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好きとか嫌い

日本に初めて紹介されたカレーのレシピに実際に入っていた→カエル(赤ガエル)


でも、はやらなかったんですって。

 風邪をひいた。

 それは起床したときになんとなく気づいたことだった。

 頭が痛いし、身体は重く、食欲があまり出なくて、悪寒おかんがしたのだ。

 月見里は身体を引きずるようにしてリビングへ行くと、

「おはよう、お母さん。――ちょっと体温計貸して」

 と、土鍋に火をかけている女性に声をかけた。

「体温計? デブなのに風邪ひいちゃったの?」

 月見里の母親はそうきいた。

「なんか、そんな感じがする」

「仕方ないわね」

 母親はガスコンロから離れて、月見里に体温計を渡した。「それじゃあきょうは学校休みね――電話しておくわ」

「いや、ちょっと待って!」

 月見里は制して、「熱がなかったら学校に行く!」と断言した。

「あら、そう?」

 母親は予想外の返答にすこし戸惑ったが、

「でも近々合宿もあるみたいだから、無理しなくてもいいんじゃない?」

「熱さえなければ平気だよ」

 月見里の脳裏には四十川の顔が浮かんでいた。

 会いたい。

 一刻も早く――

 一時も長く――

 とにかく会っておかないと、いけない気がする。

 相手の記憶に、印象に残るようにしたい。

 ピピピピ……という電子音が脇の下から聞こえた。

 体温計の数字をみる。

 頭が痛み、吐き気がした。

 その表示によると37度6分だった。


「青木まりこ現象というのは、本屋に入ると、トイレに行きたくなるという症状のことらしいですけれど、一二先生は経験されたことはありますか?」

「いいえ、青木まりこさんには悪いけれど、そんなにないわね。二先生はおありなんですか?」

「そうですねー。どうだったかな……」

 職員室。

 またまた楽しそうに談笑している、二社会科教諭と一二英語教諭がいた。

 二先生よりも一二先生のほうが、うれしそうだなと、七五三担任は思った。

 もしかしたら一二英語教諭は機嫌がいいのかもしれない。

「なきにしもあらず、ですね。読書尚友どくしょしょうゆうとはいいますけれど、読んだことのない作品を読むのは、初対面の人間と話すくらいに緊張してしまいます。そうなると――トイレに行きたくなりますね」

「なかなか繊細なのね」

「浅学非才という意味の浅才ですね。たしかに私自身、教養がすくないことは自覚していますが、だからといって、いまさら、いち夜漬けで勉強しても、一朝一夕でどうにかなるわけではないのであきらめていました。そんな私を、口に蜜あり腹に剣ありでいさめてくださるとは、さすがは一二先生。教師の鑑ですね」

「いちおう忠告しておくけれど、口に蜜あり腹に剣ありは、ほめ言葉じゃないわよ。飴と鞭とは混同させないように注意してよね」

「そうなんですか。うわー、混同してました。勉強(ため)になります!」

 またまた……。

 ほんとうは知っていたくせに――

 二社会科教諭が正しい意味を知っていたかどうかは知らないが、

 七五三担任からはわざとまちがえたようにみえた。

「二先生は博学多才でしょう。だからそれくらいのことわざは知っていたはずよ。無理に謙遜することないわ」

「ほんとうにわからなかったんですって! この前までは役不足と力不足を同一の単語だと思っていたほどです。信じてくださいよ」

「ムキになるところがかわいいわね」

「なにをいってるんですか?私ほど無知で無学な教師は、そうそういませんよ」

「じゃあ、そういうことにしておきましょうか?」

 そして彼らは「ははは……」と声をそろえて笑った。

 七五三担任もいっしょに笑った。


「あのさー、こんな話、知ってる?」

 小鳥遊はことのついでのようにいった。

 しかし、ついでといってしまえば、高校生のくりひろげる言動などは、そのほとんどがついでで片付いてしまう。

 だからついでというよりは接穂(つぎほ)だった。

「おじゃる丸の話なんだけどね」

 おじゃる丸とは教育番組で、平日の夕方ころに放映されているアニメである。歴史上の人物、坂上田村麻呂の知名度はそれによって維持されているといっても過言ではない、かもしれない。

「いっておくけど、アレは受け付けないよ。裏設定っぽいやつ」

 と、四十川はつまらなそうな話題を早々に打ち切った。

 が、

「裏設定? なにそれ。となりのトトロで、トトロは子どもだけにみえる幻獣ではなくて、死人にだけみえる死神であるという説や、千と千尋の神隠しで、千尋たちはトンネルに入るまえに、じつは死んでいてアレは死後の世界だったんだよーみたいな裏設定?」

「……ジブリ詳しいね」

 四十川は苦笑したが、小鳥遊は胸を張って、威張っていた。

「ジブリといえば、日本人でジブリが嫌いなひとはいない! と、どこかの映画コメンテーターがいってた気がするけど、どう思う?」

 さっきまで、拱手傍観きょうしゅぼうかんてっしていた一尺八寸はそう訊いた。

「さあ? 嫌いなひともいるんじゃない?」

 反論を試みたのは四十川だった。

「ううん、嫌いなひとはいないよ」

 それでも一尺八寸は、泰然自若たいぜんじじゃくとしている。

「いるよ。好きなひとがいれば、嫌いなひともいるはずだよ!」

「いないよ。好きなひとがいたら好きじゃないひとがいるだけだよ!」

「だけどそれは――。好きじゃないってことは嫌いと同義だから……」

「好きじゃないと嫌いはちがうよ。好きじゃないっていうのは、興味がないっていうことと同じで、嫌いは嫌だっていうのといっしょなんだよ」

「…………」

「…………」

 一尺八寸は力強いまなざしで、

「月見里くんのこと、好きなの?」

 四十川に訊いた。

「全然!」

 四十川は激しく否定し、

「私……好きじゃないから」

 といった。

 なぜそんなことを突然に、しかもなんの脈絡もなくいわれたのかは知らないが。

 ウソだった――

 一尺八寸にウソをついたわけではなく、四十川は自分にウソをついた。

 ごくありふれた――自己欺瞞。

 ふられたくなければ――ひとを好きにならなければいい。

 そんな――汎論はんろんめいた一般論によって、おのれの心をあざむいた。

小鳥遊がしたかった、おじゃる丸の話。(雑学です)


夏の暑い日。

カズマたち一家は、クーラーもつけずに汗をかきながら過ごしていました。するとなんだか部屋が急に涼しくなってきて、カズマが異変に気付きます。……オチはおじゃる丸が冷蔵庫をあけていたからということでした。


ちなみに冷蔵庫をあけっぱなしにしておくと、室温は”上がり”ます。

だからおじゃる丸の真似はしないでねー、という話でした。

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