表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/66

奥様の一日 後編 *エルサ視点



 旦那様は、ここ最近は夕食に間に合うように帰っていらっしゃいます。

 旦那様が早く帰って来られるというのは、王都や王城が平和ということですので良いことです。平和では無いと分かりやすく帰って来られませんので。

 今日も夕食前に帰宅した旦那様は、奥様からのお迎えのキス(こちらも大体、朝と同じような経緯を持っております)を貰って、セドリック様を連れて着替えに行かれました。その間に奥様は、ダイニングへ行って真っ赤になったお顔を冷まそうといつも必死でお可愛らしいです。

 それからは三人で仲良くディナーを楽しまれました。

 奥様も最近は昔に比べるとよく食べて下さるようになりました。セドリック様は小さなお体とは裏腹に良く食べます。特にお肉が好きで、旦那様の幼い頃を思い出します。

 恙なく夕食を終えるとそれぞれ眠る仕度へと移行します。

 セドリック様は、旦那様とお風呂に入ります。奥様は自室のお風呂で湯あみを済ませますので、私はそちらへついて行きます。

 旦那様に傷痕を見せた奥様は漸く、最近になって私にもその傷痕を見せて下さいました。

 正直な所、想像していたよりもずっと酷い傷跡に私は奥様がどれほど辛い思いをしたのか、どれほど痛い思いをしたのかと言葉にし難い感情に囚われて、奥様を抱き締めて泣いてしまいました。痛くないですよ、大丈夫ですよ、と告げる奥様の強さに私は、憎むべき相手がこの世にもうないことと奥様がもう既に許していることに気付かされました。

 とは言っても、奥様にとってはやはり人に見られたくはないものには違いありませんので、湯あみのお手伝いも着替えのお手伝いも私はさせてはもらっておりません。奥様は恥ずかしがり屋でもありますので、同性でも全裸を見られるという事実が恥ずかしいようでもございました。

 シュミューズ姿で寝室に戻って来た奥様を私はお迎えします。

 傷痕を見せて頂いて以降、少し変わったこともあります。それは奥様が今までさせて下さらなかった脚や腕の肌のお手入れをさせて下さるようになったのです。以前からお顔のマッサージやお手入れは受け入れて下さっていたのですが、腕や脚は許して下さらなかったので素直に嬉しいです。

 私は旦那様に買っていただいた優しい花の香りがするマッサージ用のクリームを奥様の腕や脚に塗ってマッサージをします。奥様のおみ足は、白く滑らかで足首はきゅっとしまっていて素晴らしいです。


「奥様、痛いところや気になるところはありますか」


「いいえ、いつも気持ち良いですよ。エルサのお蔭でお肌もすべすべです」


 ふふふ、と奥様は嬉しそうに笑っています。ああ、お可愛らしい。

 侍女やメイドには他家のメイドたちと独特の交流があったり情報もが有ったりします。その中で、やはり心から大切に想えて尊敬できる主に仕えることが出来る使用人はそう多くありません。貴族の中には、私たち使用人を使い捨ての道具のように扱う方も残念ながらいらっしゃいます。

 その点、当家の主人一家や公爵様は私たち使用人をとても大事にして下さいます。その中でも私は、こんなに可愛らしくお美しく、それでいて心優しいリリアーナ様にお仕えできるのは幸福以外のなにものでもございません。

 マッサージが終わったらネグリジェを奥様に着ていただきます。この後は髪とお顔のお手入れをさせて頂くのです。


「ねえ、エルサ。スノウちゃんが居てくれたら、お父様はもっと元気になるでしょうか」


「ええ。子猫も子供も手が掛かりますから、世話を焼いている内に元気も沸いてきますよ」


「そうですね。スノウちゃん、登場初日から木の上にいたお転婆さんでしたものね」


「はい。きっと、あの静かなお屋敷が賑やかになるに違いありませんよ」


 鏡越しに目が合って、奥様はふわりと微笑んで頷かれました。

 雑談を交わしながらせっせと奥様の髪とお肌のお手入れをして、全てが仕上がったら軽くみつあみにして背中に垂らします。


「姉様、まだー?」


 タイミングよく、セドリック様の声が聞こえてきました。


「今、行きますよ」


 奥様が笑いながらお返事して、立ち上がります。その肩にショールを掛けさせて頂き、寝室を後にします。

 最近は眠る前に旦那様がお酒を飲まれますので、奥様とセドリック様もそれにお付き合いしながらの家族団らんの時間です。

 奥様のお部屋に行くと、セドリック様が旦那様のお膝へと戻る途中でした。旦那様は「また大きくなったな」と言いながらセドリック様をお膝に乗せます。奥様も「そうなのですよ」と頷きながら旦那様の隣へと腰を下ろしました。

 一応、私とフレデリックは控えておりますが壁際へと下がって邪魔にならないように気を付けます。


「どうぞ、ウィリアム様」


 奥様がワインのボトルを手に取ります。旦那様が嬉々として差し出したグラスに淡い金色の白ワインが注がれます。

 旦那様は男ばかりの騎士団で無茶な飲み方をして鍛えられたとかで、お酒にはめっぽう強いです。奥様はとても弱いそうですが、酔うとこの世のものとは思えないくらいに可愛いと以前、アルフォンス殿下の別荘で間違えてお酒を飲んでしまった際に酔っぱらった奥様を堪能した旦那様が言っておりました。私も見たかったです。悔しいです。ちなみに私の夫は、旦那様以上に強いので飲み比べて負けた姿を見たことがありません。


「あの、あのね、義兄上」


 セドリック様がおずおずと口を開きました。

 どうやらスノウの来訪についてまだ旦那様に聞けていなかったようです。旦那様はグラスを傾ける手を止めて、首を傾げます。奥様もちょっと不安そうに旦那様を見上げています。


「……何かあったのか?」


 事情を知らないフレデリックが小声で問いかけて来ますが、私は唇に人差し指を当てて返します。


「あのね……義兄上は、猫ちゃんは好き?」


「猫? セディ、飼いたいのか?」


 旦那様がきらっと顔を輝かせました。

 我が儘という言葉とは正反対のところにいるセドリック様と奥様を旦那様は甘やかしたくて仕方がないのでございます。


「ううん、ち、違います」


 セドリック様が慌てて首を横に振ったので、旦那様は残念そうです。


「今日、おじい様のお家のお庭で子猫を見つけたんです……白い子猫でね、すごく可愛くてね、姉様と一緒にお風呂に入れて、お名前もプレゼントしました。スノウっていう名前です」


「スノウか可愛い名前だ」


「それで、それで……おじい様が遊びに来る時、スノウも連れて来てもいい、ですか?」


 お腹の前でぎゅうと手を握りしめたセドリック様が俯きながら、漸く本題を口にすることが出来ました。

 心の中で「旦那様が駄目とかほざいたら、殴ってあげますからね」と決意して私はセドリック様の小さな背中を見つめました。


「構わないさ。私も猫は好きだよ。ただ、私の書斎には入れないようにね。書類が山になっているから崩れると大変だ」


「はい! 義兄上、ありがとうございます!」


「ありがとうございます、ウィリアム様」


 お二人が嬉しそうに顔を綻ばせて、セドリック様は旦那様に抱き着きました。旦那様も表情を緩めて小さな頭を撫でます。

 セドリック様が旦那様の胸にすりすりして、今日の子猫のように甘えます。大きな手が愛おしむように小さな頭を撫でて、奥様は幸せそうにそれを見つめていらっしゃいます。


「スノウは、こんだけしかなくて、それで白くてふわふわしているんです」


「二か月くらいの女の子だとお父様はおっしゃっていましたけれど……」


「なら可愛い頃だな。二か月ならまだ瞳の色は分からないか」


「でも、スノウ、青かったですよ?」


「子猫は三か月くらいまでは、目が青いんだよ。大きくなるにつれてだんだんと本来の色が分かるようになるんだ」


「義兄上は何でも知っていて凄いです!」


 紫の瞳はキラキラとした尊敬に彩られます。旦那様は、ちょっと照れくさそうに「ありがとう」と笑っておられました。

 奥様からのキス一つに対して、私たち夫婦を生贄に出すほど必死で、奥様の豊かなお胸がとにもかくにも大好きで隙あらば顔を埋めているので忘れがちになってしまいますが、旦那様は頭も良いのです。学院時代、首席はアルフォンス殿下でしたが次席の座は常に旦那様のものだったとフレデリックが言っていました。殿下と旦那様は今も社交界で女性たちの人気を二分していますが、学院時代もすさまじかったのは言うまでもありません。

 ちなみに学院では、上位貴族の従僕、侍女、執事に限り彼らの為のコースがあるので、日中、主人が勉学に励んでいる間は彼らも同じように勉学に励んでいます。そちらのコースは勉学に加え、最上級の使用人としての心得や振る舞いも学びます。フレデリックは、そちらのコースでは首席の座を守り抜いたと旦那様から教えて頂きました。


「そういえば、セディ、君につける執事の話だが、とりあえず一人見つけたんで今度、会って欲しい」


「僕の執事ですか?」


「どんな方ですか?」


「アーサーの弟の息子でセディより二つ上の十一歳だ」


「というとエルサの従兄弟ということでしょうか?」


「そうなるな」


 奥様がこちらを振り返りましたので、私とフレデリックは壁際から離れてそちらへと加わります。


「十一歳というとシアンの方でしょうか?」


「ああ。打診した結果、どのみち、どこかへ修行に出そうと思っていたから丁度良いと、セディが気に入れば契約をすると言ってある。相性が悪かったら私の従兄弟の家に修行に行くだけだからあまり気負わずにな、セディ」


 私は年の離れた従弟の顔を思い浮かべました。

 父と叔父は私と同じ紺色の瞳なので、叔父に似たシアンも紺色の瞳をしていますが、髪は母親譲りの暗めの銀色です。叔父は現在、隠居された旦那様の祖父母に当たられる先々代のお屋敷で執事をしておりますので、シアンもそちらに家族と一緒におります。


「仲良く、なれるかな……」


「シアンはちょっと癖はありますが良い子ですから、セドリック様とならきっと仲良くなれますよ」


「そうかなぁ……」


 セドリック様は自信がないのか視線を落としてしまわれました。すると奥様の細い手がセドリック様の小さな手に重ねられます。


「セディ、大事なのは相手の心を想うことと優しさを忘れないことです。使用人の皆さんは、私たちの為に色々と尽くしてくれますが、それは決して当たり前のことではありません。だからいつも感謝の気持ちを忘れず、相手のこともきちんと大事にしてあげるのですよ」


 優しく諭す微笑みにセドリック様は徐々に強張りを解いて行き、うん、と素直に頷かれました。奥様は相好を崩して「良い子ですね」とセドリック様の頬を撫でます。旦那様が悶えて天を仰いでいますが、私も同じことをしているので何とも言えません。

 私の奥様は、女神であり聖女なのかもしれません。清らか過ぎてその内、下心の塊である旦那様とか浄化されて消えてしまうのではと本気で心配になってきました。

 それからセドリック様はシアンがどんな子なのか旦那様や私に尋ねたり、スノウがとても可愛かった話をしていたりしたのですが、今日も元気に飛び回っていたセドリック様は次第に船を漕ぎ始めました。そして、奥様が子守唄を口ずさんで、旦那様がその背を撫でているとあっという間に旦那様に寄り掛かったまますやすやと眠ってしまわれました。


「フレディ、頼めるか」


「はい」


 フレデリックが、旦那様の腕からセドリック様を受け取り、慎重に抱き上げます。

 私は旦那様に「泣かせたらその時点で一人寝だからな」と目だけで牽制し、フレデリックと共に一旦、奥様の寝室へと移動します。

 私とて二十六歳の立派な(体力も性欲も有り余った)成人男性である旦那様が、可愛い奥様を前に一生懸命、我慢をしていることはきちんと存じ上げておりますので、セドリック様が眠ってしまわれたあと、ほんの少しの時間ですが二人きりで過ごされることに文句は一切ございません。ですが、あの薄暗いお部屋で十五年を過ごされた奥様はあまりに純粋無垢で、多分、子どもの作り方を知りませんし、男女間のそう言ったことに関しては恋愛小説(純愛)止まりですので心配はしております。

 私が上掛けを捲ると奥様のベッドの真ん中にセドリック様が降ろされました。起こさないようにそっと上掛けを掛けて、ベッドの縁に腰掛けてます。いつもベルが鳴らされるまでは、こうしてフレデリックと二人でセドリック様を見守っているのです。


「最近は悪夢に魘されることも少なくなったな」


「お昼も大分、落ち着いていて以前と同じように過ごせるようになってきたの」


 フレデリックの長い指がセドリック様の目にかかる淡い金の髪をそっと払いました。

 涼し気な色気があると定評の夫は、何を考えているかはよく分からないのですが、存外、子どもは好きなのです。私も彼との子供はとても欲しいですが、今は奥様を支えるのが私の重要な役目でございますので。


「きっと奥様と旦那様のお子は、セドリック様と同じくらいお可愛らしいでしょうね」


「そうだろうけれど、まずは初夜を乗り越えてもらわないことにはなんとも」


「旦那様がご自分で撒き散らかした種だもの……そういえば、」


 私はそこで言葉を切って、セドリック様が深く眠っていることを確認して、それでも声を潜めてフレデリックに尋ねます。


「結婚式の夜、あの一応の初夜の晩、お二人が何を話したか知っている?」


 フレデリックは、少々意外そうに目を瞬かせました。


「奥様から聞いていないのか?」


「話して下さらないの。奥様は旦那様のことを絶対に悪く言わないから、どれほど酷い言葉を投げかけられたとしても、いえ、酷い言葉だったとすれば余計に教えて下さらないわ」


 フレデリックは、何とも言えない顔をして黙り込んでしまいました。

 私はじっとその顔を見つめます。


「僕もよくは知らないんだ。あの日は、僕もかなり頑張って旦那様を屋敷に連れ帰ったんだけど、寝室に押し込んでそう待たずして戻って来て、あっと言う間に騎士団にとんぼ返りだ。……まあでも、その話を持ち出すと目を合わせないしそっぽを向くから、僕らにしこたま怒られるようなことを言ったのは間違いないと思うよ」


「……そう」


 私は静かに微笑みました。フレデリックは棒読みで「頑張れ、ウィル」と旦那様へエールを送っています。

 いつがいいでしょうか。いつ、あのヘタレ旦那様に雷を落としましょうか。今度のお休み、公爵様の来訪が重なる日が良いかも知れません。公爵様がいらっしゃれば奥様とセドリック様はそちらに行きますので、旦那様はフリーです。書斎で領地の仕事云々言えば隔離できます。


「フレディはどちらの味方をしてくれる?」


「僕はいつでもエルサの味方だよ、可愛い奥さん」


 上体を屈めたフレデリックの唇が瞼の上に落ちてきます。仕事中よ、と睨んでも私の夫はどこ吹く風です。


「奥様のことに関してだけは、僕も旦那様が悪いと思っているからね。他のことだったら旦那様の味方になることもあるけれど、奥様のことに関しては、味方のしようがない。女嫌いの女性不信だろうが、十歳も年下の女の子にしていい仕打ちじゃない。僕がどれだけ言っても言うことを聞かないし、殿下やマリオ様も団長閣下まであれだけ言って下さったのに言うことを聞かなかったのは旦那様だからね。おかげで僕までお預けを何度喰らったことか」


 その時のことを思い出したのか、フレデリックの微笑みに冷たいものが混じりました。

 私たち専属使用人も週に一度は丸々一日お休みを頂けます。私はもちろん、フレデリックと休みを合わせていたのですが何度反故になったか知れません。それもこれも旦那様が無茶苦茶に仕事を入れたからです。

 フレデリックに会えないのは寂しかったですが、奥様がお可愛らしかったので私はお休みの日も奥様のお傍に居ました。お休みの日は、僭越ながら友人として一緒にお茶をしたり、一緒に刺繍をしたり、一緒に本を読んだりして楽しかったのでそれはそれで充実していましたが。


「とはいえ、同じ男だから我慢に限度があるのも分かるんだよ。……旦那様はよくよく我慢してると思うよ」


「それはそうだけど……でも、奥様は、あまりお体が強くないから、もう少し体力をつけてからの方が色々と良いと思うの。それに奥様にはそう言った知識がほとんどないから、キスくらいじゃ大丈夫でしょうけど、その先をいきなり求められた羞恥を何れ恐怖が上回るわ。だからそっち方が心配なのよ」


「……多分、大丈夫じゃないか、多分」


「……私の目を見て言いなさいよ」


 フレデリックは視線を外したまま振り向きもしません。

 はあ、と私がため息を零したその時でした。チリリンとベルの音が聞こえてきました。私はセドリック様に布団を掛け直して、寝室を後にします。

 お部屋を出れば、旦那様が奥様を抱き上げていました。奥様はお顔が真っ赤ですので、仲睦まじく過ごされていたのでしょう。


「もう寝る。明日もいつも通りだ。おやすみ」


「かしこまりました。おやすみなさいませ」


「おやすみなさいませ」


「おやすみなさい、エルサ、フレデリックさん」


 奥様が蚊の鳴くような声で挨拶をして下さいました。私が微笑み返すと奥様も小さく笑って、そのまま旦那様と共に寝室へと下がられました。

 私は、パタンとドアが閉まったのを確認して、旦那様の晩酌の後をささっと片付けます。とは言ってもワゴンに乗せて廊下に出しておけば、夜勤の者が片付けてくれるのですが。

 当家では、私やフレデリックのような専属は別ですがメイドやフットマンの多くが三交替制で働いております。料理人や庭師などの特別職はまた別です。

 奥様の部屋を出ると同時に私とフレデリックの仕事も終わりです。

 夜勤の仲間にワゴンを預けて、私とフレデリックは隠し扉の向こうにある自室へと帰りました。

我が家に入ってふうと息を付くと、ぐいっと腰を抱かれて顔を上げます。するとふわりと唇を塞がれました。咄嗟に頬をつねると不機嫌そうに目を細めたフレデリックが私から離れて行きます。


「だめよ」


「……夫婦だろう?」


「だめ。明日も明後日も仕事なの。奥様の侍女は私だけなんだから」


「アリアナがいる」


「アリアナはセドリック様のお世話に忙しいの。シアンが来るまではアリアナが侍女替わりなんだから。夕食を貰って来るから、さっさと湯あみを済ませてちょうだい」


「……」


「そんな目をしても顔をしてもだめ。私が好きなら我慢して、ね、フレディ」


 奥様を見習って、上目遣いでお願いしてみました。すると珍しく、うっとたじろいで頬を赤くしたフレデリックが素直に離れてくれます。私だって愛する夫の愛情が嫌な訳ではありませんが、この夫もどこにそんな体力があるのかとにかく元気なのです。


「なら週末は絶対に何があっても、君を愛するからな」


 真っ直ぐでちょっと最低な愛の告白を嬉しいと感じるのですから、私だって大分、この夫に惚れているのです。私は背伸びをしてその頬に口づけを贈りました。


「楽しみにしてるわ、あなた」


 フレデリックは珍しく嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべて、私を抱き締めました。

 まあ、これが切っ掛けでちょっと危うくなってしまったのですが、なんとか私の仕事着を脱がせようとするフレデリックを引っぺがして、「夕食を貰って来て」と部屋から追い出し、彼が居ない間に湯あみもさっと済ませて、なんとか乗り切りました。

 私の奥様の一日は、如何だったでしょうか。それはそれはお可愛らしいと感じたことと思いますが、明日も奥様はお可愛らしいのでその魅力は留まるところを知りません。

 さあ、しっかり眠って明日もまた私の可愛い奥様が一日を恙なく過ごせるように心配りをしなければいけませんので、フレデリックが湯あみをしている間に私はさっさと夢の世界へ旅立つのでした。




おわり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] エルサとフレデリックのお話もっと見たくなってしまいますね(*´∇`*)最高です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ