表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藍の軌跡  作者: シャボン玉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

10話 空白 (4)

 15分ほど気持ちを整理していたわたしは「大丈夫です」と優美さんに声をかけた。

 そして、優美さんを先頭にまこっちゃんの部屋がある2階にいくため階段を上る。

 ギシギシと踏みしめる音がやけに大きく聞こえたように感じた。

 そして、2年ぶりにまこっちゃんの部屋の前に立った。

 優美さんはすでに部屋に入ってしまったが、わたしは少し離れたところで一度深呼吸をした。

 事故の日までは何度となく入ったことがあるこの部屋。わたしはゆっくりと一歩ずつ確かめるように踏み入った。


 まこっちゃんの部屋は記憶のまんまで、家具やベッドは何も変わっていなかった。優美さんがそのままにしていたという言葉通りだった。だけど、ほんの数歩、踏み入る間に何かがわたしに襲ってくる。

 

 蝉の鳴き声すら聞こえない無音の静寂。

 

 もわっとした室温。

 

 居間や仏前の部屋と変わらないまこっちゃん家の匂い。

 

 呼吸する口の中に異味が広がっていく。

 

 決まってまこっちゃんが座っていた勉強机の椅子。

 

 大事なピースがぽっかりと抜けている。

 

 五感すべてでわたしを攻撃してきて、事前に用意した防波堤を軽々と突破していく。

 

「優美さん・・・」

 わたしは優美さんの腕に縋りついて、視界と鼻を塞いだ。

 

「なっちゃん!!ごめんね!下、行こう!」

 優美さんに肩を抱きかかえられながら踵を返して、わたしたちは居間に引き返した。


 階段を下りる途中も優美さんはわたしを気遣った。

「とりあえず落ち着こう。無理に読まなくてもいいよ」


 優美は夏希を居間の椅子に座らせ、しばらく時間をおいた。

 何度か「また今度でも良いのよ」と訊くが夏希は「大丈夫です、読みたいです」と俯いたまま小さく答える。

 そして、何度目かのやり取りの後、夏希は顔を上げて優美に頷いて見せた。

 それを見て、優美は小さなリングノートを夏希の前にそっと置いた。

 「気分が悪くなったら、すぐに言ってね」

 「はい・・・」


 わたしの目に入ってきたのは、ページの端が少し折れていて、使い古されたノートだった。

 表紙が色褪せて、流れた月日を物語っている。

 わたしは手を伸ばし、表紙を一か所も見落とさないように時間をかけて見終わってから、ゆっくりと捲った。

 予想通り、そこには野球のメモが多く残されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ