ミリアル・フォーン
揺れた陽炎。
色褪せたブランコ。
禿げた草むら。
ここは色のない、透明な、そんな世界。
薄暗い建物の影で立っしている少女がこちらに手招きをしている。妖艶な笑みを浮かべていた。
これから己の身になにが起こるのか、理解した上で男は歩み出す。
一時の快楽に身を委ねることを咎める者はもう彼にはいなかった。もう既に皆消え去ってしまった。
どうすることもできず仕方がないから受け入れた。
干からびた地面は、歩く度にパキリと音立てひび割れた。
足元のものが壊れていく音はとても心地良くて、少し興奮した。
俺はなにを考えているのだろうか、男は刹那逡巡した。でも答えは出ない。
もういい。なんでもいい。
そう言って少女のもとへと辿りついた。
近くで見ると、少女はとても白かった。
血の通っていない幽霊のように青白いのではなく、エルフのように真っ白なのだ。
試しに彼女の頬に触れてみた。温かい。ちゃんと温もりがある。
少女が男に顔を見せた。美しかった。本当にエルフなのかと思う程に、愛らしかった。
少女は男に言った。
「あなたは私に色をつけてくれますか」
泣きそうな声だった。
心の底から沸き上がってくる感情を必死に押し留めているような、そんな表情をしていた。
男はうむと首を振る。
瞬間、少女はとても嬉しそうに笑ってくれた。