表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

選択


★第24話目


 朝、師匠の呼び声で目が覚めた。

「こりゃ神代クン。いつまで寝ておるんじゃ。もうとっくに朝だぞ」


「……」

何だか、あまり嬉しくない目覚めだった。


11月29日(水)


「お、おはよう御座います。師匠」

寝惚け眼を擦りながらベッドから起き上がると、ヤレヤレと言った表情の師匠が部屋の隅で立っていた。


「どうじゃね神代クン。良い夢は……見れたかね?」


「夢……ですか?」

楽しい……夢を見ていた。

だけど、楽しいけど、切なくて悲しい夢だった。

いづみチャンが出て来る夢。

彼女とずっと一緒に、笑顔で暮らしている夢。

昨日、師匠の言った言葉を思い出していた。

いづみチャンは俺にとって、運命によって定められた彼女。

何となくだが、その事が良く分かる。

彼女ほど、俺と馬の合う女の子はいないと思う。

生まれた時から、俺と結ばれると決まっていた女の子。

だけど俺は今、その運命に逆らおうとしているのだ。


「ふむ……その顔から察するに、いづみチャンの夢でも見ていたかね?」

師匠は相変わらず鋭かった。

「しかしまぁ……今更悩んでいたって、詮無き事じゃよ。思い出してしまった以上、まどかちゃん達の事を放って置くことはできんじゃろうて。神代君の性格では特にな」


「ま、まぁ……そうなんですがね」


「そんな事より神代クン。早く着替えて、メシにしようではないか。ワシは腹が減っておるのでな」



駅前にある喫茶店『みずいろ』で、俺は師匠と共に少し遅めのモーニングを摂っていた。

ちなみに黒兵衛はお留守番だ。

猫はお店に入れないからね。


「……師匠。実は俺、気になっている事が二つあるんですが……」

俺はカフェオレを啜りながら、正面に座ってフムフムとスポーツ紙を読んでいる、何だかどこぞのオッサンみたいな師匠に向かって、おずおずと口を開いた。


「ん?何かね、神代クン?」

見ると師匠は、夜のプレイスポットと言う記事を熱心に読んでいるようだった。

何だか分からないけど……さすが師匠。

目の付け所が相変わらずシャープだ。


「あ、あのですねぇ……そもそも師匠って、一体何者なんです?」


「秘密じゃよ」

即答だった。

「ワシの正体は、自ずと分かる時が来るじゃろうて。それよりも神代クン、駅前風俗の理奈ちゃんは、バスト108のホルスタインじゃと、この記事には書いてあるが……どうなんじゃろうて?」


「や、どうなんだと聞かれましても……」

どう答えれば良いんだ?

「と、ともかく俺は、師匠のことが知りたいんです。魔界の事やリステイン達の事も知ってるし……まどか達が消えて、前の世界の事は記憶が無い筈なのに、全て憶えているし……あまつさえいづみチャンの事も知っているなんて……」


「う~む、それよりもワシは、この理奈ちゃんの事が知りたいぞ。バスト108と言うのは本当なのか嘘なのか……はたまた豊胸手術でも受けたのか、よもや放射能でも浴びてしまったとか……うむ、実に謎じゃな」


「し、師匠……」


「神代クン」

新聞を折畳みながら、師匠が真面目な顔で俺を見つめる。

「申し訳ないが、今ここでワシの正体を教える事は出来んのじゃよ」


「何故です?」


「……ワシもまた、特殊な因果を持つ者でな。この次元世界においては不安定な存在なのじゃ」

そう言って、師匠は珈琲を一啜り。

「こうして神代君と話していると言うだけで、実は結構な綱渡りなんじゃよ」


「そ、そうなんですか?」


「そりゃそうだろう。本来なら、君は何一つ思い出す事無く、この世界でごく平凡な一生を送る予定だった。それが今、全てを思い出した。それだけで、普通の生活、と言う因果律が崩壊しかけておる」


「ぬぅ……」


「だから出来るだけ、無用なアクションは起こさないようにしているのじゃよ」


「……でも、師匠が謎解きを持ち掛けてきたような……」


「神代君が独りで考えて行動すると、物凄く余計な事をしでかしそうじゃったんでな」


「……」


「なに、ワシの正体は何れ、時が満ちたら明らかになるじゃろうて」


「わ、分かりました。それと、もう一つ聞きたい事があるんですが……」

そう言い掛けた俺を、師匠は軽く手で遮りながら、

「ここじゃ何だし……どれ、ブラブラと公園でも散歩しようかのぅ」

と言った。

もちろん俺は頷き、黙って席を立つ。

師匠の謎も聞きたかったが、実はそれよりも重要な事がある。

そう……

俺はまどか達を無事にこの世界に戻したい。

でも、そうしたら俺といづみチャンはどうなるのか……

それが物凄く、気になるのだ。



公園のベンチに腰掛け、俺と師匠はボォーとしていた。

時刻は……もうすぐお昼って所だ。


いつもだったら、学校でのほほ~んとしている時間なんだよなぁ……

そんな事を考えていると、不意に師匠が口を開いた。

「さて神代クン。話と言うのは……いづみチャンの事かね?」


「……」

俺はは無言で頷いた。


「ふむ…」

どこか遠くを見つめながら、師匠は軽く頷いた。

「はっきり言って……それは分からんのじゃよ」


「分からない……ですか?」


「うむ。まどかゃん達をこの次元に戻すと言う事は……限りなく未来を不安定にさせると言う事じゃ。何しろ本来、交わる事の無い因果が重なり合うのじゃからな。時の流れがどう転ぶか……全く以って予想がつかん」


「そ、そうですか…」

う~む……俺の希望では、いづみチャンとこのままで且つ、まどか達ともラブでメロウな関係を築きたいと願っていたのだが……やはりそれは、ちと欲張りな願いなのだろうか?


「うむ。造物主をも怖れぬ大胆な夢じゃな」


――しまった!?声に出していたようだ。


「しかし……神代クンの希望通りになるかも知れんぞ?」


「そ、そうなんですかっ!?」


「未来は予測不能と言ったじゃろう?可能性は低いが、そのような未来へと続く道も選択されるかも知れん。じゃが……」


「……」


「逆に言えば、限りなく悪夢の如き未来になると言う場合も有り得るかもしれん、と言う事じゃ」


「ぐ、具体的には?」


「……例えば、今度は君がこの世界から消えるかも知れないし、またはいづみチャンが消えるかも知れない。因果の流れと言うのは、定められし運命すら簡単に変えることも出来る。時の流れに翻弄される人の身では、決して抗えんよ」


「……」

いづみチャンが……消える?

そんなバカなッ!!

大声を上げて抗議したい気持ちだった。

だけど悔しいかな、それは出来ない。

誰に言って良いか分からないし……

何より心の中で、そう言う未来もあるかも知れない……と、考えていたからだ。


「さて……どうするかね、神代君ン?」

不意に師匠が尋ねてきた。

その横顔は、何故か少し寂しげな感じだ。

「前にも言ったじゃろ?君は選択しなければならないと。そしてこれが最後の選択じゃ。このままこの世界で平和に暮らすか、まどかチャン達を探しに行くか。残るのなら、記憶ぐらいはもう一度消しても良いぞ」


「か、可能性は……どのくらいあるんですか?」


「可能性?何のじゃな?」


「その……俺といづみチャンと……まどかとのどか先輩と真咲姐さんに優ちゃんや美佳心チン達と仲良く暮らせる未来の可能性ですよ」


「……気のせいかも知れんが、君の大切な幼馴染が入ってないんじゃが……う~む……」


「ど、どうなんです?」


「……0.000001パーセントぐらいかのぅ」


「ぬぅ…」

北方領土が無償で還って来るぐらいの確率だ。

しかし……

少しでも可能性がある以上、賭けてみるのが男じゃなかろうか?


「ちなみに言っておくが神代クン。いづみチャンと……穂波チャンと智香ちゃんの三人で仲良く暮らすと言う場合、その可能性は2パーセントぐらいあるぞ?」


「ふ、増えてる……」

なんちゅうか、探すの止めようかなぁ。


「さて、どうするかね?」


「す、少しだけ……考えても良いですか?」


「……次元世界が不安定だ。あまり時間は無いが……もし、探索の旅に出ると決心したなら……今夜21時、あの神社へ来るが良かろうて。ワシの方から、色々と手配しておこう」


「……師匠は付いて来てくれないんですか?」


「当たり前じゃろ?ワシはこの世界でやる事もあるし……何より、神代君と共に行動すると言うのは、かなり因果律を刺激するのでな。ワシのサポートは、ここまでが限界じゃよ」










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ