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ボクの夏休み/THE企業展


★第15話目


7月23日(土)


今日から夏休み。

待望の夏休み。

嬉し恥ずかし夏休み(意味不明)。

せめて夏休みの初日ぐらい、のんびりダラダラ過ごそうかなぁ……と言うか過ごしたいのが人情なのではあるが……


「うぅ~む……今日も暑いですなッ」

俺は自分の街から電車で3駅の所にある、箱物行政の象徴でもある公営の大型多目的ホールに来ていた。

お供はまどかにのどかさん、それにラピスとセレスの4人。

夏休み早々、早速に僕ちゃんは妙なイベントに巻き込まれていたのだ。



ま、何事も起こらなきゃ良いけど……ってゆーか、起きるな。後生だから。

俺はそんな事を念じながら、ホールに向かって歩き出す。

施設の入り口には、『第8回・産業用ロボット/家庭用サポートロボ展示会』と大きく書かれた看板が掲げられていた。

そう……本日僕ちゃん、年一回行われるメイドロボショーとも言うべき催し物に来ていたのだ。

各メーカーの新機種やらが多数出展される、国内外でも有名な展示会。

本来、この手のショーは企業及びマスコミ向けで、一般入場はかなり制限されているのだが……

そこはそれ、この神代洸一様は色んな意味で特別なのだ。

だからVIP用である金色の特別御招待券を持っての入場なのだ。

ま、これはのどかさんに貰ったチケットなんだがね。


「ほほぅ……これはまた、中々に」

ホール内に入り、俺は感嘆の声を上げた。

各メーカーのブースには、最新機種の産業用ロボから一般家庭用メイドロボまでが、視覚的効果等を考えて整然と配置されており、それを何故か水着姿の綺麗なコンパニオンの姉ちゃんやらが、バイヤー向けに色々と説明していたりする。

ショーはショーでも、薄幸そうな顔をした横比率の高い大きなお友達がブヒブヒ言いながら並んでいるゲームショーとは、全然に趣が違う。


さて……

俺はパンフレット片手に、各企業の新製品を眺めて回る事にした。

「先ずは名門、四ツ目菱重工業の新製品か」


「_四ツ目菱ですか?」

と、セレス。

「_四ツ目菱は日本の軍需産業に食い込んでいますから……汎用型より、やはり軍事関係に特化したロボットが多いようですね」


「確かにな」

四ツ目菱のブースには、メイドロボと言うより大量殺戮兵器と言う感じの、厳つい人型マシーンが並んでいた。

腕にバルカンを装備している奴や、肩にキャノンを載せているタイプの物もある。

もちろんそれだけじゃなく、人が乗り込めるタイプの中型戦闘用ロボットも展示されていた。

何だか良く分からんが、これで日本も安全だ、と俺は思った。


「お次は中嶋製作所のブースか……」

そこには開発中のメイドロボ、『キ-84』と書かれた汎用人型ロボが展示されていた。

メイド……と書いてあるが、どう見ても男性タイプだ。

説明を見ると、何でも時速640キロぐらいで飛べるらしい。

・・・

飛んでどーするんだ?


「しっかしまぁ……色々と、用途に特化したメイドロボが増えましたねぇ」

俺が呟くと、隣を歩いているまどかは軽く頷きながら、

「ま、従来の汎用タイプは、普通の企業か一般家庭にしか使えないからね。警察や消防、それに医療施設や介護施設には、専用のメイドロボが必要って事なのよ」


「確かにな。セレスやラピスが介護施設に派遣されたら……勝手に心が愉快な患者にロボトミー手術とか施すかも知れんしな」

それに警視庁に正式採用されたら、裁判の数はグッと減るだろうね。

何しろ、容疑者は殆ど生きていないと思うから……

「しかし、なんですなぁ……各メーカーはこぞって新型を展示してあるけど、これだけ種類があるのに、まだあまり街では見掛けないんだよなぁ。普通にメイドロボが闊歩している近未来SF的な光景は、まだまだ先かな」


「業界自体がまだ小さいからね。殆どが受注生産で、一般向けの販売は少ないし……」

まどかは軽く肩を竦める。

「それに、やっぱまだ高いわよ。殆ど何も出来ない旧型のメイドロボだって1千万以上するのに……本格的に普及するのは、安価な量産機が出来てからじゃない?」


「そっかぁ」

俺はフムフムと頷く。

と、他所メーカーの新型メイドロボに、セレスと一緒にペッと唾を吐き掛けていたラピスが、

「そうでしゅッ!!まどかしゃん、良い事を言いましたんでしゅッ!!」

いきなり叫んだ。

「手軽に買える量産機……しょれこそが、ラピスの基本コンセプトなんでしゅッ!!」


「あ~……そう言えば、そうだったな」


「ラピス量産の暁には、連邦など一捻りなんでしゅッ!!メイドロボ業界万歳なんでしゅッ!!」


「さっぱり分からんが……そっかぁ……ラピスタイプの量産機が普及すれば、業界は活性化するかもな」

逆に業界自体が崩壊するかも知れんが。

それでもまぁ、それもまだまだ先の話だろうね。


「さて、お次は喜連川のブースか。どんな製品が並んでいるんじゃろうなぁ」

そんな事を呟きながら、何気に後ろを見やると、のどかさんが不安……と言うか、どこか深刻な顔をして佇んでいた。

何か未知の怪奇現象が目の前で起ころうとも、いつも平然とのほほ~んとしている彼女にしては珍しい表情だ。

「どうかしたんですか、先輩?」


「……いえ、特には。……ただ……」


「ただ?」


「何か……良くない事が起こりそうな、そんな気配を感じるんです」


「良くない気配……」

その言葉に、俺は慎重に辺りを見渡すと……セレスとラピスが、他メーカーのブースにいるコンパニオンの姉ちゃんに食って掛かっていた。

何やらイチャモンを付けているようだ。

一体、何をしているのやら……あ、警備員が駆け寄って来たぞよ。

「確かに、良くない事が起こりそうな感じですねぇ。セレスのヤツ、いきなり戦闘態勢を取ってるし」


「……ちょっと違います、洸一さん」


「へ?」


「この感じ……何か巨大な力を感じます」

両の手にギュッと力を込めて彼女がそう言った。

「魔の気配でも神の気配でも無い、もっと大きな力……」


「は、はぁ…」

う~む、僕チャンは何も感じないが……のどかさんがそう言うのなら、何かあるのだろう。


「最悪、この世界の全てを塗り変えるような……途方も無い力を感じます」


「……」

いきなり何を言い出した、この魔女は?


「……どうしましょう、洸一さん?」


「いや、どうしましょうと言われても……気のせいじゃないっすか?」


「このままでは、全てが消えてしまうかも」


「いきなり、そんなおっそろしい事を言われましても……」


「取り敢えず、洸一さんにはこれを」

言って彼女は鞄をゴソゴソと漁り、いつも手にしているお気に入りの魔導書とはちょいと違う、分厚い本を取り出した。

表紙には見た事の無い文字と、クレヨンか何かで大きく『きつれがわのどか・だい4のよげん』と拙く書かれている。

なんちゅうか、台無し感が半端ではない。


「これは……」

ズッシリと重量感のある本を受け取りながら俺は首を傾げた。。


「幼少の頃、先生から貰った不変の書と呼ばれる魔導書です。大きな魔力を感じるのですが、かなり難しくて……今でも少ししか解読できていないのです」


「先生……って、師匠のことっスか?」

師匠とは、喜連川の主治医を務める、謎多きオッチャンの事だ。

いつも怪我をした俺(主にまどかに殴られて)を治してくれる気さくな人だ。

様々なことに造詣が深く、諸々の雑学や歴史、文学、更には心霊や魔術といった超常現象の類まで何でも御座れと言った感じ。

特に漫画やゲーム、アニメ等は、気合の入ったヲタクばりに詳しい。

聞けばのどかさんに魔法の基礎を教えたのも彼だそうで……

俺は敬意を込めて、師匠と呼んでいるのだ。

……

時々、エッチな動画とかくれるし。


「実は出掛けに、先生がこの本を洸一さんに貸しておくと良いと言われまして……」

そうのどかさんが言いかけた時、

――バキッ!!

と鈍い音と共に、いきなり俺は吹っ飛んで来た警備員に押し潰されたのだった。

・・・

なるほど。

いきなり、良くない事が起こってしまったわい。



喜連川の展示ブースには、給料泥棒であり盗撮魔である所の二次コンを拗らせてしまった二階堂博士が、珍しくスーツを着込んで俺達を出迎えてくれた。


「むぅ…」

俺は唸る。

さすが、業界をリードする喜連川だけの事はある。

ブースのスペースも、余所より一回り以上大きく、展示してある新型機の数も多い。


「いやはや、新機種って言うか、色々な新コンセプトのメイドロボを開発してるんですなぁ……」

俺は感心しながら、展示してある試作機を眺める。

中には、これメイドロボ?と言う珍奇なロボも多数展示してあるが……

「SR―SSシリーズ登場?SS―M型セイレーン……何だこりゃ?」

ラピスが太ったような残念体型をしているメイドロボを眺め、俺を首傾げた。

このメイドロボの頭部、及び肩には大型のライトが添え付けられている。


「あ~……それは深海探索用に開発した新機種だよ」

二階堂博士が広くなったおでこを撫でながらそう言った。

「大学の研究機関から、深海での調査が容易に出来る自律思考型ロボットの開発依頼があってねぇ」


「へぇ~……なるほど。その隣にある、これまたラピスに重装甲を付けたようなメイドロボは……」


「あぁ……G型、グラビトロンか。これは地質調査の為に作った機体でねぇ。硬い岩盤も掘削する事が出来るのだよ」


「ほほぅ……んじゃ、このSST型と言う、何かアンテナがいっぱい付いた可愛い女の子のメイドロボは……」


「フランクリンは気象観測型メイドロボだよ、神代君」

二階堂博士はエッヘンと胸を張った。

「ま、これらのSシリーズ、特殊メイドロボは用途が限られる分、ある一点に特化した高度な技術が必要でねぇ……その意味では、汎用タイプの物より造るのが難しいのだよ」


「なるほど。技術的な事は良く分からんですけど……一つ、聞いても良いですか?」


「ん?何だね神代君?」


「その……深海やら地底やら、何か局地的な場所で活躍するメイドロボなんですけど……何でみんな、可愛い女の子の顔が付いてるんです?」

何か意味があるのか?


「神代君。そこが一番、重要な事じゃないかぁ」


「……ギャフン」

何も意味は無かった。


「男を虜にする可愛い女の子。それこそが、メイドロボの基本理念だよ、チミィ」


ぜ、全然ダメだ、この人は……

博士のゴキゲンな回答に、洸一チン少し立ち眩みだ。

「なるほど。全く以って共感したくない考えですが、さすが二階堂博士ですな」

俺はフゥ~と溜息を吐き、フルフルと首を横に振る。

するとラピスがクイクイッと俺の服の裾を引っ張りながら、

「洸一しゃん!!あれを見るが良かでしゅッ!!」


「ふにゃ?」

俺はラピスの指差す方に視線を向けると、

「お……おぉ?」

そこにはラピスが展示してあった。


「どうでしゅか洸一しゃん。これこそが、ラピスの量産タイプなんでしゅッ!!」


「ほほぅ……これがか」

ブースの中でメイド服に身を包み、佇んでいる量産型のラピスを、俺をじっくりと眺めてみる。

ふむ……

姿形はプロトタイプとあまり変わらんが……肝心の性能の方はどうなんだろう?


「ラピスの眷属が発売されるしょの日こそ、メイドロボ業界の夜明けなんでしゅっ!!」


「そ、そっか…」

その日が滅亡への第一歩という気がしんでもないが……

「お?その隣に展示してるのは、セレスの量産機か?」


「_その通りです」

スッとセレスが俺の前に出る。

「_どこぞのエコノミーで安物買いの銭失い的な量産機とは違い、私の量産タイプは、私の基本性能をそのまま受け継ぎつつ発売される予定です。ただしお値段の方は、隣に佇む廉価版ダメ量産機の5倍以上はしますが……」


「ふ、ふ~ん……そうなんだ」

基本性能をそのまま受け継いだら、それは単なる皆殺し兵器ドゥームマシーンじゃないのか?

「何だか良く分からんが、そっかぁ……ラピスもセレスも、いずれ量産機が発売されるのか……」


「_はい。発売はまだ当分先だとは思いますが……どうですか?洸一さんのお家にも、量産セレスを一台……」


「い、いや……それは別になぁ……」

そんな殺戮兵器が家に居たら、怖くて眠れねぇーじゃねぇーか。

一生、安眠とは程遠い、最前線の生活になってしまうのは必定だ。

俺は引き攣った笑みで、ポリポリと頭を掻く。

と、ラピスがそんな俺の腕を取り、

「その必要はないでしゅ。洸一しゃんのお家にはこのラピスがお邪魔する予定でしゅから、量産機はいらないでしゅよ。ね、洸一しゃん」


「はっはっは……ね、と可愛い顔で言われても、そんな予定はないんだがなぁ」

そうな破滅的なエンディングを迎える予定は、残念ながら今の俺には無いのだ。

「ところで、ブースの一番隅に置いてある、あの巨大な代物はなんだ?なんかシートが掛けられてあるんじゃが……」


「_さぁ?実は私も先程から気にはなっていたのですが……」

セレスは首を傾げ、ラピスもフルフルと首を横に振った。


「ふむ……なんじゃろう?」


「ん?アレが気になるかね、神代君?」

のどかさん&まどかと話していた二階堂博士が、嫌な笑みを湛えフラッと目の前に現れた。

そして鎮座している巨大な物体に顔を向けながら、

「あれこそが、今展示会の目玉商品。今週のビックリドッキリメカなのだよ」



「目玉商品…?」

それはラピスとセレスの量産機じゃねぇーのか?と言う心の突っ込みは置いとくとして……

ぬぅ、気になる。

「なんか、物凄く大きいんですけど……見た感じ、五メートル近くはあるんじゃないですか?」


「ハッハッハ……今、お見せするよ」

二階堂博士はそう言うと、ブースの中に入って行き、その巨大な物体に掛けられていたシートをサッと取り外す。

そこには緑色の巨大なメカ……どこぞのロボットアニメで見たような形をしているメカが、圧倒的存在感で鎮座ましましていた。


「これぞ我が喜連川メイドロボ研究所の最新鋭機、SRM―AT09。その名もスコープ・キャットだッ!!」


「パクリだよッ!?まんま、アーマード・ト○ーパーじゃねぇーかッ!?」

しかも既にメイドロボでも何でもねぇーし……

「な、何でこんなモンが……二階堂博士、今日はアニメ会社のファン感謝デーでもなければ、ここは同人誌の即売会場でもないですよ?」


「なーにを言ってるのかね神代君?これぞ喜連川が、あの四ツ目菱と張り合うために開発した次世代陸戦兵器だぞ。これで我が社は軍需産業の一角に食い込むのだぁぁぁ」


「あ~~……そうなんですか」

もう、駄目だこのオッサンは。

「で、でもまぁ……確かに良く出来てはいますな。これ、人が乗ってちゃんと動くんですか?」


「はぁ?やれやれ神代クン。チミは一体、何を言ってるのかなぁ?」


「へ?」


「いいかい、ここは喜連川メイドロボ研究所のブースだよ?だったら答えは一つだろう……このスコープ・キャットは、メイドロボが操縦するに決まってるじゃないか。しかもプラグスーツを着て!!」


「……はい?」


「フッフッフ……戦闘メカに乗り込む美少女メイドロボ……も、萌えるねぇ神代君ッ!!いや、本当に凄い時代になったもんだよ」


「……すんません。ボク、少し頭が痛くなって来たんですが……」

俺は頭を押さえ、重い溜息を吐く。

このオッサン、自分の趣味でこんなモン造ってて良いのだろうか?

特別背任とかで、会社から訴えられたりしないのだろうか?

まぁでも……メイドロボが操縦する戦闘ロボという設定は、少し面白いかもな。

全く現実味はねぇーけど……

と、俺はそんな事を考えながら、二階堂博士が作ったパクリ純度90%以上の海賊版ロボを眺めていると、不意に背後から「わははは!!」と冷たい笑い声。

どうやらまた得たいの知れない馬鹿が現れたようだ。


「だ、誰だッ!?」

と振り返る二階堂博士。


「わははは……また愚かな物を作ったようだな、四郎ッ!!」

そこには白衣を着た、爆発コントのようなチリチリパーマをしたオッサンが、不敵な笑みで佇んでいた。


「き、貴様は……純一郎か?」


……誰だよ?


「久し振りだな、四郎」

その白衣のおっさんはフフーンと鼻を鳴らし、二階堂博士の作った偽ATを見上げると、

「下らない。実に下らない代物だな、四郎よ」


「な、なに?」


「変形もしない……ましてや合体もしない戦闘メカに何の意味があると言うのだっ!!」


……このオッサンも、やっぱ馬鹿だ……

俺は確信した。


「くっ……そ、それは……」


そして博士。何故そんなに悔しそうな顔をする?

俺はポリポリと頭を掻き、そんな二階堂博士のおっさんの肩を小突きながら尋ねる。

「あのぅ……あの白衣を着た駄目そうな人、もしかして知り合いですか?」

それとも仲間?


「奴は……純一郎。大泉純一郎と言って、私がMITに在籍していた当時の同僚だった男だ」

二階堂博士は呟くようにそう言うと、スーツのネクタイを締め直しながら、

「……純一郎。まさか日本に帰っていたとはな」


「ふふふ……日本のとあるメーカーが、私を雇いたいと言ってきてねぇ」

と、その大泉純一郎と言う名のどこかオカシイおっさんは、ビシッとこれまたどこかオカシイ二階堂のおっさんを指差し、

「今日こそ、あの時の借りを返そうッ!!」


「……何かしたんですか、二階堂博士?」


「さ、さぁ?記憶に無いが……私がフルスクラッチ美少女フィギアコンテストで優勝した事を、未だ根に持っているのかな」


「見ろ四郎ッ!!これが私の開発した、最新鋭機だ!!」

純一郎氏が叫ぶや否や、彼の背後からスッと現れる人影。


「――ッ!!?」


「#御久し振りです、神代洸一!!」

それはかつて、セレスに二度ほど破壊された豊畑の椎奈ちゃんだった。


「……」

洸一、だんだんと胃が痛くなってきました。



何故かウチの学校の制服を着た豊畑椎奈ことシーナは、マッドな技術者である純一郎氏と二人で不敵な笑みを湛え、佇んでいた。


「神代くん神代くん。あの純一郎の隣にいるのは、もしかして前に君が言っていた……」

と二階堂博士。

俺はコクンと頷き、

「えぇ。以前、セレスに撃退された豊畑技研のメイドロボですよ」


「……なるほど。純一郎、お前の雇い主がまさか豊畑とは……」


「はっはっは……豊畑から、メイドロボ事業を立ち上げるから是非に、と請われてな」

純一郎氏はそう言いながら、椎奈ちゃんの肩に手を置き、

「前に二度ほど不覚を取ったようだが……今日は違うぞ。何しろ、今回はこの私が直接に改造したからな」


「#そうですッ!!私はドクター大泉の元で蘇ったのですッ!!」

メイドロボのシーナちゃんが可愛い声で吼えた。

そして相変わらず、過剰な演技で両の手を広げ、

「#さぁ神代洸一!!今日こそ、私の虜となるのですッ!!」


「ンこと言われてもなぁ……」

と、俺はキリキリと痛む胃を押さえながら苦笑を溢していると、不意にガシッと背後から首を掴まれ、

「ねぇ……どーゆー事?」

まどかが耳元で囁いた。

「虜になるって……どーゆーこと?あの女は誰なの?」


「な、なに殺気溢してんだよッ!?ってゆーか、頚椎からメキメキッて破滅の音がして物凄く痛いんですけどぅ……」


「_まどかさん、落ち着いて下さい。あれはメイドロボです」

と、セレスが俺の首を絞めている野蛮人の腕にそっと手を置く。


「メ、メイドロボ?」


「_はい。豊畑技研の試作機です。出来損ないのクセに、洸一さんに手を出そうとしている不埒者です」


「ふ~ん……洸一って、変な所でモテモテね」


「……どーでも良いけど、手を離して下ちゃい。なんか……足が勝手にステップを刻めるぐらい、ブルブルと痙攣しちゃってるんですけど……」

少し指先も冷たくなって来てるしな。

もしかして、これが死か?


「_まどかさん。洸一さんとのどかさんを連れて下がっていてください。これは私達メイドロボの戦いです」

そう言って、セレスは一歩前へ出て、シーナを冷やかな瞳で一瞥すると、

「_……豊畑のAIには、どうやらフィードバック機能がないようですね」

いつもの冷笑を浮かべた。


「#それはどういう意味ですっ!!」

シーナちゃんが眉を吊り上げセレスを睨む。

「_学習機能が無いと言ったのです。二度あることは三度あると言う言葉を貴方は知らないのですか?」


ぬぅ……

何か心に突き刺さるお言葉だ。

俺も少しは色々と学習しよう。


「#日々進化する私に、そのような戯言は必要ありませんっ!!」

シーナはそう言うと、スッと拳を掲げ、ファイティングポーズを取った。

関節の節々から、キュインキュインと小さな駆動音が聞こえる。

「#セレス……今日こそ貴方を粉微塵にし、私がメイドロボの頂点に立ちますッ!!」


「_……仏の顔も三度までです」


どこが仏なんだ?

と言う疑問を飲み込み、俺は少し離れた所からセレスを見守る。


「#ふっ……その過信が、貴方の命取りです」

言うや、シーナが地を蹴りセレスに迫る。


「_……相変わらず、遅い攻撃です」

素早く戦闘態勢を取ったセレスが、迎撃のパンチを繰り出す。

が……

「ッ!!?」

「速ッ!?」

と、まどかが驚いた声を漏らした。

シーナは一瞬でセレスの背後に回り、彼女を吹っ飛ばしていたのだ。


お、おいおいおい。

何だよ、あの尋常じゃねぇ速さは……


「ふははははは……見たかね、諸君!!」

純一郎氏が叫ぶ。

「私の開発したマグネットコーティングにより、シーナの反応速度は3倍も増したのだよっ!!」


……取り敢えず、馬鹿は放って置こう。

それよりも、セレスは無事だろうか……


「こ、この…」

隣にいるまどかが拳を固め、ブルブルと震え出す。

僕ちゃん、非常に生きた心地がしないが、

「_手出し無用です」

倒れていたセレスがゆっくりと起き上がった。


「_これはメイドロボ同士の戦いです。まどかさん達は、そこで黙って見ていて下さい」


「#ほぅ……まだ動けますか。さすがセレスです!!」

再び地を蹴り、シーナが迫る。


「_……甘い」

セレスは不敵な笑みを浮かべ、呟いた。

「_これで終わりです」



「……おいおい」

俺は口の中で呟く。

目の前では、信じられない事が起こっていた。

あの地上最強のメイドロボと自他共に認めるセレスが、二度までも床に転がっていたのだ。


「_ば…馬鹿な……」

駆動系が損傷したのか、腰の辺りからキャインキャインと子犬の鳴き声のような嫌なモーター音を軋ませ、セレスはガクガクと震えながら立ち上る。

「_あの攻撃を避けるとは……」


そう……シーナの反応速度は、まさに尋常ではなかった。

突っ込んで来るシーナに対し、セレスは頭部に装着したカチューシャを変形させるや、目も眩むような白色レーザー砲撃。

そんな武装が付いとったんかいっ!!と言う突っ込みはともかく、それは究極の攻撃だった。

だがシーナは、驚くべき事にセレスのレーザー攻撃すら躱し、再び彼女を叩きのめしたのだ。


「#甘いのはどうやら、貴方のようですね」

シーナが勝ち誇った笑みを浮かべ、佇んでいた。


くそっ…

俺は舌打ちし、床を蹴る。

どうする?どうするよ、俺?

このままだと、俺様のセレスがとんでもない事に……具体的に言うとスクラップとか鉄くずを経て埋立地へ、何て事にになっちまう。

だがセレスは、手出し無用と言った。

これはメイドロボ同士の戦いだと言った。

・・・

もっともそれ以前に、俺が出て行った所で何の役にも立たないのが悲しい現実なんだが……

しかし、マジでどうするよ?

この局面をどう打開すれば良いんだよ。


と、その時だった。

いきなり背後から、キュイーーーンと床を削るような音。

慌てて振り返ると、何とラピスが例の偽AT、スコープ・キャットのハッチを開けて乗り込んでいるではないか。


「な、何してんだよラピスッ!?」


「ラピスも戦うんでしゅッ!!これはもはや、喜連川と豊畑の戦いなんでしゅッ!!」

ATの足裏にあるホイールが高速回転し、床を削り続ける。

「す、凄いでしゅ……5倍のエネルギーゲインでしゅッ!!」


「その基準値は一体なんだよっ!?って、まぁそんな事はどーでも良いや。ともかく、降りて来なさいラピス。俺の予感と言うか予想だが、お前が触ると高確率で爆発する恐れがあるから……な?」


「行くでしゅッ!!」

ラピスはハッチをオープンにしたまま、レバーを倒す。

ギュィィィンンとホーイルが唸り、高速ローラーダッシュ。

ブースの柵を突き破り、ラピスの操縦するスコープキャットは、物凄い勢いでシーナに迫った。


「#……なるほど。これが噂になっていた、喜連川の新型陸戦兵器……」

シーナは軽やかに、そして華麗に突撃してくるATを避ける。

「#思ったより、動きは単調ですね」


が、

「甘いでしゅッ!!」

ラピスはレバーを手前に引くや、ATもどきは180度高速回転。

と同時に、ズガンッ!!と重い爆発音と共に、火薬の爆発力で打ち出された、これまたパクリのアームパンチが、シーナに思いっきり命中。

哀れ豊畑の最新鋭メイドロボは、床の上にペチャンコに潰れ、まるでラスコー洞窟の壁画みたいになっていた。


「か…勝った……のか?」

って言うか、勝って良いのか?


「はややややややッ!!?と、止まらないでしゅッ!!」

戦いは終わったけど、ラピスの駆る決戦兵器は大暴れしていた。

次から次へと、各メーカーのブースを灰塵に帰している。

既に辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


あぁん、やっぱりこうなったか……

「に、二階堂博士。早いところラピスを止めないと、退職金も出ないまま確実にクビが飛びますよ?いやそれどころか、死人が出ちゃうような気が……」


「慌てるな、神代君」

と、二階堂さんは何時の間にかヴィデオカメラを構えていた。

「こんな貴重な映像は、滅多に撮れんっ!!」


「……はい?」


「ラピスの操縦する戦闘メカ。さ、最高だ。私は……私はこれが見たかったんだよっ!!」


「……」

もうダメだ、この人は。


そしてもう一人の頭がマッドな科学者・純一郎氏は、不適な笑みで煙草を咥え、

「四郎……その映像、後で私にも焼いてくれ」


「……」

コイツもやはり同類か。


「はやぁぁぁぁッ!!た、助けて下しゃい洸一しゃん!!助けて……助けてサムソンティーチャーッ!!」


「いや、助けろって言われてもなぁ……」

俺はクルクルと独楽の様に回るパクリATを見つめながらポリポリと頭を掻く。

「取り敢えず……ブレーキを掛けるか、エンジンを切れば良いんでないかい?」


「了解でしゅっ!!」

ラピスはニッコリ笑顔で頷き、次の瞬間、

――カヵッ!!!!

僕達は全員、真っ白な閃光に包まれ、そして爆風によって吹っ飛ばされたのだった……


・・・・・

・・・・

・・・

・・

おい……

どうなっちまったんだよ……この世界は?









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