神殺しの民
ある村には神様が住んでいた。神様は人々の願いを叶えた。しかしそれには条件があり、神様に願う者は左手の小指を捧げなければならなかった。
神様のお顔の前に左手を持って行くと神様は小指を噛みちぎり本を広げ読み上げた。文字も言葉も異国の物らしく理解することは出来ないが、読み終わる頃には願いが叶っていた。ある者は一生の富、またある者は病を治してもらっていた。神様が住む社には昼夜関係なく人々が並びその列は二山を跨ぐほどだった。神様は眠ることもなく願いを叶え続けた。神様は一度として笑うことはなくいつも悲しい顔をしていた。
村の噂は他の国にも広がり遠方からも人々が訪ねてくることが多々あった。村は繁栄しどんどん大きくなった。しかしその村に住む者たちに一人として左手の小指がある者は居なかった。
ある時若者が神に尋ねた。
『神様に消えてもらうことは可能でしょうか、このままでは世界が駄目になってしまいます』
神は悲しそうに首を横に振った。
それを見て若者はその場で一礼したかと思うと一本の刀で神様の首をはねた。駆けつけて来た村人たちは若者を殺し、神様の持ち物全てを社に奉った。そして刀は神殺しの刀として別の社に奉られた。
後に聞いた話だが、神様の生首は満面の笑みだったそうだ。