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女の子同盟

萬ヶ原庇護同盟の一員、霹靂が九に接触!?

はてさて、これからどうなることやら。

「それではアリバイの確認からだな。うちのクラスの男子で怪しいやつは特にいなかったから、今度は『九部隊』のメンバーにも訊いていこうと思う」

 緊急救急究明九部隊のチームリーダー的存在、牛腸翔太は昼休み、教卓の周りにメンバーを集結させて討議を行っていた。

 議題は萬ヶ原の所持品紛失の件だ。

 二担任はあのあと、緊急ホームルームを開いた。もちろん特例措置なのでクラスのみんなも驚きはしたようだが、協力してくれた。

 ただし、そんな犯人のあぶり出しも充分な情報は得られず、不完全燃焼のまま終わり、いまに至った。

 個人情報ということもあり、先生が動ける幅は限られている。ここは生徒同士の方が存外に成果がでやすいのかもしれなかった。

「うちのクラスで怪しいやつはいないって……お前調べたのか?」

「その通りだ。ホームルームのあと、ちゃちゃっと聞きこみをいれといた」

 九の質問に、牛腸は平然と答える。

 この辺の抜かりなさは、『九部隊』一同にも認められていた。

「さっすが牛腸。やるじゃん」

 十は拍手しながら、牛腸をほめた。

「うるせーよ、ツナマヨ」

「ツナマヨじゃなくて、『つなし』だから。いい加減名前おぼえろ。ぶたれたくなけりゃあな」

「だーれがブタじゃあ!」

 情け容赦のない、ただの力まかせなキックが。

 月見里堤の土管みたいな足による蹴りが。

 十のお尻の割れ目にささった。

「ぐわー。ひさしぶりに会ってこれかよ」

 十は黒板の前で、うさぎ跳びみたいなことをやっている。

 そういえば月見里。

 またいちだんと太ったな。寒いからだろうが。

 九は鈍重な月見里の巨体を眺めて、そう思った。

「とりあえず、改めてメンバーを確認するぞ。忘れちゃった人がいると悪いから」

「いや、まだ数日しか経ってなくね?」という、素朴な疑問は無視された。

「九、牛腸、月見里、十。この4人だ。おぼえてるか?」

「いやだから、だれに言ってんの?」

 十はいぶかしそうに牛腸を見る。

「だから……」

 教卓に背をもたせかけながら、牛腸は言った。

「連盟を結成したのはいいけど、そのまま何もやらずに自然消滅しましただと、カッコ悪いだろ。だからお互いの顔と名前を再確認しあって……」

「クラスメイトなんだからそんなことしなくてもおぼえてるでしょ」

「九の言う通りだな。いままでなんの接点もなかったけど、オレらクラスメイトじゃん」

 連弾を浴びせられ、牛腸はとまどったが、

「念のためだ念のため。第3者的視点に立って考えてみただけ。いわゆる神の視座ってやつ?」

 九、月見里、十は、異口同音に異曲同工なことを言った。

「厨二病だったら精神科の病院に行った方がいいんじゃね?」

「入院しても病食は残さず食えよ」

「お前、心理カウンセリング受けてくれば?」

 厳しい批評に対し、

「いやいや、いまの比喩ですから……」

 牛腸がいくら弁解しても、立場は一向に変わらなかった。

「っていうか、なんで入院することにされてんの? オレ。言ったのだれだよ?」

「ブヒッ」

 月見里がピンク色の手を挙げた。


「……っていうわけよ。とりあえずうちの女子も含めて教室が近いとこの女子にも訊いてみたんだけど、みんなアリバイがあるみたい」

 昼休み。

 萬ヶ原ちゃん庇護同盟は図書室に集まっていた。

 霹靂、四十川、小鳥遊、廿。――全員いた。

「ふーん。ってことは、みんな犯人じゃないっていうことなんだよね? ね、ね、私たちまだ連盟内で犯人捜しやってないじゃん。やろっか」

「なーんか魔女狩りみたいでいやだけど、ジンジャーがあるかないかでいったら、仕方ないわけだし。そうしようか」

 四十川は額にしわを刻んだ。

「そのダジャレわかりにくい」

 小鳥遊が直球を投げ込み、フリートーク色が濃厚になってきたところで、

「あのちょっと待って!」

 霹靂が小さいながらも、彼女なりに大きな声で、

「私、男子にちょっとつてがあるから、あっちの事情も聞いておこうか」

「つてって、九のことじゃない? 横恋慕だあ」

 四十川がよけいな事ばかり並べて、冷やかした。

「たで食う虫も下手の横好きっていうからね。恋のかたちも色々あるんだね」

 廿はいろいろと残念な、それはもう天然ではすまされないほど残酷な、そういったことを述べたのだけれど、言っていることがめちゃくちゃすぎて、だれも気にはとめなかった。

 たで食う虫も好き好きと、下手の横好きがごちゃまぜになっていたところが、やっぱり彼女らの理解の限度を超える要因となっていたようだ。

「それじゃあ霹靂ちゃん。たで食う虫なのか、それともねぎを背負ったかもなのかは知らないけど、その人によろしくねー」

 小鳥遊はさも楽しそうにそんなことを言っていた。


「なるほどね。わざわざご苦労ご足労お手数をおかけして、お手までわずらわせていたってわけだ」

 体育着を持ちながら、九と霹靂は並んで歩いていた。

「いやそんな……。私はべつに迷惑と思っているわけでも、煩わしく思っているわけでもないんだよ? 知っていると思うけど念のため」

 霹靂は手をふって抗弁した。

 2人は階段を上っていく。

「またまたあ。良い子ちゃんの回答だ」

 九は霹靂のことが好きなのに。

 少なくとも好きなはずなのに。

 そんなそぶりは全く見せない。

「えっ……ちょっ……。からかってるの?」

「からかってなんかいない。いつもの通り、まめでまじめなありふれた男子生徒だよ」

 蠱惑的こわくてきな態度で、相手を困惑させる九。

 彼はつねにまわりくどい。というより、長ったらしい。

 階段を上り終えると、今度は緩やかなスロープが待っていた。上り坂だ。

「まあ発言はありふれているし、ちまたで溢れているような言葉遣いだよね」

 仕返しとばかりに、霹靂は言った。

 ――悪口のような事を。すごく久しぶりに。

「まあな。日本語はもともと相手を煙に巻いて、自他共にうやむやにしてしまって、ないまぜにしてしまう性質があるからな。気をつけないと意味が重複してしまうことがしばしばある」

「しばしばどころか、ずっとでしょ。遠回しなことばっかり言って……」

 霹靂は笑いながら、セーターのすそに手を引っ込めた。

 体育のあとで火照った体も、末端冷え症なのですぐにつめたくなるのだ。

「おぉっと、いけない。このままラブコメを演じてしまうところだった。本題にいかないと……」

「ラブコメってさ……」

 スロープを終え、紆余曲折している廊下に出た。

 体育館へ続く通路だけ、やけに入り組んでいる。

「ん? ラブコメがどうしたって?」

 思わぬところに着眼したなと、九は思った。

「いつまでも恋が実らないところを見るとさ。悲しいよね。そりゃあ最終回は基本的には結ばれるんだけどさ」

「知らね。ラブコメなんてあんまし興味ないから。そのかわりバトル漫画だったら……」

「わたし、流血とかダメだから」

 ということで、本題に入った。

 ――――。

「放課後に話したいことがある。それが萬ヶ原に関することだっていうところまではわかった。しかしなぜ、放課後なんだ? 霹靂ひとりで調査しているのだったらいまこの場で聞いてそれで終いにすればいいじゃないか」

 本日はわりと過密スケジュールになっていて、7時間目まで授業がある(普段は6時間までなのに、今日は7時間なのだ!)――まあそれが通常だという進学校も多数あるからそこまで多忙ではないのだけれど。

 でも、6時間+1時間の授業というのは。

 ゆくりなくゆっくりに時間がすすんでゆくものだ。

 ゆえに、放課後まで体力がもつかどうか、はなはだ疑問だった。

「あのね。じつは女子で頼りになるメンバー集めて連合を開いたんだけど……」

 霹靂は放課後まで引き延ばしたい理由を説明するために、『萬ヶ原庇護同盟』のことを打ち明けた。

「へー。そいつはすごいことを聞いたな。たいした実行力じゃあないか。メンバーが4人もそろってる」

 入り組んだ道が単純化されてきて、職員室が見えるようになった。

「私が集めたわけじゃないんだけどね。……そんなことより承諾してくれる?」

「オレは見た目通り予想通りその通りな男だからさ、女の子の頼みとあっては断らずにはいられないたちなんだよ。ハウエバー、今回は特別サービスで承るけどね」

「…………。そう。…………。うんわかった。…………。じゃあっ」

 霹靂はそこで九と別れた。

 九のテンションがおかしくなってきたからだった。

感想いただけたら必ず、お返事を致します。

気軽に気兼ねなく気が向いたら、感想を下さい。

首を長くして、待ってます!!

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