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突撃晩御飯


★第6話目


 「ハフゥ…」

思わず、感嘆の溜息が期せずして漏れてしまった。


「そ、そんなに見つめられると……は、恥ずかしいよぅ」

顔中を朱に染め上げ、俺の視線から逃げるように、くにゃりんと身を翻す彼女。

エプロンの縁のフリフリが、まるで柔らかい陽射のように優しく波打つ。


「い、いやぁ……な、なんか、すっげぇー似合ってるから……」

薄いピンクのエプロンに身を包んだ彼女は、さながら天使のようであった。

言い方を変えれば、コスプレイヤーな感じ。

や、何のコスプレかは分からんが……

兎にも角にも、もう俺様、「勘弁してくれぃ。萌え死にしちゃうよッ!!」と叫びながら、白旗をブルンブルン振り回して降参しちゃいそうだ。


「エ、エヘヘ~……実を言うとですねぇ……このエプロンは、おニューなんですよ♪」


「お、おニューッすか!?」

どうしよう。

俺のパンツも今日はおニューだ。

処女のエプロンと童貞のパンツかぁ……

・・・

あぁ、自分で自分が何を考えているのかもう分からない。


「ホント言うとね、この間……お母さんとお買い物に行って、それで買ったんだ。……洸一クンの御飯、このエプロン着て作りたいなぁって思ったから……」

いづみチャンはそう言うと、コテンと俯き、モジモジと指をくねらせた。


クッ……な、なんて健気でステキで可愛くて……くはッ!?だだだだ、抱きしめたいっ!!

今すぐハグしたいッ!!

彼女の肩を抱き寄せ、「ありがとう」とか何とかヌカしつつ、抱きしめたい。

したいったら、したいっ!!

だがしかし、俺にそんな度胸は無い!!

ぐぬぅぅぅぅぅぅ……こんな時はアレだ。心の選択肢を出でよッ!!


――ドンッ!

①負けちゃおられんので、俺も新品のおパンツを披露する。

②どうしてメイド服じゃないのか尋ねてみる。

③エプロンのエプの部分が個人的に嫌いだ。


かはッ!?肝心の選択肢が出ねぇーーーーっ!?

な、なにかフラグが立ってないのか?

それともラヴゲージが足らないのか?


俺はどうする事も出来ず、いづみチャンと同じように、モジモジと俯きながら何やら左右の指を絡ませるのみ。

時折顔を上げると、彼女と目が合い、テヘヘヘヘ~とお互い微笑を返しながらまた俯く。

もうそれの繰り返し。

なんちゅうか、全日本モジモジ選手権の準決勝第1試合のような有様だった。



トントントンと、小気味良い包丁の音がキッチンから響いていた。

俺はウロウロと、

「な、なにか手伝う事はありゃせんかのぅ、いづみさん」

等とほざきながら、彼女の後ろを行ったり来たりしているが、その都度、

「大丈夫だよぅ。洸一君は、テレビでも見ててよぅ」

と、ニコニコと微笑むのみ。


うぅ~ん……何だか僕、とっても幸せだなぁ……

そして俺は鼻の頭をコリコリと掻きながら居間に戻って行く。

いやはや、これが愛ってやつですかい?

世界中の幸せを一人占めにして良いのかしらん?


等とそんな事を考えながら鼻の下を極限まで伸ばしているが……どうにも落ち着かない。

落ち着かないからソファーから立ち上がり、俺は再びキッチンへ。

そしてまた追い返されると……延々とそんな事を繰り返していた。

そして何度目かのトライの後、彼女も諦めたのか、

「っもう、しょうがないなぁ~」

と苦笑しながら

「それだったら……洸一君、この茄子を炒めてくれる?」

笊に入った大ッッ嫌いな茄子野郎を手渡してくれた。


「おうよ。徹底的に見るも無惨に炒めてやっちゃいますよ」

言いながら俺は、中華鍋に油を引き

「茄子的炒物、イーガー」

と大陸系の人達ばりに呟きながら、慣れた手つきで、お盆になると割り箸を刺される運命の謎の食材を炒めに炒めてやる。


ジュジュ~……

食欲をそそる香ばしい匂いと音。

サッと鍋をフリフリ、炎の料理人(脱税)ばりのテクニックを披露する。


「うわぁ……洸一君、上手だねぇ」

いづみチャンが感嘆の声を漏らした。


「ま、まぁ……一人暮しが長いからなぁ」

ちょっぴり、鼻高々の僕ちん。


「そっかぁ。洸一君、毎日自分でお料理するもんねぇ」

う~と唸りながらいづみチャン。

「わ、私……なんか自信無いなぁ」


「そ、そんな事は無いぞ」

俺は鍋から皿に炒め物を盛り付けながら言う。

「よほど暇な時しか自分で作らないし……大抵は外食とか出来合いの物とか買うし……ま、最近は何故か……」


「……ん?最近、どうしたの?」


「あ、あれ?」

何故か自然に、最近は○○や○○が作ってくれて……

と口から出そうになってしまった。

しかし、誰が作ってくれると言うのだろうか?

お袋だろうか?

いや、お袋は月に一度、俺が生きてるかどうか確かめに来るだけだし……

ぬぅ……全く持ってワケが分からん。

がしかし、何故か妙に違和感の無い台詞が、我ながら不思議だった。



「……美味い」

俺は彼女の手料理を一口食べて、思わず自然に口からそう漏らしてしまった。

「いや……マジで美味かぁ」(九州)

お世辞とかを抜きにして、いづみチャンの料理は絶品だった。

何と言うか……これが愛と言うスパイスの味なのだろうか?

空腹に勝る調味料無し、と人は言うが、ラヴに勝る調味料も無いと思う今日この頃である。


「いやはや、なんちゅうか、ほっぺが腐って落ちそうなほど美味しいよ」


「あぅ゛……それ、誉めてるのかなぁ」

いづみチャンが味噌汁の入ったお椀を片手に、苦笑しながらそう言った。


「も、もちろんだともっ!!」

俺はカックンカックン首を上下させ断言する。

「鉛不足で例え無味覚症状が現れたとしても、いづみチャンの料理だけは、心の底から沸き起こる喜びと相俟って、美食のシンフォニーを形作るんであります。……何言ってるのか分かんねぇーけど」


「そ、そっか。エヘヘ~、嬉しいなぁ♪」

もちろん、俺様も嬉しい。

ステキな彼女とこうして二人っきりで夕食を共に出来るなんて、今まで考えもしなかった事だ。

これが充実した現実リアルと言うヤツかぁ……

しみじみと、幸せを噛み締める俺。

もちろん御飯も噛み締める。

いづみチャンはそんな俺を、ニコニコと見つめ、

「あ、これ……凄く美味しいよ」

そう言って、俺の敵である「茄子」が盛り付けられている皿を、スッと差し出してきた。


「そ、そうかい?いやぁ……作った甲斐があったもんだ」

笑顔を見せつつ、心の中で苦痛に喘ぎながら茄子を口に放り込む。

うむぅ……このフニャフニャ感が、たまんねぇーーーっス(号泣


「うん、美味しいね。やっぱり洸一クンって、料理が上手だよぅ」


「そ、そんな事は無いと思うが……第一、俺なんかより……」

そこまで言い掛けて、何故か再び不意に思考が止まってしまった。


はて?俺は一体、何を言い掛けたのだろう?

何かこう、ポッと出る名前が合った筈だ。

それは何となく分かる。

もはや口癖のように言っていた名前。

料理が上手くて……俺の為に作ってくれて……俺はそれを食べて……時々強引に食わされて……

って、そんな事は一度も無かったよな?

過去の記憶を検索しても、お袋以外に料理を作ってくれたのは、いづみチャンが初めてだ。

そんな事は有り得る筈がない。

がしかし……この胸に去来するモヤモヤ感はなんだろう?

何かが喉の奥に引っ掛かって、それが出て来ないもどかしさを強く感じる。

こ、これはもしかして……

やはり、嫌いな茄子を食べた報いなのだろうか?

仮にそうだとしたら……茄子めッ!!許さないぞッ!!







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