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藍の軌跡  作者: シャボン玉


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8話 リトルシニア (3)

 翌週、翌々週とほとんどの毎週末、リトルシニア久喜西の試合があればグラウンドに足を運んでいた。

 自転車で行けるところもあれば、県南に遠征で電車で行くしかないときもあった。だけど、気持ちや体力に苦はなくて、むしろ胸が少し高鳴っている。

 身体は日課となった週末の観戦に慣れてきて、少しずつ体力がついてきている。去年は体育を休むことが多かったわたしには、ものすごく前進となっている。ただ、部活に入る気力まではまだ無くて、この野球観戦が最適なリハビリになっている。

 でも、リハビリをするために野球観戦をしているわけではない。

 当初の目的は矢上君がどんな人かこっそり見るため。

 一方的に覗き見ているみたいで罪悪感があり、後ろめたい気持ちを拭えないまま、時間だけが過ぎて行った。

 そんな中、矢上君の姿と名前が一致したのはGW明けの4試合目のことだった。


 矢上君はその日もベンチスタートだった。

 久喜西1点リードで迎えた6回の守り、攻守が入れ替わるイニング交代のタイミングで矢上君の名前が呼ばれ、予期せずに知ることになった。

 ただ、ドラマチックに選手交代で矢上君の名が呼ばれたのではなかった。もっともプロ野球みたいに選手交代でアナウンスなんて無いんだけど。


 初めて見に行った時に気になったランナーコーチにいた選手。その背番号12の気になる子はいつもの調子でベンチワークに勤しんでいた。

 ボールを審判に手渡したり、バットを引きに行ったり、ベンチ脇でピッチャーと軽くキャッチボールをしたりと意外に忙しそうだった。

 わたしは今までベンチに注目したことがあまりなくて、色々やることがあって大変なんだなぁって感心していた。

 そして、6回裏の久喜西の守りにその瞬間が訪れる。ただ、正確には守りが始まるプレイ再開前の数分程度の出来事だった。


 背番号12の子はファールゾーンからレフトの選手とキャッチボールをしていた。

 地面に強く速い球を投げて、ゴロを想定した練習をしていた。これはわたしにも分かるし、プロでもやっていること。

 ゴロを捕球して体を慣らすため、それは当然だけどレフトの選手のためにしていること。

 そして、プレー再開の頃合いとなった時、背番号12の選手が最後の1球を投げる。だけど、さっきまでとは違って、急にセンター寄りに強いボールを投げた。フライのボール、しかも力強く投げられたそれは勢いがあり、レフトの頭上を超えていきそうだ。

 レフトは慌てて、センターまで届きそうというボールを追っていく。

 

 あれ?投げ損ねかな?ってわたしは思った。

 

 だけど、レフトはボールに背を向け、全速力で左中間の深いところまで走っていく。そして、左手を一杯に伸ばしてギリギリ捕球した。

 すんでのところで落とさずにキャッチしたレフトは”やれやれ”と気だるそうにしながら、守備位置に戻りつつ叫んだのだった。


 「やがみーー!!!もっと正面投げろぉ!!!」

 「すみません!!!」

 

 えっ??・・・やがみ・・・くん?

 

 気になる背番号12の選手が・・・矢上君だったんだ。

 彼は帽子を取って、深々と頭を下げてベンチに戻っていった。

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