フラッシュバック
★第5話目
「どうしたの洸一君?」
いづみチャンの可愛い声に、ハッと我に返ると、彼女はニコニコと微笑みながら俺の顔を覗き込んでいた。
「なんか、ボォーっとしたりニヤニヤ笑ったり……変なの♪」
「いやはや……ちょいと思い出してたもんでな」
「ん、何を?」
街灯の明かりを頬に反射させ、いづみチャンがコテンと首を傾げ尋ねてくる。
「い、いやぁ……その……俺が告白した時の事を……な」
「あ、そうなんだぁ♪」
いづみチャンは笑いながら、
「あの時はビックリしたなぁ……洸一君、いきなりなんだモン」
そう言って、いつもの悪戯ッ気な表情で、俺の顔をウシシシと眺めてきた。
「ふ……俺様は意外性のある男じゃからのぅ」
「でもその割には、心配でドキドキしてたくせに……」
「あぅ゛……そ、そんな事はないぞ。俺はいつでも偉大な富士のお山のように、デンと構えている男だぞよ」
「そっかなぁ?だって私が電話した時……洸一君、なんか泣いなかった?」
ン~と目を細め、いづみチャンはペチペチと俺の頬を軽く叩いてくる。
「受話器の向こうから、『おーいおいおい……涙で雲って何も見えないよぅ』って聞こえたんですけど……」
「ぐ……あ、あれは……ちょいと感極まっただけだい」
ぬぅ……そんなにお茶目さんだったのか、俺は。
「で、でもまぁ、その……正直な所、OKしてくれるとは……あまり思わなかったからな」
「そ、そっか…」
いづみチャンは優しげな瞳でそう呟くと、おずおずと俺の腕に自分の腕を絡め、
「あ、あのね。そのね、白状すると……ひ、一目惚れだったんだよ」
と囁くような小さな声でそう言った。
「そ、そっか。そう言われると……俺の方も、一目惚れだったのかもな」
「な、何かさぁ……不思議な出会いって感じだよね。最近は、特にそう思うんだ」
「……そうだな。俺といづみチャンの出会いは、ある意味、多嶋がキューピッドだったワケなんじゃが……何故か感謝が出来んな」
俺は軽く苦笑を溢すと、ふと思い出したかのように
「あ、そう言えば……例の御子柴って野郎に、一度会ってちゃんと言ってやらないとなぁ」
そう言いながら、彼女の顔を見つめた。
「う、うん。私も……彼氏だよ、って堂々と宣言できるモンね♪」
「おうよ。宣言でも宣戦布告でも何でもしてやるが良いわさ」
俺はガハハハと一笑いし、
「よし。んじゃまぁ、早速明日にでも、いづみチャン家の周りをブラブラして、彼奴を見つけだしてやるかな」
と、呟くようにそう言った。
「そ、それ……本当?」
いづみチャンがググッと俺に近付く。
「ちゃんと言ってくれる?」
「持ちのロンだ。僕チャンの可愛い可愛い彼女ですけん、あまり近付かないでつかぁさい、と広島チックに言っちゃうぞ」
「でも……話した思うけど、御子柴……倣岸でプライドも高くて、それに強いよ?」
どこか難しい顔付きで、いづみチャンは俺の顔をジッと見つめる。
その瞳には、少し心配の色が漂っていた。
ぬ、ぬぅ……
彼女の話によると、彼奴はTEPと言う新興格闘技団体が主催する総合格闘技全国大会の高校生チャンピオンであり、近隣の不良やヤクーザな人達も一目置く、パワフルマッチョな男らしい。
だがこの俺様とて、帰宅部不動の4番打者としての意地がある。
寄り道帝王の異名を奉られる僕チャンにとって、総合格闘技なぞは恐るるに足らず。
何故なら、知らないからだ。
それに、いづみチャンの前で、あまり情け無い真似は出来よう筈が無い。
「ハハ、心配すんなって」
俺はポフンポフンと、彼女の頭を軽く叩いてやる。
「別に喧嘩するわけじゃないんだし……」
ま、いざとなれば、愛の力で勝ってやるのだ。
「で、でも……洸一君、直ぐに人を怒らせるような言動が偶にあるからなぁ……」
「むぅ……最近は洒落の通じない、心の狭いヤツが多いからのぅ」
「私……ちょっと心配だよぅ」
ウ~と唸りながら、いづみチャン。
「最悪、怪我とかしないでね」
「……どーゆー状況でそうなるかは謎なんだが……大丈夫だって」
俺は笑いながら、スッと小指を差し出し
「だったら、約束しよう。絶対に、怪我なんかしないってな」
と、心配顔のいづみチャンにそう言った。
「う、うん……」
彼女は照れながら、小指を絡めてきた。
なんちゅうか、歩道のど真ん中でバカップル健在であります上官殿、ってな状況ではあるが……
まぁ、嬉しいから良しとしよう。
「そ、それじゃあ洸一君。その……約束だよ」
テヘッと笑い、いづみチャンがキュッと指に力を入れる。
「あ、あぁ。約束じゃけんのぅ」
俺は微笑みながら、呟くようにそう言った瞬間、
『約束よ。ちゃんと私とリステインを守りなさないよ』
―――ッ!?
『お、おぅ』
『いいこと、私とリステインの世話をちゃんとするの』
『ま、まぁ、それぐらいは……』
『私とリステインを愉しませるの』
『愉しませるって……』
『ちゃんと心から尽くしなさいよ。それこそ下僕のように。分かった』
『……貴様、何様のつもりだ?』
『なによぅ。守るって言ったじゃないの。洸一の癖に生意気よ』
―――ッ!!
『ふん、あの女の姦計に嵌り、魔力を使い切ってしまうとは……私もまだまだだな。神代洸一。プルーデンスを頼むぞ』
『や、頼むぞって……』
『ふ……短い間だったが、中々に楽しかったぞ。蘇ったら、また色々と話を聞かせてくれ』
―――ッ!!!
な、なんだ?何が……何なんだ???
★
「ど、どうしたの洸一クン?」
いづみチャンが訝しげな表情で、俺を見つめていた。
「あ、いや……」
俺は頭をフルフルと振り、つい今しがた目撃した、やけにリアルで鮮明なビジョンを記憶から追い出す。
な、なんだったんだ……あれは?
青味掛かった銀髪の少女と、赤味掛かった金髪の少女が、何か俺に頼みごとを……約束を……
「や、何か白昼夢的なモノを。うぅ~ん……ま、デジャヴというヤツかねぇ。……違うかもしれんが」
俺はポリポリと頭を掻きながら、彼女に笑って見せた。
「な、なんかさぁ……いづみチャンとの指切りで、変な光景を見ちゃったよ」
「変な光景?」
「……記憶には無いんだが……ま、気にする事はないやね」
特に見知らぬ女の子、しかも超美人と一緒にいた、と言う事は伏せて置いた方が良いだろう。
危険な橋は渡らない。それが俺の生き様なのだ。
「さて、早い所行かないとな。本日の特売品が売り切れちゃうかもしれないぞ」
俺は話題を変えるようにそう言うと、
「う、うん。そうだね」
いづみチャンもエヘヘ~と頷き、ちょっとだけ足早に向かう。
しかし……さっき見た光景は一体……
実に鮮明なビジョンだったが……全く心当たりが無い。
うぅ~む、世の中、不思議が一杯だなぁ。
★
ご近所にあるス―パー「佐野吉」は、夕食時が近いせいもあってか、程よく混雑していた。
俺は買い物篭を手に取り、オープンケースに陳列されている食材をいづみチャンと二人、眺めながらてふてふと歩いていた。
なんだか、ホンマに新婚さんな感じじゃのぅ……
チラリと、隣を歩く可愛い彼女を見やり、何だかホンワカとした気分になる。
そう言えば、いづみチャンは何やら大きなバッグをぶら下げて家に来た。
聞くと、エプロンやら何やらを持参してきたとの事だったが……
ぬぅ……エプロンである。
若奥様御用達の、エプロンなのである。
・・・
や、使うのは若奥様だけじゃないけど、似合うのは若奥様だ。
新妻だ。
これは間違いない。
断言できる。
ちなみに割烹着が似合うのは、お婆ちゃんだ。
これも断言できる。
しかし、いづみチャンのエプロン姿かぁ……
考えるだけで何故か体の血液が、下方に一点集中してくるから不思議だ。
もしかして俺は、そう言ったフェチ的な性癖があるのだろうか?
いやいやいや、しかしそれが普通、一般的男子高校生の妄想ってもんだろ?
トントントンと包丁の音を響かせ、キッチンに立ついづみチャンの後ろ姿を想像するだけで、何だか俺、自分がとっても腕白な感じがしてくる(謎
思わず背後からキュッと抱きしめちゃいそうな……
そんでもってそんでもって、更にあーんな事や、こーんな事なぞ……
うぉう……ど、どうしよう?俺、背徳な男になっちゃうよ?
そんな己の妄想力を滾らせ、鼻の穴を全開気味にフガフガと一人悶絶していると、
「こ、洸一クン?どうしたの??」
いづみチャンが驚いたように、目を大きく開き、マジマジと俺を見つめてきた。
「な、なんか……凄く目が血走っているけど……ゴミでも入ったの?」
「あ、いや……これはそのぅ……あ、これだっ!!」
俺は慌てて、目の前に陳列してあった大きく黒光りしている茄子を手に取り、
「いやはや、実は俺様、茄子が好物なんですよぅ……目が血走るほどにッ!!」
と誤魔化した。
まさか己が、スーパーの中で悶々としていたなぞとは口が裂けても言えない。
それではまるで、ストアーファッカー(謎)ではないか。
「え?でも……洸一君って、茄子嫌いじゃなかったっけ?」
小首を傾げるいづみチャン。
「前に一緒にお食事したとき、『茄子なんぞ絶対に食わんぞ。俺はコオロギかッ!!ちゅうねん』って吼えてた筈だけど……」
「ふっ……あれから好きになったのさ」
俺はそう言って、大ッ嫌いな茄子を二つだけ手に取り籠に放り込んだ。
だいたい、茄子のこの淫靡な色が嫌だ。
紫なんて……アメフラシの仲間かッ!!ちゅうねん。
「取り敢えずは茄子の炒め物を作るとして……後は何にしようか?」
「う~ん……洸一君は、何が食べたいの?」
顎に指を掛け、彼女がそう尋ねてくる。
「そ、そうだなぁ……簡潔に言って、肉と魚が食べたい」
野菜は茄子だけで充分である。
「あぅ……か、簡単過ぎだよぅ。もっと具体的に……」
「……子羊のロース肉のアプリコットソース掛けと、銀鱈の柚香焼きが食べたい」
「こ、洸一君。真面目に考えてよぅ」
プゥ~と頬を膨らまし、少しだけ眉毛を吊り上げながら俺を睨むいづみチャン。
ちょっと怒った顔も、実にプリチーだ。
「わ、悪かった。その……いづみチャンの手料理なら、正直、何でも良いんだよ。何でも食べれちゃうんだよ、俺は」
言いながら、そっと彼女の肩に手を回すと、
「っもう……口だけは上手いんだからなぁ」
頬を染め、いづみチャンは照れリンとしながらボフボフと俺の胸を小突いてきた。
何だか知らんが、俺様、実に幸せであーる(バカでもある)。