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一尺八寸の恋

ルビはたくさんふるようにしています。

ルビコンを渡るつもりで、たくさんふってますwww

「ところで二先生。あなたからは腹に一物、背に荷物といった雰囲気を受けますが、本当のご用件はなんでしょうか。まさか世間話に終始したりはしませんよね」

 七五三担任は、自己嫌悪に陥る寸前で、なんとか話題を逸らせた。

 なんだか軌道修正しかしていないような気がする。

 が、

 気のせいだろうか。

「さすがは七五三先生。早い話、話が早いですね。いちを聞いてじゅうを知るとは、推して知るまでもなく、このことですよ」

 二社会科教諭は、

 おそらくこれから物語の中枢を担うことになるであろう、

 ビッグイベントというよりは、ビックリイベント――

 奇をてらったというよりはウケをねらった――

 勉強合宿の開催を口にした。

「やっぱり今年もやるんですね。あの無意味きわまりない、最低最悪最凶の黽勉びんべん勉励合宿を」

 七五三担任はあきらかに不愉快そうな顔をみせながら、

「さもありなんとは予想していましたけれど、いやはやめんどうくさいですね」

 二社会科教諭も、我が意を得たりとばかりに、

「私も同意見です。わざわざ県外の圏外にまで行って、電波もろくに通じないような山奥に宿泊するのはアウトドア派の山岳さんがく部だけにしてほしいです」

 と、こぼした。

「効率を落として学力を落とし、点数を落として受験を落とし、崖から落として命を落とす……。まさしく落としどころ。落ちあうならここだね、で有名な――あそこの宿舎に……行かなきゃならないのかあ」

 がっくりと肩を落とすふたりに、

「落ちあうって、落下傘部隊じゃないんだからさ。まったく大げさな……落ちついてくださいよ」

 落ちあう――の意味を。

 待ち合わせる、ではなくて、いっしょに落ちる、落下するだと誤認した、

 通りすがりの五十先生は、落ちこむ彼らをなぐさめたのだった。


 予鈴が鳴ったので、生徒一行いっこうは5時間目の準備へと移行していた。

 そんななか、

 まさしく棚からぼたもちで、思いがけずクレープを頂戴した一尺八寸かまつか紗矢さやは――

 月見里の気まぐれのおかげで、クレープをゲットできた一尺八寸紗矢は――

 四十川のお友だちだから、クレープをおすそ分けしてもらえた一尺八寸紗矢は――

 お風呂に入ったわけでもあるまいに、のぼせていた。

 ちなみに風邪をひいたわけではないし、教室の温度が高すぎるということもない。――どちらかといえば寒いくらいだ。

 それなのに一尺八寸の顔は上気じょうきしていた。

 いったいなぜか。

 それはさておき――さきの情報をまとめるとこうなる。

『一尺八寸は四百四病をわずらっているのではなかった……』 

 ――さらに言及すると、

『四百四病のほかであった……』

 換言すると――

 こうなる。

『恋のやまい、恋わずらい』

 そう、一尺八寸紗矢は恋をしていたのだ。

 ついさっき、昼休みのこと。

 昼食を忘れて困っていたのだが、

 それを助けてくれたのが彼――であり、

 飢えをしのいでくれたのが彼――である。

 一尺八寸の視線は、その彼。

 はたして月見里に注がれていた。

 が、

 そうとは知らぬ肥満症の月見里は、時計を気にしながらもケータイゲームをやっていた。

 なぜか教壇に座ってプレイをしている。

 ものの、

「そろそろ時間か……」

 と、自分の席にむかった。

 歩く途中、

「でぶでぶででーぶ、でぶででーぶ。でぶでぶででーぶ、でぶででーぶ」

 とノリノリで歌い、

 どや顔で、

「おでぶくん」

 ポンッと腹太鼓でしめた。

 歌詞だけでなく、メロディまでパロディの――

 だれに対してやったわけでもない、歌を披露した。

 こんな歌でも、

 一尺八寸だけにはウケたようで、彼女はひとりで爆笑していた。

 ただし、生真面目に演繹えんえきすると――

 辟易へきえきされても円満具足になるよう演繹すると――

 ひとりしか笑っていないので、本当は『爆笑』と表記するのは正しくない。

 だがラノベというジャンルは、曲学阿世きょくがくあせい阿諛追従あゆついしょうなのだ。

 だからここはひとつ世間におもねり、迎合すべきだろう。

 というわけで。

 抱腹絶倒の勢いで爆笑していた一尺八寸は――

 月見里が接近してきたのを知って、表情を改めた。

 そして彼女は、

「Yシャツとか制服のボタンが飛びそうなほど、赤の他人がみたらぶっ飛びそうなほど、ぶっ飛んだ設定で、飛び抜けて太ってるね」

 と。

 お笑い芸人であれば、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するであろう言葉を――述べた。

 しかしそれを――

 月見里に使うのは欣喜というよりは禁忌に近く、

 禁句ゆえに禁断で、禁止され危険視されている単語だったのだ。

 もちろん、

「ブタじゃねーわ」

 とか、そういう自然な反応にはならない。

「だーれがおでぶくんじゃあ!」

 月見里は一尺八寸に、

 勝手にヘッドバッドをした。

 無手勝流の奥義、徒手空拳である。

 額とひたいがぶつかり、ごつんと音がした。

「……ったぁ~」

 一尺八寸はイスに座ったまま、おでこをさすった。

「ちょっと……なに?」

「おれはおでぶじゃない。布団のように太っているだけだ」

 一尺八寸は、

 ああ、そう。だからなに?

 というわけにもいかず、

 かといって、この奇行をとやかくいうこともできず、

「ごめんなさい」

 口先だけで謝った。

 が、

「うおー、新幹線!」

 月見里は窓越しにみえる鉄橋をみていて、走行している新幹線に夢中になっていて、聞いていなかった。

「もう、なんなのよ」

 狐につままれた一尺八寸はほおを膨らませて、

 されど月見里にボディタッチができたのでほおを赤らめ、

「あーあ」

 と、呟くのだった。

「なーんか、ドキドキするのよねえ」

 なんでかはわからない。

 なのに、胸焼けがするみたいな。

 鼓動が早くなって息がきれるみたいな。

 ふむ――これはまずいことだ。

 どの哺乳類の心臓でも――つまり人間も例外なしに、

 一生の間に15億回、鼓動を打つといわれていて、その数値に達すると寿命で死ぬらしい。

 齧歯げっし類なんかは、脈を打つスピードが速いから夭折ようせつするのである。

 ということは――だ。

 変な話、

 一尺八寸はドキドキすることによって、寿命を縮めているのだった。

一尺八寸かまつか紗矢さやちゃん。


漢数字の苗字が多くてまぎらわしいですが、まぎれもなく――彼女は新キャラです。

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