表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

順次佳境へ

10話ぴったり、ぴったんこカンカンといきたかったですが、仕方ありません。もうちょっとだけ続きます。

右心房、左心房、御辛抱のほど、よろしくお願いします!

 朝のホームルーム前。

「九に接触したんだって? だったら何でそのとき、オレのこと呼ばなかったんだ?」

 3年生の教室にて。

 牛腸は憤激していた。

「いやだから」

 四十川はまたちょっと態度が戻りつつあり、スカートのくせに股を広げ始めていた。

 中身スパッツもちらりと見えるため、吐き気をもよおさずにはいられない。

「きたねえ股は閉じろ! それよりも『いやだから』って……。ショックだわぁ」

「こっちもショックよ。小股が切れあがっているのに魅力を感じてもらえないなんて」

 股を閉じて、「あとさ。さっきは、『いやだから』って、言ったわけじゃなくて、『いや、だから違うよ』って、否定形で用いたわけ」

「ふーん」

 興味なさそうに視線を下げ、「猿人類みたいな、すね毛だな」

 牛腸は揶揄した。

 どうやら相当、頭にきているらしい。

「ちょっ……。セクハラよ」

「テメーのパンツの方がよっぽどセクハラだよ」

「なんですって……」

「そっちがいけねーんだろうが」

「緊急救急究明九部隊なんて、初耳よ。だいたい九のやつが徒党を組むなんて考えるはずないじゃない」

「知っていようがいまいが、オレがリーダーなんだ。たしかに塾で早く帰ったかもしれないが、それでも一言くらい声をかけてもらわないと困るね」

 まるで子供のケンカだ。

 遠巻きに眺めていた小鳥遊はそう思っていた。

「ねえ、廿ちゃん」

 話しかけるが。

 彼女はそこにいなかった。

「おおっ! やれやれ~。薄汚いパンツと、ちっちゃい男のケンカだ~」

 あおるように、楽しむように、廿は声援を送っていた。

 それもかなり近距離で。

「あんたは黙ってて。――あとパンツはちゃんと洗ってますから」

「お前は舌を動かさずに話せ。――あと身長は……いちおう体育並びでは……前から2番目だ!」

 四十川も牛腸も、廿を叱責する。

 が。

「性格が薄汚いパンツと、度量がちっちゃい男の子って言ったんだよ~」

 スキップするようにして教室から立ち去る、廿ちゃん。

「待てコラー!」

「死ね小娘、オラー!」

 彼らも急いであとを追った。

 しばらくしてから牛腸は、女の子たちのアリバイを聞かせてもらったという。


「えー、今日は遅刻や欠席をせずに来てくれてありがとう。社会人になるにあたって、それは当たり前の要素だから、できているお前らにいうことではないのかもしれないが、しかしこれからも気を抜かずに、手を抜かずに、がんばっていこう!」

 朝のホームルーム。

 二担任はひとまず、登校してきてくれた生徒をほめた。

 窓はあいも変わらず、ガタガタ震えていたし、ひょうっと、すき間風が侵入してくる。

 電車、バス、自動車タクシー、旅客機など。そういった交通手段の生徒は、基本的に休みを選択したようだった。

 ――自分がその立場でも迷わず、「ハッ? 学校? ふざけんじゃねーよ、カス。こっちは単位さえとれりゃあそれで良いんだよボケ!」とか言って、学校をサボり、おまけに、「もし鉄道の運行が復旧していたら行くつもりだったんだよ、それくらい察しがつくだろ。ちっとは考えろバカ!」とでも、いちゃもんつけて公欠にさせたんだろうな。

 …………。

 九だったらやりそう。

 ハハッと、ひとりで笑って、

「今日の連絡はなし。もしなんかあったら、各自怒られてくれ、以上。めんどくせーから、次の授業教室行って寝てくる」

 ホームルームは終わった。

 2時間目と4時間目が入れ替え授業であることを、二担任はすっかり忘れていた。――そして彼らは、二担任の代理として怒られたのであった。


「なんですか? 話って」

 牛腸翔太は、自習室(3)にいた。ここは英語の授業で、特待生が使う教室である。

 むろん、彼も特待生の1人だ。

 他の教室となんら変わらぬ設備で、逆に暖房は寒いくらいだが、少数精鋭なので、少ない人数で授業が行える。

「萬ヶ原ちゃんの件なんだけど、君そこのクラスよね。ちょっとお話を聞きたいんだけど……いいかな?」

 4時間目が終わったので、いまは昼休みだ。

「コロッケパンが食べたかったのに、もうこんな時間です。どうやら機会を逸してしまったようだ」

 質問には答えず、遠回しに答えた。

 一二英語教諭は相好をくずし、「よかったらあげようか。職員の場合、専属契約うらルートでパンが買えるのよ」

「本当ですか?」

「ええ、売れ残りは全部職員が買い取ることになっていて……。だから強権を発動できるってわけなの」

「なんでも大丈夫なんですか。売れ残らなくっても?」

「その通りよ。コロッケパンでも、メロンパンでも、あんぱんでも、ジャムパンでも、クリームパンでも、フライパンでも、フランスパンでも、食パンでも、ソーセージパンでも、カレーパンでも、残飯でも、乾パンでも、ピーターパンでも、揚げパンでも、蒸しパンでも、コッペパンでも、レーズンパンでも、パイパンでも、パンパンでも、チノパンでも、ジーパンでも、審判でも、パンタグラフでも、パンダでも、パンチでも、パンツでも、パン粉でも、パンクロックでも、パンストでも」

 止まらなくなってきたので、牛腸は待ったをかけた。

 ――まじめ一辺倒の授業なのに、意外とふざけられるんだ、この人。

「まあ途中から下ネタとか、なぞなぞみたくなっていましたけど……」

「あらやだ、ごめんなさい。ついつい2次会の方向へ走っちゃうところだった」

 頬を赤らめて、「こっつんこ」と頭を殴る仕草は、牛腸にはちょっと気持ち悪く思えた。

「ところで、あまり話したくはないアリバイの件についてですが、今ここでワタクシが他言無用を貫き通したところで、飛耳長目の一二先生であればすぐに情報を仕入れ、御結論を導かれることでしょう。それならば、先に恩を売っておいた方が得というものです。わかりました。コロッケパンと引き換えに、事件の仔細を語らせていただきます」

 あらたまった表情で、牛腸は事件のあらましを述べた。

 聞いているあいだ、一二英語教諭はうんうんと、うなずいていたが、やがて聞き終えると、

「じゃあ現時点で怪しい人というのは、もちろんアリバイがないっていう意味だけだけど、それは牛腸くんと霹靂ちゃんでいいんだよね?」

 痛んだ毛先が頬骨のあたりで、くるんとカールしている一二英語教諭を見つめながら、

「はいそうです」

 牛腸はいやな顔ひとつせずに答えた。

「なるほどね」

 一二英語教諭は、善意と悪意が交錯したような表情を浮かべながら、「ありがとう。重要なキーを教えてもらった気分よ。お礼にパンを1種類だけ、プレゼントさせていただくわ」

 電気を消して、教室を後にした。

そろそろ終わりも近付いてまいりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ