「不安と期待」
今日は卒業式。
気が付けば3年間の高校生活に終止符を打とうとしていた。
最後ぐらいはと、私はいつもより気合いを入れて身だしなみを整える。
毎日お世話になった制服に、感謝の気持ちを込めて。
『行ってきます』と母親に声を掛け、玄関に置いてある鏡の前で最終チェック。
服装、髪型よし。
そして、玄関を開けるといつもと同じ様に、彼がスマホを弄りながら待っていた。
「2分遅刻」
「ごめん、ごめん」
彼とは昔から仲の良い関係だけど、特別な関係では無い。
幼い頃から家が近所だったので、小学生の頃から一緒に登校しているだけ。
でも、それも今日で終わり。
明日からは春休みに入り、学校に行く必要も無くなる訳だ。
そして、4月からはお互い大学生。
私は地元の大学に進学するけど、彼は隣の県の大学に通う事になった。
ちょっぴり寂しい。
普段と変わらない雰囲気で私達は学校へと向かう。
そして、学校に着くと彼は友達の方へと走っていった。
昨日までは何も感じなかったのに、何故か今日は私の側から離れて欲しく無い気持ちが芽生えた。
どうしてだろう?
今まで経験したことの無い不思議な気持ちを抱えながら卒業式に望む。
中学生の時とは違い、卒業証書を取りに行くのは学年で成績が1番だった人のみなので、意外と早く終わった。
最後のHRも終わり、もしかすると、という淡い期待を込めてスマホの機内モードを解除し、メッセージを確認する。
しかし、彼からのメッセージは届いていなかった。
特に予定も無かったので、卒業式後の打ち上げには参加し、それが終わった頃には辺りは真っ暗になっていた。
打ち上げ会場を1人で出ると、彼の姿が見えた。
「どうして此処にいるの?」
「1人じゃ危ないからって、迎えを頼まれたんだよ」
「そっか、ごめんね」
「さあ、帰るぞ」
「ちょっと行きたい場所があるから付いてきてよ」
半ば強引に彼の手を取り、あの場所に向かう。
15分程度歩いて到着したのは、私と彼が出会った丘の上にある公園。
幼い頃、私が高学年の男の子達にからかわれていた時に、彼が私を助けてくれた場所。
それから、何度も彼が私を守ってくれて、すっかり私の中ではヒーローになっていた。
そして、困った時は彼に助けを求めていた。
だから、私の近くから居なくなる事に対して不安を抱いているのかもしれない。
「私ね、身近に頼れる人や友達が居なくなる事が不安なの」
彼に気持ちをぶつけると勝手に涙が溢れてきた。
「大丈夫だよ」
彼がそっと私の手を握ってくれた。
「実は俺も少し不安なんだよね」
「え?」
彼から意外な言葉が帰って来た。
「だって、友達とは違う進路を選択したし、1番仲の良い雪葉と離れるのも辛い」
「やっぱり祐介君も寂しいよね・・・・・・」
「でも、俺は大学に遊びに行く訳じゃない」
彼は少し声色を変えて言う。
「資格を取るために大学にいくから」
私はその言葉で大切な事に気づかせてくれた。
確かに、友達と離れるのは辛いけど、大学に通う大切な理由を忘れていた。
私は彼の目をみて、笑顔で告げる。
「やっぱり祐介君は私のヒーローだね」
「恥ずかしいこと言うなよ」
彼は私から目を逸らし、少し頬を染めて言った。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「わかった」
帰り道は、思い出話に花を咲かせた。
夜も深くなっていたので、彼が私の家まで送ってくれた。
「じゃあ、また明日・・・・・・、って明日は無いか」
少し冗談交じりでそう言うと、彼は私の手を強く掴む。
「毎日は逢えないけど、出来るだけこっちに帰って来るから」
「うん」
「俺が居ないからって昔みたいに泣くなよ?」
「泣くわけ無いじゃん」
「約束な」
「分かった、じゃあね」
彼に手を振り、家に入る。
「こんな遅くまで何処に行ってたの!」
リビングに入ると怒号が飛んできた。
「え、お母さん、祐介君に迎え頼んだんでしょ?」
「いや、頼んで無いわよ」
「え、嘘・・・・・・」
「これはペナルティーね・・・・・・」
「卒業式の日ぐらい許してよ」
掃除・洗い物等の家事を課されそうだったので、許しを請う。
「わかったわ」
機嫌が良かったのか、すんなり許してくれた。
入浴を終え、自室に入った私は、SNSアプリを起動して、彼とのトーク画面を開く。
『帰りが遅いってお母さんに怒られちゃった』
『心配して迎えに来てくれたんだね(笑)』
と、2つのメッセージを送り、疲れていた私はそのまま眠りについた。
4月――。
新しい生活の始まり。
少しお洒落な私服をきて、化粧にもチャレンジしてみた。
大丈夫、もう不安は無い。
だって、彼と約束したから。
玄関を開け私は新しい生活に脚を踏み出す。
約3ヶ月振りに新しい作品を投稿しました。
よければ感想・評価をお願いします。