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かの地の思い出


★第21話目


「ほぅ……久しいな、人の子よ。そなたに会うのはこれで2度目じゃったな」

そう言って彼女は、優雅な手つきで髪をサッと掻き上げ笑った。

「さて、そこな魔族。なにゆえこの男の命を狙うか……聞かせてたもれ」


「…くっ……」

美人の姉ちゃんの静かな恫喝に、手がウニョウニョと生えている見た目が可哀相な男は、シオシオシオ~と借りてきた猫のように大人しくなっていた。


……ってゆーか、魔族ってなに?


「どうした、名も無き下級魔族よ?わらわの言葉が聞けぬのかえ?」


「お、恐るべき魔神よ。我は……魔姫アリアンロッド様に仕えし者。いかに貴方様とて……盟主プロセルピナ様と事を構えるのは如何なものかと……」

そう言って下卑た笑いを浮かべる彼奴。


「ほぅ…」

恐るべき魔神と呼ばれた姉ちゃんの、綺麗に整えられた柳眉がピクンと跳ね上がった。


……ってゆーか、魔神って何だ?超厨二ワードなんですが……ともかく、おっかねぇよぅ……


「……下級魔族の分際で我を脅すきかえ?」

唇の端を歪めながら、その女性が一歩を踏み出す。

――それと同時だった。

ウニョウニョと軟体動物の如き全方向に動く腕を持つ非人類な彼奴は、ニヤリと笑うと同時に、その何だかエッチな美少女アニメに出てきそうな触手のような腕を振り上げ、いきなりな攻撃。

ヒュッヒュッと空気を切り裂きながら姉ちゃんに向かって……いや、俺だッ!?


「せめて貴様だけはッ!!」


「ひぇッ!?」

えーーーーーッ!!マジっスか!?

この流れで、俺ッスすか!?

慌てて逃げようにも、既に腰から下が制御不可能。

あまつさえ何だか将軍が泣き出し、パンツ方面がメルトダウン。

実にまぁ、情け無い。


ち、ちくしょーーーーーッ!!

こんな事ならいづみチャン以外にも、まどか達とも懇ろになっておくんだったーーーッ!!

あぁ……悔いの残る一生だったなぁ……

・・・

・・


「……って、あれ?」

またもや、いつまで経っても攻撃は来なかった。

その代り「ぐ…ぐぐ……」と、何だか苦痛に喘ぐ声が聞こえる。

「……?」

恐る恐る目を開けてみると、彼奴と俺の間に一人の男性が立っていた。

戦国時代の甲冑に身を包み、その顔には面頬が装着されている。

中々に気合の入ったコスプレだ。


「……ふむ、ようやくにこの次元世界を突き止めたか。概ね、予想通りの時間だったな」

謎の鎧武者の男はそう呟くと、何故かジッと俺を見つめ、

「……うむ」

と頷いた。


え?なんでしょうか?もしかして、俺の知り合いか?


「ほぅ……久しいな、武者殿」

俺の横に佇んでいた美人の姉ちゃんが、戦国マニアらしいおっさんに向かってそう口を開いた。

どうやら知己の間柄らしい。


「御主がこの場にいると言う事は……妾の知らぬ間に、何やら事が進んでいると見たが?」


「詳しい話は後だ、グライアイよ」


……グライアイ?

謎の鎧武者氏が言ったその名に、何故だか妙に心が騒ぐ。

脳の奥底に響く名前……

俺は……知ってイル……

コノオンナノナヲ……シッテイルゾ……


「ふむ……そうじゃな。先ずはこの魔族を処分するとしようかえ」


「わ、我はアリアンロッド様より遣わされた者だぞ。我に手を出せば……いくら妹御の貴方様とて、盟主プロセルピナ様が……」

目に見えて狼狽する彼奴。

触手の様な腕も、わたわたとしている。


だが、グライアイと呼ばれた美人の姉ちゃんは鼻で笑いながら、

「それがどうした?姉上とは何れ決着をつけようと思っていたところじゃ。安心して消えるが良い、下級魔族よ」

そう言った瞬間、彼女の漆黒の髪が白銀に輝くと同時に、哀れ下級魔族とやらは『ゴオォォォ』と、何だか夢に出てきそうな断末魔の声を上げながら、乾燥した紙粘土の如く、その身がボロボロと朽ち果て、そして跡形も無く消えてしまった。

もちろんの事ながら、俺様の将軍はその光景を見て、もう一度泣いたのは言うまでも無い。

うむ、何だか良く分からんが……取り敢えずお家に帰って、パンツを替えなければな!!



「……ふむ。コンダネのオーラか。下級魔族とは言え、一瞬で消滅させるとは……以前に比べ、随分と魔力が上がったようだな」

鎧武者のおっさんは、グライアイと言う名の魔神(?)の姉ちゃんに向かってそう口を開いた。

「しかし良いのか?アリアンロッドはともかく、現段階でプロセルピナを敵に回すのは、中々に厳しいぞ」


「……ふ、既に敵対しておるわえ」

グライアイはそう言ってクククと笑い、

「それより、御主が妾を召喚した……それもこの人の子の住まう次元に……その理由を聞きたいのぅ」

と、チラリと俺に意味深な視線を送りながら、彼女はおっさんにそう尋ねた。


「……理由か。ふ……百聞は一見に如かずだ。感覚を研ぎ澄ませ、この世界を見てみるが良い」


「……ふむ」

グライアイは軽く頷くと、目を閉じてゆっくりと両手を広げた。

気のせいか、彼女の体の周りが少しだけ明るくなったような気がする。

「……む?」


「どうだ、グライアイ?」


「ば、馬鹿な。番人の気配……プルーデンスもリステインも……気配が一つも感じられぬ……」


プルーデンス?リステイン?

彼女が発したその言葉に、俺の心は妙に騒いだ。

何だか……とても懐かしい名前を聞いた気がする。

「……」

って、名前?

プルーデンスもリステインも……名前なのか?

初めて聞く単語なのに、どうして俺は直ぐに名前だと……

脳の奥がチリチリと痛む。

プルーデンス……

リステイン……

確か……女の子の名前だ。

だが、どうして俺は知ってる?

どうして……


「ど、どう言う事じゃ人の子よ?」


グライアイの震える声が聞こえる。

しかし、今の俺はそれどころではない。

頭の奥にかかった靄のようなものが、少しづつ晴れていくような感じがしている。


プルーデンス……

リステイン……

女の子……

俺を助けてくれた女の子……

とても大切な女の子……

俺を助ける為に魔力を使い切った女の子……

俺にとって初めてキスした女の子……

約束……

守ると誓った約束……


「ふむ……有り得ぬ事じゃが、よもや再び転生したのかえ?」

「いや、それは違うなグライアイ。彼女達は転生などしておらぬし、死んでもおらぬ。いや、次元世界の移動であるから、ある意味、転生と言っても良いのかな」

「ならば今一つ尋ねるが……先程の魔族は、何ゆえこの地に?よもや悟られたのかえ?」

「その通りだ。探知の末にこの次元世界を見つけ出し、刺客を送り込んで来た。狙いは、言わずもがなだ」

「むぅ……ならば彼女達がおらぬのは幸いじゃったな。しかしどのように……察知して別次元へ逃げたと言うわけでもあるまいに」

「……詳しい話は、神代洸一が全てを思い出してから話そう」


「……」

俺は頭を抱え、必死になって記憶の糸を手繰り寄せていた。

額には、いつしか玉のような汗が浮かんでいる。


もう少し……

もう少しで何かが思い出せそうな気がする……

オレハシッテイル……

そう、プルーデンス、リステインと言う名に、確かに心覚えがある……

プルーデンス……

彼女は……立っていた。

いきなり下着姿で……

リステイン……

俺の命を助ける為に回復魔法を……

無数の敵……

戦い……

そして俺は……


「全てを思い出してから?」

不意にグライアイの声が耳に響いてきた。

「ふむ……やはり因果の消失による影響かえ?人の子はあの冒険の全てを忘れておるのか?」


――冒険ッ!?

パァーンと乾いた音が脳に響き渡った。


――『うへぇ……もう苔とか虫は喰いたくないなぁ……』

……

……

――『ふ……短い間だったが、中々に楽しかったぞ。蘇ったら、また色々と話を聞かせてくれ』

……リステイン……

……

――『なによぅ。守るって言ったじゃないの。洸一の癖に生意気よ』

……プルーデンス……

……

――『ん?なんじゃ?と言うか、さん付けで呼ぶな。妾はこれでも魔神じゃぞえ。様を付けぬか』

……グライアイ……

……

今、全てを思い出した。

靄に包まれた記憶が、音も立てずに透き通っていく。

リステインにプルーデンス……

ワケも分からず、魔女様によって魔界に送り込まれた俺を助けてくれた女の子……

命を賭して俺の命を救ってくれた二人の女の子……

人間界に転生した彼女達を探し出し、ちゃんと守るって約束したんだ。

なのに何故、今までどうして忘れたんだ?

一番……一番大事な約束なのに……


「……思い出したか」

と、謎の鎧武者氏。

そうだ、このコスプレチックなおっさんは、確かあの時も俺を助けてくれて……

え?あれ?

ん?んん?そうだ、俺はあの時、のどかさんに呼ばれて……

それは確か9月で……

あ、あっれぇぇぇ?

まどか達の記憶は7月で途切れているのに……


「一時的な記憶の混乱だ。落ち着け」

そう言って謎の鎧武者は、俺の額に軽く指先を当てた。

その瞬間……俺の意識は深い闇の中へと落ちたのだった。








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