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藍の軌跡  作者: シャボン玉


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34/42

8話 リトルシニア (6)

 えっ、なんで??

 

 矢上君はランナーの手がベースに到達するタイミングで、”空っぽ”のグラブをサッと上に引いてタッチをしなかった。

 ランナーは当然セーフ。でもランナーはベースに手をついたまま離れない。ベンチから「行け! 行け!」という声が飛び交う。

 それに気づいて慌てて顔を上げると、きょろきょろとボールの行方を探した。

 だけど、もう遅かった。センターが右中間よりにカバーに入り、ボールをセカンドに返球した。

 

 両ベンチはガヤガヤとざわついていた。

 

 躊躇なく2塁ベースを蹴っていれば、1アウト3塁の絶好のチャンスになっていたはず。

 ランナーはそのチャンスを完全に逃してしまったんだ。

 もしかしたら、ランナーの判断ミスっぽく見えているかもしれない。

 だけど、そうじゃないとわたしは確信している。

 そして、これを演出した当の本人である矢上君は何事もなかったようにショートのポジションに小走りで戻っていった。

 

 わたしは膝元がゾクゾクっとして、再び鳥肌が立つのを抑えられなかった。

 盗塁は成功、だけど進塁は失敗。

 

 いまの・・・プレー・・・。

 

 ランナーは1番バッターだったんだ。足に自信があったとしても最終回の1点ビハインド、絶対にアウトになってはいけない場面。

 いくらスタートが良くても、目の前の野手がボールを捕る動きをしたら・・・。

 反射的に「スライディングしなきゃ」って思うはず。

 

 ・・・今の、ボールが来るって見せかけていたんだ

 

 わたしは野球を観ているだけだから細かいところ、もちろん分からない。

 でもわたしは身に染みて良く知っていた。接戦で勝負を決めるのは派手なプレーじゃない、こういった小さなプレーが多いってことを。

 わたしはバッグに忍ばせていたカーディガンを羽織った。指が震え、抑えられなかった。

 

 そして、試合はわたしにとって最高の形で終わった。

 2アウト2塁から3番バッターの放った強烈な三遊間のゴロ。それを矢上君が横っ飛びでキャッチ、すぐに立ち上がり1塁へ送球した。そのボールは糸を引くようにビュンと伸びて、ファーストミットにバシッと収まった。

 

 バッターランナーとの競争になったが間一髪でアウト。そして、塁審の声に続いて「ゲームセット!」と主審の声が響いた。

 

 久喜西が1ー0で勝利。

 

 久喜西の守備で・・・ううん、矢上君のファインプレーで守り切った接戦での勝利だった。

 わたしが観た4試合目で、久喜西がようやく初勝利となった。

 自然と口元が緩んでしまう。初勝利もあるけど、ただただ純粋にわたしの野球熱がこの試合に高い評価をつけているんだ。

 時間を見ると15時すぎ。いつもなら遅くなる前にすぐ帰宅していた。

 でもわたしは喜ぶ久喜西の選手たちをぼんやりと眺めていた。

 グラウンドはすでにトンボをかけ終わっていて、選手たちは銘々で帰り支度や雑談、グラウンド脇で軽いダウンをしている。

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