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黽勉勉励合宿

折檻(せっかん)と説教。体罰と指導。先生と生徒。


……微妙な距離感です。

「千葉茂は野球選手なんだけど、それだけでなくカツカレーの嚆矢こうしとなったことでも有名なんだよ。いわゆるカツカレーの創始者。おれの体型をかたちづくった責任者!」

 黒板をバンバン叩きながら、七五三担任は熱弁をふるっていた。

「そういえば、カレーに福神漬けとかラッキョウを入れる派ですか?」

 月見里は好きな女の子に声をかけた。

「えっ……私?」

 四十川は月見里をみて、「私はいれないなあ。そのまま本来の味を楽しみたいから……」

 まじで?

 月見里は愕然とした。

「おれは両方ぶち込む派なんだけど……」

 という言葉をのみ込んで、

「ですよねー。その気持ちわかります。ということは、ソースとかマヨネーズとかチーズとかしょうゆとか納豆とか生卵とか唐辛子とか新潟で販売しているといわれる唐辛子『鬼殺し』とか味噌とかふりかけとかラー油とかオリーブオイルとかサラダドレッシングとか焼き肉のたれとかわさびとかケチャップとかねりからしとかポン酢とかはちみつとかバターとか、そういうの全部いれない派ですか?」

「それを全部いれて食べてみてよ。こんど味の感想を聞いてあげるから」

「あなたは鬼ですか? そういえば鬼気迫る顔ですね」

 危機が迫る――

 だが好きな子に追いつめられると、危機ではなく喜々なのだった。

 キャラ的には危機だけど……。

「ほかに惣菜のトッピングはどうなんです。七五三先生も話していますが、カツカレーとかって食べるんですか?」

「食べるよー。とくにブタとか……」

 ブタ?

 月見里は眉間にしわを寄せた。

 ブタ、だと?

「だーれがブタじゃあ!」

 月見里は立ち上がって抗議をした。


 以下――割愛。


「それでは、本題にはいりましょう」

 七五三担任がいいかけたとき、

 廊下にはすでに帰宅している生徒がいた。

 二社会科教諭の受け持つクラスだ。――彼はめんどうくさいから、HRをやっていない。

 きっと、

 有能すぎるため、かえって低能すぎる二社会科教諭のことだから、

 あしたの日程くらい、入学式に配布してある『年間スケジュール帳』をみて判断するのが当たり前だと思っているのだろう。

 まったく――

 あんたのクラスには、この学年の白眉はくびしかいないのか。

 なぜなにも連絡しないで、愁眉しゅうびを開いていられるのだ。

 とんだ眉唾物の先生だ。

 七五三担任は胸中でののしりはしたものの、胸三寸に納めた。

 気持ちを抑えて、心に納めた。

 そして腹部を強制的に締めつけている、忌まわしいベルトをさすりながら、

「さて……」

 と、鬱々とした面持ちで語りだした。

「入学式でも伝えた通り、勉強合宿もとい黽勉勉励合宿という勉強会が、来週の月曜日から火曜日にかけて、一泊ふつかで行われます。それに際しての注意事項をこれからいくつか述べていきますから、必要な人はメモ書きをしてください。それじゃあ言います」

 生徒はほとんどだれも聞いていないので、肝要なところだけをかいつまんで教えた。

「……と、いうわけです。質問のある人は手を挙げてください」

 手が挙がった。

「はい、そこ」

 アイコンタクトでその生徒を指名する。

「帰っていいですか?」

 その生徒は立ち上がると、

 開口一番にそう言った。

 教室中の生徒が失笑した。爆笑というよりは失笑。

 もしくは嘲笑である。

 すると浅瀬に仇波あだなみで、馬鹿な生徒が一丸となって騒擾そうじょうした。

 ざわざわ……ざわざわ……

「うるさいので、また雑談しまーす」

 機嫌を損ねた七五三担任はいじわるをした。

「えー、猥談わいだんがいい」

 という、

 男子高校生のノリとしては、

 申し分ないくらい――百点満点の、

 女子高校生に対しては――申しわけないくらい、

 適切妥当最良最高の題目だったが、それは却下された。

 こうして無駄にHRが長引いてしまったのである。


 HRが終わり――職員室。

「来週の月曜日から行われる黽勉勉励合宿って、一二つまびら先生も参加しますか?」

 七五三担任は、女性教師に対して質問を浴びせた。

 その女性教師とは――

 文芸同好会顧問、

 および

 英語愛好会副顧問の、

 ミステリアスな女性でありつつも、ミステリー小説が大好きで、

 キャラ設定がいちばん念入りに決められていて、

 おまけに問題発言が多い人物で――

 たとえば、こんなことを言う人だ。

『江戸川乱歩の怪人二十面相って、ぶっちゃけザコくね……。だって明智探偵と初顔合わせをした段階で、すでに負けてるじゃん』

 もちろんこんな口調ではないものの、こういう歯に衣着せぬ言動をする女性教師である。

 その名も一二英語教諭。

 フルネームは、一二つまびら一二三ひふみである。

 ちなみにこれは蛇足だが、

 通り一遍の父兄には、

「お笑い芸人の『三又又三みまたまたぞう』みたいな名前だね」

 といわれているらしい。

 さて……

 ずいぶんと行間が空いたが、そこらへんは行間を読んでいただくとして。

 空気を読んでいただくとして。

 一二英語教諭は、

「もちろん参加しますわ」

 と、すまして言った。

一二英語教諭のモデルとなった人は、

『現代文』『古典』『漢文』の先生です。


あのお方とは謦咳けいがいに接することができて幸せでした。

ミステリ好きではありませんが、主に、『坪内つぼうち逍遥しょうよう』『二葉亭四迷』『尾崎紅葉』らのお話しをしていただいたので、ぼくは黙々と拝聴しておりました。

二葉亭四迷の由来は、『くたばってしまえ』なんですって。


あとは忘れました。

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