9 新入り歓迎会デスマッチ開催前
「…あの外務大臣ってわけじゃないんですけど、やっぱり職務怠慢って重罪だと思うんです」
「そうっすねえ。それをあのとち狂った部隊長にでも諭しに行ってあげてください」
「無理に決まってんじゃないですか!」
訓練所の片隅で胡座をかいているショドウェイ先輩と遠い目をして体操座りの私。その視線の先には、三名の隊員を捕まえて今すぐ全紅部隊員をここに集めろとムチャ振りを強要しているアリデライ部隊長。その顔はものっそい笑顔で眩しい。狂人の笑顔だけど。
「ああ、可哀想に…。あの隊員さん達、五分以内に集めろとか言われてますよ…あれ全隊員集まらなかった場合、斬り殺されるんじゃないですかねえ…」
「何を他人事のように言ってるんすか。シャロンが主役なんすよ?」
「…ねえ、ショドウェイ先輩。私、仕事、したいんですけど」
「あー。そうっすねえ。あえていうならば、アリデライ部隊長の暇つぶしに付き合うことこそが仕事じゃないんすか」
なにその命がけの初仕事。おかしい。絶対おかしい。だって私、王宮の騎士隊に入隊したはずなのに。なんで、要人の護衛とか門の衛兵とか王子の捜索とかしてないんだろう。
「頑張って下さいっす」
「…国王陛下の勅命丸無視して仕事せずに新入りの歓迎会とか、そんな緩いとこだったんですね。王宮騎士隊って。ちなみに逃がしませんよショドウェイ先輩。貴方も強制参加です」
「…ははっ。冗談きついっすよシャロンさん。まじで俺、あんな頭のおかしい連中と混ざってデスマッチなんかしたら三秒で死ねる自信あるっすよ?」
「ではそんな所に可愛い後輩を飛び込ませないように助けて下さい。ちなみに私は一秒で死ねます」
「…無理っすよあれはもう。見てください、あの部隊長のきらきらした目。楽しみで楽しみで仕方がないって目っす」
「うわあすごい。あんなに潰したくなるお目々を初めて拝見しました、私」
「シャロン、現実逃避しても無駄っす。そろそろ三分っすね?あと二分で始まるっす」
「っいやだいやだいやだ…!どうにかして逃げなーー」
「何がそんなに嫌なんですかお姉さん?」
「…へ?」
ぴょこっと現れたのは鮮やかなくらいの蜂蜜色の髪で黄緑色の瞳を携えた、妖精さん。いや、小さな男の子。歳は…十二くらい?
「…どうかしましたか?お姉さん、お口が開いていますよ?」
「え、あ…」
お、お姉さん…!?
「誰がお姉さんっすか?ここには、男しかいないっすよ?」
ポカンとした双方。いや、違う、てあ、いや、違わないけど、違うんです…!
「あ!ご、ごめんなさい。お兄さんでしたか?綺麗な人だから、僕、てっきりお姉さんかと…」
「…………!!!」
き、綺麗な人…!なんてイイコなの少年…!!!やばい、涙出そう。
「あははっ、確かにシャロンは女みたいな喋り方っすけど…ちゃんとしたお兄さんっすよねえ?」
あ、いかん。ショドウェイ先輩にじわっと殺意が芽生えてきた。胸ぐら掴みたくなる衝動を必死に抑えるのって大変ね!
じとっとショドウェイ先輩に顔を向けると、その視線から何かを感じ取ったのか先輩は逃げるようにして少年に向き直った。
「ところで君、なんでこんなとこにいるんすか?」
「えっ、えーと…」
確かに。こんな妖精みたいな子が来る場所じゃないよね。汗水垂らして剣ふりかざしたり目ぇひん剥いて筋トレしたりしてる男しかいないような暑苦しいとこに。ましてやこれからデスマッチという名の殺試合いが始まるんだから。
「おっ、伯父さんに連れてきてもらったんです…!」
「へえ、この中に伯父がいるんすか?」
「い、いえっ。伯父さんはここに僕を連れて来てすぐ、何処かへ行ってしまったので…」
「ふうん、じゃあ俺がその伯父さんのとこに連れて行ってあげるっすよ」
「え…っ」
急に戸惑い出した少年。…これは何かあるな。ショドウェイ先輩もそう感じたのか、伯父さんとやらの正体を探しまわろうと立ち上がった。…………が、しかし。
「先輩、私が探して来ますよ。この子の伯父を」
「何を言ってるんすかシャロン。これから君の歓迎会が始まるんすよ?主役はここに居なくちゃ。安心して下さいっす。伯父探しは俺がきっちりしとくっすから」
「いやいや…!先輩のお手を煩わせるわけにはいかないんですよ…!こういうのは見習い騎士の仕事でしょう…!?」
「何を馬鹿なことを…!不慣れな後輩に代わって仕事をこなすのが先輩の務めっすから…!!」
(っ自分だけ逃げようなんて甘いんですよ先輩!)
(そういうシャロンこそ、子供をダシに逃げようなんて卑怯っす…!)
(最初にしたのは先輩でしょう!?)
(お願いっすシャロン…!見逃して下さいっす…!)
(先輩の威厳はいずこに!却下ですショドウェイ先輩…!タイムリミットはもうそこまで来てるんですよ!道連れは一人でも多いほうが蹴落とされる確率は少ないんでね…!)
(…なんて屑な発言…!!シャロンには先輩を敬おうって気はないんすか…!)
(敬えるような先輩は後輩を見捨てたりしないんです…………!)
(くっ…!)
(この…っ!)
ばちばちと火花を交わしながら視線で会話をしていると、少年から慌てたような声が聞こえた。
「あの…お兄さん達…!実はもう一人ここに連れて来たい子がいるのですが…駄目ですか?」
「「連れて来たい子…?」っすか?」
ショドウェイ先輩とハモらしてしまいながらでた疑問に少年は「はい!」と元気な問いをくれた。
「僕と二つ違いの女の子なんですけど、ぜひここの訓練所を見学したいって言っていて…!」
「…まあ、いいんじゃないすかね?ここは一般の立ち入りも許可されてますし」
「本当ですか…!?じゃ、じゃあ早速連れて来ますね…!」
そう言ってぱたぱたとかけて行く少年。目で追いながら思ったことがひとつ。
「残念でしたね、ショドウェイ先輩」
「…いいんすよ、連れて来たい女の子とやらが来たら二人まとめて探しに行くつもりすから」
「まだ諦めてなかったんですか!?」
「当たり前っす。ここらで投げ出す安い人生なんて送ってきちゃいないんで」
「…その台詞、もっと別のところで聞きたかったです」
言ってることは立派だけど、中身は、子供の男女を餌に後輩放っぽり出して尻尾巻きながら逃げるってことだからね?…残念すぎる。
「甘いんすよシャロン。人生、生きててなんぼっす」
「そうですね。もう何を仰られても逃がす気ありませんけど。いざとなったらアリデライ部隊長に援助の要請も惜しまないつもりでなんで」
「………なんでこんな後輩持っちゃったんすかねえ、俺」
顔に手を当てて空を仰ぐショドウェイ先輩。悲哀に満ちたその姿、笑いが止まりません。 隣でニマニマしていたのがバレてゴミを見るような目つきで睨まれたけどガン無視。
顔を明後日の方向に向けていると、小さな男女が入り口から駆けて来るのが見えた。妖精の隣にいるのはやはり妖精だった。類は友を呼ぶってやつですね。眼福です合掌。
「紹介します、お兄さん達。こちら僕の友人の姉で、カルレーナ嬢です。そして遅れながら、僕はリヴァイと申します」
「よろしくお願いいたしますね、素敵な騎士様方」
優雅にお辞儀をした女の子の妖精さんはふんわりとしたドレス姿で、後ろに柔らかく一纏めにされた湖色の髪からはどこか清楚な香りが漂っていた。
…が、そんなことは頭の片隅にも止まらなかった。私は瞬時にショドウェイ先輩のほうに体を向け、彼の腕を引っ張って妖精達から数歩離れる。
「せ、せせせ先輩…!私、ものっすっごく嫌な予感がするんです」
「奇遇っすねシャロン。俺もっす。聞き間違いでなければ、あの少年は『リヴァイ』と、名乗らなかったすか?」
「聞き間違いだと願ってます。ついでにあの少女が首からぶら下げているネックレスも見間違いだと願ってます」
「…シャロンもやっぱ見たんすか…」
「おや、ショドウェイ先輩も?」
「悲しいことに」
脳裏に思い浮かぶのは、今朝のゴツいおじさん。もとい外務大臣。
変だなとは思っていたのだ。何故第四王子なんかと全く接点のないであろう外務大臣が彼の捜索に駆り出されていたのか。
何故、あんなにも必死になっていたのか、途中までアリデライ隊長が紅部隊長だと分からないくらいにまでに。
理由は簡単。第四王子の『リヴァイヘル』様と共に、隣国のお姫様も一緒に、居なくなっていたからなんですね…!
長くなりそうだったので、一旦区切らせてもらいました。
9話はただひたすらショドウェイ先輩とのいちゃいちゃだったんですが…笑。
大丈夫です。お話はちゃんと進まっていると…思います。




