1話 深海 (5)
簡素で短いメロディーが流れ終わると、しばらくして夏希の父親が居間に姿を見せた。
「最後は佐藤さん?」
「ああ、またいつもの旦那の話。20分は話してたよ」
お昼の客が途切れたタイミングで昼食に戻った父親はやや呆れながら言った。
母親はいつものことかと、ふふっと軽く笑うだけの返事をして、父親の昼食を配膳しながらさっきの出来事を話した。
「なつき、ありがとうって。でもやっぱり元気ないのは変わらないみたい」
父親はう~んと少し暗い表情になり、黙って昼食に手を付けた。
「そろそろ保泉さん家に行く頃かと思って、せめて送ってあげようとしたんだけどね。逆におこられちゃったの。一人で行けるって」
「誠君のこと、徐々に忘れていくと思ったんだがな」
箸をいったん止めて、父親はため息交じりにいった。
「そうね、隣町で小学校も違うからって軽く考えてた。・・・わたしたち、なつきのこと、分かってなかったのかもね」
好きになった人が亡くなる、それが一体どんな想いなのか。多くの人と同じく、夏希の両親は想像すらできなかった。
そして、小学生高学年と多感になり始める時期。特に女の子は男の子より変化に敏感という話をお客から聞いたばかりだった。
父親は黙って焼き鮭に箸をつけて、口に運んだ。その様子を見て母親は付け足した。
「ほんとに好きだったのね。誠君のこと・・・」
「花があって、天才だったからな」
父親は娘の恋心を素直に受け入れられず、はぐらかすように答えた。
「20年も少年野球の子、観てきたあなたが初めて思ったんでしょう。プロになれそうって思ったの」
「・・・俺の観ているチームじゃないがな」
父親は味噌汁をすすりながら皮肉っぽく言った。
昼食後の休憩で、二人は思いつめた顔でお茶を飲んでいた。
二人の間にはしばらく無言が続いていたが、母親がふと含みを込めて言った。
「なつきって野球にしろ、勉強にしろ、集中すると他が見えなくなるぐらいのめり込むのよね。だから心配で」
「・・・・」
再び沈黙が訪れようかというときに、簡素で短いメロディーが再び流れ、来客を知らされた。夏希の父親は立ち上がり、悩んだ上での結論を伝えた。
「どこか相談できるところがないか、探しとくよ」
「・・・そうね」と母親は同意し、二人は同時にうなづいた。




