1話 深海 (4)
「今日は、どこか行きたいとこある?」
お母さんが何気なく聞いた。
わたしは飲みこみながら首を横にふった。
「大丈夫。・・・お店あるでしょ」
「そう・・・。配達のついでにちょっと寄ったりできるけど」
お母さんの言いたいことが分かって、つい箸が止まった。
「・・・まこっちゃんのところなら大丈夫だよ。・・・一人でも行けるから」
そう答えたらお母さんは心配そうにわたしのことを覗き込んでくる。
嫌な気持ちになって、味もしなくなって、口に何か入れているのが気持ち悪かった。
気まずい雰囲気にわたしはちょっとごはんを残して席を立った。
「なつき」とすぐに呼び止められた。
「ほんとに、大丈夫だから!」
少し声が大きかった。自分でもちょっとおどろくくらいに。
だけど、お母さんはなんでもなかったように言葉を続けた。
「あのね、玄関に今朝届いたんだけど、夏希にタブレットを買ってきたの。色とか気に入ると良いけど」
「えっ、なんで?」
突然の話にわたしは拍子抜けした。タブレットなんて欲しいとか言ったことないのに。
「あ、あとおばあちゃんがスマホも買ってくれたのよ。それも玄関に」
「スマホ・・・良いの?前は中学入ってからって」
タブレットは嬉しい。普段はお父さん、お母さんが使っているリビングにあるパソコンを使っている。
プロ野球の結果とか動画見たり、調べてみたりばかりだけど、自分のがあるとすごく嬉しい。
タブレットは学校の授業で使っていて、毎日持ち帰ってるけど、色々制限されてて勉強にしか使えない。だからじぶんのがあると、部屋で趣味に使えるからすごく嬉しい。
スマホはクラスでも半分も持たせてもらえなくてみんな欲しがってる。だから嬉しいのかもしれないけど、スマホで何かしたいことあったかな、わたし。
「良いよ。お父さんとおばあちゃんが夏希に元気になって欲しいからって」
玄関に向かいかけたが、お母さんに背を向けたまま立ち止まった。
お父さんもおばあちゃんも、それにお母さんも心配してくれてるのは分かってるの。
でも・・・あの日からずっとこころから離れないつらいきもちが居座ってる。それは何が起きても変わるとは思えなかった。
「ありがとう・・」
いつきもちがこわれてもおかしくないわたしにできる精一杯のことば。
今まで買ってもらったものでは一番高価なモノかもしれない。ただ、それでもわたしは目を向けてありがとうって言えなかった。




