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告白なんて

フラグの回収が間に合わないかも。

だから……

さきにネタばらしをします。


作中作「如才ない才女」は一二英語教諭の学生時代の大賞作です。

いちおう書籍化もしているという設定ですが、プロにはなれませんでした。

 ――同じく昼休み。

 何年度版かは知らないが、とりあえず表紙がキラキラと輝く『ギネスブック』を読んでいるところに、四十川があらわれた。

「霹靂ちゃん。容疑が晴れて良かったね。晴れ晴れしたでしょ? ほれぼれしたでしょ? もうこりゃあ天晴あっぱれだね」

 霹靂が図書室で本を読んでいると、四十川は必ず必然的に姿をみせるが、それはきっと……絶対的に絶大的な偶然の産物なのだろう。

 または、ストーカーだったり。

 ――するのだろうか。

「ねえねえ霹靂ちゃん。『如才ない才女』貸し出し中だったよ。やっぱり人気あるのかな。いやー。ベストセラーどころかミリオンセラーになっちゃうんじゃないかと思うよ」

 四十川はどこか誇らしげだった。

 お前が書いたわけじゃあるまいに。

「そうだね……。屈指の人気作なんじゃないかな」

「そう? やっぱりそう思う?」

 四十川はしばらくウキウキしていたが、「はあーあ」とわざとらしいため息をもらした。

「どうしたの?」と訊いてほしかったのだろうが、あいにく霹靂は「うわっ。すっごーい! ゴイスー」とひとりごとを言いながら、ギネスブックに夢中になっていた。

「…………~~っ!」

 しばらく逡巡したあとで、四十川はひとりごとのように訥々と話し始めた。

「今回って、萬ヶ原ちゃん庇護同盟、全然活躍できてなかったじゃん」

「うわー、なんでこんなのでギネス競ってんだろう」

 無視というよりは、無神経。

 つまり霹靂は四十川がしゃべっていることに気づいていないのだ。

 それでも語りをやめない四十川には、もはや意地とプライドしか残っていなかった。

「だからー、解散する前に、反省会でも開こうかなって、企画しているんだけど」

「霹靂ちゃーん。とっても耳寄りな情報だよ。なんと、パン屋さんが売りに来てて、なんと、蒸しパンが半額だったんだー。ねー、いっしょに食べよう?」

 廿が蒸しパンを持ってやって来た。

 ここは飲食物の持ち込みが厳禁なので、自然、図書委員の眼光が凄味すごみを帯びてくる。

「うん。でもここだと図書委員会の人に迷惑だからさ、教室に行こっか」

「そうだねー」

 霹靂は席を立って書棚にギネスブックを戻す。

 と。

 ここでようやく異変に気がついた。

 四十川が何事かをひとりでしゃべり倒しているのだ。

 恐い。恐ろしい。おどろおどろしい。

 異様だ、奇妙だ。

 呪詛をとなえているのか、お経を読んでいるのか。

 極めて異質だったので、霹靂は黙って図書室を出た。


 一方、最強教師陣サイド。

 チーム名は、おそらくだれも記憶していないだろうから、あえて明記を避ける。

 ――っていうか、チーム名なんてあったっけ?

「七五三先生、ご協力ありがとうございました。(一二先生の)おかげで萬ヶ原事件は無事に解決しましたよ」

 二担任は、七五三国語教諭にお礼を告げていた。

「いえいえ、とんでもない。……しかし、ギブアンドテイクですからね、二先生。あなたにもやっていただきたいことがあります」

 七五三国語教諭は作業をやめ、いやな笑顔を浮かべながら、

「及ばずながらも協力はしたのですから、それは当然ですよね? それでは依頼を依託しますよ」

「まあ、可能かどうか分かりませんけど……」

 二担任は。

「ああ、きっとペットボトルのジュースをおごらされるんだ。金がー金がー」

 と泣き叫ぼうとしたが。

 まったくちがう案件だった。

「なんです? これは」

 それはベタ塗り、トーン貼り、背景もバッチリ描きこまれたマンガの原稿用紙だった。

 これをいったいどうしろと? 焼けばいいのか燃やせばいいのか。燃焼すればいいのか燃消すればいいのか。

「まだ1話分しか仕上がっていませんが、素人判断で結構ですから、ぜひご感想をちょうだいしたいと思いまして」

 七五三国語教諭は残念そうに、「この前、◎◎社に持ち込みをしたのですが、『まだ若い。もうちょっと練習が必要だ』って、一蹴されちゃったんですよ。ですから捲土重来けんどちょうらいの意気込みも含めてがんばって描いてみたんです」

 なるほどね。

 二担任は、とりあえず一読した。

「うむ……」

 それにしてもコレは、つまらないというか。

「詰め込みすぎじゃないですか? 不良女子高生がバトって、無意味にスカートや衣服が破れ、下着と肌が露出。ここまでの流れなら、H系のバトルマンガですが。その後――なぜか通りがかった男の子と恋に落ちたのだけれど、その少年は魔術師で、主人公は異世界に転送されて……。ここはギャグなのかシリアスなのか、SFなのかファンタジーなのか境界がわかりません。1話にどんだけ凝縮してるんですか。濃縮すぎますよ」

 余計なことを言ったかもしれないが、九仞きゅうじんの功を一簣いっきくとか、角をめて牛を殺すということにはならないだろう。劣化すらできないだろうから。

 ちなみに。

 今度は一二英語教諭のミステリ小説(御寛恕できない人間感情)も読ませてもらうのだが。

 そこの問答はカットする。――意外とまともだったみたいで、ツッコミもそれほどなかったからである。


「緊急救急究明九部隊は自然消滅したわけだが、しっかしいざ解散ってなると、もうちょっと事件が続いてほしかったような複雑な気分になるよな」

 九拓真と萬ヶ原瑞穂は食事を終えてから、教室で談笑していた。

「うーん、そうだね。できればこのままずっと、続けばよかったのに……」

 このままずっと続いてさえいれば。

 九は、それは正義漢だから正義のために助けてくれるんだろうけど。

 でもそのあいだ、ずっとわたしを見ていてくれる。気にかけてくれる。

 それだったら……。永久輪廻、永劫回帰にわたって、未解決のままでもいいかな。

 萬ヶ原はそんなふうに思った。

「ずっと続いたら、警察みたいに捜査本部が解散しちまうぞ。いわゆる時効ってやつだ」

「だよね。やっぱりこの辺が落としどころだったんだろうね」

 落としどころじゃなくて。

 落としまえつけなきゃいけないんだけどね。

 ただ無意味に――面倒な事件に巻き込まれたっていうだけじゃなくて……拓真に。

 九拓真に、好きだって伝えなくちゃ。

 そうしなきゃただの悲劇のまま終わっちゃう。

「あ……あのさ。放課後あいてる? できたらいっしょに帰ろうかなあ、なんて……」

 興奮して顔が硬直しそうになるが。

 萬ヶ原は笑って。

 ――ごまかすために。ごまをするために。

 笑って言った。

「うーん、放課後かあ」

 腕を組んで九はうつむき、カバンからケータイ電話をとりだした。予定を確認しているのだろう。

「どう?」 

 デートしよう、とか。

 そこまで素直で露骨で無骨な事は言えなくて。

 他の子と比べると、全然ストレートに表現できなくて。

 いつも変化球を使ってしまう。

 フォークとか、カーブとか、そういう手玉に取るタイプじゃなくて。

 カットファストボールやシュートのように、打たせて取るピッチング。

 でも守備力が皆無のわたしは、たとえピッチャーゴロでもバントでも、インフィールドフライですら捕球が難しいのだ。まあインフィールドフライだったら放っておいてもアウトになるのだけれど。

「悪い。ちょっとムエタイ部の後輩に指導をする約束があったんだ……」

 ゴメン、と手を合わせて九はあやまった。

「ううん。気にしないで。引退してからもその実力は健在なんだね」

 萬ヶ原は。

 フォークとかカーブとかカットファストボールとかシュートとか。

 直球とか変化球とか。

 そういうレベルじゃなくて。

 自分にはストライクすらもとれないのかと悔やんだ。

 しかし笑顔はそのまま崩さぬようにふんばった。

「いやべつにそんな仰々しいもんじゃないんだけどさ。ただ、ボクシング経験者の後輩がいるんだけど、スタンスがどうしても前かがみになるんだよな。ボクシングはもともと蹴りがないからそれでよかったのかもしれないが、ムエタイの場合はパンチもキックも常時打てるようにしなくちゃいけないからそこが難点なんだよ。バンテージの巻き方は知っているからそこは平気なんだが。左ひざの攻撃もマスターさせたいしな」

 萬ヶ原は適当に相づちを打った。

 じつは彼女も英語愛好会で英会話のレッスンがあるのだが。だから帰宅時間の調節もできるのだが。

 萬ヶ原はそれをしなかった。

 ここから先の展開を考えると、非常に残念至極である。

「……だけど……」って言っているキャラ(基本的には生徒の場合が多いです)なのに、「……だけれども……」って言ったりします。


それは会話にリズムを生ませるためにわざとやっていることなので、気にしないでください。


ちなみに「恣意的に虐げられた思惟」は、月見里堤と四十川翔子が主人公です。

こっちもよろしくお願いします。(まだ書いてないけど)

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