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下準備しよう

松本清張『けものみち』

平成十七年十月十五日、七十三(ななじゅうさん)刷り、新潮文庫。

(注)スピン破損の古本である。

いま現在、ぼくはこの小説を読んでいます。

(あと2冊、も同時並行で読んでいます)

以下、『けものみち』より抜粋。


民子のセリフ(夫に対して)

P.75「やめてちょうだい」

民子のセリフ(タクシー運転手に対して)

P.101「そこを右に行って頂戴」


みてのとおり、『ちょうだい』にするか『頂戴』にするか。同じキャラが言ってるんだから、漢字表記にするか、ひらがな表記にするかを、()べて統一すべきだと思います!

「あらあら、お忘れですか? わたくしも今年からは、担任を兼任していますのよ」

 一二英語教輸は、驚愕する七五三担任に教えてあげた。

「英語愛好会、文芸同好会、それと担任をさせていただいているわ」

「おおっ!」

 七五三担任は、感動詞を用いるほど感動した。

「まさしく三面六臂さんめんろっぴ。いいや八面六臂はちめんろっぴのご活躍ですね」

「おだてないでくださいよ。七五三先生だって、八面玲瓏はちめんれいろうと評判じゃないですか」

 一二英語教諭はなにくわぬ顔で瞞着まんちゃくした。

 しかしなにも知らない七五三担任は、気をよくして、

「そうなんですか。いやー、照れるなあ。都合が合えば、お茶でも飲みに行きたい気分ではありますが、まずは黽勉勉励合宿の仔細しさいなプランを確認させいただこうと思います」

 七五三担任はうっかり、ぽっかり、すっかり……

 勉強合宿の日程(教師用)を失念していた。

 というのも。

 言い訳というか言い逃れをさせていただくと、ちゃんとした浅い事情があるのだ。

 それは――

 ほぼワンパターンの戦略でアンパンマンを攻略しつつも、けっきょく最後にしばかれる悪役バイキンマンや、

 ナメック星で孫悟空に敗れたのち、メカになって父親とともに地球へ来襲したものの未来のトランクスによってしばかれた悪役フリーザ。

 ――の声優。

 中尾隆聖さんが、

 ワンピースのパンクハザード編で、麦わらの一味にしばかれるであろう悪役シーザー・クラウンを演じるということで、頭がいっぱいだったからだ。

 将来は漫画家。になる予定。の七五三担任。

 だからそちらのほうを優先的に覚えていたかったのだ。

 ちなみに。

 黽勉勉励合宿は1年生の担任と副担任、校長と副校長、保健室の先生が同伴する。

「忘れてしまったのですか?」

 一二英語教諭はそれを予見していたかのように、予想していたみたいに、予定通りといった様子で、あらかじめエクセルで入力しておいたデータ――

 を印刷したプリントを、七五三担任に手渡した。

 抜かりなく抜け目なく間抜けでない。

 落ち度も欠陥もおそらくない――如才ない才女。それが一二英語教諭だった。

「すみません。助かります」

 礼をいってから、

 七五三担任はできるだけさりげなく、

「部屋割りでいっしょになれるといいですね」とささやいた。

 男女別々の部屋割りだとも知らず。


『笑っていいとも!』という番組で、黒柳徹子さんがなんと43分間もトークを繰り広げたという伝説があるが、月見里堤はそれにも匹敵するような時間、四十川翔子と話していたように思う。

 沈黙。

 あるいは、

 沈思黙考。

 または、

 黙殺――。

 月見里はこれを極端に嫌い、ぎの会話をとどこおりなく、とめどなく続けまくったので気疲れをしていた。

 じつは四十川との会話シーンしか描写していなかったが、

 月見里はもっとたくさん、ぎょうさん、盛りだくさん、お話をしていたのだ。

 そして、

 ――話し上手は黙っている『時間』も会話のいちぶとして自然に取り入れるらしいが、

 ――話し下手は黙っている『時間』を会話における剣ヶ峰けんがみね、土俵際と判断してしまい、不自然に取りつくろう。

 だから余計に疲労し、余分に疲弊するのだ。

 それはさておき。

 月見里が――校門を出て、HobbyOFFホビーオフへ寄り道をしようとした道中。

「ねえ」

 と声をかけられた。

 女の子のような声だった。

 おそらく女子だろう。

 まあべつに、

 だれであろうと、なかろうと月見里には――関係ないが。

 美人局びじんきょくであろうと郵便局であろうと――興味ないが。

 ちなみに美人局は正確には美人局つつもたせと読む。

「ねえってば!」

 ぐいっと、腕をひかれた。

 女の子のような握力、膂力りょりょくだった。

 おそらく女子だろう。

 まあべつに、

 だれであろうと、なかろうと月見里には――関係ないが。

 市役所であろうと刑務所であろうと意味はない――が……。

 くるり、と。

 身体を反転させられた。

 反抗する暇もなく。反省する間もなく。

 間髪をいれず、

 振り向かされた。

 そこにいたのは。

「…………」

 女の子のような容姿をした人物だった。

 おそらく女子だろう。

 まあべつに、

 だれであろうと、なかろうと月見里には――関係ないが。

「今日は……なんかあの……ありがとう。えーっと、なんていうか……」

 一尺八寸紗矢だった。

 髪の毛をいじりながら、

「今日は水曜日だよね。だからさ、なんか、なんていうか……」

 期せずして――

 ゆくりない展開ではあるが。

 月見里は一尺八寸の、私服(勉強合宿用)探しを手伝わされた。

 買い物の途中。

 一尺八寸は、

「『ドンキ・ホーテ』って、みんないうけど、正式名称は『ドン・キホーテ』なんだよ」

 セルバンテスの長編小説または店舗名を教えたり、

「雨が留まるって書いて、あまだれって読むんだよ」

 役には立たないけど、知っていて損はない知識をひけらかしてくれた。

 雨だれ石を穿つというし、念力は岩をも通すらしいから、一尺八寸にはぜひとも努力をしていただきたい。

 でも、しかしながら。

 一尺八寸は、五月雨さみだれ式に話していたので、

 月見里からは非常に非常識なほど、五月蝿うるさく思われていたのである。

前書きに対する意見、

一二英語教諭より、ちょうだいしてきました。


「……なるほど。話し相手が、身内からタクシードライバーに変更されているから、すこしよそよそしく応対しているという、微妙なニュアンスがもれなく伝わってくるわね。『ちょうだい』をひらがなにするか漢字にするかという素人が一 見しただけでは思い及ばないし、及びもつかない高尚なレベルであると感じ入るわ。センベイ先生もまだまだ未成年であるとともに未熟者のようね。あるいは早熟かしら……。私は熟女なのだけれども、年下のそういうませたところが大好きなのよ。なんだか調教してあげたくなるわ。でもセンベイ先生は口やかましいし、口さがないから論外ね。二社会科教諭みたいな大人しい大人が好みですわ」

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