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星空の人魚姫

作者: CLoud

ある日突然夢を見ました。

自分が人魚姫になった夢でストーリーはその夢からきています。

あの有名な人魚姫伝説をご存知だろうか。

人間の王子に一目惚れをした人魚姫は声と引き換えに人間になれる薬をもらう。

人魚姫には三日の間に愛する王子と結ばれなければ泡となって消えてしまうという条件があった。

しかし、王子は隣国の姫と結ばれ、憐れな人魚姫は泡となって消えてしまった…。

誰もが知るこのお話。

ではそんな有名な童話には続きがあったとはご存知だろうか。

海と陸の国で、この伝説と似たような事が起こったのです。

それは偶然ではなく神様が作り上げた必然。

ではどんな話なのか、耳を傾けてみましょう。





波の音が聞こえる。


いつかのあの子もこんな自然の旋律を聞いていたのだろうか。


確かめる術など、今の彼にはあるはずもなく。


彼は探す。


まるで泡のように、精霊のように目の前から消え去った人を。


確かめたい。


真実を知りたい。


もしかしてあの日、僕を救ったのは





深い深い海の底。当たるはずのない日差しが照らす楽園。

色鮮やかな珊瑚の間を色とりどりの魚達が舞う。

海草は波に揺れ、イルカ達がおちゃめに遊び過ごす、奇跡の庭園。

どこからか美しい歌声が聞こえてくる。柔らかな少女の歌声は海底に大きくそびえ立つ、あの海の城から聞こえてくるようだ。

波に音符が乗り、軽やかに踊りながら海の民達の耳に届く。


「今日も気持ちよく歌っているね、シャロン姫様は。」

青い体に稲妻のような黄色い線が入った魚が隣の魚に言った。

すると隣の魚が応えた。

「その名前が似合う人は世界の海中探してもあの方しかいないだろうな。」


「そうだね。でもなんだかご機嫌がよろしいようだね、今日は特に。」

青い魚が一回転して機嫌が良い素振りをした。

楽しそうに会話を続ける魚達。


「聞こえたわよ!あなたたち。」

ひょこっとお城の窓から可愛い顔が覗いた。

魚達は驚き奇声を上げ、近くの岩の後ろにとっさに隠れたが、声の主を見て鱗を撫で下ろした。

フフフと愛らしく笑う少女は窓から飛び出して魚達の話に入ろうとする。


まったく、本当に悪戯が好きなお人だ。と魚達は思う。

しかし、悪意のある行為ではないため誰も彼女を叱らない。


「私の機嫌が良いって話していたでしょう?」

淡い珊瑚色の髪が水の中で揺らめき、彼女を包み込んだ。その後ろには勝ち誇ったような顔。

頭には立派なティアラがあって、光の角度を変え輝いている。

ズルリとティアラが額に落ちてきて、慌ててなおす。前髪を潔くかき上げると不機嫌そうな顔が見えた。

いつもいつも付けている場所が悪いのか、ずり下がってくるこのティアラに手を焼いているのだ。

ティアラを無碍にして時折窓から投げ、紛失することもある。それで彼女自身が窃盗だと騒ぎ始めるから大変。


魚達が鏡でティアラの場所を調節している彼女に聞いた。

「今日はどうしてそんなにもご機嫌がよろしいのですか?」

「もしかして気になる方でもできましたの?姫様。」

すかさずオレンジ色の魚が口を挟んだ。彼女はビックリ顔で両手をブンブン振り、否定した。

その魚は面白くないと、彼女の顔の前へ泳いでいく。

「では、何があったのですか?」

少女は肩をすくめて笑うと、「今日、あの作戦を実行するの!ドキドキしてしまって夜も眠れなかったのよ!」

自分自身を抱きしめてくるりくるりと水中をスピンする。魚達は顔を見合わせ、ああー!と納得。


「お父様は今日忙しくていないの。こんなチャンスは見逃せないわ。あなたたちも手伝ってね!」

きらりとした笑顔で笑った。微妙な顔で笑い返すのは魚達。

本心ではこの作戦を実行したくはなかった。

なぜならそれ相応のリスクを伴うからで、下手をすると彼女は消えてしまう。

誰からも愛されるこの少女にはそんな危険な事をしてほしくなかったのだ。

だが、こんなに楽しみにしている彼女に否定の言葉をかけられない。

誰もが知る人魚姫伝説。

そんなお伽話を彼女にしたのは他でもない、この魚達だった。

そのせいで彼女はその話の虜になり、人間に興味を持ってしまった訳で。

伝説では王子と結ばれることのなかった人魚姫が泡となり、消える。ハッピーエンドでもなんでもない。

なのに少女は興味を示し、人間界を見に行きたいと駄々をこね始めたのだ。

父親、この国の王は相当この話を嫌がり、彼女はおろか上の六人の姫達にも上へ行くことを禁じた。

今宵は厳しい王様がいないのだと言う。

伝説とはいえ、何か嫌な予感がする。そう直感した魚達は作戦を取りやめにする計画をひっそりと立てていた。

しかし、かなり早い段階で彼女は決行すると言い出し、彼らの思惑は脆くも崩れ去った。

今日この日である。


「しかし、姫様。はやりもう少し欠陥などを考えてからではないと…。」

青い魚は言ったが当の彼女は可愛い顔で睨みつけ、「そんなものはないわよ。手伝ってくれないならいいわ。」

魚達に背を向けた彼女。またぶすくれたよ…と魚達が機嫌をとろうとする。

顔を覗きこむと少女は焦った顔をして呟いた。

「ああ…お姉様達だわ…!私が部屋にいないことがばれちゃう!!」

ものすごい勢いで窓へ泳いでいく。長い桃色の髪が見えなくなったところでオレンジ色の魚がため息を漏らした。

「姫様は止められないわ。何も起きないよう祈るしかないわね。」

そう言うと、透き通ったヒレでお祈りを始めたのだった。




「あっ!おはよう、シャルリン姉様。」

髪にクシを入れているとまたティアラがずり下がった。

シャルリンと呼ばれた女性が彼女の側へ行き、ティアラをなおす。

「少しは姫の立場が分かってきたと思ったら…まったく。シャロンはいつまでも変わらないわね。」

苦笑いで妹の美しい髪にクシを入れる。

エヘヘと子供のように笑った彼女こそがこの国の末の姫様である。

長い珊瑚色の髪に愛くるしい顔。

陶器のように白い肌に、透き通るようなミントグリーンの瞳。

優雅だと絶賛されることもあるラベンダー色の尾ヒレ。

国一美しい歌声を持ち、誰からも愛されるシャロン。

しかし少々姫の自覚が薄く、お転婆で悪戯好きなのが困るところではあったが。

空想癖があって、夢中になると大事なことをすぐに忘れてしまう。



シャルリンはそっと妹の髪からクシを離すと大きな鏡に向かって笑いかけた。

キランと彼女のピアスが光る。

「今日はお父様がいないから少しだけだけど時間遅くなっても良いわ。内緒よ?」

イタズラっぽく言うと姉は部屋から出て行った。

その後姿に手を振るとシャロンはすぐさま窓から飛び出し、遠くへ泳ぎだしたのだった。



大きな海流を軽やかに交わし、回転しながらイルカと戯れ、綺麗な貝殻を拾いながら。

波に身を任せながらどんどん城から離れていく。

お城の陰も形もなくなった時、大きな影が彼女の頭上を通った。

鯨くらいの大きさの何かが悠々と水面を走っていく。

シャロンはその影に付いて行くことにした。それは彼女を更に安全地帯から遠ざける。

見覚えのある影の底。昔シャーレー姫と遊びに行った”ちんぼつせん”に似ている。

だとすれば、これは人間の物のはず!その期待はシャロンの胸に余るほど膨らんだ。


気がつくと彼女は知らない海をその影と平行して優雅に泳いでいた。時は既に夕刻で、橙色の海が太陽の光を反射させて黄金に輝いていた。

見た事もないその景色に心は弾み、右往左往に泳ぐ。

影は止まったまま動かなくなった。大きな岩の壁が見える。近くに寄りペタペタと壁を触ってみる。

これは行き止まりと言う事。もしかして一周してきてしまったのだろうか。

賑やかな音楽と人々の笑い声。まるでパーティでもしているかのように陽気なメロディーが流れてくる。

ほんの少しだけ、顔を覗かせるだけ。大丈夫、気づかれない。そう自分に言い聞かせてぎこちなく水面へ泳いでいく。

ビックリするほど自分の姿が良く見える水面は異世界への扉にも見えた。


太陽の光はシャロンにとっては明るすぎた。

眩しくて思わず目を瞑り、光の元に背を向ける。と目の前には巨大な”ふね”があった。

堂々とした”ふね”が。

興奮は最高潮へ。”ふね”から時々見える生の人間達。本当に水中じゃなくても生きていられるのね、と感心する。

更に彼女にはないものを人間は誰もが持っていた。そう、足である。

人により皆、違う足の形や履物をしていた。

大きな男の足には古そうなブーツが。すらりとした女の足には気品溢れるハイヒールが。

「素敵だわ!あれがあれば走れるのね。いろんな所へ行って、大地を踏みしめられる。」

息を呑む。

「いろんなものを履いて、お気に入りを見つけて…。」

憧憬に似た感情が彼女を支配し、時間も忘れ魅入った。


夜は更け、辺りは暗くなり、目の前の大きなお城に似た建物も煌びやかな明かりに包まれた。

シャロンは姉との約束も忘れ、ただ建物を見つめ続けていた。

そのお城のようなものからは音楽が聞こえ、楽しそうに談笑する人々。

建物は海と隣接していたため、大きな岩の壁はその建物のものと思われる。

シャロンは建物に近づいて行き、音楽に合わせて、その国一の歌声で歌い始めた。

一人夜の海でいるのは疎外感も感じられたが、それ以上に人間界に少しでも関わっているようで嬉しかった。

自分の声もいつもより透きとおり、砂糖より甘くハーモニーを奏でていく。

優しい音色がシャロンを舞い上げ、珊瑚色の髪が風になびいた。

このままずっと歌い続けたい…。

決して交えることはないけれど…。

こうして満足げに歌っていると、高い塔のバルコニーから物音がした。ビクリと体を震わせ、すかさず歌うのを止め、息を殺す。

バルコニーから誰かの顔がスッと見える。端正な顔立ちをした、立派な青年だった。

栗色の柔い髪はキチンと整えてあって、品格もある。ご大層な衣装を着ていて、黄金の飾りが煌く。

シャロンは濡れた目を大きく皿のように開け、その青年を見つめた。

自分が彼の中に吸い込まれていくような感覚と共に、彼女の心は騒いだ。

こんな感情は初めてだった。

何か、得体の知れない…でも心地よいものが一気に上がってくる。

世界が今までと違う。彼の周りだけが光っていて、どこにいても見つけられそうだ。

こんなにも明るいオーラを持っているのか、人間とは。

いつまでも見ていたい…そう、願った時。


「誰かいるのか!?」

その青年が声を荒げて海を見下ろした。

すぐさまお城の壁にくっつき、死角に逃げ込む。衝動が収まらず、心臓が音を立てて鳴った。

この音で気づかれてしまう…と本気で思うくらい、シャロンの鼓動は高鳴っていく。

お願いだから…見つからないで……!


そう願ったのを神様が聞いてくださったのか、青年は「気のせいか…」とまた空を仰いだ。

ハァァと吐息が漏れる。自分の胸に手を当てると信じられないほど心音が早い。

大きく深呼吸をして自分の心拍をなだめる。大丈夫、大丈夫とまじないをかけるように。

そしてもう一度彼を一目見ようと顔を上げるともう青年の姿はどこにもなかった。

安堵したような、でも少し残念なような…。複雑な気持ちが渦巻いていく。

ぐるぐると大渦のように回転を始めたその気持ちたちは埒が明かなく、シャロンは悩んだ。

ふと我に返ると夜もとっぷりと更けきっていて、ようやく姉との約束を思い出す。

シャロンの顔からはサアァァと血の気が引き、少女は焦りながら海へと姿を消した。

また明日も来ようと、集めた貝殻を海底に沈めながら。




キーンと耳鳴りがする。

昨晩夜遅くに帰り、六人の姉にこっぴどく説教された時の産物だ。

さらに父までもが帰宅していて、姉達に負けない気迫で叱られた。

これで懲りたかと鼻を鳴らした王だったが、シャロンは今夜も青年を見に行く予定である。

あの青年をまた、見たいという気持ちだけが彼女を動かしている。

平気よ。私だってもう子供じゃないんだし、全速力で泳げばすぐに帰れる。

そう自身で納得し、身なりを整える。

「シャロン。ちょっといいかしら?」ノックと共にシャルヴィ姫の声が聞こえた。

パッと出発予定だった窓を閉めて、鏡の前へ。肯定の言葉をかけると、一番上のシャルヴィ姫が入ってきた。

軽やかにシャロンの前まで泳いでいくと、彼女の肩を持ってベッドに座らせる。

そしてニコッと微笑むとこう質問を投げた。

「一目惚れ?」


一瞬頭の中が真っ白になる。

一目惚れ?それは一体なんですか?

時間差で顔が赤く染まった。自分の顔に手を当てるとほんのり温かい。

「私が…!?誰に?」

思いきりパニックに陥る妹を見てシャルヴィ姫はクスリと笑った。

「それは私のセリフよ。恋にも愛にもさほど縁のないあなたが一目惚れをしたのは誰?」

なにか色々突っかかるところがあるが…

今のシャロンにそこを気にしている余裕はない。

「一目惚れなんてしてないよっ!なんでそんなこと…。」

目が魚のように四方八方に泳ぐ。そんな様子を実姉は見逃さない。

自分でも自覚していないのかしら?そう感じられる言動。

しかし、明らかに動揺している。顔も赤いし、何より昨晩の様子がおかしかった。

何か、叱られているのに嬉しそうというか…人の話を聞いていないというか……。

まるで人形のように明後日の方向を向いてニヘラと笑っていたのだ。

ちゃんと聞いているのかと指摘すれば、目はこっちに向くものの、その先を見ているようで気味が悪かったもんだ。

「だって、昨日の様子がおかしかったんですもの。恋でもしたかと…。」

そんな姉の言葉を遮り、シャロンは口を小さく開いた。

「したかも…。」


え!?と耳を疑う。

この子の口からそんな言葉が出るとは夢にも思っていなかったから。

詳しく問いただそうと身を乗り出す。

一体誰が、この子の心を掴んだのか、ぜひ聞きたい。

だが、彼女はそれを聞く前に勝手にボソボソと話し始めてくれた。

「少し遠くにいてね…本当に素敵な人なの…。オーラが光ってる人なんて初めて見たわ。すごいよね、発光してるのよ?」

いや、多分それは誤解だ。

好きになった人は大抵他より輝くからそう見えるだけであって。

決して人自体が光ってるわけではない。そうだったらむしろ怖い。

「でも、あっちは私に気づかないの。話しかけられないし…でも今夜も見に行きたいなって思って……。」

話が進むにつれて瞳がキラめいたり、伏せたりと可愛い表情を見せる。

コロコロ変わるシャロンの話をシャルヴィ姫は真剣に聞く。

一通り話が終わるとシャルヴィ姫は、

「じゃあ、私も今夜は一緒に付いて行って、あなたの代わりに話しかけるわ。お父様には買い物でも何でも言ってね。私が付いているなら許してくれると思うのよ。」

と一つ提案した。が、シャロンは首を即座に振り、

「ううん!!付いてきてくれるのは嬉しいけど話しかけないで!お願い。」

と頭を下げる。

顔を歪めて懇願する可愛い妹にシャルヴィ姫は頷いた。

「分かったわ。それじゃあ見るだけね。」

シャロンの笑顔が花のように満開に咲いた。




一番星がとうに頭の上に存在している頃、シャロンはシャルヴィとあのお城まで来ていた。

貝殻を置いて帰って良かった…。でなきゃ辿り着けていなかったかも知れない。

なにせシャルヴィでさえ知らない海。彼は異世界に住んでいる。

自分の海よりかは遥かに透明度が低く、魚達もあまりいない。

そんな海のある世界に彼はいる。

シャロンは期待と不安、そして好奇心を心に詰めて水面から顔を出した。

バルコニーだけを、ただ一点だけを見つめてゴクリと唾を飲む。

シャルヴィは遅れて水面から顔を出し、そして妹の見つめる先に疑問を感じた。

え?どこを見ているの…?そこは人間界よ、人魚は生きられないわ……。

瞬時にシャルヴィを焦燥が飲み込んだ。

まさか………シャロンの想い人って…。

ドクン

大きな心拍が聞こえ、その音は海に木霊し、海域全体が揺れた気がした。

海に潜ってシャロンの細い腕を掴むと海へ引きずり込む。

シャロンはいきなり何をするのと姉の手を優しく振り払った。そしてまた上へ泳いでいこうとする。

「人間なの?」

良く通る声が響いた。

辺りには誰もいない、静かな海が広がっている。

ビクッと自分の肩が震えた。

勘の良いシャルヴィ姉様のことだから大方予想はつくと思っていたけれど、まさか直球で聞かれるなんて。

どう答えていいのか分からない。

だけど、この人にだけは嘘をつけないと知っている。

「そう。」

呟くように、本当のことを言った。



彼は中々現れない。というかまったく出てこない。

今日は現れないのかな。

星空を眺める気分じゃないのかな。

祈るように両手を合わせ、それでも瞳はまっすぐ彼のいるところへ向ける。

シャルヴィはさっきから一言も話さず、じっと側にいてくれる。

相手が人間と答えた、あの瞬間から口をかたくなに閉じている。

ごめんなさい、姉様。でも、どうしてもこの気持ちは彼にあると思うの。



どのくらい経ったか、二人には知る方法もない。

ひたすらにお城を見ている妹に帰ろうなんて声をかけれず、シャルヴィも辛抱強く待った。

夜の人間界は冷えて、海の方が暖かかった。

ビュゥゥッとたまに吹く風が肌に突き刺るのが痛い。

丸い月が「いつまで待っているつもり?」とこっちを見て笑っているように感じられる。

相も変わらず賑やかな人間達。

美味しそうな食事の匂いや愉快な音楽。

明るい光が色とりどりに灯り、お城は幻想的な雰囲気に包まれている。

これ以上はいられない。

父も帰りが遅い自分達を不思議に思うし、第一こんなの耐えられない。

大好きな妹の為と思って今まで待っていたが、シャルヴィにとっても限界だった。

どうしてあんな楽しそうな人間達から疎外されてまで、出てくるかも分からない知らない人を待たなければならないのか。

大体相手が人間とはどういうことなのよ。

あの種は、私達の仲間を食べるのよ!?

そんな事、もう分かりきってる筈なのに…まだ人間達を好きでいられるの?

何故……。


扉が豪快に開く音がした。

瞬時にシャロンの瞳が星空よりも輝きだす。

期待のこもった息が、ハッキリと隣から聞こえてくる。

「来た…。」そう嬉しそうな声で言った。

しかし、人間は出てこない。

シャロンが曇った顔をし、今度は落胆のこもった息が聞こえた。

今日は見れないのね。

そう顔を沈ませた時、その代わりにと一枚のビラがバルコニーから舞い降りてきた。

左右に揺れながら、だが確実に海へと落ちてくる。

シャロンは尾ヒレで海水を強く蹴り、水中から勢いよく跳躍しビラを手に取った。

少し欠けた月にシャロンのシルエットがくっきりと映り、緩やかなカーブを描く。

ポチャンと小さな音を立てて海へと消え、シャルヴィも後に続く。

シャロンは岩陰に隠れ、ビラを読んでいた。シャルヴィが声をかけても、ブツブツとビラを読み上げるだけで人の話を聞いていない。

「明日の夜…アレク王子の花嫁を…決める……?」

瞳孔を開き、ビラを持っている手をワナワナさせて。そしてそのまま真っ白な彫刻のように動かなくなってしまった。

尋常ではないその様子に呆れ、シャルヴィはビラをひったくると冷静そのものに読み上げた。


「明日の夜、アレク王子の花嫁を決めるための舞踏会が行われる。

年頃の娘は身分問わず必ず全員、アントニオ王の城へ参られよ。」


意味を理解し、妹を見つめる。

嫌な予感がした。

咄嗟にビラを握り締めてビリビリに破ろうとする…

が、できなかった。

彼女は陸では生きられない人魚であって、王子と結ばれることなんてあり得ない。

破らずともこの子が人間になれる術などないのだから。

王子には彼に見合った相手が出てくるだろう。

そうすれば、この子も諦めがつく…。

クシャクシャになったビラを妹に返し、優しくなだめた。

「仕方ないわ。彼の幸せを祈りましょう。」

半ベソになりながら彼女は頷いた。




「ここであっているのかな…。」

舞い上がる煙と大きな海底火山のある不気味な海を、華やかな少女が泳いでいる。

ボコボコ噴き出すマグマや黒い視界が彼女の不安を駆り立てた。

よくこんな場所に住めるわね。私だったら耐えられないわ…。

と独り言を言いながらずんずん進んでいく。

しばらくすると大きな鯨の残骸がぼんやりと見えた。

白く白骨化してはいるが、生前は立派な鯨だったのだろう。

そんな大物の腸に、例の魔女が住んでいるという噂。

魚達がお城の前でいつものように井戸端会議をしていて、その話題があがったのだ。

シャロンはすぐさま飛びつき、場所を教えてもらった。


「そうよね。あの人魚姫伝説では魔女にもらった薬で人間になるのよね。」

そろりと鯨のがっぽり開いた口を覗き込む。

すると、

「可愛い娘よ。怖がらず、入っておいで。」

奥の方から響き渡る美しい女の人の声。

魔女ってなんか年季入っているイメージあったけれど、思ったより若そう…。

シャロンは少し安心してゆっくり口から中に入っていった。


尻尾までいっていしまうんじゃないかというほど長い鯨の体を通る。

突然開けた場所に出た。腹の部分だった。

奥の椅子に誰かが鎮座している。恐らくは、魔女。

ニコリと優しそうな笑顔を向けるとシャロンの方へ徐々に近づいてきた。

シャロンが反射的に後ろへ下がると「怖くないから。大丈夫。」と声をかけてきた。

綺麗な人だな、とシャロンは思った。

真紅に染まった長い髪に、全てを見透かす青い目。

真っ白な肌に赤い尾ひれをゆらんと揺らす。

シャロンが見つめていると魔女はまた声をかけた。

「それで、お姫様。今宵はどのようなご用件で?」

首を傾げた魔女に我に返るシャロン。

「あっ!えっと…私。」本題に入ろうとすると魔女は静かにシャロンの口に指を当てた。

「うふふ。本当は言われなくても分かっているのよ。人間になりたいのでしょう?」


ドキン

胸が高鳴った。

この人には全て分かっているんだ。凄いなぁ。

「そ、そうなんです。に…」

「人間の王子様に恋をして…今宵彼の舞踏会に行きたくて……。なんだか聞いた事のある話よねぇ。」

代弁するように魔女が続けた。

さらに胸が躍った。

話が分かるじゃない。

「はい。もうあまり時間がないんです。だから…」

寸止めにするようにニヤッと笑った魔女は大きな棚へ泳いでいった。

白い棚を開けると色とりどりの液体が入った瓶が所狭しと並んでいて、今かと使われる機会を窺っている。

魔女は黄色い液体と緑色の液体を両手に持って、話し始めた。

「シンデレラってお伽話を知っているかしら?意地悪な継母やお姉さんにいじめられたシンデレラが魔法使いの力によって舞踏会に行く話よ。」

え?とシャロンが顔を上げた。シンデレラ…?

「だけど魔法は十二時で切れてしまう。シンデレラは急いで逃げたためにガラスの靴を落としてしまったわ。

その靴のおかげで王子はシンデレラを見つけ出すことが出来たの。素敵な話よね。」

次に赤紫色の液体が入った長い瓶を小脇に抱え、それを巨大な壺の中に放り投げた。

今度は魔女は茶色い棚へ行き、なにやら本を読んでブツブツと唱え始めた。

忙しなく泳ぐ魔女は作業を続けながら、言葉も続けた。

「私の魔術に制限はないわ。私自身が魔法を終わらせることが出来るの。」

長くなりそうな説明にシャロンはソワソワし始めていた。

時間は大丈夫なのかな?まだ始まっていないよね…?お願いだから早くして…!!

拳に力が入りキョロキョロと挙動不審。

「条件次第では人間にしてあげるわ。純情な姫様を助けると思って。」

最後にオレンジ色の薬を壺に放り込む。するとなんとも不気味な紫色の煙が立ち込め、シャロンはむせた。

魔女は壺からキラキラしたオレンジ色の液体を掬うと、星の模様が入った透明なビンに注いだ。

ゴクリと唾を飲み込んで、口を開く。

「それを飲めば、人間に……。」

「慌てても良いことはないわよ、姫様。まずは条件を呑んでもらわないと。」

またもや喰い気味に言われ、ムッとする。

「条件?そんなの、王子様に会えるなら何も怖くないわ!!」

強気に言ってみた。魔女は鋭い目つきに変わり、雰囲気がガラリと変わった。

「本当に?もしあなたが死ぬことになっても?」


え……?

死ぬ…?

えっだって…どういう意味?

死んだら王子様に会えないジャナイ…。


「もちろん、王子様に会う前に死んだりはしないわ。だけど、この薬は強力なのよね。飲めば五日後の夕刻には泡になって消える。」


消える…?


「人魚から人間になるのは、とても難しいのよ、お分かりかしら?」

キエル…?

「とまぁ、私もそこまで鬼じゃないわ。だからノルマをだしてあげる。」

「ノルマ………?」

息が荒くなったシャロンを満足そうに見る魔女。

可愛いわね、本当に。早く傷ついた顔を見せて。

「そう、もし五日以内に本当に大好きな王子様と結ばれなければ…っていうのはどう?」

結ばれる…?王子様と?

顔の体温が一気に上昇するのを自分で感じた。

「結ばれれば…いいの?」

頬を両手で包みながら魔女に確認する。

「そうね。結ばれたなら姫様はもう永遠に人間のまま。だけど、駄目なら泡になる。」


悪魔のような契約から少し時間が経ったようで。

シャロンはよくよく考え悩み、決心をつけた。

「いいわ。それでいいから早く薬を…!」

手を差し出したシャロンに魔女は首を横に振る。

シャロンは焦っていた。

「それで?姫様が自分自身で一番自慢に思っているものは何かしら?」

いきなり問いかけられ、シャロンはドキンとした。

そして考える。

自慢に思っているもの……?どうして?

何も浮かばなくて、時間は過ぎていって、焦りが生じ汗が出る。

舞踏会が始まってしまう…!でも答えを出さないときっと薬はもらえないわ。

ふと頭を真っ白にしてみる。

純白の頭から最初に浮かんだものは、

歌声だった。


「声……。声でどう!?私の歌声は国一とも言われているの。答えは言ったわ。早く薬を頂戴!」

焦燥の表情が窺える。

そうねぇ、この子の歌声だったらきっと国一どころか世界一。それだったらこの薬に相応しい代償ね。

魔女はわざと薬瓶を自分の影に隠し、指を立てた。

「それじゃあ、声をもらうわ。といっても時間がかかるから…」

ハッとした。

「それはダメッ!早く行きたいの!!」

縋るような瞳を魔女に向け、ジリジリと近づく。

「ええ。分かってるわ。だから声の交換は後日にしましょう。」

「え?」

一瞬きょとんと固まった。

「そうねぇ、三日後の夕暮れにしましょう。王子の城から一番近い砂浜で声をもらうわ。」

そのときのシャロンには舞踏会の方が大事で。

ろくに話も聞かずにうんうんと大きく頷いて見せた。

早く、早く。どの娘よりも早く、会いに行きたい!

その感情だけが彼女を動かしていた。

催促するように手を魔女の持っている薬へと出す。

魔女はやれやれといった感じで薬をシャロンに手渡した。

シャロンは瓶を受け取ると何の躊躇もせず、全て一滴残らず喉へ流し込んだ。



重いまぶたを開けると満天の星空。

大小全て違う星たちが誰が一番輝けるか競争している。

漆黒の中の光。

それは彼があの日仰いだ空によく似て…。

「私っ、一体!?」

尾ヒレの感覚がおかしい。というよりはない。

感覚がない。

恐る恐る目線を下に下げると、見慣れないものが自分の下半身に繋がっていた。

そう、あれほど望んでいた…

足だった。

「あっ…足が……私はじゃあ…」

人間。

嬉しさと不思議さが交じり合い、混乱してくる。

てことは人間になれた?念願の、あの人間に……?

魔女の力を信じていなかった訳ではないがいざ人間になれたと思うとパニックになってくる。

あの人に会える?そう、そうだ。だって、足があるのだから!

この足でどこへでも行けるんだ。あの人のところへも行ける。自由に、どこまでも。

ふいに体が軽くなった気がした。フワリと立ち上がる。

どうやら波打ち際に寝転んでいたらしく、足を冷たい海水が「早く行け!」と催促している。

いつのまにかシャロンは美しく上質な、この空のように光り輝く、素晴らしい藍色のドレスを身に纏っていた。

ところどころに煌く宝石がまるで星のようで、シャロンは有頂天になりドレスを広げてみせた。

大きく広がったドレスは見たこともないような素敵なもので、自分にはもったいないくらい。

藍色と青のグラデーションが特に美しく、艶やかだった。

はぁぁと息を漏らして、気づく。

「あっ、早く行かないと!もうとっくに始まっているわ!!」

そう。彼女はどのくらいその場に横たわっていたのかを知らない。

既に舞踏会は始まっており、もう王子の花嫁となる娘も決まっているのかもしれないのだ。

急いで立ち上がると一瞬フラリとよろけた。

すぐにもう片方の足でバランスを保ち、歩くのに慣れようとする。

これじゃあすぐには走れない…!

一刻も早くお城に行かなくちゃ行けないのに……!

砂浜の細かい砂が足裏に引っ付く。上手く歩けず、モタモタとしている。

あれ?どうして”くつ”とやらを履いていないんだろう?

人間は皆履いていた。誰一人裸足の人はいなかった。

”くつ”が無ければ、お城に行けない!

思いがけない事態にシャロンはオロオロと周りを見渡すだけ。

「くつは!?何でドレスは着ているのにくつがないの!?」

焦ってくるくると浜辺で”くつ”を探す。

どこにもない…。あの人に会いに行くのに、くつがないなんて…!


「あのぅ。」

「ひゃっ!?」

不意に背後から声をかけられ、ビックリしたシャロンは砂の上に膝をついてしまった。

素早く後ろを振り返ると、ある青年が佇んでいた。

銀色の髪はボサボサ。まったく手入れしていないようで。

大きく見開かれたスカイブルーの瞳は透明度があるのかシャロンの姿が映っていた。

肌はシャロンに負けないくらい白くて、月明かりに照らされ、真珠みたいだ。

可愛いような、そんな顔立ちをしていて、シャロンは男と知りながらも見惚れてしまう。

しかし、着ているものに品は無く、ボロボロのくたびれたシャツにヨレヨレのベスト。

ズボンなんて穴が開いていたり、色褪せていたり…。だがまくったズボンから覗く白い足が魅力的。

汚い色のブーツを履いていて、シャロンが見た人間の中で一番貧相に見える。

そんな容姿に似合わない端正な顔。

「どうかしましたか?」

首を傾げて尋ねる青年。ボサボサの髪が夜風になびいた。

「あっ…くっ…くつを失くしてしまって……。」

咄嗟に嘘をついた。これが嘘なのか、シャロン自身にも分かっていないが。

本当にくつを元々持っていなかったのか、それとも波に流されてしまったのか定かではない。

青年の質問に答えた直後にそう思った。

「それは難儀ですね。僕も一緒に探しましょう。」

そう言うと青年はほそりとした足を動かして、海岸へ歩いていった。

その後姿を見て、シャロンは思った。

ああ、海がよく似合う人だな…


真剣に探し始める青年に負けじとシャロンも砂をかき分ける。

すると、近くで鐘の音。

これは、まさに舞踏会が終わりを告げた音だった。

頭に響くような大きな音にシャロンは唖然。

「え…」

青年は顔を上げ、シャロンに聞いた。

「そういえば、アレク王子の舞踏会に行く予定では…?年頃の娘は身分問わず必ず全員って…。」

そして訪れる沈黙。

「まだ間に合うんじゃないですか?今鳴ったばかりだし、そんなすぐに時間通り終わらせることってあんまりないんですよ。」

青年が親切に教えてくれる。シャロンは希望を捨てず、彼に笑いかけた。

「そっそうだよね!?くつなんていいわ!それよりあの人に会わないとっ!!」

青年の胸が少しだけドキンとした。

シャロンは走り出す。もうよろけない。

夜の浜辺を全速力で、あの人の元へ。

その後姿を見送ると青年はまた靴を探し始めた。




「散々だったな…。良い娘はいなかったし、嫉妬をした隣国の姫が暴走するし…。」

はぁ…とため息をつくアレク。

今宵の舞踏会は嫌な思い出になりそうだ…。

何か嫌なことがあると星空を仰ぎたくなるのは彼のクセだ。

アレクは即座にバルコニーへ早足で向かい、バンッと乱暴に扉を開けた。

風が運んでくる塩の匂いと満天の星空。それが反射した静かな海。

彼の一番好きな時間が始まった。

何もかも忘れて、この風景を見つめる。なんて素晴らしいんだ。

水を差すように老いた召使が声をかける。

「今宵の舞踏会に、王子様のお目がねに叶う女性はいなかったようですね。」

コポコポと温かい紅茶を注ぐ音。王子は振り返らずに言った。

「ああ。結婚をしたいという願望はあるんだが、どうしても妥協はしたくないんだ。運命の人を見つけるまでは…。」

「ふぉっふぉっ。いつか、現れますよ。気長に待ちましょうぞ。」

召使は静かに紅茶を王子に手渡し、一礼をしてから音も立てず出て行った。

紅茶を飲みながら目を瞑る。

いつか…か。それは、何年後になるのかな。

自虐的な笑みを浮かべ、ふと浜辺を目を落とすと

「ん?誰かいる…?」

こんな夜更けに女性が浜辺を走っている。珍しいこともあるなぁ。

しかし、それよりアレクを注目させたのはその娘の美しさだった。

もう夜は更け、辺りは暗闇に閉ざされている。それなのに闇黒の中で栄える珊瑚色の髪。

この真っ暗闇に冴える藍色のドレス。

全ての闇を、影を見通す大きくて透明な瞳。

そんな少女の全部に吸い込まれそうになって、アレクは声をなくした。

「美しい…。」

そう、ボソリと独り言を呟いた。

だが、変だな。あんなに僕を魅了する人がこの国にいたか?

誰もを惹きつけるような、存在感のある娘がこの国にいたか?

大体年頃の娘は全員今宵の舞踏会に来ていたはずである。

僕が、この僕が見落とすはずがない。僕が、気づかないはずがないのだ。

では何故、僕は彼女を知らない?

舞踏会の序盤で娘は全員自己紹介を、この僕の前でしたんだ。

どんな娘でも、僕は覚えている。あんな子はいなかった。

いなかったとしたら…来ていない!?

「セドリック!!直ちに戻れ!!」

アレクは声を荒げ、召使を呼んだのだった。



はぁ…。

疲れる…、目の前にあるはずのお城がこんなにも遠かったなんて。

裸足は砂に埋もれながらも前へ進んでいく。

まだ、終わっていないよね?

淡い期待と興奮で彼女は足を早めていた。

もうすぐで、着くはずだわ…!

そう、思った時。

「そこの娘!!王子がお呼びだ。直ちにこちらへ来るんだ!!」

大きな声と共に現れたのは鈍く光る銀色の鎧で武装した人間達だった。

シャロンは走るのを止めて、ただ立ち尽くした。

「えっ?そこの娘って…私のこと?」

自身に指を差し、尋ねる。先頭に立った男と、側にいた年老いの男が頷く。

「手荒な真似はしません。アレク王子があなたにお会いしたいと。」

年老いの男の方が優しく告げた。

一瞬理解が遅れたが、シャロンは嬉しそうに笑って返事をした。

そのなんと華やかなことか。



まだか……セドリックは何をしている?

ソワソワと落ち着きが無く部屋をうろつくアレク。

立ってみたり、座って考え込んだりと忙しそうだ。

廊下からセドリックの声とハイヒールの足音が。

来た!?

金色の装飾が入った扉がゆっくりと、まるでアレクを焦らすように開く。

堪え切れない待望を胸に息を呑み、ジィッと扉の向こうを見つめる。

先に見えた人物はセドリックだ。その後に続いてきたのが、まぎれもない

彼の待ち焦がれていた少女だった。


大きく濡れた瞳を一層輝かせてアレクを見ている。

アレクの愛する星空をモチーフにしたドレスに身を包んだ、なんとも美しく可憐な少女。

珊瑚色の長い髪が、艶やかなその顔立ちが、華奢で白い体が。

並外れた少女の麗しさがアレクを未知の感情へ引きづり、支配した。

「ありがとうセドリック。席を外してくれ。」

セドリックは何も言わず部屋を出て行き、扉を閉めた。



見つけた。見つけたんだ、あの人を…!

今、私の目の前にいる。

手を伸ばしても、届くことはなかった筈の人。

今は、触れれる。感じられるんだ…。

光り輝くあなたを……

シャロンはアレクを見つめ、この現実の幸福を噛みしめた。

ねぇ、私はあなたに会いたくて、命を懸けたのよ。

しかしいざ対面してみると何を言えば良いのか分からない。大体シャロンは何故ここへ呼ばれたかも知らない。

彼はゴホンと咳払いをすると、ニコリと笑ってあちらから話しかけてきた。

「あなたを…ここへ呼んだのは他でもない。今宵この城で行われていた舞踏会に来られなかったでしょう?」


シャロンはボーとしていて、アレクが話しかけたことに気づかない。

ん?聞こえていないのか…?

アレクはスタスタとシャロンに近づいた。が、なんの反応も示さない。

顔をズイッと寄せて、「どうしましたか?」とさらに尋ねた。

やっと焦点が合った少女の目。色があるのに透明のようで、澄み切った聖水みたいだ。

「ひゃっ!!」

驚かせてしまったのか少女は顔を隠し、後ろへ身を下げた。

フワリと揺れた髪から良い匂いがした。

「あの…。驚かせてしまってすみません。考え事でもしていましたか?」

心配そうに見つめられ、シャロンは急いで首を振り、否定した。

「いっいえ…!申し訳ありません。質問をもう一度お願いします!」

ペコリと頭を下げた少女の言動が可愛いな、とアレクは小さく笑う。

「今宵の舞踏会に来られなかった理由などはおありですか?年頃の娘は身分問わず必ず全員と書かれたビラを見なかった…とか。」

「すみません。急ぐ努力はしたのですが…実はくつを失くしてしまって…。」

ショボンとしょげ返る少女にアレクは小さな疑問を抱く。

「それでは今お履きになっているものは…?」

カツッと軽快な音を立てて鳴る白いハイヒール。少女はドレスの裾を上げ、自分の足を見下ろした。

「これは、セドリック様に拝借したのです。恥ずかしながら裸足だったもので…。」

眉を下げて笑う。そんなコロコロ変わる表情に惹きつけられたのは言うまでもない。


「そうでしたか。ところで、あなたはこの国に在住しておりますか?」

椅子へ座るよう勧めてシャロンをエスコートしながらアレクは質問を続けた。

シャロンは気品ある姿勢で椅子に腰掛け、質問に答えた。

「はい。この国の郊外に父や姉達と暮らしています。姉達は既婚者なので、舞踏会には…。私だけが参加しようと思っていました。」

私、ナイス嘘。と心の隅でガッツポーズ。

「そうですか。いやぁ、あなたみたいに綺麗な女性を僕は初めて見ましたよ。それで、ここへ呼んだのです。」

ストレートに綺麗と言われてシャロンは素直に喜んだ。

それも二度目のガッツポーズをしてしまうほど。

もちろん人魚だった時も綺麗だの可愛いだのは腐るほど言われたが、好きな人に言われるのが一番だと思う。

謙遜しながら用意された紅茶を一口。

ああ、楽しい。

私…彼とずっとこうして話したい。

だが、何かに気づいた素振りを見せた後、見る見るうちにシャロンの顔は曇っていった。

そういえば、会えたのは良いけれどもう相手がいるんだよね。

そうだよ。舞踏会は終わっているし、もう花嫁だって決まってしまっているんだわ。

自分に言い聞かせながら泣きそうになる。

結ばれなかった。魔女に魂を売って、手に入れたこの足も…無駄だったんだ。

一度そう思うと、その思考から逃げれなくなる。

私、泡になるんだわ。そうよ、もう彼の側に入れない。いたくない!

シャロンは涙を引っ込め、気持ちを整理させると切り出した。

「今更私がここにいても仕方がありませんね。お相手は決められたようですし、私はお暇いたしますわ。」

カップを置くと、すくりと立ち上がったシャロン。

そんなシャロンの行動に焦ったのはアレク。

ガタリと椅子を唸らせ、カチャリとカップを揺らし、手を伸ばし少女の細い腕を掴む。

「お願いです待って下さい!そう急がなくても良いでしょう?」

掴まれた腕から伝わる体温。その温かさにまた、無駄な希望を持ってしまいそうで。

しかし、もう相手がいたのだ。これ以上彼の側にいれはしない。

というより、いたくなんてない!

「いつまでも王子様の幸せを願っていますので、私は帰りますね。」

眉を下げて笑う。だが、先ほどの笑顔とは違う違和感を覚えた。

悲しんでいる気がする。アレクは困ったようにため息をつくとシャロンにこう告げた。

「僕の相手は今、決まったんです。


あなたですよ。」


ブワアァァ……と甘い風がシャロンの心を通過した。

天へ昇り、消えていったその甘風は、彼を初めて見た時と同じもののよう。

世界が暖色で覆われ、異世界に迷い込んだ錯覚を起こさせた。

その世界に呼んでくれたのは…あなた。




温かい日差しとフカフカのベッド。

心地よくて寝返りを打った。コンコンと誰かがノックをする。

眠たげな声で許可を下ろすと一人のメイドが笑顔で入ってくるのが見えた。

「シャロン様。清清しい朝でございますね。朝食のご用意が出来ておりますので…。」

おだんごに結った髪が可愛らしい、幼いメイド。

エプロンの結びがあまく、今にも取れそうだ。

シャロンはおもむろにベッドから下りるとメイドの側に寄り、エプロンを結びなおした。

「あっ。ありがとうございます!」

顔を赤らめてお礼を言うメイドの手には絹のように繊細なワンピースが。

「今日はこれを…。シャロン様を見た時からこの服が一番よく似合うと思っていたんです。」

そう言うと、メイドはシャロンの着替えの準備に取り掛かった。




お城にいるのか?いや、そうとは限らないよな。

一人、お城の前で佇む青年がいる。両手に大事そうに抱えた真珠のような靴。

右往左往しながらあの少女の手がかりについて考える。

昨晩、お城に行ったことしか分かっていない少女の事を。

だとすれば、城の者に聞けば何か分かるのか?

迷っていても仕方が無い。気づかれる事もないだろう、きっと。

いや、気づかれたらこんな自由な生活も終わってしまうわけだが。

ううん。彼女にもう一度会う事の方が大切だ。

決心を固めた一人のボサッと頭の青年が、門に立っている兵士に声をかけた。



着替えが済んだ頃、新たなメイドが扉越しにシャロンにこう聞いてきた。

「シャロン様。あなたに面会したいと言う方がいるのですが……どうしますか?」

面会?私に……?

この世界に私の知り合いなんていないはずなのに…。一体誰が…?

昨晩を思い出してもしかして、と思う。

「ええ、いいわ。ホールに行けばいいのねっ!」

走るようにホールへ向かうシャロン。

そんな様子が愛らしいとにこやかに笑うアレク。

そしてアレクもシャロンの後に続いた。


ホールには緊張しているのか固まっている青年がいた。

ボサボサの銀髪に乏しい服装、スカイブルーの瞳に整った顔立ち。

やっぱり、昨日会ったあの人だ!

喜びと嬉しさで微笑みながら大階段を駆け下りる。

それはまさに、天使が天から舞い降りてくるような。

青年の胸が大きく、それは大きく高鳴り、心臓が爆発しそうになった。

無邪気な子供のように…僕に笑いかけてくれる。そんな君に…僕は………。

「また会えて本当に嬉しいわ!来てくれてありがとう!!」

青年の汚れた手を掴み、眩しい花の笑顔を真っ直ぐ向ける。

青年は見る間に赤面しだして、言葉を詰まらせた。

「はっはい。あの、僕昨日…あなたの失くした靴を見つけたので……届けに参りました。」

青年は胸に抱えた靴をシャロンに見せると可愛い顔で綻ぶ。

パアァッと満面の顔になると思っていた。彼女のそんな顔が見たかったから…。

が、少女が見せたのは青年の予想とは反対の困惑顔だったのだ。

「えっ……。どうしてこれが…。」

少女の顔の意味が分からず、首を傾げる青年。

あれ?全然喜んでない。おかしいな……浜辺に落ちていたからてっきり彼女のものだと…。



変だよ。靴を失くしたって言うのは嘘に近い事だもの。

最初から靴なんてなかったんだと思っていたし。

ドレスと同じで貰ったのなら、履いていたはずだもの。それじゃあ、この靴は誰の…?

「えと…。これは、あなたの靴ではないのですか…?」

落胆した顔で尋ねられる。せっかくここまで届けてくれたのに、違うなんて言ったら…。

シャロンは靴を手に取り、硬い表情を解いた。

「これは正真正銘私が失くした靴だわっ!!本当にありがとう!!」

そんな君に…君の笑顔に僕は………。

心を惹かれたのです。

やっと青年の顔にも嬉々たる表情が戻ったのだった。




「申し遅れました。僕は…ディラン。以後お見知りおきを…。」

深々と頭を下げ、銀髪が顔を隠す。

「ディランか…。聞いた事のある名だな……確か隣国の第二王子と同じ名だ。」

ふむ…と顎に手をあてるアレク。

隣国といえば昨晩の舞踏会で癇癪を起こした姫様の生国だ。

ディランと名乗った青年は冷静に「そうですね。同じ名です。僕はこの国のしがない釣り人ですがね。」と応える。

「そのようだな。僕のフィアンセの靴をわざわざ届けてくれてありがとう。心からお礼を言うよ。」

ん?

今…なんて言った……?

「あなたのおかげで私達婚約する事になったの!本当に感謝をしているわ。ありがとう!!」

フィアンセ…婚約…。

それはディランの心を粉々に砕く言葉の羅列だった。

「いえ……僕は当然の…ことを……した…までです…。」

言葉を上手く繋げられない。呼吸がどんどん荒くなる。

想いを寄せていると自覚した途端に突き刺さる現実。

愛が芽生えたと気づいた途端に募った不安と絶望。

この子は舞踏会に行く予定だったのだ。

王子の花嫁への道を少しでも歩むために。

最初から僕に希望なんてない。

振り向きもしない。

分かった上で避けてきた事実。逃避していた真実。

それが、彼女の言葉によってやっと、ようやく現実味を帯びたのだった。

「私はシャロン。時々でいいから、またここに来て話しましょう!」

まったく嬉しくない誘いに怒りすら沸く。

「ええ、是非。こんな身分の僕でよろしければ…。」

全然よろしくない。

偽りの言葉と笑顔で彼女に向き合う。

一刻も早く、この場から逃げ出したかった。

しかし、嘘が上手くなったな…としみじみ思う。

本当の自分を隠して、内なる思いを秘めて笑顔を取り繕うクセでもついてしまったんだな…。

兄さんのように。

それが嫌で、逃げ出したって言うのに…。持ってきてしまうとは。

でも、それで今助かっている…。たった一つの僕の特技だ。




あっという間に二日が過ぎた。

楽しかった、幸福しか味あわなかった、最高の日々が。

一瞬で崩れ、崩壊したのは四日目の夕刻だった…。

それは、シャロンの欠点により生み出された不運。

全てを忘れ、楽しんだ三日目の夕暮れは血のように赤く、美しく。

そして、悲劇の前触れ。


さぁ、第二の人魚姫伝説はすでに起承転結の転まで進んでいます。

誰かの手によってしかれたレールを今まで辿ってきた人魚姫。

また、あのような終焉が起きるのでしょうか…。

もう少しだけ、耳を傾けたままでいましょう。






「あの娘…!!不幸がなんなのか…思い知らせてやるわ!!」

荒ぶった一人の女が狂気に満ちた顔で叫ぶ。

「幸福から一気に不幸せな世界に落としてやるわよっ!!」

様々な液体の入った瓶を粗略に壺へ放り込んで、薄気味悪く笑い声を発する。

「死ぬ前に人生最悪の思いをさせてやる!!全てが上手くいくなんて思うなよっ!!」

オレンジ色の煙が立ち込め、その背後に写るシルエット。それはまるで

魔女のようであった。




四日目の朝も平凡にやって来た。

いつものようにメイドが用意した淡い緑色の可憐な服を着る。

髪の毛をセットしながら鼻歌交じりで機嫌がいい。

お気に入りのパンプスを履くと、彼女は部屋の扉を開けた。


婚約してからもう三日経っていた。

幸せとしかいえないような日常。なんて素晴らしい人間の世界。

夢にまで見たあの異世界に、自分も溶け込んでいる…。

これでもない幸せを噛みしめながら彼の待つ部屋へ急ぐ。


「おはよう、アレク。」

アレクはネクタイを結びながら朝の挨拶を交わした。

「おはようシャロン。今日は何かしたいことがあるって言っていたけど…。」

「えへへ!あのね、今日は浜辺でのんびりしたいのっ!!」

この世界にやって来て数日。そろそろバルコニーから眺める海も恋しくなった。

お父様やお姉様達はどうしているかしら。

私がいなくなったからきっと血眼になって探しているはず。

私はこれから人間として生きていく。

それをどうしても伝えなければいけない。

きっとシャルヴィ姉様が皆に事情を話してくれる。

そうすれば、私はずっとアレクの側にいれるもの。



「浜辺か…。いいね、二人でのんびりしようか。」

アレクは可愛いシャロンに賛成してくれ、早速城を出た。

二人で手を繋ぎながら浜辺へ続く道をスキップする。

そして砂浜へ降り立つと、シャロンは一目散に海へ向かって走り、大声で家族に伝えた。

「私はここにいるわー!!安心して!もう帰れないし会えはしないけれど、今私は幸せだからー!!」

地平線へ轟くシャロンの報告は果たして相手に届いているのか。

シャロンには分からないが、彼女は満足げだった。

「驚いたよ。いきなり走り出して、叫ぶから…。」

アレクが駆け寄る。シャロンは太陽みたいな笑顔で笑った。


夕闇が辺りを取り巻き、金色の太陽が周りを暖かく照らす。

海にはそんな星が反射され、カモメが雰囲気をかもし出し、二人の周辺を幻想的に魅せる。

海で泳いでいたのが遥か昔な気がした。

魚達とお喋りを楽しんで、イルカ達と戯れ、優しい家族に囲まれた…そんな思い出が懐かしい。

恋しくなって思慕して愛しさが心から溢れ出した。同時に涙が頬を伝う感触。

「シャロン……?」

自分を心配して、涙を拭いてくれるアレク。

そんな人ができたの。

肩を抱いて、涙を拭って、一緒にこの景色を見てくれる人が…私にも。

実感できる多幸に浸っていると訪れる終幕の合図。


「なんだか…雲行きが怪しくなってきたな…。」

アレクの言葉にシャロンは目を開けた。

するとあんなに夢幻的な景色が一変して、空を黒い雲が覆っていた。

オレンジ色の風景が見る見るうちに灰色の世界に切り替わっていく。

まだ夕刻なのに夜のように暗い。

冷たい風が肌をつき抜け、海は大シケとなり、高い波が押し寄せる。

二人は慌てて立ち上がり、帰ろうと踵を返した。

直後に響く聞き覚えのある、あの声。


「逃がさないよ…人魚姫……!」

ピリッと静電気みたいに全身に稲妻が走った。

心臓がバクバクとまるで太鼓だ。

震えだした体を必死に自力で押さえつけて後ろを向かず去る。

しかし、そんな事をその女が許すわけもなく。


「約束はどうした……?まだお前の幸福の代償を受け取っていないぞ…!!」

美しい女性の声のはずなのに脳裏にやけに響く。

憎しみと激昂が混ざり合ったその声は重低音のように轟き、敵意を感じさせる。

振り返らず、まっすぐお城に帰るのよ…私!!

そう、願っていると不意に体が動かせなくなった。

気がつくと大柄の男二人がシャロンを捕らえ、身動きが出来なくなっていた。

アレクも同じく取り押さえられ、自分に向かって大声を上げている。

自分の名前を呼んでいる。

ドクンドクン

波打つ心拍数。

男達に海へ引きずり込まれる。

嫌っ!!

そう叫ぼうとしても恐怖の故か声が出ない。

抵抗するが大の男達に非力な少女一人では何も出来ない。

そのまま波打ち際まで引きずられ、男達はシャロンの手首を縛った。

そして男達は海へ帰ると大きな鮫に変わり、アレクは目の前で起きた事に驚愕した。

黒い海から美しい女が一人現れ、シャロンの前に覆いかぶさるように立った。

逃がさない、と言わんばかりの形相で。

「シャロンに触るなっ…化け物!!」

アレクの金切り声を聞いたのか魔女はグルリと首を横に捻じ曲げ、睨みつけた。

「化け物…?それはこの娘も同じ。」

その眼の恐ろしさにたじろぐアレクだが、すかさず反抗する。

「何を言っているんだ!?シャロンは僕と同じ人間だ!僕は知っている…」

「いや、お前は分かっていない。」

アレクの言葉は魔女のクスクスという笑い声に遮られた。

「人間の男に惚れ、魔女に魂を売った憐れな可愛い人魚姫…。それが誰だが、この娘が一番よく知っている。」

思わぬ返しにアレクは呆然と魔女を見る。

人魚姫…?そんなものこの世にいるわけないだろう。そんな非現実的な存在が。

有り得ないと割り切って反論するが魔女はまるで聞いちゃいない。

「そんなに信じられないというならば、その目でしっかりと見ておけ!この娘の本当の姿を…正体を!!」

魔女は瓶を懐から取り出すと無造作に蓋を開け、シャロンに金色の粉を振りかけた。

次の瞬間、辺りが眩い光に包まれアレクは思わず目を瞑った。

そんな彼に魔女が叫ぶ。「目を開けて現実を見るのだ!!」と。

アレクがまぶたを上げるとそこにはシャロンの姿が。

いや、それは彼の知ったシャロンではなかった。

ドレスは光の中へ消え去り、下半身がどんどん魚の尾ヒレに変わっていく。

彼女は身動きがとれず、もがくだけ。

やがて光が消える頃には紛れもない半魚人がアレクの前にひれ伏していたのだ。

「っ…!?」

状況が、訳が分からず困惑する。困惑どころではない。

僕のシャロンはどこにいるんだ……?

そんな彼の心の叫びは魔女に聞こえていたらしい。魔女が答えた。

「何を馬鹿げた事を…。目の前にいるじゃないか。ねぇ、シャロン。」

シャロンと呼ばれた人魚は何も言わず、ただバツが悪そうに下を向くばかり。

その人魚の顔を見て薄ら笑いを浮かべる魔女。

何がどうなっているのか理解し難い。

が、どうやらそこにいる人魚はほぼ百パーセント、シャロンだという。

シャロンは人間だ、という自分の当たり前の概念がとり払われ、アレクは抜け殻のように固まった。


シャロンも今起きた出来事が整理できずにいた。

ふと自分の足を見れば、そこに憧れたものはなく。

いつかのラベンダー色の尾ヒレがピチピチと揺れている。

お気に入りのパンプスも、焦がれた足も、そこには彼女の求めたものは何一つなくなっていた。

驚きと悲哀で声が出ない。

もう、終わりなの?

人間として生きるのは…もうお終い?

魔女が自分の前に立って高らかに笑っている。

どうして、笑っていられるの?

頭おかしいんじゃないの…?

ギリッと思い切り唇を噛み、全身を怒りで震わす。

魔女に抵抗しようとするも手首が動かせない。

足も、もうない。自力で立ち上がれない。

海の水が全然冷たくない。

「シャロン…?シャロンなのか……?」

我に返るとショックを隠しきれないあの人がいる。

ワナワナと唇を震わせ、自分とは違う意味で震えている、憧れのあの人が。

全てが嘘のように、夢のように、海と空は再び静けさを取り戻していた。

真上を見上げれば満天の星空が拝めるだろうか。

地平線へ帰っていく黄金の月が…拝めるだろうか。


手首の拘束はいつの間にか解かれていた。

魔女も波打ち際でニマニマしながらこちらの様子を伺っている。

海岸に残されたのはシャロンとアレクの二人のみ。

彼を捕らえていた魔女の手下であろう者達も海へ帰っていったのだろう。

シャロンはその姿のまま、アレクに近づいた。

わずかに残る希望を胸に。

尾ヒレは陸では役立たず。

だから、上半身を使って一生懸命に彼の元へ行く。

待ってて…。これから一緒に……人間に戻る方法を…あの魔女を倒す方法を考えよう…!

そう心の中で伝えた彼女だったが。

アレクのとった行動は、言葉は彼女を地獄の最深部まで突き落とすものだった。


「こっちに来るな!!この気持ち悪い化け物!!」

全身の毛が逆立った。

ザワッと体を戦慄が走り行く音。

何を…言ったの…?あの人。

化け物………?

理解できない。

分からない。

「人間じゃないくせに!!」

え。

違う。

私は人間。

人間だよ?あなたと同じ…。

「海へ帰れ!!半魚人!!寄るな帰れ!!!」

両手を振り回し、私から身を守ろうとする。

やめて。

そんな事言わないでよ。

私はあなたと…!!

「うわあぁぁぁぁ!!!!!」

シャロンは衝撃で声が出ない。何一つ伝えられず、彼は逃げるように走っていってしまった。

情けない大声を上げて、全速力でフラフラになりながらも。

私から、逃げているの?

どうして。

なんでなの!?

悲しさでおかしくなりそう。

自分がどんどん崩れていくのが分かる。

こちらを一瞥して走り去るあの人に何も弁解できない。

追いかける事すらできない。

足をなくした人魚姫は

嘆きの涙を流しながら

愛した人を見つめる事しかできない。


完全にアレクの姿が見えなくなった時、魔女が可哀想にとシャロンに声をかけてきた。

「魔女に魂までも売って手に入れたあの彼は…どうやら人魚が嫌いだったみたいね?」

ドクン

「お前が悪いんだよ。私との約束を破り、一人で幸せになろうとしたお前が。」

うるさい

「世の中そう甘くないって分かったろう?」

黙って

「人魚が人間に恋をすることがまず禁忌なのさ。馬鹿な夢を見たお前が全て悪いんだ。」

黙ってよ

「昨日の夕暮れからお前の運命の歯車は狂っていった…。お前がここへ来なかったからだ。挙句の果てに愛する彼からも化け物と…。」

「黙れえぇぇぇぇ!!!!」

怒りだけじゃすまない感情がシャロンを取り巻いた。

殺気立って魔女をギロリと睨む。

今すぐこいつを…この女を…消し去りたい!!

息が荒い。

体が熱い。

心が怖い。

残る全ての力を振り絞り、魔女に飛びかかった。

魔女は冷静にシャロンを見下して言う。

「だから、聞き分けの悪い娘は嫌い。」

何かに弾かれ、シャロンはまた砂浜へ倒れた。

「あんた、私が誰だか分かっているの?海の魔女よ!?海に住むものは私に触れられないのよ!!」

シャロンは憎いと言わんばかりの顔で鋭く魔女を睨む。

そんな彼女の様子に魔女もやれやれとため息をついた。

「こりゃ、早く声をもらっていった方がよさそうね。」


新たな瓶を取り出す。真ん中には娘が歌っている模様があって、中では青い煙が待っていた。

魔女が蓋を開ける。

キュポンッと可愛らしい音を立てて入り口が開かれた。

その瞬間瓶から青白い雲煙がユラユラと出てきて、真っ直ぐシャロンに向かって伸びてきた。

まるで檻から解かれた蛇のように。

シャロンは怖さからか動かない。

そのまま雲煙はするりとシャロンの口から喉に滑り込み、彼女はむせた。

雲煙が何かを見つけたように光る。それが、シャロンの声だった。

がっしり少女の声を掴むと這い出てくる青白い気体。

一気に嫌な感覚がシャロンを襲う。

声が出ない。出し方が分からない!

それは恐怖心からなのか。それとも…本当に?

気体はニュルニュルと瓶の中へ収まる。多彩に輝く声を捕まえたまま。

魔女が再び蓋を閉じる。シャロンの声は瓶の中で眩く光った。

あれが……私の声?

私の歌声?

されるがままに…いとも簡単に。

「声も奪われ、愛した人も失い、姿も戻されたあんたがこの世にいられるのは明日の夕方まで。」

明日の…夕方まで?

それはシャロンの人生の幕を閉じるという事。

つまり、泡となるという事。

そんなの嫌だ。

口から漏れるのは息だけ。

どんなに努力しても何も出てこない。

「言ったろう?五日以内に本当に大好きな王子様と結ばれなければ泡となる。あの人魚姫伝説と同じさ。」

その女は彼女の大事なものを奪って、一瞬にして消え去った。

後に残ったのは足も声も失った人魚ただ一人のみ。

漣が慰めるように優しく海を感じさせてくれる。

ポツリポツリと雨のように流れ出す涙。

大声で泣き喚きたい。それも叶わない。

尚も溢れ出る大粒の涙。

海がもうひとつくらい生み出せるほどの甘しょっぱい目の水は

彼女の故郷へ溶け込んで見えなくなった。




もう会えないあの人。


いつか海から眺めたあの人。


あんなにも愛したあの人。


この体では会いに行けない。


声も出せない。


明日には消える定め。


あの人から感じた温もりは、愛は。


もうどこにもないんだね。


お父様、お姉様達。


ごめんなさい。


たくさん心配かけて。


その上もうお別れ。


会いたいなぁ。


会いたいといえば、ディラン。


彼にも、もう一度会って。


さよならって言いたいなぁ。


一人で逝くのは寂しいなぁ。


ディランに、側にいてほしい。


逢いたい。


あいたい。


アイタイ。

「シャロン様?」

真っ暗なシャロンの世界に絵の具が走った。

筆が、色を紡いで世界を色付ける。

自分を呼ぶ声がした。

音色が、旋律を奏でて世界を豊かにする。

本来の地球の姿を目の前に映し出す!

視界が広がり、霧がかった人間の世界が晴れていく。

肩に触れたアレクとは違う温もり。

耳に届いたアレクとは違う優しさ。

目に浮んだアレクとは違う微笑み。

私が、今本当に欲しかったものは。

本当に会いたいと願ったものは。

まぎれもない。


あたなでした。



「シャロン様…泣いておられるのですか?」

優しすぎる彼の声。

先ほどとは異なる種の涙が零れる。

温かい、愛の詰まった雫が頬を伝う。


「風邪を引いてしまいますよ?夜に海に浸かるなんて…。」

彼が来てくれたことに喜んでいる内に気がつく。

私は、人魚だ。

足の代わりに、尾ヒレのある人魚だ。

今は暗い海に座り込んでいるから見えていないだけ。

だけどいつかはばれてしまう。

私が人間外の存在である事。

駄目。嫌。

彼にまで嫌われたくない!!

シャロンは肩に乗った彼の手を振り払うと海へ飛び込もうとした。

「待って!!」

すかさず腕を掴まれる。

ザブザブと氷のように冷たい海の中へ。

なりふり構わず、必死に、自分の為に。

呼び止めてくれて嬉しい。

でも人魚だと知られたくない。

二つの正反対の感情が交差する。

離して!

あっち行って!

叫ぼうにも声は奪われた。

「死のうと…思うのですか?」

か細い声で尋ねられ、ビクリと肩を震わせた。

「僕はあなたに死んでもらいたく…ありません……!!」

器官を締め付けられているような喉を殺した青年の声。

青年の儚げな願い。

「なぜ…何も応えないのですか…?僕が、僕があなたにとってどうでもいい存在だからですか?」

そういう訳じゃない。

「僕が願うだけじゃ、あなたは止められませんか?」

ううん、違うの。

シャロンは振り向かない。

振り向いたら恋しい彼の顔が見えてしまうから。

彼に、縋ってしまうから。

だから意を決っして陸に上がる。

ディランに見せなくてはいけないものがある。

それは人魚の証である尾ヒレ。

人間ではないものの印。

瞳に涙をいっぱいに溜めて、シャロンは彼を見据えた。


「人魚…。」

ボソリと呟かれたその言葉が憎い。

これで分かったでしょう?

もう海に帰らせて!

そういわんばかりに海へ踵を返した時。

フワッと香った彼の匂い。

後ろから、背中から伝わる彼の熱。

耳元に聞こえた彼の声。

ああ、私が本当に望んだものは…

足でもなく、王子様でもなく、

この姿の私自身を愛してくれるこの人だったんだ。



信じられない。

人魚だ。

今僕の目の前にいる。

伝説が蘇ったみたいに。

嬉しくて、思わず後ろから強く抱きしめた。

初めて好きになった。初めてこの感情を捧げた君が…

僕の追い求める人だったんだ。


「君が…人魚だったなんて。」

彼が、彼女の最も求めた言葉を囁く。

「君が…人魚で良かったよ。」

何も感じなかった海の感触が、今は分かる。

それは君のおかげ。

声は出ないけれど、表情で伝えてみせる。

感謝の一言を、あなたへ。



びしょ濡れになった服のまま、ディランはシャロンの隣に座っていた。

真ん丸い月が二人を照らしている。

シャロンは尾ヒレを抱え込み、頭をディランの肩に乗せていた。

ディランは彼女が寒くないようにと肩を抱く。

そして、零時の海原を見て独り言のように話し始めた。

「実は僕、隣国の第二王子なんだ。」

突然の告白にギョッとするシャロン。

そんな彼女の反応を面白そうに見るディラン。

「そう、あの時アレク王子が言っていた人だよ。ただ僕は…王子なんて身分、嫌いだったけどね。」

懐かしそうに語る彼の髪は相変わらず手入れがなっていなくて、とても王子になんて見えない。

「こっそり抜け出したんだ。父さんがいないのを良いことにね。それでこの国まで逃げて逃げて、釣り人を装ったんだ。」

自慢げに古びた釣竿を見せびらかす。

シャロンは私と同じだ…!と心の中で喜んだ。

「ま、そろそろ捜索されているだろうけどね。執事に頼んだ口実もそろそろ苦しいだろうし。

でも、話したいのはそこじゃないんだ。

僕の兄は、人魚姫伝説で人魚姫が恋をした相手なんだよ。」

えっ?をディランの横顔を見る。

彼は真剣な眼差しで構わず続けた。

「ある日、兄が乗っていた船が難破して…奇跡的に助けられたんだ。砂浜で歌を歌う声がして、目を開ける時、一瞬だったけど綺麗な女の人を見たんだって。」

それは、シャロンが大好きなあの話とまったく同じだった。

「その後は隣国の姫に助けられたと思っていたらしいんだけど、どうやらその女性の事が忘れられないみたいでさ。

それから日もあまり経たない内に浜辺で今度は兄がある少女を救ったんだ。綺麗な人だったよ。僕も見たけどさ。

だけど、兄の結婚が決まってからその子は忽然と姿を消したんだ。」

興味津々な顔をして話にのめり込むシャロン。

ハハッと笑うと、ディランは話をまとめた。

「その少女が、あの砂浜で歌を歌っていた人になんだか似ているような気がしたんだって。

それから、この話が人魚の事だとか色々騒がれて、結局お伽話になってしまった。

でも、兄はまだ諦めていないんだ。未だにその子を探してる。

僕が先に見つけたって言ったら…きっと怒り出すな。」

静かに聞いていたシャロンに向き直り、ディランは質問をした。

「人魚側の話も聞きたい。教えては…くれない?」

シャロンは大きく頷くと身振り素振りで大好きなあの話を語りだした。

まっすぐシャロンの目を見て、真剣に聞くディラン。

やがて、彼女が教え終わる頃にはディランの中の絡まった糸が解けていた。

「声が出なくなったのは…魔女のせいなんだね?それで人魚姫は兄と結ばれずに、泡となって消えた…。」

コクコクと首を縦に振る。

「それじゃあ、君も……?」

また首を勢いよく振る。

「そんなことさせてたまるかっ!君を絶対に消えさせはしない!!」

傷ついた顔でディランが叫んだのにはさすがのシャロンも驚いた。

でも…あなたは王子で、私達は既に結ばれている。泡になって消えることはないわ。

ただ、声をなくすだけ。

体でそう伝えると彼の瞳に希望が戻った。

すかさず全身全霊でシャロンを抱きしめる。

「愛しているよ…シャロン。ずっと一緒にいたい。…ねぇ……もし人間に戻れる機会があるなら、君は戻りたいか?」

シャロンは嬉しくて何度も何度も頷いた。

それを安心した顔で眺める。

一日で幸せを取られ、一日で幸せを掴み戻した人魚姫の心は

幸福で満タンだった。


ハッピーエンドのピリオドまでもう少しのところだった。

「ふざけないで…!」

またあの恐ろしい声が聞こえた。

あの女が…また来た!?

今度は全てを奪いに……!?

ザアァァッと海から現れたその女には前の美しさなど微塵にもなく。

真紅に染まった髪は逆立ち、顔色も悪い。

月明かりに光る剣を握り締め、血走った眼球で二人を睨み下す。

「お前に幸せなんて訪れない!!もういい、お前に関わる王子などいらん!!」

ギョロリと憎む対象をディランに向けた。

矛先が変わった音。

「お前がいるせいで…この娘は幸せになってしまう!!不幸を生きる糧にしている私にとって一番邪魔なのはお前だ!!!」

尖った指を彼に指すと、持っていた剣を振りかざした。

シャロンは咄嗟に彼を庇おうとしたが遅いと直感した。

彼女がお伽話の終止符を打たれたと思った時。

「魔女め!!!」

突如知らない男の声と交じって大好きなあの人たちの声が耳に響いた。

海を見ると、父と姉達が怒りの形相で武器を構えている。

陸を見ると、大勢の兵士達も武器を魔女に突きつけている。

先頭に立つのはディランによく似た男だった。

「娘を殺したらただじゃおかんぞ!!」

雷鳴の如く鳴動した父の怒声。

「もうあんな伝説を増やさせはしないわ!!」

腹の底から出た姉達の叫び。

「弟に手出しはさせない!!人魚姫も同じだ!!」

たくさんの人達が二人を守っている。

それは、二人を愛する家族達であり、繋がりだった。

魔女を四方八方から、グルッと取り囲むように包囲する。

陸にも海にも、その邪悪な魔女の逃げ場はない。

彼らの殺気にさすがの魔女もたじろいだ。

間が悪いと舌打ちを打つ。

ディランは深く息を吸い込むと、魔女に向かって大声で言った。

「魔女!!お前が何もしなければ僕達も何もしないだろう。武器を捨てて降服するんだ!!」

剣の先を突きつけられたまま、ディランは揺るぎない眼差しで訴えかけた。

フルフルと剣を持つ指を震わせ、それを下へ落とす。

銀色の剣は空中で一回りすると、砂浜へザクリと突き刺さった。

目と鼻の先に刺さった剣をディランが抜く。

ずしりと重い感覚が腕から脳へ伝わる。

ディランはゆっくり目線を魔女へ戻し、ニコッと笑いかけた。

魔女はビクリとして恐怖に顔を引きつらせる。

「僕がして欲しいのは簡単な事。彼女の声を戻し、人間にしてくれ。」


魔女に選択権はなかった。

渋々といった感じでオレンジ色の粉をシャロンに振りかける。

するとシャロンが煌く星のように輝きだして、光が消える頃にはまたドレスから足が覗かせていた。

あのお気に入りのパンプスもある。

嬉しさで舞い上がったシャロンは珊瑚色の髪をなびかせ、クルクルと踊った。

そんな彼女を尻目に、苦渋の表情の魔女はユルリと七色に光る声の入った瓶を開けた。

声は飛び出すや否や一目散にシャロンの口へ。

光よりも速く、シャロンへと戻っていく。

クルクルと舞いながらシャロンは歌う。

声が出せる。歌が歌える。言葉を伝えられる。

こんなにも幸せな事。

涙が止まらない。

ディランが温かい微笑を浮かべ、両手を広げている。

シャロンはその足で小鹿のように走り、彼の胸に飛びついた。

二人を誰もが幸せそうに笑顔で見つめている。

魔女は暗い顔をして海へ帰っていった。


耳元で囁かれた、彼女の一言。


愛しています。


僕は君のその言葉だけが欲しかった。

やっと、僕の想いは実りそうです。






「え?それじゃあの時届けてくれたのって…お姉様の靴だったの!?」

広い室内に響き渡る可憐な少女の声。

珊瑚みたいな桜色の髪を結わきながら、少女が大声を出していた。

「うん。姉さんのに似てるなぁって思ってたんだよね。で、届けた翌日に姉さんから頼まれてさ。

アレク王子の城の窓から放り投げた靴、一緒に探して!!ってね。」

整った眉を下げて笑う、銀色の髪の青年の声もする。

少女は鮮やかな瑠璃色のワンピースを着て、控えめなティアラを頭にのせている。

「そうだよねっ!?だってあの時、靴なんて落としていないもの!」

興奮して話す内にティアラがずんずん下がっていく。

青年は呆れて、彼女のティアラをなおした。

いつもいつも下がってくるそれに手こずる彼女を見るのは嫌いではない。

最後の仕上げに少女のお気に入りの靴が履き終わった。

その途端に青年の手を取り、走り出す少女。

王室を抜け出して、急いでいる模様。

「んもぅ!!早くしてディラン!!」

今日は彼女が待ちに待った日。

純白のドレスを選びに行く。

少女のお気に入りのパンプスから軽快な音符が流れる。

風になびく髪も、透明な瞳も。

急に愛おしく思えて、彼女に向かって叫んだ。

「シャロン!ずっと愛してる!!!」

振り向いた少女は星空よりも輝いた笑顔で笑ったのだった。

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