1話 深海 (3)
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
ぼんやりと目は覚めている。だけど、布団から出たくなかった。
昨日の夜も寝つけなくて、まだ眠い。
ただ、今日は土曜日の朝だから学校はお休み。でも楽しみな予定なんてないし、何をする気にもなれなくて、ただ布団の中で丸くなっていた。
「起きなさい、もうお昼だよ」
お母さんの声が遠くに聞こえた。
「・・・起きてるよ」
そう言って、声だけを先に部屋から出す。
体をゆっくり起こすと、もう4月なのにまだ肌寒く感じた。冷たい空気が肌に触れて、ほんの少しだけ意識がはっきりした。ゆっくり立ち上がり、ふらふらと洗面台へ向かう。
鏡が目の前にあった。映った自分をぼんやりと見つめる。
顔色が悪くて少し前は知らない子に見えてびくっとしたことがあった。でももう慣れちゃった。これがほんとうの自分なんだと。
じっと自分の目を見つめる。奥の奥まで沈んでしまいそうな深い海底の瞳。ううん・・・いまでも瞳だけは慣れなかった。この藍い目を見ていると、引きずり込まれそうでいつも怖くなる。
思わず目をそらし、レバーを勢いよく上げた。冷たい水を両手ですくって、顔を洗った。冷たさで少しだけ頭がすっきりする。
そのまま、顔をタオルで拭いて、鏡を見ないようにして居間に向かった。
居間に行くと、お母さんがもう食べ始めていた。
テーブルには味噌汁と、ごはんに鮭の塩焼き。見慣れたいつもの土曜日の昼ごはん。
「鮭、ちょっと焦げちゃったけど、美味しいよ」
「・・・うん」
箸を手にとるけど、手元がおぼつかない。
鮭をひとくち食べた。ちょっと焦げ目があるけど、いつもと変わらない。




