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藍の軌跡  作者: シャボン玉


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8話 リトルシニア (1)

 自宅から自転車を漕ぐこと40分。

 風が肌を撫でるたびに心地よさと緊張が同居していた。

 まこっちゃんの親友であり、今も頻繁にお線香を上げに来る矢上君、一体、どんな人なんだろうか。


 スマホの地図を頼りにグラウンドに辿り着いたころには、すでに試合は始まっていた。

 事前に調べた時は自転車で30分で着く予定が、運動不足によるスピードダウンによって10分の遅刻。

 野球は開始から観たいとは思いつつも、ひきこもっていたじぶんにはちょうど良いリハビリだとポジティブに思えた。


 どっちが矢上君のいる久喜西チームなんだろう。わたしは自転車に跨ったまま停めて、パッとグラウンド内を見渡した。

 散っているナインのユニフォームから、直ぐにじぶんがいる方が”相手チーム側”だと分かって内心ほっとした。

 事前に画像で確認していたけど、グラウンドは少年野球のそれと大差なかった。一、三塁側にネットが張られ、その外側は緩やかな丘になっている。

 バックネットも、立派なスタンドもないシンプルな野球用グラウンド。

 バックスクリーンなんてなくて、ベンチ脇に簡易スコアボードと、まばらに座る観戦者の姿。選手のお父さん、お母さんと思わしき人が何組かいるだけだった。


 わたしはあたりを見渡して、なるべく目立たない場所に自転車を停めた。

 遠くから見れば、ただの通りすがりの観客に見えるよう、三塁側の丘の上、サードとレフトの間あたりに藍色のレジャーシートを敷いた。

 その位置からは、打者だけでなく、グラウンド全体の守備位置まで見渡せる。

 お父さんと何度も行った埼玉ドームでも三塁側のこのあたりは最高の観戦位置。ブルペンも近くて、投球練習をしているのを見て、継投は誰かなって考えるのが好き。


 観戦に入る前に、念には念を入れて誰にも気づかれないよう藍染マスクを装着した。

 初観戦もあって、心臓が軽く早鐘を打ち、呼吸が落ち着かないのがわかった。


 気を紛らわすようにバッグからスマホとタブレットを取り出した。

 野球観戦モードへの“切り替えスイッチ”を入れると、久しぶりの高揚感が身体中を駆け巡っていく。


 タブレットでスコアブックアプリを起動し、データを入力していく。

 0-0で両チームともに序盤は拮抗した展開。

 でも、スコアには表れない、少年野球にもプロにもない、独特の張り詰めた生の緊張感があった。


 わたしの目は無意識のうちに、ひとりひとりのフォームや動きを追っていた。

 基礎的な動作、打球への反応、ランナーのリードの取り方――

 これまで覚えてきたすべての野球知識が、こうして観戦の時間になると、大袈裟かもだけど勝手に分析をしてしまう。

 

 気付いたのは選手たちのユニフォームには背番号しかなくて、名前は分からないってこと。

「はぁ・・・どの子が矢上君なんだろう」

 視界が少しぼやけていて、早くメガネを買わなきゃ、なんて思いながら、再びタブレットの画面に視線を戻す。


 矢上君が所属する久喜西、ベンチ入りしているのは20人前後。

 矢上君はまだ1年生で加入したて、それに普通は硬球に慣れる期間が必要で、すぐにレギュラーは難しいと思う――そんな予想はついていた。

 

 ”うーーん”と唸りながら、プロじゃないんだからベンチ入りメンバーなんて公表してないよね、と考えていた。背番号と選手名の対応表が欲しくて、スマホのブラウザでブックマークしてあったHPを見る、だけどやっぱり試合日程しかなかった。

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