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月見里は休み

柳亭種彦の未完の長編合巻。

にせむらさき田舎いなか源氏げんじ


当時は文字というか表現に規制がかけられたので、未完です。


未完というと、芥川龍之介の『邪宗門』が頭に浮かびますが、『邪宗門』というと北原白秋ですよねー。

 教室に入るのが嫌だった。だからこの足取りはまさしく嫌々だった。

 嫌気(けんき)呼吸をしたいくらいに、嫌気(いやけ)が差していた。だったら嫌気(いやけ)呼吸といえるかもしれない。

 すごい!

 人類初の嫌気(けんき)呼吸体得者だ! すくなくとも字面からはそう判断される。

 と、

 いつも通りにひと通り、通りいっぺんのジョークをつぶやいたところで。

 ガララと教室の戸を開けた。

 チャイムはもう鳴り終わっているのに、まだ席についていない生徒がいた。

 いつも通りだ。

 入学して間もないころは、借りてきた猫みたいにおとなしかったが、いまとなってはとんだどら猫である。

 七五三担任は生徒がすわるのを待ってから、HRを開始した。


「デブの平熱はけっこう高いんだよ。だから休まなくていいよ」

 月見里はかに玉雑炊を食べながらいった。

「休ませるわ。熱あがったらどうするのよ」

 母親も負けてはいない。

「でも、授業が……」

「受けなくてもいっしょよ」

「行きたい」

「ダメよ!」

「生きたい」

「それはいいわよ」

「行きたい」

「だからダメよ!」

「じゃあ、生きたくない」

「生きて!」

 こんな感じで討論をしていたが、

「き……気持ち悪い。トイレにいってくるよ」

 と月見里は席をたった。

 風邪をひいているのに食べ過ぎたのだ。

 便器に向かって数回嘔吐をしたら、のどがひりひりと痛んだ。それに寒気もした。

 しかし外は晴天で暖かい。

 ということはやはり風邪なのだろう。

 月見里はこれ以上は抵抗せずに、「学校、休むよ」と肩を落としながらいった。


「月見里くんは、きょうは休みかな?」

 一尺八寸は不安げにいった。

「季節の変わり目は風邪をひきやすいからねー。気を抜いたんじゃない?」

 四十川は笑いながら、「それとも一尺八寸ちゃんにお(ねつ)なのかもね」

「お熱?」

「隠さなくてもいいよ。きのう月見里くんといっしょに帰ってたじゃん」

「いや、べつに……。そんなんじゃ……ないっていうか。……えーと、アレだよアレ。服選びを手伝ってほしい、とかいわれてさ」

 しどろもどろになりながら、必死に弁解しようとする一尺八寸。

「ふーん、そうなんだあ」

 にやにやしながらも、四十川はさらに言及していく。

「で、どこまで発展したの?」

「発展なんてしてないよー。四十川ちゃんの妄想力が発達しすぎなんだよー」

「まあまあアベックだとね、誤解を生じやすいよね」

 ちなみに四十川は――

 アベックの意味をアベックホームランでおぼえていた。(下ネタではなく、野球用語として。だから球をどこかにいれるとか、そういう奇妙な発想はしないでほしい)

「主に誤解しているのは、四十川ちゃんだけだろうけどね」

 半ばあきれている一尺八寸をよそに、

「老婆心ながらひとこといわせていただくと、肉体関係は働いてからもったほうがいいよ」

 四十川はしみじみいった。

驢馬ロバ老婆ろうばも、そんなくだらない老婆心はださないよ」

 あんたはド馬鹿ばかならぬ、駑馬どばか!

 一尺八寸はすごい剣幕でどなった。

 不適切というか、不適当なツッコミをごまかすようにいった。

「まあね、若気のいたりということもあるからね。気後れすることはないよ。ただ生理中に性交するのは危険だったと思うからやめたほうが無難だよ」

「その話題チョイスになったことが、若気のいたりならぬ、汗顔のいたりだよ」

 ため息をつく一尺八寸。

 頭が痛いと、(ひたい)をおさえた。

「もしかして、風邪?」

「うん、そうだよ……。恋の(やまい)だよ……」

 一尺八寸はすでに、反論することもしなかった。


 ――昼休みの職員室。

「二先生。お昼ご飯いっしょに食べませんか?」

 食堂で弁当やパン、ジュースを購入してきた七五三担任は、恋敵(こいがたき)である二社会科教諭を誘った。

「いいですよ」

 セブンイレブンから仕入れた幕の内弁当と茶をだして、二先生は承諾した。

 ふたりはしばらく無言で食べていたが、

「ノルマン現象って知ってますか?」

 七五三担任は食事をやめて、口をひらいた。

 じつは本編中で二先生が、

『なんとか解析』、『なんとか制御』といっているとき、いっしょに使った用語でもあるのだが、

「ええ、カーノックの別名称ですよね」

 と。

 二社会科教諭はボケた。またはとぼけた。 

「いや、それはノッキング現象ですけれど……」

 カーノックと聞くと、零崎軋識の人間ノックを思い出すな。――人気ラノベを想起する七五三担任。

 マンガ好きはラノベも好きなのだ。

 二担任は記憶ちがいだったと、首をふり、

「そうでしたね。じゃあ、忘れました」

 両手を挙げた。

 忘れたってことは、知ってはいたのか。

 知ってはいたことを、忘れた七五三担任は感心していた。

 しかし――と彼は思う。

 はたして――

 忘れたという表現は正しいのだろうか。

 人間は忘れることのできる生き物だというが、それは思い出すことができなくなっただけで、完全に忘れることなど、できないのではなかろうか。

 3歳児以下の乳幼児は胎内にいたときの記憶があるという。

 つまり、探偵学園Qの美南恵(瞬間記憶能力の持ち主)でなくとも、忘れることはできないはずだ。

 と。

 テレビでえらい(?)生物学者さんがいっていた。

 ような気が、

 したような、しなかったような。

 なんだかんだいっても、ただの持論かもしれない。

 記憶といえば……。

 七五三担任は一二英語教諭から、プライミング効果という単語を教えてもらっていたが、それはもうとっくに忘れていた。

 まあそんなものなのだ。

 記憶とは、

 曖昧(あいまい)模糊(もこ)で。

 複雑怪奇で。

 変幻自在で。

 千変万化で。

 自家薬籠(じかやくろう)で。

 自由自在で。

 自分勝手な。

 データバンク。

「……どうかしましたか? いきなり沈黙をされましたけれど。私はなにか地雷を踏むようなことをいいました?」

「いいえ」

 七五三担任は否定し、

「考え事をしていました……」

 がんばって直前の会話を思い出し、

「さてでは、ノルマン現象についてですけれど――」

 と説明を始めた。

アセクシュアル(無性愛者)は、世界に1%(7000万人)もいるそうです。


無性生殖ができれば、それはそれでありかもしれませんね。

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