七五三の諦念
文量は、いつもの2分の1です。
内容うすくてすみません。
特筆するような特別な場面はとくになく、そのまま放課後にいたる。
七五三担任は、帰りのHRを終え、帰りの掃除も終えたところだった。
いまは職員室でノートパソコンをやっている。
いちおうワードで、学級通信という保護者向けのプリントを作成していた。
ところで――七五三担任は、一二英語教諭に、
「放課後は火事が起きてから訪れるか、それとも火事が起きたあとで訪れるか」
という質問をされたことがある。
なんだか意味がわからない設問だが、しかし答えはある。
正解は火事が起きたあとだ。
なぜならば、
放火後だから、火事が起きたあとに訪れるに決まってんじゃん、というものだった。
かなりくだらない、ダジャレだ。
駄目な洒落で、駄洒落だ。
「やあ!七五三先生。さきほどの話題はただの前ふりだとおっしゃってくれましたが、ではこれからが本題ですね」
と、
二社会科教諭があらわれた。
前置きも前ふりも前口上もしたつもりはないが、しかし布石であることは事実だった。
「はい」
大きくうなずいて、七五三担任は、
「もしかしたらこの世のなかは、だれかがつくった虚構の世界なのではないかと思うんです」
二社会科教諭は、眉をひそめると、
「七五三先生、少年少女にへんな思想を扶植しないでくださいよ。高校教師がそんな中二病みたいなメタ発言をすると、文部科学大臣の下村博文先生から直々に直訴されますよ」
「直訴とはいわないと思いますよ。正しくは控訴だったか……」
七五三担任は首をかたむける。
「控訴は上級裁判所に訴えるやつですよ。……て、そんな話はどうでもいいですよね」
「もっともです。もっと高校生らしい話題を……」
「では……」
と、
満面の笑顔で七五三担任はいった。
「もしもこの世界が、涙あり笑いあり、失恋あり成就あり、友情あり努力あり勝利あり、バトルありエスケープあり、シリアスありギャグあり、成功あり失敗ありの少年マンガだったと仮定して、ですよ」
「ハヤテのごとくですか?」
「いちいち言及しなくていいです」
水をさされてしまった。
気をとりなおして、
「二先生。ラブコメって、最終的にはハーレムエンドですよね」
「いえいえ七五三先生。ラブコメは両想いエンドですよ。お互いに好きだったんだけれど、ようやく相思相愛になれるみたいな」
「ピュアな設定ですね。ピューリタンさながらです」
「清教徒革命を起こしますよ。……て、あっ!」
「あっ!」
…………。
勉強の話は禁止だった。
高校教師なのに……。
「ラブコメは……けっきょくは、連載が続く限り結ばれないですよね」
七五三担任は含みをもたせていった。
「そうですね。なんだかんだ、それがメインですから」
「ありがとうございました。これにて踏ん切りがつきましたよ」
もしこの世がマンガだったなら、きっと放っておいても作者がフラグを立ててくれる。
なんと楽なんだろう。
しかもスペキュレイティブ・フィクションなんだから、なにも活動的になったり積極的になる必要はない。
舞台設定は作者が勝手にやってくれるから都合がいいぞ!
と、
七五三担任は納得した。
なんか精神的に病んできました。
こんなつまらん小説は書きたくないです!
ところで――
この「前書き」「後書き」だけ楽しく読んでくださるかたもいると思うので、雑談をひとつ。
探偵小説の嚆矢となった名作、『シャーロックホームズ』シリーズ。
本場イギリスではあまり売れなかったのですが、アメリカでバカ売れし日本でも話題になりました。
そのホームズの作者は、家庭が貧乏なので、アルバイト感覚で執筆を始めたそうです。だからホームズ作品には思い入れなんかあんまりありません。
どころか「おもしろくない」とも考えたそうです。
シャーロキアンの一二英語教諭には悪いですが、ぼくもそう思います。おもしろくありません。
すみません。なんかやつあたりみたいで。




