7話 出会いの人 (1)
家族で晩御飯を食べた後、安穏な土曜日の夜が訪れていた。じぶんの部屋に戻ってきて、今日はまだタブレットを開いていないことに気づいた。
ネットの中の世界ではない、今日一日のわたしに起きた出来事。そのことが頭の中をぐるぐると回っていく。
どこか遠くの出来事みたいで夢のようにも感じる、でも鮮明に覚えていて、一挙手一投足を思い出せる。
特にまこっちゃん家で過ごした時間は、気持ちの中に新しい何かを生んでいた。
それは胸の奥で静かに熱を持っていて、深海まで届いた一筋の光のような熱。
その光を確かめたくて、わたしはおばあちゃんと話したかった。
それに、優美さんのおかげで今があるのは間違いないけれど、今日までがんばれたのはおばあちゃんのおかげ。誰よりも感謝を伝えたいのはおばあちゃんだった。
「なつき、中学生になったのじゃな。おめでとう。」
いつものおばあちゃんの声が聞えた。
「ありがとう、おばあちゃん。中学までなんとかがんばれたの、おばあちゃんのおかげだよ」
その言葉を口にしたら、今日という目標にしていた特別な日が終わったんだと、胸の中で何かがふっと軽くなった。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。なんとかって言いつつ、えらい元気そうじゃないかい。それに表情が全然違うんで、別人かと思ったぞ。」
いつもの柔らかくて気さくなおばあちゃんに、頬が緩んだ。
それは、心にまとわりついていた何かがどこかにいなくなったからこそ、自然に湧いた笑顔だった。
「うん、あのね。今日、まこっちゃん家に行ってきたんだ。ちゃんと制服で行ったよ」
でも頭に浮かんでくるのは今日の帰り道だった。
自転車のペダルが軽く感じたこと。
追い風が背中を押してくれたこと。
「今日のためにがんばっとったからのう。それで、何か話したいことがあるんじゃろ。」
わたしはまこっちゃん家での出来事をおばあちゃんに話した。優美さんの言葉を一字一句間違えずに思い出せた。
もちろん、優美さんのことだけじゃない。矢上君のこと、そして何より、自分の心の変化も。
一日をなぞるように言葉にしてみて、はじめて気づいたことがあった――
わたしはもう、昨日までのわたしではないということを。
わたしは決してひとりじゃなく、理解してくれる人がいて・・・必要とされていることも。
優美さんはわたしを必要としてくれていて、わたしも優美さんを必要としている。
お互いを、それこそチーム”今も好きな人”の一人として支え合う関係にあるのかもしれない。
今日の優美さんの表情、言葉が頭に鮮明に浮かんで頭がいっぱいになる。
涙を流しながら、わたしの目を真っすぐに、一瞬も逸らさなかった。
息子が天国で一人で寂しくしてないかって心配する母親の姿。
わたしとは違う”好き”、ううん、もっと深いもの。
そして、優美さんはわたし以上に苦しんでいたんだと気づいた。でもそれは今日初めて気づいたこと。
なぜ気付かなかったのかなと後悔した。何度もお線香を上げに行って、毎月、顔を合わせていたのに。お茶もごちそうになっていたのに。
じぶんがちっぽけな存在に思えて悲しくなる。
お父さんやお母さんに分かってくれないなんて、言えた立場じゃなかった。
・・・でも。
ーーだから、なっちゃんも他の子みたいに忘れた方がいいのかなって思ったの・・・でも、それが正しいかは分からなかった
それでも優美さんは分からなかったんだ。
このことだけとしても、奥底までは暗くて誰も近づけない。つまりは同じチームであるけど、孤独でもあって・・・。




