10話 空白 (5)
青いボールペンの文字が、不揃いな角度で並んでいて、書きなぐったみたいな文章だった。
ーーなつと矢上、どっちも野球めっちゃくわしい
ーーすげぇってなる
ーーなんか、なつはかんとくっぽいな。全体を見てる感じ
ーー矢上はコーチだな。ドンピシャのアドバイスをする
ーーおれはどこまでもいけるぜ
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
まこっちゃんは、わたしのことをそんなふうに見てくれてたんだ。『かんとくっぽい』、その言葉はじぶんでもしっくりきてて嬉しかった。
一文一文、大事に読んでいるとまこっちゃんがこれを書いている絵が浮かんできた。
朝は絶対に書かないから、寝る前とかに書いていたのかな。
どれもまこっちゃんらしくって、テンションが高い文章。
こんなテンション高いまま、布団に入るのかなってどうでも良いことが浮かんでくる。
読み進められなくなってしまうから、できるだけ考え込まずにページを捲っていった。
しばらくページを捲ると、ひと際テンション高いメモが出てきた。
ーーうんどう会のたまいれ、ギリギリで6年に勝てたぜ!
ーー矢上が、さいごのさいごで玉なげてくれた
ーーひろってあつめる役やってたのな あいつ さいごで気ずいた
ーーそれキャッチして入れた
ーー矢上がいなかったら、ぜってぇ負けてた
ーー矢上ってほんとかっけぇな
ーーみんなを助けるヒーロー!!
わたしはまこっちゃんの文字を指でなぞりながら、読んでいった。
文字を追いながら”気づいた、でしょ”って誤字にツッコミを入れた。
余計なことが浮かんで、その度に手がしばらく止まってしまっていい迷惑。
そして、矢上君の姿がすこしずつ浮かび上がってくるのを感じていた。
大袈裟にビックリマークを並べた最後の文。まこっちゃんの目に映る矢上君は、みんなを助けるヒーロー・・・まこっちゃんの思いが音となってわたしまでしっかりと届いてくる。
玉入れでの矢上君の活躍と、リトルシニアでの矢上君の活躍が重なっていく。
そして、まこっちゃんがヒーローだと呼んだ矢上君とまこっちゃんの信頼関係。
わたしのことより矢上君の方が多く書いてあって、少しだけ嫉妬して、でも、2人の間の友情に触れられて、胸が熱くなる。
小さなリングノートは3分の1ぐらいまでページを捲ると、真っ白になってしまった。
いつも自信満々でお調子者のまこっちゃんがこんな風に友達のことを思っていて、書き留めていたなんて。
大好きなまこっちゃんの知らない一面。もっと好きになって、もっともっと日記を読みたかったのに。
ページを捲っても捲っても、真っ白。
騒がしかったまこっちゃんの声がもう聞こえない。
溜めていた涙が零れ、指が震え、最後までページを捲れなくなった。
あの日から2年。まこっちゃんから受け取ったさいごのメッセージだった。




