよね。
出来た料理はあらかじめ小鉢に取分け、注文が入ったらすぐに渡せるようにって準備をするのだけど、こっそりつまみ食いしちゃったのね。だって気になるんだもん。初めはケンモさんの目を盗みながらってすごい緊張感が有ったんだけど、とかチャンに見つかって「わしにも食わせろ」って口止めにあげたら他の従魔も来ちゃってケンモさんにもバレちゃったから、開き直ったわ。
「今日の味が分からないと売れないでしょ!」ってね。
もちろん、みんなに呆れられたわよ。でもね、つまみ食いは私がココで働く唯一の楽しみだもの。
これからも止めないわよ。
新作「クリーニング屋ですが、補修スキルで最強に」をアップしています。
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大波 れん