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感謝と希望と絶望の話 ~とある会社員の悩み~  作者: 樹木(きき) ぶどう
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~とある会社員の悩み~

俺はどちらかといえば朝は苦手なほうだ。

でも、朝から仕事があるため、七時までには起きなければならない。

それは健全な生活習慣を送るための俺の日課にもなっていた。

 雨の中、俺は下を向いて歩く。

 頭の中は今日の職場で上司に怒鳴られた言葉でいっぱいいっぱい

「今日は8時に来いと言ったろう!おまけにプレゼンの資料まで作ってないだと?お前なめとんのか!」

 言葉はかなりキツイが正論な上司。

「いいからあっち行け、あっち、このプロジェクトからはもう降りろ。使えないヤツには用はない。」

 処遇は容赦ないが賢明な判断。

 俺は自分の過ちの重さを見せつけられたと同時に、酷く酷く悲しく、酷く酷く恐ろしい思いに全身が空洞化したように脆くなる。

 そんな身体おれが自然と行き着くのは無論

 ―――酒。


「いらっしゃいませ、今日はいかがいたしましょうか?」

「生で」

「はい、お待ちど様ー。ところでお客様。顔色があまりよろしくないですね。何かありましたか?」

 テーブルの上に出されたビールを一気に飲むと、さっきまでの鬱な気分が軽くなった気がした。

「ん…。まあ、仕事でちょっとやらかしてしまっただけです。」

「それは大変でしたね。大丈夫だったのですか?」

「全然。」

 少しは早口になる。あまり思い出したくない結果だからだ。

「大丈夫になりたいですか?」

「そりゃあ、でも、無理だろう?あんだけやらかしたら、上の人だって信用してくれないだろう。」

「周囲の事情は分かりませんが、あなたは大丈夫になりたいですか?なりたくないですか?」

「…なりたい、それで何かくれんのか?」

「いえ、私には何もありません。持ってません。どうか祈らせてほしいです。そのことについて。」

「は?」

「ああー、えっと詳しく言うと祝福の祈祷です。」

「おたくは宗教か何かか?」

「はい、でも、宗教でもなんでもあなたのその状態はほっとけないと思います。少しだけでいいです。1分で済みますから!」

 必死に祈りを迫るこの店員1号に俺は苦笑する。ほかに何も方法もないし、とりあえずこの祈りというのに賭けてみようかと軽い気持ちで、

「勝手にしろ」

「はい、ではお祈りします。」

 そいつが目を閉じて祈るのを見て俺は不思議と安心感を覚える。

 心は辛いとはいえ、誰かに気にしてもらえてるみたいで、労ってくれてるみたいで悪くない。


 唐突に、俺の視界に居ないはずの何かが映る。

「俺?」

 青のブラウスに黒のパンツ、これは昨日の家にいた時の格好だ。「俺」はコーヒーを入れていて、ちょうど昨日の仕事を終え、今日のプレゼンの構築をするため、wordにその内容を打ち込むところであった。でも、そのそばには奇妙なものが、

「忘却?左目のところに忘却のラベルが貼ってるのか…、たしかに俺はあの夜眠たくて、プレゼンは朝一やるって思ってて、朝一のアラームをかけるつもりだったけど忘れた。」


 そして、今度は見えてきたのはusbをパソコンに挿し、いそいそとデータを開くスーツ姿の俺。

 腕時計の時間は八時。ここにも変なものが、

「焦り?右目のところに焦りのラベルが貼られてるのか…、たしかに俺の上司から電話が来て、それで、今日のプレゼンの資料ができてるか確認しようと見てたんだな。でも、できていないのを見て余計焦って、パニックって遅刻したな。」


 またまた、見えて来たのは、パソコンが並ぶ側で強張って猫背になり、罪悪感いっぱいに下を向く俺とこちらを睨みつけながら怒りの音を振りまく上司。

「恐怖?耳のところに恐怖のラベルか。たしかに、俺はこのプロジェクトを最後までやりたかった。でも、この一件で降りるのが怖かった。それに、今上司を、怒らせたくなかった、のに。」


 そして、最後は、

 雨の中、会社から抜けて仕事を全て投げ出した俺の姿。

 これもまた同じようにラベルが貼られてある。

「口のところに絶望?そっか、俺はあの時は死にたいなんて思ったし。生きていても恥だ、とかなんとか思ってた…。」

 そこで俺の視界はプツッと切れる。


「そのラベルが何なのか、わかるか?」

「??」

 姿は見えないだけど、確かに声は聞こえるものだった。

「それらはある躓きだ。」

「なんですか、それは?」

「そのレッテルたちに打ち勝ちたいか?」

「意味が分かりませんけど、」

「ならばそのまま絶望し続けるのか?」

「どうしようもないことだから仕方がないんだ。俺はどうあがいても過去には戻れない。それに社会であんな目をされたら俺は、もう生きてはいけない!あそこにもう、俺の居場所がないんだ!」

「剥がれ落ちろ。お前らは人を躓かせ、人の絶望を嘲笑し、人の心を惑わすラベルたちよ。」

 その途端、俺の中で何かが入れ替わった感じがした。そして、顔からあのラベルたちが浮き上がり、頑丈に貼り付けられて取れそうになかったラベルが、スッと落ち葉が落ちるように取れる、取れる。最初は口元。次は耳と右目。最後は左目で、全てのラベルが取れるのを見て、俺は驚愕する。


 と、いいところで俺は現実に戻り、

「私もそうなんですが、よく不運なことに会うとついつい心が焦ったり、不安になったり、恐怖になったり、絶望したりします。」

 店員1号は向かいに座って、俺と話しだす。もちろん、祈りは1分きっかりで済んだ。

「それで?」

「でも、私はそういうことになったら、とりあえず神様に感謝します。自分が生きていることに。生きているってことは神様が私にまだ何かの使命を託しているのだと思っています。それに、時に不運なことも、私たち人に何かを学んでほしいからあるのだと思います。つまりは人を私たちをもっと高みへと成長をさせるための架け橋です。」

「それは綺麗事だな。」

 まだ酒の入った瓶を手に取り、ゆっくりと傾ける。

「お前、朝はとくいほうか?」

「??」

「…ぃ。かえります」

 ささっと勘定を済ませ、俺は店を出る。

 今日の酒は一段とまずかった。

 きっとあの変な店員1号のせいだと思う。


 翌日、俺はいつもより早めに会社に出勤。上司も昨日と同じぐらい怒っていて、特に昨日とは変わらない。社内風景も職場の机もみんな昨日のまんま。

 書類の閉じてあるA4のクリアファイルと一つのUSBと一緒に俺は上司の机の前に立つ。

「おはようございます。昨日の件で、折り入ってお願いがあります。」


 その日、俺の行動力がなぜかすごいことになっていた。朝一番にプレゼンの内容を作成仕上げ、時計が8時を示すよりも先に上司のところに持って行く。そして、プロジェクト内で自分がいかに役に立つかをアピールした上、上司の指示に反する行動を取ると伝える。それでも無理ならば、このプロジェクトを徹底的にサポートするなどと、俺はいつにない大胆なことを言う。


 上司は最初は俺には応じようとしないも、最終的に俺は降ろされたはずのあのプロジェクトに再参加することを許可してくれることになる。

 オフィス窓から見える明るく晴れた朝の空を見て、歓喜の声を上げる。それとともに俺の心の奥底の絶望ラベルが希望ラベルに貼り変わるのを実感する。

 ()()()()()()

 この時、あなた(「俺」の立場になって)一番には誰に感謝したいか?

 1、叱ってくれた上司

 2、祈ってくれた店員

 3、夢の中の声の主


 ↓選びました選択肢の番号にお進み下さい。あなたの選択肢で「俺」は希望のエンドを辿るか、絶望のエンドに堕ちるかが決まります。

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