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男のプレッシャー


★第7話目


愉快な夕食の後、俺は彼女とアレやコレやお喋りを楽しんだり、テレビを見たりゲームをしたり、なんちゅうか至福の時を過ごしていた。

がしかし、昔から言うように(誰が言ったかは知らんが)楽しい時ほど時間は早く過ぎ去るもので、時刻はあっという間に20時近くになろうとしていた。

紳士淑女はお家に帰って日記をつける時間だ。


むぅ……

俺は居間で、ダンスゲームに興じるいづみチャンの背中を見つつ、苦悩していた。

この現代に蘇った侍な俺様とて、思春期一直線、常に妄想力全開の健全な男子高校生。

そしていづみチャンは勿体無いくらいの可愛い彼女。

あまつさえこの家には俺と彼女の二人っきりで、幸か不幸か明日は日曜日だ。

なんちゅうか……このまま家には帰したくない。

是非とも、泊まってって欲しい。

ってゆーか、泊まれッ!!


実にまぁ、我ながら盛りの付いた男の考えよのぅ……

思わず苦笑。

だけどな洸一、良く考えろ。

いづみチャンは、歴としたお嬢様なのだぞ。

いくら彼氏とはいえ……不埒な所業に及んだら、ダンディな父君に猟銃片手に殺られるかもしれん。


し、しかし……何と言うか……今日と言う日を逃したら、ダメなような気がする。

まだ学園祭の余韻が残る、今日と言う日にアタックしなければ、俺は二度と言えないような……

今が最初で最後のチャンスかも知れないぞよ?

だがもし仮にだ、彼女が拒否したらどうしよう?

「私達、まだそーゆーのは、早いと思うの」

なーんてスッゲェ真顔で言われたら……


くっ……お、恐ろしや……


何だか分からんが、思考が纏まらなくて脳が破裂しそうだ。

俺はフルフルと頭を振り、本能に根ざした欲求を振り払う。

焦らない焦らない、一休み一休みじゃあ……



「あ、もうこんな時間だ」

いづみチャンがそう漏らした時、既に時刻は21時に差し掛かろうとしていた。

「そろそろ帰らないと……」

チラリと俺を見やり、そう呟く。

心なしか頬が少し赤かった。


「そ、そう……だな」

俺はポリポリと頭を掻きながら、

「家の人も心配するとアカンしな」

等と、我ながらワザとらしく、心にも無い事を言う。


ぬぅ……や、やはり帰したくはない。が、しかし……


「……そうだね」

コテンと頷き、いづみチャンは立ち上がった。

「う~ん、今日は色々楽しかったね♪」


「しょ、しょうですね」

無論、俺的には、是非ともこれから二人っきりでフィナーレを迎えたいし、これからもっと楽しみたい。

だけど、僕チャンにはその勇気がない。

たった一言が言えない。

どうしてだ?

怖いからか?

拒絶されたら困っちゃうからか?

自分の純潔を守りたいからか?

いや、それは無い(反語)

だったら何故言わない?

泊まってく?って簡単な言葉が言えないのか?

俺は腰抜け野郎か?

神代洸一。己も男なら、ここぞという時に言いたい事は言うべきだぞ?

いづみチャン、俺、君が欲しい。

ズババーンとストレートに言ってみろ。

好きなんだろ?

愛してるんだろ?

やってみたいんだろ?(ストレート過ぎ)

頑張れ洸一ッ!!

言うのは今だ。今しかないぞっ!!


「い、いづみチャンッ!!」


「な、なぁに?」


「その……おおおおお、俺……途中まで送ってくよぅ」

くはっ!?何たるチキンかッ!!(号泣)


「う、うん。ありがとう」

彼女はコテンと頷き、バックを肩から下げると、トテトテと玄関へ向かう。


「……」

あぁ……行っちゃうよぅ。帰っちゃうよぅ……

「い、いづみチャンッ!!」


「は、はい!?」

驚いて振り返る彼女。

もちろん、俺自身もビックリだ。


し、しまったーーーーーーーーッ!?

思わず呼び止めてしまった!!

ど、どうしましょ?

どうしましょったら、どないしよ?


「な、なぁに、洸一君?」

キョトンとした瞳で俺を見つめる彼女。


あぅあぅ……

「え、えと、その……あの……よよよよよよよ……」


「……よよよよって、なに?」


「いや、よよよ、は関係無くて……その、よよよよよ良かったら……」


「?」


「……ととととと泊まっていかないか?」

パンパカパーーーン!!

僕、言っちゃいました。

もうそれだけで満足です。

ええ、満足ですともっ!!

うむ、日記には「満足でした」とだけ書いちゃうぞ。



ドコドコドコドコドコ……

心臓の音が、まるでトラクターかどこぞの原住民が奏でる太鼓ばりに、小刻みに重く鈍い音を立てている。

あまつさえ脳の中では『オラァは言っちまっただぁ♪』と謎な歌が木霊していた。


ど、どうしよう?

『てへ、冗談だよぅ』って誤魔化すか?

え、洸一ちゃん……アンタ、どうする気なんだよぅ。


俺の心には、後悔と言う大津波が怒涛の如く押し寄せて来た。

見るといづみチャンは、パチパチっと少しだけ潤んだ大きな瞳を瞬かせ、「あ…」と小さな声を上げると、頬を染め上げながら何故か「ア、アハハハ……」と渇いた笑いで俺の腕をパンパンと叩いてきた。


「い、いやぁ~……洸一君、いつもいきなり言うだモンなぁ。あ、あははは……」


「す、すみましぇん…」

あぁ……もう僕チャン、死にたい。

何の前振りも無く、ましてや浪漫ティックですらない状況で、いきなり「泊まってく?」なーんて言うのは間違いだよなぁ……

ある意味「やってく?」って言ってるのも同じだよなぁ……

うんうん、分かってるんだ。分かってるんだよ、いづみチャン。


だが彼女は別段悩む訳でもなく、照れてはいるものの、至極当然と言った感じで、

「じゃあ、泊まってくよ」

とアッサリ言葉を返した。


無論、驚いたのは俺様の方だ。

「あぇ゛ッ!?」

そ、そんな簡単に……

いづみチャン。泊まってくって、それは何を意味するのか分かっているのかい?

ナニなんだよ?

幼稚園のお泊り保育とはワケが違うんだよ?

布団に入ってから朝起きるまでの間に、人類が発展しちゃうかも知れないんだよ?

大人の階段、上ってしまうんだよ?


「え、え~と、その……あの……ととと、泊まってくって……」

俺はしどろもどろで、いづみチャンに事の重大さ(笑)を分からせようと身振り手振りを交え、何だかタコがダンスを披露するような趣を持って『帰るなら今のうちだよ?もっと自分を大切にしないと』等と、何故か本末転倒な意見を述べていた。

ってゆーか、家の方に連絡もしないで……良いのか?

あのダンディー様の事だ。いづみチャンの帰りが遅いと、警察に捜索願を出すとも限らないぞよ?


しかし彼女は、そんな俺の心配げな様子をクスクスと笑いながら見つめ、

「え、え~とですねぇ……実は最初から、泊まるつもりで準備してきたのですよ」

と、肩から下げたバックを軽くポンポンを叩きながらそう言った。

「あ、あはは……い、家の方にも……友達の所に泊まるって言ってあるし……しし、心配ないんですよ」


「あ、そうなの?そ、それはまた……ご苦労さんでした」

何故かペコリと頭を下げる俺。

一方のいづみチャンも、

「い、いえいえ、とんでもないですよ」

と言いながら頭を下げ、そしてクスクスと、もう一度俺を見て笑うのだった。



不安と期待が入り混じった、ある種の焦燥感にも似た不思議な感情が、未知への恐怖を伴なって俺の心を圧迫していた。

簡潔に言うと、『うへぇ……僕ちゃん初めてでドキドキだけど、失敗したらどうしようかしらん?』と言った所だ。


「うむぅ……よもや今日と言う日を以って大人になる時が来ようとは……想像だにしなかったにゃあ」

俺は自室のベッドの上で、胡座をかきながらそう独りごちた。

現在、いづみチャンは入浴中。

「や、やっぱり……お風呂に入ってからでないとね」

なーんて言ってたが、何がやっぱりなのか、未熟な僕チャンにはちと分からない。


「し、しかし……この待っている時間の何とも長く感じる事よのぅ」

チラリと枕元に置いてある時計に目をやると

「ぬぅ……まだ2分しか経ってない」

カップ麺すらまだゴワゴワしている時間だ。


「ふぅ~……」

しかし、まさか本当に泊まってくとはなぁ……


自分から誘ったものの、彼女の意外にもアッサリとした反応には驚きだった。

てっきり最初は、『イヤーン、洸一君のお馬鹿チン』ってな感じで拒絶されると思っていたのだが……

まさか家を出る時から、僕チャンの家にお泊まり』と決めていたとは。

ひょっとして彼女は、プレイガール(死語)なのではないだろうか?


も、もしそうなら……どうしよう??

別に処女性にこだわるとか言うつもりは無い。

そりゃ、恋人であるからにして、多少は気になるが……問題はそんな瑣末な事ではなく、ズバリ言って『洸一、上手く出来るだろうか?』と言うことに他ならないのだ。

無論、純度100%なチェリーな俺様とて「やり方」は知っている。

脳内で幾度と無くシミュレーションも繰り返した。

がしかし、実戦経験は未だ無い。

若葉マ―クどころか、仮免ですらないのだ。


「ぬぅぅぅぅ……」

この自然と膝が震えてくるような焦り。

本能による欲求と精神的不安がぶつかり合い、心の中が混沌で満たされる。


お、落ちつけ洸一チンッ!!

心の中でそう叱咤するものの、何故か体が小刻みに揺れてしまうのを止められない。

いづみチャンが初めてならまだしも、もし経験済みならば……

俺も男としてのプライドが多少なりともある以上、無様な真似は許されない。

「洸一君……ヘタね」

なーんて真顔で言われたら、俺は謙信ばりに、一生不犯の誓いを立てちゃうかも知れない。

いや、それだけならまだしも

「洸一君……初めてだから仕方ないよ」

なーんて悲しい顔で慰められちまったら……

多分、僕は死ぬ。

頭からビニール袋被って昇天してやるッ!!


し、しかし……マジでどうしよう?

段々と、巨大な不安が心を覆って行く。

下半身の将軍は、将軍ゆえかワガママで俺の言う事を聞いてくれない。

だからいくら俺が『今は待機せよ』と命じても、『将軍、中身が出まーす』と叫びながら出撃しちゃう可能性が大いにあるのだ。


ぬぅ……やはりここは、今から少しコキコキしておく方が良いのだろうか?

発射訓練と言う事で、取り敢えず3連射ぐらいしておけば、いざ鎌倉という状況になっても、ノンビリと事を進められるかも知れない。

無論、疲労の為か途中で棄権してしまう可能性の無きにしも非ずなのだが……


「やはり……ここは少しだけ出しておこう。うん、予防策を講じておかないとな」

俺はそう独りごちると、いそいそとズボンを脱ぎ始めるが、それと同時に

――コンコン……

か弱い小さなノックの音。

俺はもちろん、慌ててズボンを穿き戻したのは言うまでも無かった。

・・・

が、頑張れ、俺。







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