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17時になると全裸の王様と魔王がポップするバグ世界

掲載日:2026/05/18

この世界を創ったのは「創世の神」と言われている。でもそれは、大いなる聞き間違いだ。正しくは、「槽清そうせいの神」。


ただの湯槽を綺麗にする、お風呂専門の清掃神だった。その神が定めたこの世界の絶対ルール。


それが――。

「毎日、夕方17時から20時までの間、お風呂に入っていない人間の足元に、湯船を自動生成ポップさせる」

という、狂ったバグ仕様だった。


神様的には

「みんな定時にお風呂に入って綺麗になろうね!」

という親切心かもしれない。だが、そのせいでこの世界の貞操観念は完全に崩壊した。


17時になったら、お風呂が湧く。湧いたら入るのが人間の義務。

その結果、人類は

「夕方になったらそこら中で全裸になってお風呂に浸かる」

という、とんでもない生活習慣を手に入れてしまったのだ。


「頼むからみんな、1分でいいから服を着てくれ……!」


俺は前世の常識(日本人の感覚)を持つ、ただ一人の男だ。夕方になるたびに、右を見ても左を見ても全裸の人間だらけになるこの地獄。美少女の全裸は目の毒だし、近所のおっさんの全裸はただの精神攻撃だ。


毎日こんな目にあわされたら、俺の理性が持たない。だから俺は決意した。前世のゲーマー知識マイクラなどを駆使して、このクソ仕様に抗ってやる、と。


ターゲットは、お風呂の湧く条件だ。幸いにも、このお風呂自動生成システムにはバグがある。お風呂が湧くには「一定の広さ」と「床の材質」というリスポーン条件が必要なのだ。


つまり、その条件をあらかじめ潰しておけば、お風呂は湧かない。これぞ、孤独な人類の聖戦――「湧き潰し」である。


そして今、運命の16時55分。俺が立っているのは、この国の最高権力が集まる「王城の大広間」だった。


いつもなら豪華なドレスや鎧を着た貴族たちが優雅に談笑しているはずの場所。なのに、今の光景は完全に異常だった。


「おい、アレン。タオルの位置がズレておるぞ。神聖なる17時の儀式を前に、はしたない姿を晒すな」


「申し訳ありません、国王陛下。しかし陛下こそ、王冠の角度がいつもより傾いているかと」


金の刺繍が入った超高級バスタオルを腰に巻いただけの国王が、同じくタオル1枚の騎士団長と大真面目に会話している。


さらにその奥では、この国で最も美しいと称される王女様が、全裸(恥ずかしい部分は見事なロングヘアで隠している)で髪をアップにまとめていた。


「お父様、今日の『槽清の神』の恵みは何かしら? 私はジャスミンの湯だと嬉しいのだけれど」


「おおう、我が愛しの娘よ。今日は一段と肌が輝いておるな。神の湯が待ち遠しいわい」


それだけじゃない。大広間の隅には、なぜかこの前まで戦争をしていたはずの「魔王軍」の幹部(ゴリゴリのマッチョな魔物たち)までが、全員全裸で「おっす」みたいな顔をして並んでいる。


この世界、17時から20時までの間だけは、お風呂を優先するために全世界で一時休戦ノーサイドになるルールなのだ。


王族、貴族、騎士、魔王軍。世界トップクラスのVIPたちが、全員全裸で体育座りをして、今か今かとお風呂が湧くのをワクワクして待っている。


そんな変態のド真ん中で、俺だけがガチの防具を身にまとい、必死に作業をしていた。


『カン! カン! カン! カン!』


大広間のピカピカの大理石の床に、俺は信じられない勢いで「松明たいまつ」を突き立て、さらにその隙間に「木製のハーフブロック」を敷き詰めていく。


「ふぅ……よし! ここがこの大広間の『湯船湧き座標』の中心だ! ここさえ潰せば、この部屋にお風呂は湧かない……!」


額の汗をぬぐう俺を、全裸の国王や王女、そして魔王たちが、信じられないものを見るような目で睨みつけていた。


現在時刻、16時58分。お風呂のゴールデンタイムまで、あと2分。





現在時刻、16時59分。

ついに運命の1分前がやってきた。王城の大広間に集まった全裸(一部高級バスタオル)のVIPたちの間に、ピリピリとした緊張感が走る。


「……10、9、8……」


誰からともなく、秒読みのカウントダウンが始まった。威厳に満ちた国王も、可憐な王女様も、スキンヘッドの魔王軍幹部も、全員が血走った目で床の一点を見つめながら声を揃えている。


「……3、2、1、17時ぃぃぃーーー!!」


17時ジャスト。いつもなら、この瞬間に大広間の床がブワッとまばゆい光に包まれる。そして光が収まった頃には、極上の天然温泉がなみなみと注がれた大浴場が床からせり上がってくるはずだった。


だが。


「……あれ?」


王女様が、全裸のまま首をかしげた。


床が、湧かない。

光り輝くはずの大理石の床は、俺がカンカンと打ち込んだ松明と、隙間なく敷き詰めた木製ハーフブロックのせいで、ただの薄暗い工事現場みたいになっている。


「な、なぜだ……!? 槽清の神の恵みが、我が城に訪れんぞ!?」


国王がバスタオルをガタガタ震わせながら叫んだ。


「報告します! 床の下から微かに『ドボボボボ……』という湯の湧き出る音は聞こえますが、湯船が物質化ポップしません!」


騎士団長が全裸で床に耳をこすりつけながら悲鳴を上げる。ざわざわとパニックになる全裸の群衆の中で、俺だけがガッツポーズを決めた。


「勝った……! 勝ったぞ! 計算通りだ!」


この世界の「お風呂自動生成システム」は、床の上に遮蔽物(障害物)があると出現できないというバグがある。俺がやった湧き潰しは、神のシステムを完全にフリーズさせたのだ。これで勝つる。


17時からのゴールデンタイム、俺は服を着たまま、前世の尊厳と理性を守り抜くことができるんだ!しかし、俺が勝利の余韻に浸れたのは、わずか数秒だった。


「お前かァァァーーー!!」


地響きのような怒号が響いた。振り返ると、魔王軍の幹部(身長2メートルのトロール)が、股間を両手で隠しながら鬼の形相で俺を睨みつけていた。


「てめぇ! 俺様が今日のために、魔界からはるばるマイお風呂セット(ケロリン風の桶とシャンプー)を持参してきたのを知っての狼藉か! 湯を、湯を出しやがれぇ!!」


「そうだわ! 私のジャスミンの湯を返しなさいよ、この変態!」


王女様までもが、ロングヘアを振り乱して俺に指をさしてくる。服を着ている俺の方が変態扱いされるの、納得いかない。


「おい、そこな男! 今すぐその松明を抜け! さもなくば国家反逆罪でお前の服を剥ぎ取るぞ!」


国王が王冠をズラしながらブチ切れる。全員が全裸で俺に詰め寄ってくる。視界の100%が全裸。これはこれで、俺の理性が別の意味で破壊されそうだ。


「嫌だね! 誰が抜くか! 俺は絶対に、おっさんたちの全裸混浴デスゲームに巻き込まれたくないんだよ!」


俺が松明を死守しようと床に這いつくばった、その時だった。ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!大広間全体が、これまでにない不穏な地鳴りで震え始めた。


床のハーフブロックの隙間から、


『プシューーーッ!』


と凄まじい勢いで高温の蒸気が噴き出し始める。


「な、なんだ!? 湧き潰しは完璧なはずだぞ!?」


焦る俺の脳裏に、この世界の『槽清の神』が定めた、もう一つの絶対的なルールが蘇った。


【お風呂は空間ではなく、お風呂に入っていない人間の足元に湧く】


「あ……」


嫌な汗が、背中を伝った。俺は今、お風呂に入っていない。そして、この大広間にいる全員が、まだお風呂に入っていない。


つまり、神のシステムは、湧く場所を失ったわけじゃない。ただ、次のターゲットを「ロックオン」している最中なのだ。


カチッ。


脳内で、神のシステムが標的をロックオンした音が聞こえた気がした。


直後、大広間の床が、これまでの比ではない猛烈な光を放ち始める。ただし、光っているのは床の「場所」じゃない。そこに立っている、俺たちの「足元」だ。


「うわあああ!? お、お股のあたりが神々しく輝きだしたぞ!?」


国王が自分の股間を見下ろして情けない悲鳴を上げた。


「お父様、私もです! 足の裏から温泉のエネルギーが逆流してくるのを感じます!」


王女様が全裸でつま先立ちになりながらジタバタしている。それだけじゃない。魔王軍のトロールたちも、騎士団たちも、全員の足元からシュワシュワと怪しい気泡が湧き出し、床が激しく発光している。


神のシステムは、「お風呂に入っていない人間」というオブジェクトを全員まとめて検知し、その真下に湯船を強制生成しようとしているのだ。


そして、その中でも一番、爆発を控えた火山のようにビカビカと紫色に輝いている足元があった。――俺の足元だ。


「なんで俺のところが一番光ってんだよォォォーーー!?」


理由はすぐに分かった。周りのみんなは、バスタオル1枚だったり全裸だったりと、いつでもお風呂に入れる「入浴準備状態」だ。


だが、俺だけがガチガチの防具をフル装備している。つまり、世界で一番「お風呂から最も遠い不届き者」として、槽清の神のヘイトを単体で集めまくってしまっているのだ。


『ドボボボボボボボボボボボ!!』


ついに限界がきた。俺の足元のハーフブロックが消し飛び、床を突き破って、過去最大級の超巨大な五右衛門風呂が『ドゴォォォン!!』 と凄まじい音を立ててリスポーンした。


あまりの衝撃に、フル装備の俺は一瞬で鎧を引っぺがされ、気づけばすっぽんぽんの状態で湯船のド真ん中になみなみと注がれた湯に浸かっていた。


「熱っ……いや、めちゃくちゃ良い湯だけど、ちくしょう!!」


前世のプライドが死んだ。俺の湧き潰し作戦は、神の力によって完全に粉砕されたのだ。だが、本当の地獄はここからだった。


俺の足元に特大のお風呂が湧いたのを見た瞬間、大広間にいた全裸のVIPたちの目が、一斉に怪しくギラリと光った。


「おい、見ろ! あの男のところに、めちゃくちゃ広くて気持ち良さそうな風呂が湧いたぞ!」


「神の恵みだ! 乗り遅れるなァァァーーー!!」


「ちょ、待て、来るな!!」俺の静止なんて聞く耳を持つはずがない。17時を過ぎて一刻も早くお風呂に入りたかった全裸の国王が、バスタオルを投げ捨てて俺の湯船に向かって全力でダッシュしてくる。


「待ちなさい国王! 一番風呂は、この魔王軍の幹部である俺様がいただくッ!」


身長2メートルの全裸のトロールが、ケロリン桶を振り回しながら横から猛スライディングを仕掛けてくる。


「お父様、ずるいです! 私も混ぜてください!」


王女様までが、ロングヘアをなびかせながら全裸で華麗にフライングダイブの体勢に入っている。


右からおっさん、

左からバケモノ、

正面から美少女。


全員が全裸で、俺が1人で浸かっている湯船を目がけて一斉に空中に飛び込んできた。


視界を埋め尽くす、360度肉体の壁。


「嫌だぁぁぁーーー!! 誰か助けてくれェェェーーー!!」


大広間の中心で、俺の悲痛な叫びがこだました。


ザッパーーーーーン!!!


大広間に響き渡る、過去最大級の水音。それと同時に、俺がいた特大の五右衛門風呂に、全裸のVIPたちが一斉になだれ込んできた。


「ふぃ〜〜〜! やはり夕方17時の槽清そうせいの神の湯は格別じゃな!」


国王が俺のすぐ右隣で、髭を濡らしながら極上の笑顔を浮かべる。


「生き返るわぁ……。ちょっとそこのトロール、私のシャンプー使わないでよ」


王女様が俺の正面で、ロングヘアをかき上げながら極上の生肩を晒している。


「ケッ、ケチくせえこと言うなよ王女ちゃん。おい人間、背中流してくれや」


俺の左隣では、身長2メートルの魔王軍幹部が、ケロリン桶を頭に乗せて俺に背中を向けてきた。右を見てもおっさん。左を見てもバケモノ。


正面だけは美少女だが、おっさんとバケモノの圧が強すぎて、エロい感情なんて1ミリも湧いてこない。というか、物理的に狭い。すし詰め状態だ。


「……なぁ、なんで俺が魔王軍の背中を流さなきゃいけないんだよ」


俺の涙混じりのツッコミなんて、極上の湯に満たされた一同の耳には届かない。結局俺は、前世の常識をすべてドブに捨て、されるがままに20時までの3時間をこの地獄の混浴風呂で過ごす羽目になった。


ふやけきった俺の理性は、湯船の底へと静かに沈んでいった。


『ゴオォォォ……。』


教会の鐘が、夜の20時を告げる。その瞬間、大広間を満たしていた特大の湯船と温泉が、まるで幻だったかのようにシュンッと煙になって消え去った。神のゴールデンタイムの終了だ。


「おお、もう20時か。今日も良い湯であったな」


「それでは諸君、また明日の17時に大広間で会おう」


お風呂が終われば、みんなただの全裸の不審者だ。王様も魔王も、何事もなかったかのように無言で自分の服を拾い、それぞれの寝床へと解散していく。


俺はボロボロになった体で服を着直し、這う失意のまま自分の部屋へと戻った。


ふやけきった自分の両手を見つめながら、ベッドに泥のように倒れ込む。


「ちくしょう……。湧き潰しなんて最初から無理だったんだ……。明日からは、大人しく16時59分には全裸で待機しよう……」


人間、諦めが肝心だ。この世界のルール(バグ)には勝てない。明日からはプライドを捨てて、おっさんたちと仲良く最初からお風呂に入ろう。


そうすれば、少なくとも自分の足元から五右衛門風呂が爆発する衝撃は味わわずに済む。ようやく訪れた静寂の中、俺は静かに目を閉じた。


――その、ときだった。


『ドボボボボボボボボボボボ……!!!』


静まり返った俺の部屋の床下から、あまりにも聞き覚えのある、不穏な湯の湧き出る音が響いてきた。


「……は?」


俺はガバッと跳ね起き、部屋の時計を見る。時刻は、20時03分。神の清掃時間は、とっくに終わっているはずだ。


なぜ、今お風呂が湧こうとしている?


その瞬間、俺の脳裏に、この世界の根本的なルールがフラッシュバックした。


【お風呂は、お風呂に入っていない人間の足元に湧く】


あ。17時から20時までの間、俺は確かにお風呂に入っていた。でも、20時にお風呂が消滅して、服を着て自分の部屋に戻ってきた今は――。


「俺、いま、お風呂に入ってないじゃん……!!」


神の定時運行(17時〜20時)は終わった。しかし、システム(世界)のバグは終わっていなかった。


「入浴していない人間」というオブジェクトを検知し続ける限り、この世界の湯船は、24時間いつでも、そいつが風呂に入るまで足元から湧き、追尾し続けるのだ。


『バババババババババッ!!!』


俺の部屋のベッドの真下の床が、火山のように紫色にビカビカと輝き始める。


「待て! 待ってくれ槽清の神様! 今から入る! 今すぐ全裸になるから服を脱ぐ時間をくれぇぇぇーーー!!」


俺の切実な悲鳴を引き裂くように、床を突き破って、本日2回目の特大五右衛門風呂が部屋のド真ん中にリスポーンした。



          (完)

【制作メモ】

本作は、作者が考案したプロット、設定、言葉遊びをベースに、AI(人工知能)と二人三脚で本文の執筆・調整を行って完成させました。


ご一読ありがとうございました!


おっさんの生卵の地獄から無事に湧き潰しができていたら幸いです。


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